希「最低で最高のヴィーナスの誕生」【SS】

1: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:21:40.01 ID:QT3hMfik

「私、にこのことが好きだったの」



いつもの公園。私を呼び出した彼女は唐突にそんなことを言いだした。


ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル official illustration book (3)

2: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:22:54.38 ID:QT3hMfik

******

Side A

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二〇一二年 五月



絵里『もしもし、あのね……』



彼女から電話がかかってくるのは珍しいことではなかった。

そのありふれたスマホの着信音に、机を揺らすバイブレーションに私はいつも胸を躍らせた。

いつまで経っても冷静に画面をタッチできない自分に幻滅しつつスマホを耳に当て、冷静の振りをして「もしもしー?」なんてわざと呑気に語尾を伸ばしてみたりする。


3: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:23:27.95 ID:QT3hMfik

絵里『あのね……あのね……』



そんな私とは対照的に、彼女の語尾は尻すぼみだった。いつものハキハキズバズバな口調の名残は微塵もない。



私「ど、どうしたん?」

絵里『はは……はぁ。なに緊張してるんだろう、私。希ならいいと思ったから、電話したのに』




ただ事ではない……ような気がした。呑気な振りはまずかったかな、と反省した。

でも、“希なら”。その言葉に信頼が感じられて嬉しかった。だからその信頼に応えたいと思った。



私「なんや、らしくないなぁ。なんでもとりあえず言ってみ」

絵里『あのね……大事な話があるの。直接、話したいこと。だから、その、明日の放課後、公園に来てくれないかしら』

私「はあ」


4: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:23:57.50 ID:QT3hMfik

なんで電話で言わないの? 直接話したい? 学校じゃダメなの?

いろいろ疑問はあったけど、私は了承して電話を切った。

別れの言葉は、「じゃあねー」と語尾を伸ばした。






5: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:24:24.33 ID:QT3hMfik





いつもの公園の、いつものベンチには、誰も座っていなかった。

早く来すぎたかな……。

腰掛けて、青空を流れるおっきい雲を眺めながら、“大事な話”について考えてみた。

学校で直接言えないような、こんなところに呼び出されるような、話。

淡い期待はあった。半ば確信していた。

きっと……もしかして……彼女はこれから私に……。

なぜだろう。なんのためだろう。制服でよかったはずなのにいったん家に帰って着替えた私服。

今朝何べんも鏡の前でとかして整えたはずなのにまたヘアスプレーで固めた髪。

走ってもいないのに大きく速く跳ねる心臓。

別段変わったことではない。ただ、彼女の前では一番いい自分でいたかっただけだ。

本当に本当や。ウチ、浮かれてなんかないもん。


6: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:25:17.83 ID:QT3hMfik

絵里「おまたせ。ごめんね、生徒会の仕事が長引いちゃって」



そう言って少し、ほんの少しだけ遅れてきた彼女はいつものように私の隣に腰掛け、うつむく。

――数分の沈黙ののち、先にしびれを切らしたのは私だった。



私「……で、どうして電話じゃダメだったん?」

絵里「それは、ほら、大事な話だから盗聴とかされてたらいけないし」

私「んなわけあるかーい!」

絵里「はは……そうよね」



……もしかしてバレてるんか。録音した彼女との通話を聞き直すのは密かな楽しみだったけど、ほどほどにしておいたほうがいいかもしれない。


7: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:25:41.79 ID:QT3hMfik

私「……で、その、話……というのは」

絵里「…………」



それからまた数分の沈黙ののち、今度は彼女から――顔を真っ赤に染めてこう言ったのだ。



絵里「私、にこのことが好きだったの」






8: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:27:42.69 ID:QT3hMfik





“矢澤にこ”。

去年、突然転校してしまった同級生の名前だった。



絵里「結構前から、気になってたんだけど、転校しちゃって……そのときは諦めたの。でも、この前ばったり街中で会っちゃって、『あ、まだ会えるんだ』って思ったら、私やっぱり……」

