1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/20(金) 00:22:17.84 ID:b4qt7MSMo
気が付くと、そこはいつもの観覧車乗り場だった。
私の目の前で、色とりどりのゴンドラが音もなくゆっくりと右からやってきては左に動いていく。
もやついていた視界がだんだん晴れてくる。私は顔ごと上を見上げた。
大きな大きな観覧車が、静かに確かにそびえ立っていた。
一体何本あるのかもわからない、綺麗に組まれた白と赤のスポーク。自転車のタイヤのようなそれは、近づいて見ている分には動いているのを感じさせないくらい、ゆっくりゆっくりと回っている。
右から赤いゴンドラがやってきて、私の前ですっと止まった。
私の番がやってきたのだ。もう何度乗ったか知れないのに、観覧車に乗る前のこのドキドキというものは、いつまでも薄れることなく胸を高揚させてくれる。
きぃ、と開いた大きなガラス張りの扉。まだ静止せずにちょっとだけゆらついているゴンドラに乗り込み、赤いシートに腰掛けた。
クッションがちょっと硬めのシート。昔から変わらないこの感じが、とてつもなく懐かしい。
ゴンドラの中には、ほんのり甘いにおいが漂っていた。これは……キャラメルシュガーの香り。きっと前に乗った子供が持ち込んだポップコーンか何かの匂いだろう。今私が乗ろうとしたときは、誰も降りてこなかったけれど。
この観覧車のゴンドラは、いつだって甘い匂いがしていた。
閉まる扉の外で、発車のベルがじりじりと鳴る。そっと胸に手を当て、扉とは反対側の窓の外を眺める。
ゴンドラの天井部から、オルゴール調のメロディがかかる。
音色は綺麗なのに、どこか曇っていて古っぽくなっている音。これがこの観覧車が動き出した合図だ。外の景色もゆっくりと動いていく。