1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/07(金) 00:20:55.42 ID:X2fAk2+b0
「おかえりなさいませ、楽様! ご飯にします? お風呂にします? それとも……」
「いや、普通にご飯で……」
玄関先で投げかけられたあまりにもベタな橘万里花のセリフを遮って、一条楽は答えた。
楽様のいけずー、とぶーぶー言いながらも食事の支度を始める万里花に軽く苦笑しながら、楽は1DKの室内を改めて見回す。
家具も荷物も最低限。つい最近、新婚生活を始めたのだと言えばなるほどなと納得できそうな様子の部屋の奥に、一つだけ不釣り合いな品物――望遠鏡が置かれていた。
「様子はどうだ?」
「今のところ、特に動きはないみたいですけど……」
万里花が夜食を並べたお盆を持ってキッチンから出てくる。
そっか、と応えながら楽は望遠鏡を覗き込んだ。レンズの向こうには、何の変哲も無い一軒家。日はとっくに暮れているが、明かりは付いていなかった。
確かに万里花の言う通り、異常はないらしい。
楽と万里花、二人してマンションの一室で暮らし始めて五日目。
といっても、結婚したとか同棲を始めたとかそういったことではない。
とある事件の捜査の一環として、強盗事件の容疑者の隠れ家と思しき一軒家の張り込みをしていたのだった。