私「…………」

絵里「のぞみ?」

私「あっはっは。なんだ、そうだったんならはやく言ってよもー!」

絵里「だ、だって恥ずかしいじゃない、誰が好きとか嫌いとか」

私「小学生じゃあるまいし」

絵里「うぅ……」

私「つまり、恋愛相談ってやつやね」

絵里「そう、そうなの! こんなこと希くらいにしか話せなくて」


9: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:28:16.54 ID:QT3hMfik

私「そらそうだ。学校じゃ氷の生徒会長だもんね」

絵里「だから。とにかく、えっと」

私「まあまあ、そういうことなら任せてよ」

絵里「えっ……」

私「ウチを誰と心得る。“縁結びの神”こと東条希ちゃんとはウチのことなのだー!」

絵里「ふふ。私、まだ何も言ってないのに」

私「大丈夫。わかってるって」



私は立ち上がり、満面の笑みで友達にブイサインを突き出す。



私「ウチが二人をうまくくっつけてあげる!」






10: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:29:19.32 ID:QT3hMfik



五月



にこ「は……? だれ?」

私「東条希。音ノ木坂の三年」



学校の帰り、他校の前で音ノ木坂の制服を着て立っているのは恥ずかしかったけど、そのかいあって無事矢澤さんと接触することができた。


12: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:29:42.14 ID:QT3hMfik

にこ「音ノ木……あー、もしかして」

私「そーそー。去年同じクラスだったんやけど、覚えてない? 覚えて、ないよねえ。クラスの人気者の矢澤さんとは、あんまり接点なかったし」

にこ「ええ――あ、いや、今思い出した。いたわね。あの地味めの」

私「地味めて……まあいいや。それや」

にこ「あんたって、関西弁だったのね。確かにそれすらわからないほど接点なかったわ」

私「ああ、それは……その……」



“ウチ”が関西弁(?)を始めたのは矢澤さんがいなくなる前だったか後だったか……定かではないので言及しないことにした。


13: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:30:41.55 ID:QT3hMfik

私「それを言うなら、矢澤さんだって、なんか感じ変わったよね。前は――『やだーニコ困っちゃうニコ~、テヘ、ピョコ、きゅるりん☆』――って感じだったのに」

にこ「そうね。そうだったかも」

私「どうしたの? イライラ? せいり?」

にこ「違うわ! ……ちょっと、疲れてるのよ」

私「ははぁ、そうだよね。なにせあの“UTX高校”だもんね」

にこ「まあね。でも普段は、あなたのイメージ通りニコよ」

私「ふだん? 今は普段ではなくて?」

にこ「ええ。私にとっての普段とは――ステージのことだから」

私「へえ?」

にこ「出待ちしてくれた熱心なファンに免じて相手してやったけど、次はないわよ。私は忙しいの」



掲げた左手でキツネ? みたいなのをつくりながら去っていく後ろ姿は、やっぱりあの頃のみんなのアイドルの後ろ姿とは何か違う気がした。






14: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:31:14.76 ID:QT3hMfik



五月



絵里「ど、どうだった?」

私「うん、会えたよ」

絵里「どうだった? どうだった?」

私「うん……絵里ちは、矢澤さんのどこがいいの」

私の質問に照れながら、ほっぺを両手で包んだ絵里ちは答える。

絵里「えぇ……か、かわいいところかな」

私「あ……あれが」

絵里「そうよ、かわいくない?」

私「どんなふうに」

絵里「ちっこくて、かわいいじゃない」

私「えぇ……」

そんな理由だけで好きなん……喉まで出かかったが、なんとか飲み込んだ。


15: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:31:46.90 ID:QT3hMfik

私「ゆうても、そんなにちっこくないよ、矢澤さん」

絵里「いいのよ。あと、あの小生意気そうなところとか」

わかんねえ……絵里ちの好みがわかんねえ……。

私「なんだ、絵里ちはあれの本性知ってて好きなん……」

絵里「あの純粋なところ! 素であんな言動しちゃうところ! 不思議ちゃんていうか、天然小悪魔というか、生まれながらのアイドルね! あれは」

私「おぉうふ……」

絵里「希もそう思わない!」

私「うん、まあ」


16: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:32:09.76 ID:QT3hMfik

絵里「希もそう思っていたのね! あ、でもダメよ、にこが好きなのは私なんだから、この気持ちは私のものなんだから、希は他を当たってね」

私「うぐぅ……」

そっか、そんなに矢澤さんのことが好きなんだね……私の入る余地なんてないや。

絵里「その代わり、希に好きな人ができたら教えなさい! 私が力になるわ」

私「……ありがとう」



それにしても、そうか。

絵里ちはちっこい子が好きなんだ……。






17: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:32:45.76 ID:QT3hMfik



五月



海未「しかし、なかなかいいグループ名が決まりませんね」

花陽「なにかみんなの想いとか……意味のある名前にしたいよね」

ウチ「そうやね……ウチ、実はいいの思いついてるんだけど……人数が足りないなあ」

海未「はあ。何か数字に意味のある単語なのですか」

花陽「七人じゃダメなの?」

ウチ「うん。ダメだねえ」



お昼休み。一緒にスクールアイドルをやっている後輩の園田海未ちゃんと小泉花陽ちゃんとお弁当を食べながらグループ名を考えていた。

そう。実はまだグループ名すらない新米アイドルなのだ。


18: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:33:25.14 ID:QT3hMfik

ウチ「ごちそうさまでした」

まだお弁当は残っているけど、手を合わせる。

花陽「希ちゃんは偉いね。半分残っているのに、折り返し地点で一度それまで食べた御飯たちに感謝をするんだ……確かに対戦形式のライブでは後半の組が圧倒的に有利……前半の組は印象が薄れてしまうリスクが……」

海未「いえ普通に食事を終える挨拶だと思いますが」

花陽「えぇそうなのぉ!? 私今、一口目から最後までを一括りにして『ごちそうさま』する自分を反省していたのに」

海未「いえそこは普通に『まだ半分残っていますよ?』と希の体調等を気遣うところだと思いますが」

花陽「どうして希ちゃん、もうお腹いっぱいなの!? この残されたタケノコ、ブロッコリー、スパゲティ、から揚げ、そして白米たちはどうなってしまうの!?」

ウチ「花陽ちゃんにあげるよ」

花陽「わーいありがとう」

海未「私のおからもおすそ分けです」

花陽「幸せすぎるぅ」

海未「しかし希、私はあなたにダイエットを指示した覚えはありませんが」

ウチ「え? ええ。されてませんが」


19: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:34:04.05 ID:QT3hMfik

海未「ではなぜ?」

ウチ「その『メンバーのダイエットは自分の指示以外ではありえない』みたいな思考何なの?」

海未「え、違うんですか?」

ウチ「違いますよ?」

海未「バカな……!? 私の管理に従わないものがいる……!?」

ウチ「怖いわー。天然ストイックと天然ボケの合いびき怖いわー」

花陽「んー、おから美味し。もぐもぐ。でも割と、穂乃果ちゃんだって管理下に置けてないですよね」

海未「どういう意味ですか? 穂乃果は絶賛肉体改造中のはずですが」

花陽「おっと、詰め込んだ、から揚げで、お口が開きません」

海未「開かない口でずいぶん流暢に発音するんですね。腹話術ですかそうですか」

花陽「せやで。実は喋ってるんは希ちゃんなんや」

海未「なんと、花陽は人形のほうでしたか」

ウチ「え?」

海未「で、希。穂乃果がなんですって? まさか隠れてこっそりなにか食べているのですか? 私が用意したメニューを私が用意したスケジュールで私の目の届く範囲でしか口にしてはいけないはずなのですが」


20: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:34:43.21 ID:QT3hMfik

ウチ「ちょっと、花陽ちゃん? ウチ知らないんやけど……花陽ちゃん?」

花陽「もぐもぐむしゃむしゃぱくぱくぱなぱな」

海未「ふふ、なるほど……“そういうこと”ですか。ふふふ、もしやその余ったおかず、穂乃果に与えようとしていたのでは……? ふふふふふ」

ウチ「違います怖い怖い怖い怖い怖い」

海未「いえ、ふふ……それも穂乃果に聞けばわかること……」

ウチ「とんだとばっちりごめんね穂乃果ちゃん! 許せ!」

海未「……とまあ、冗談はさておき」

ウチ「冗談に聞こえなかったんですが」

海未「今問題なのは希のほうです。私の計算によれば希は今の体形がベスト。それを過度な食事制限で減量させてしまうのは得策ではありません。何事もバランスが大事です」

ウチ「いや、でも……」


21: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:35:13.68 ID:QT3hMfik

海未「それ以上痩せてどうするんですか。お胸が縮んだらどうするんです」

ウチ「むしろ縮んだほうが……ちっこいほうが」

海未「その手の需要は私が引き受けています……って何言わせるんですか!」

ウチ「自分で言ったよ今自分で言ったよ!?」

海未「とにかく、食べてください。私の計算された体調管理のレールから外れることは許しません」

ウチ「そう……わかった。食べるよ」

花陽「ごちそうさまでした!」

ウチ「ないがな!」



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23: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:35:57.83 ID:QT3hMfik

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Side B

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二〇一二年 六月



中庭に植えられている木の陰。

ハイパージャンボ寝そべりセルフ腕枕に頭をのせ、足を組みながら空を見上げる。……また二時限目から授業をふけてしまった。

高校に入ってからこんなことばかりだ。

周りのみんなはなんだかよくわからないものに熱中したり、当たり前のように黒板の文字をノートに写したりしてるけど……誰もがそんなことをできるわけじゃない。

なんとなく、意味を感じられない。純粋に、楽しくない。

中学の頃はこんなこと考えたこともなかったのに、どうしちゃったんだろう。


24: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:36:51.92 ID:QT3hMfik

「はぁ……ああ、やめやめ。難しいこと考えたってしょうがないや」

立ち上がり、スクールバッグについた草を払って、校門を出る。

家に帰ったら親にバレるし、ゲームセンターは昨日も行ったし……。

でもやっぱり、他に行く場所もなくて、ゲームセンターに向かった。






25: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:37:41.67 ID:QT3hMfik





お小遣いは毎月の始まりに五〇〇〇円。仮に毎日ゲームセンターに通ったとすると五〇〇〇を三〇で割って、一日辺り約六〇〇円使うことができる。……こう見えて算数は数学と違って得意だ。

だというのに、六月六日にして既に財布が空になっている。なぜだろう。

「さて……これ、最後の百円だけど……なにしようかな」

街中の大きいゲームセンター。中の設備を物色する。安くて、長く遊べそうなゲーム、ないかな。

もしくはお金のかからない面白いことが……そう簡単にはないか。

そんなことを考えていると、あるゲームコーナーの一角に、小さな人だかりができているのが見えた。時折歓声なんかも聞こえてくる。

どうせあの太鼓を棒でリズムよく殴るゲームだろう。お金を払って集客のパフォーマンスを引き受けるなんて物好きもいるものだ。

意地でも立ち止まってやるもんか。……と、通り過ぎようとしたときだった。

二つに束ねた黒い髪が揺れ、回るスカートが風を切る。キラキラしているのは汗……なのだろうか。

それともあの人は本当に、キラキラ輝いているのだろうか。

気が付いたら、ダンスゲームの上でポーズを決める少女に釘づけになっていた。

人だかりが散り、少女がゲーム機から降りた後も、しばらく呆然としていた。


26: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/09(月) 20:38:12.18 ID:QT3hMfik

「……すごい」

少女「ありがと! 次、やるんでしょ、どうぞ」

キラキラ笑顔のかわいい少女。さっきの少女に、話しかけられていた。

「あ、いや……」

『一回三〇〇円』の文字を見つけて、親指と人差し指で挟んでいた一〇〇円をポケットにしまう。

「見てただけだよ」

少女「ふうん。そうなの。たまにここで踊ってるから、また見に来てもいいよっ」

こんな時間にゲームセンターにいるのだから、午前授業を終えた小学生か何かだろうか。

“矢澤にこ”と名乗ったその少女と、凛はまた会う約束をしたにゃ。



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34: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:15:35.42 ID:eP96yMu0

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Side A

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六月



絵里「のぞみっ!」

ウチ「おっ、やっほー絵里ち」

絵里「聞いて! 見て! にことのデートプランを練ってみたのっ」

ウチ「いいね! 気が早すぎて暴走気味やん!」


35: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:16:30.07 ID:eP96yMu0

絵里「まず午前零時! 起床!」
ウチ「はやいな!?」

絵里「二時、出発!」
ウチ「いきなり二時間飛んだけど……てかはやいな!?」

絵里「そこは私の身支度よ! 省略!」
ウチ「二時間も身支度!?」

絵里「二時半、噴水の前で待ち合わせ!」

ウチ「ベタやなぁ」

絵里「三時! にこ、襲来」

ウチ「……集合時間一緒でよくない?」

絵里「待たせるわけにはいかないでしょう。で、出会いがしらのセリフ――この噴水より、君の方が綺麗だよ――」

ウチ「はやくもツッコミが追い付かない予感……」


36: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:16:56.65 ID:eP96yMu0

絵里「そして三時五分!」
ウチ「急に刻んできたな!?」

絵里「んもう、横やりいれないで。三時五分、指ぱっちん!」
ウチ「指ぱっちん!?」

絵里「それを合図に噴水、七色にライティング!」
ウチ「すごい! その仕掛け誰がやるんや!」

絵里「それをみてにこ――すてき。この虹が、私たちの愛の架け橋なのね――」
ウチ「なんで矢澤さんの反応まで決めてるん!?」

絵里「そして三時二九分……」
ウチ「もういいわ――――っ!」

絵里「どうして!? ここからなのに」

ウチ「ぜぇぜぇ……月並みなツッコミしかできない自分が憎い……で、その前にどうやってデートに誘うんや」

絵里「え……しまった、盲点だった」

ウチ「というか絵里ちと矢澤さんってどのくらいの仲なん? この前街で再会したって言ってたけど」

絵里「ええ! それはそれは運命的な出会いだったわよ。えっとね――」






37: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:18:05.30 ID:eP96yMu0



四月。

あの日は妹に頼まれたアイドルの新曲CDを買いに……いや、正しくは既に予約済みだったんだけど……ひと月前から予約入れてて……それでもすぐにいかないとダメなくらい人気らしいんだけどね。
それで私が駆り出されたわけ。そうそう、そのCD予約特典が豪華でね。メンバーの誰かのサイン入りポスターとかがついてくるの。しかし、直筆なのかしらね? プリントされたやつだったらがっかりよね。
なんて考えながら列に並んでいたんだけど……あ、プリントといえば初回特典版はCDにプリントされた絵柄みたいなのも特別版でそれが……


ウチ「もう長い!」

絵里「失礼。話が脱線したわ」

ウチ「発進すらしてないよ!」

絵里「ええと――」



とにかく、アイドルショップの列に並んでいたの。そうしたら……。


38: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:18:45.53 ID:eP96yMu0

絵里『ようやく、あと三人ね……みんなこんなのの何がいいのかしら』

店員『二番目でお待ちの方どうぞー』

二番目でお待ちの方『遅い! なによ、私は予約してるのよ、なんで並ばなきゃならないのよ』

絵里『うわぁ、いるのよねえ。ああいう、なんだっけ、クレーマー?』

サングラスにマスクという奇抜なファッションをした人だったわ。

でも私は一目でわかったの。そのクレーマーが……にこだって。



ウチ「なにその排泄物みたいな出会い」

絵里「今思えばそれだけあのCDが欲しかったのね。かわいいじゃない」

ウチ「恋は盲目って言うよね……」

絵里「で――」



にこ『ああ! これ違う! この子のサインが欲しかったんじゃないの!』

店員『あのお客様、後ろが控えていますので……』

にこ『ちょっと! 他のに変えなさいよ!』

店員『開封済みの商品のお取替えは……』


39: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:19:25.23 ID:eP96yMu0

なんてやり取りを横目に私は目当ての品を手に入れたわ。



希「ただの厄介な客やん」

絵里「一生懸命な人なのよ」

希「はいはい、で、二人の出会いは」

絵里「ええ。そして――」



絵里『あ、ああ、あのっ』

にこ『なによ』

絵里『よかったら……どぞぅ……』

にこ『え、交換してくれるの?』

私は無言でうなずいたわ。

にこ『ふぅん……でもまあいいわ。これを自分で引いた運命を大事にしたいの。ファン的に』

絵里『あ……ど、ども……』

にこ『あなたも大事にしなさいよね。自分の運命』

絵里『…………キュンっ』



惚れたわ。惚れ直したわ。そして直感した。これが私たちの運命の出会い――


40: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:22:37.64 ID:eP96yMu0



そんな感じで早口で語ったのち、絵里ちは満足気に胸を張った。



絵里「とまあ……」

私「…………」

絵里「…………」

私「終わり!?」

絵里「終わりよ」

私「やっぱりだだの厄介なクレーマーやん……ていうかたぶん矢澤さん絵里ちに気づいてないよね」

絵里「かもね。ほとんど話したことないし」

私「デート! どころじゃ! ないやん!」


42: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:26:58.99 ID:eP96yMu0



六月


私「ししょー、師匠―っ!」



とある喫茶店に私の師匠はいる。



ことり「ちょっと希ちゃん、その呼び方やめてったら」

私「すみません師匠、遅れました」

ことり「いいよ、私も仕事あがったばっかりだったよ」


43: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:27:53.58 ID:eP96yMu0

師匠が働いているメイド喫茶で、師匠と落ち合う手筈になっていたが、そういうことだったのか。

私「てっきり今日はオフなのかと」

ことり「いいのいいの。気にしないで」

私「それで早速なのですが、相談があるんです」

喫茶店の一角。営業時間はすでに過ぎているが、『ミナリンスキーなら好きに使っていい』とのことだった。だれそれ。

ことり「ええと、待ってね。メールに送られてきた情報によると、ターゲットは十代後半ってことだったね」

私「そうなんよ」

ことり「ふむ。背丈は?」

私「一五〇ちょい……くらいかな」

ことり「ふむ。服装は」

私「え、制服しか見たことないな」


44: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:28:28.84 ID:eP96yMu0

ことり「じゃあ髪型、装飾類、化粧やマニキュアの有無」

私「髪……は、染めてなくて、ツインテかな。おさげもみたことある。ピアスとかはしてなかったけど。髪ゴムも、特に印象に残っているのはないかな」

ことり「ふむ。印象に残らないということは毎日違うものを付けている可能性があるね。気になる人のそんなことにも気が付かないなんて、意外と鈍感なところあるよね」

私「う……それはそうと、化粧はしてないと思うなあ。もしくはナチュラルメイクかな。マニキュアは……してたかも。確信はないけど」

ことり「ふむ。かなりオシャレに気を使うタイプとみて間違いないね」

私「おお、さすが師匠や」

ことり「性格は?」

私「わからん」

ことり「へ?」

私「何回か接触したけどまったくわからん」

ことり「希ちゃんともあろう人が?」

私「そうなんよ。ウチの観察眼をもってしてもあれは……なんというか、雲か煙かって感じ」

ことり「性格は雲か煙か……と」

私「それでいいん?」


45: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:29:04.18 ID:eP96yMu0

ことり「目立つタイプ? 目立たないタイプ?」

私「ありゃ目立つね」

ことり「総じて“イロモノタイプ”……と」

私「そう違わないのがなんとも」

ことり「お金の使い方なんてわからないよね」

私「わからないなあ。あ、でもアイドル好きで、しょっちゅうショップとか行ってるみたい」

ことり「なんと! そこまでわかってるなら話は早いかも!」

私「そうなん!? よかったぁ」

ことり「ふむ……ふむ」

私「どうでしょう師匠」

ことり「とりあえず思ったのが……前回とだいぶタイプ違うね?」

私「えっ、あっ、えーと」

ことり「確か前のカルテが……そうそう。結果目立つけど自分から目立ちたいタイプじゃない……オシャレに興味はあるようだけど時々髪が跳ねてたりする……大胆に見えて欲しいものを吟味する倹約タイプ……金髪、ナイスバディ、エトセトラ」

私「あー! あー!」


46: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:29:40.35 ID:eP96yMu0

ことり「ううん。いいことだよ、真逆の人に挑戦するんだね」

私「そのことだけど、前回のカルテも一応残しておいてね……」

ことり「きゃあ、見境なしだね希ちゃん」

お気づきだと思うが、今ウチが相談しているのは矢澤にこさんのことであるが、師匠には『ウチのターゲット』として話を通している。

別に隠さなくてもいいだろうけど、話がややこしくなりそうなので黙っていることにした。

誰であろうとアドバイス内容は変わらないだろうから、大丈夫やろ。



ことり「前回のダーゲットは四苦八苦の挙句諦めたみたいだけど……今回は簡単です」

私「え、本当!?」

ことり「うん。共通の話題で興味を惹くのが一番手っ取り速いよ」

私「つまり?」

ことり「つまり――」






48: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:30:18.07 ID:eP96yMu0





私「つまり、オシャレとアイドルについての知識をつければいいんや!」

絵里「なるほど理に適っているわ適いすぎて怖いくらいよさすが希!」

私「ふっふーん」

絵里「だとしたら天は私に味方しているのね。きっと私はこのためにスクールアイドルを始めたんだわ!」

私「それでいいのか……」

絵里「アイドルは楽勝よ! オシャレも、それなりにイケてるし? 私」

私「それはどうかな……」

絵里「なによ」

私「じゃあこの前予約して並んだCDのグループ名は?」

絵里「え……えーと……」

私「はい時間切れ―」

絵里「ダメだ私ダメだこんなんでみんなとスクールアイドルをやる資格なんてあるのかしら……」

私「安心し。今回は頼もしい先生にお越しいただいてるんよ」

絵里「せ、先生……?」

私「センセー! お願いしやす!」


49: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:31:27.93 ID:eP96yMu0

それを合図に、“ウチ”が用意した先生が入ってくる。



花陽「どうも。こんにちは絵里ちゃん」

絵里「花陽じゃない」

ウチ「花陽先生と呼べい!」

花陽「えっと、事情はわからないけど、アイドルについて、教えて欲しいってことでいいんだよね」

絵里「ええそうなのよ、花陽先生」

花陽「言っておきますが、本当に覚悟はあるんですよね?」

絵里「え?」

花陽「私に教わるということはメディアに出て活躍するユニットは基礎の基礎としてアングラ各界、メンバー個人の経歴、ユニット発足の過程から果ては業界の闇、裏事情、ゴシップガセネタあることないことなんでもござれ! ですよ!」

絵里「は、はいっ!」

花陽「そのすべてを頭に叩き込む根性はあるのかと問うているのですよ!」

絵里「はいっ!」

花陽「すべてを知ってもなおアイドルを愛する覚悟があるのかと問うているのですよ!」

絵里「イエス! マム!」


50: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:31:58.97 ID:eP96yMu0

花陽「その返事気に入りました!」

絵里「マム! イエス! マム!」

花陽「よろしい。……確認ですが希二等兵、報酬のブツはあるんでしょうね?」

ウチ「もちろん。“白い粉”……ですね」

花陽「上等なものなんでしょうね」

ウチ「そりゃあもう……」

絵里「え……“白い粉”……ダメよ、生徒会長として生徒がそんなものに手を染めるのは……」

ウチ「もう手遅れや」

絵里「えっ」

ウチ「今の花陽ちゃんのテンション見たやろ。ありゃすでにキメてる」

絵里「そ、そんな……」

ウチ「“米粉”を」

絵里「米粉かい」






51: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:33:01.17 ID:eP96yMu0





絵里「うぅーう、うぅ、ヴぇええ……アイドルコワイ、アイドルコワイ……」



二時間みっちり花陽ちん講習を受けた絵里ちはすっかりダメになっていた。

頭を抱えて胴体をひねりながら白目をむいて椅子に噛みついている絵里ちを見るのは心苦しいけど……これも絵里ちの幸せのため……!



絵里「あう……アイドルは偶像崇拝……宗教……ダメ、絶対……」

ウチ「そいじゃあ次いこか」

絵里「え!?」

ウチ「おお、元気なったやん」

絵里「次ってなによ、まだ何かあるの……!?」

ウチ「ほら、矢澤さんとデートしたいんやろ」

絵里「違うわ。結婚したいのよ」

ウチ「現実見えてないなー……そんな穢れない眼で言われたら……ウチが辛いやん」

絵里「どうして希が辛いのよ」

ウチ「それは……それは……だって……」

だってウチは、絵里ちのことが――――。






52: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:33:25.33 ID:eP96yMu0





ウチ「さあついた。次の講義室」

絵里「ここって音楽室……ははーん。もう読めたんだけど」

ウチ「さあ次の先生です! がらがらっ!」



真姫「……来たわね」

絵里「ほらあ……」



真姫「誰が呼んだか赤き賢者! オシャレリーダー西木野先生参上っとうっ!」

ウチ「…………」

絵里「…………」

真姫「…………」

絵里「なに、真姫も米粉キメてんの?」

真姫「失礼ねえ! 酔っぱらってないわよぉ!」

絵里「言ってないわよ!」


53: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:33:59.84 ID:eP96yMu0

ウチ「しまった……」

絵里「どうしたの希、真姫の様子が明らかに変なんだけど」

ウチ「待ち時間に飲んでてって渡したトマトジュースが空になってるんよ」

絵里「だからなんなの」

ウチ「説明しよう。真姫ちゃんはトマトジュースを飲みすぎると脳内麻薬でハイになってしまうのだ」

絵里「そんな設定を知っててなぜトマトジュースを与えてしまったのか」

真姫「誰がかわいいトマトの妖精よぅ……うい」

絵里「言ってないわよ!」






54: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:35:53.79 ID:eP96yMu0



なかなか落ち着かない真姫ちゃんが素面に戻るまでおよそ三〇分を要した。

二五分を過ぎてもクールで冷静沈着な真姫ちゃんに戻らなかったあたりで、口にミカンジュースを注ぎ込んでみたところ、急におとなしくなったのだ。

ウチ知ってるよ。たぶんこれが中和というやつだ。昔理科の実験でやったことある。



真姫「……さて。お恥ずかしいところを見られてしまったわね。あの症状は現代医学でも解明されてない未知にして不治の病なの。私の意思ではどうにも」

絵里「いやただ単に深夜のテンションになってただけじゃ……」

真姫「未知にして不治の病なの」

絵里「いやでも」

真姫「私の意思ではどうにもならないの、仕方ないの。ああまた顔がトマトみたいに真っ赤になってきた。再発する前に話を進めましょう」

絵里「そうね。そういうことにしておきましょう。患部には触れちゃダメってよく言うし」


55: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:36:47.45 ID:eP96yMu0

真姫「希から聞いたわよ。このファッションリーダー西木野真姫に、ファッションを教わりたいようね!」

絵里「いや別に……」

真姫「教わりたいようね!」

絵里「ねえ希、真姫のファッションってその……かなり……独特なんじゃ」

ウチ「うん……でもそこは黙っといて」

絵里「なんでよ、大丈夫なの?」

ウチ「とりあえず合わせたげて」

真姫「お、そ、わ、り、た、い、よ、う、ね!?」

絵里「えーと……おおー!」

真姫「うんうん、いいコール。こうでなくちゃ。ファッションリーダーたるもの、歩けば大名行列、振り返れば見返り美人図、そしてなりやまない歓声。ああ、東京ガールズコレクションに呼ばれる日もそう遠くないかしら!」

絵里「まだ酔ってるのかしらこのトマトドランカーは」


56: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/10(火) 19:39:01.05 ID:eP96yMu0

ウチ「しーっ!」

真姫「何か言った?」

ウチ「いやあ先生、トーキョーガールズなんたらはもう古い。先生が新たに独自にそんなん開いちゃってもいいんやないかって。タイトルはそう“トマト・ド・ランカー・コレクション”」

真姫「すごくパリっぽい響き……! それ採用」

絵里「なんか今日の真姫すっごくアホっぽいわよ……?」

ウチ「頼られて嬉しいんやろ……しいて言うなら“自分に酔ってる”んや」

絵里「うわ……お後がよろしいようで」

ウチ「上手く締まったなあ」

真姫「なんで締めようとしてるのよ、まだ始まってもないわよ。私のスクール」

絵里「はいはい。じゃあお願いしますセンセー」

真姫「ふふん。オーケー。真姫先生についてきなさい。カモン。音楽準備室よ」

絵里「あとで思い出して死にたくなるんだろうなぁ……なんでこんなのをオシャレの先生に……」

真姫「古今東西木野あらゆるコンセプトの衣裳を用意したわ。無駄になっちゃうのはもったいないし、気に入ったのがあったら“全部持って行っていい”わよ」

絵里「そういうことかーっ!」



こうして人知れず“絵里ち対矢澤にこ決戦兵器化計画”が始動した。






61: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 02:06:36.90 ID:wbFxzP8+



六月



にこ「あ……」

UTXで出待ちをしていると、矢澤さんがやってきた。

にこ「あなた、東條希」

私「覚えてくれたんやね」

にこ「なんなのよ」

私「ファンやから、出待ちしてたんよ」

にこ「ふん……で、本当は?」

私「ある人から、手紙を預かってて」


62: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 02:08:33.37 ID:wbFxzP8+

にこ「ある人ぉ?」

私「あなたのファン。正真正銘の。これは嘘やないよ」

にこ「ニコのファン?」

私「そ。ファンレターくらい受け取ってくれるでしょ」

にこ「ま、まあね……ふぅん、ニコのファン……最近多いのよね」



まんざらでもない……のだろうか。矢澤さんは手紙を受け取ると両手をキツネみたいにして、速足で去っていった。

さて、仕込みは済んだ。あとは絵里ちの完成を待つだけ。

ウチはいつも待つだけやね……。






63: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 02:10:11.62 ID:wbFxzP8+



六月



ことり「そっかそっか、ちゃんと渡せたんだね。ラブレター」

例によって、絵里ちと矢澤さんについての相談を自分のことに置き換えて師匠に話す。

私「うん。師匠に習った通り、ちゃんとデートのお誘いと、日付を提案しておいたよ」

ことり「よしよし。いい返事がもらえるといいね」

私「あ、うん……そいで、今日はデートプランについての相談なんやけど」

ことり「そうだね……本番はここからだよ希ちゃん!」

私「…………」

ことり「希ちゃん?」


64: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 02:11:59.00 ID:wbFxzP8+

私「……………………ねえ、ことりちゃん」

ことり「うん?」

私「もしも、好きな人に……他に好きな人がいたら……」

つい口走ってしまったのを後悔して、すぐ口を閉じる。

私「……なんでもない」

ことり「他に好きそうな人がいたの?」

私「いや……いいんよ。それよりデートプラン……」

ことり「気にしなくていいんじゃないかな」

私「えっ」

ことり「諦められるなら、その程度の気持ちだったってことじゃないかな……あ、いや、今のは忘れて。私の意見だから」

私「これまでもずっと、ことりちゃんの意見だったけど」

ことり「あっ、あー……そ、そうだったね」


65: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 02:12:40.03 ID:wbFxzP8+

ん……ことりちゃんも何か隠してることがあるっぽいかな?

お互いさまだから気づかない振りしとこ。

私「感謝してるんよ。……ありがとうございます師匠!」

ことり「あー……そうだ、そうだそうだそういえば、感謝してくれているなら、一つお願いがあるの」

私「あ、もしかしてまた?」

ことり「うん。ある人から占いの依頼が入りそうでね。またお願いしてもいいかな」



師匠……ことりちゃんがウチに恋のアドバイスをくれる代わりに、ウチもことりちゃんにあげているものがあった。“占い”だ。

これはウチが絵里ちについて相談している頃から続くもので、ことりちゃんがお客さんにしていることになっている占いを、裏でウチが先にしてあげる……言ってみれば占いの下請け。

ウチとことりちゃんはヤドカリとイソギンチャクのような関係なのだ。


66: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 02:14:06.26 ID:wbFxzP8+

ことり「えーと……この写真の子なんだけど」

私「まーたご主人様隠し撮りして、いけないメイドさんやなぁ」

写真には、ショートカットのあどけない少女が映っていた。……あ、これ音ノ木坂の制服。リボンの色を見るに一年生か。

私「その写真、こっち送って」

ことり「今やってるよ。それにしてもすごいよね。写真だけで占いできちゃうなんて。しかもよく当たるって評判だよ。自分も占っちゃえばいいのに」

私「ま、まあね……じ、自分にはできないんよ」



スマホに送られてきた写真を更に別のアドレスに送る。……とある恋愛相談サイトの管理人。名を“A.K”という。

実は、ここだけの話……占いをやっているのはウチではない。

ここのサイトに相談して出た結果をあたかも自分の占いのように見せかけているだけなのだ……ふはは、笑うがいい……なじるがいい……。

もちろん自分の恋愛についてだって相談済みですぅ!

前に絵里ちの件を相談したとき、ことりちゃんが“A.K”とほぼ同じ答えをしたのが師匠と呼ぶキッカケなのだ。


67: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 02:14:47.35 ID:wbFxzP8+

希「結果が出るまで、デートプラン練ってよか」

ことり「うん。まず午前零時に起きて二時に集合ってところからなんだけど……」



スマホの画面を切って、師匠に向き直る。

――――?

今……何かを見た気がする。

……ばかばかしい。きっと気のせいだ。そう思ったけど、一応、念のため、もう一度スマホを開き、さっき師匠から送られてきた写真をよく見てみる。

私「――――」

絶句した。こんなことがありえるのか。

ことり「あ、もしかしてもうその子の占い結果が出たの?」

私「いや……“この子やなくて”」


68: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 02:15:37.54 ID:wbFxzP8+

画像の右側をスワイプして拡大する。

師匠に占いを依頼した子……に対面して座っている女の子――多少ピントがずれているし、横顔だけど……間違いない。



どういうわけか、その写真には“矢澤にこ”が写っているのだった。






70: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 16:20:43.50 ID:wbFxzP8+



七月



毎日花陽ちゃんからアイドル情報を仕入れて、真姫ちゃんからオシャレな服をかっぱらう生活が始まってひと月ほどが経った。



花陽「では次の問題。『プレミアムSI金賞』を四年連続受賞し殿堂入りを果たした楽曲を持つスクールアイドルのうち、しょ」

絵里「ぴんぽーん! 初代ミュータントガールズ!」

花陽「正解! では現在のミュータン」

絵里「ぴんぽーん! ミュータントガールズ5S」

花陽「正解! 次の問題。さて、今は何問目でしょう」

絵里「ぴんぽーん! 七問目!」

花陽「正解!」


71: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 16:24:16.89 ID:wbFxzP8+

もともと能力の高い絵里ちは花陽ちゃんの知識をみるみる吸収した。

おそらく近いうちに花陽ちゃんの力がなくとも自分で知識を広げられるようになるだろう。



花陽「次の問題。二〇一〇年解散した【ピー】ですが、枕営業したと言われているメンバーが二人いま」

絵里「ぴんぽーん! 【ピー】と【ピー】!」

花陽「正解!」

希「…………」



大丈夫かこれ。






72: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 16:28:29.63 ID:wbFxzP8+



花陽ちゃんのアイドル講習のあとは真姫ちゃんのもってけドロボーフリーマーケット……もとい、オシャレ講座が始まるのもいつものことだ。



真姫「さて。今日の赤き賢者のオシャレ講座ですが、中世の欧州におけるコルセットとニーハイソックスの存在意義と共通点について……」

絵里「センセー、今日はこのパンツとハイカットと流行りのテロンチもらっていきますねー」

真姫「あ……うん」

絵里「じゃ!」

真姫「あの、コルセットは?」

絵里「いらないわ」

真姫「うん……」


73: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 16:36:46.95 ID:wbFxzP8+

絵里「あ、言い忘れてた。真姫、今日のニーソ似合ってるわよ」

真姫「あは……ええ! とうぜんでしょー! ああ、やっぱり私は完ぺき。見てよこの脚線美、知性溢れるこの美貌。ほれぼれしなさい。するしかないわ。だって自分でしちゃうもの」

絵里「うん素敵よ。じゃ、ありがとね!」

真姫「えぇさよなら! 気を付けてね」

希「真姫ちゃんのチョロさを差し引いても、その天然たらしスキルがなぜ矢澤さんには発揮されないんや……」



そんなこんなで、順調に絵里ちは対矢澤にこ決戦兵器と化していった。

それをウチは、黙って見届けるしかなかった。

……ウチだって、ニーソくらい履くのに。



******


76: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 20:01:40.36 ID:wbFxzP8+

******



***



“二〇一二年 八月十四日。音ノ木坂の噴水のある公園で待っています”。

にこへのラブレターにはしっかりそう書き添えておいた。

“八月十四日”。“8月14日”。忘れないように毎日何度も何度も“8/14”の数字を反復していた。はちがつじゅうよん、はちがつじゅうよんはちがつじゅうよん……。

カレンダーを確認する。赤丸グルグルの場所。

八月十四日――今日だ。



絢瀬絵里、今日は一世一代の大勝負の日よ……!


77: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 20:02:20.01 ID:wbFxzP8+

予定通り午前零時に目を覚まし、絶賛髪の毛セットなう。予定より少し早いペースで準備が整っている。

亜里沙「おはようお姉ちゃん……」

私「あら、今朝は早いのね」

亜里沙「今朝……? 騒がしくて寝られないよ……」

瞼をこすりながら髪を手でブラッシングする我が妹、亜里沙。

無防備なパジャマ姿との相乗効果もあり、かなり襲いたいレベルでかわいい。

こんな激カワ生物の姉なのだから、私もかわいいに決まっている。自信を持つのよ。

私「今日は大事な用事があるの。ごめんね、起こしちゃって」

亜里沙「そうなの……じゃあ、亜里沙が……朝ごはんつくって……あげる」


78: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 20:02:50.51 ID:wbFxzP8+

半開きの目でキッチンに向かう亜里沙。かわいい。

もしにことうまくいかなくても……私には亜里沙がいるからいいかもしれない。

あ、ダメダメ。うまくいかないこと考えちゃダメ。



亜里沙「はい! 頑張ってねお姉ちゃん」

トーストが焼きあがる頃には亜里沙の目はしっかり開いていた。かわいい。

本当は朝から三十品目摂取するメニューを考えてあったけど、かわいい妹の厚意を無駄にはできない。

料理の時間が短縮され時間が大幅に余ってしまった。

亜里沙「アリサトースト、おいしい?」

私「ええ。今度お礼にエリチカトーストをつくってあげる」

亜里沙「わーい」


79: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 20:03:34.58 ID:wbFxzP8+

……少し気張りすぎていたかもしれない。いつも通りの朝食と、亜里沙のおかげでいくらか緊張がほぐれたかな。

コーヒーをすすりながら、時間を確認する。まだ一時をまわったところだ。

私「…………あれ? 暇ね」

予定にはなかったけど、最後に彼女に電話してみることにした。


80: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 20:04:59.73 ID:wbFxzP8+

希『もしもしー?』

私「あ、起きてた?」

希『モーニングコールで起きたかなあ』

私「あ……ごめん」

希『いぃよ。特別な日だもんね』

私「ねえ、今から今日の手順を一つづつ確認……」

希「えりち」

私「ん……」



「大丈夫」……そう言われて、思わず笑みがこぼれた。親友の彼女がそういうのだ。そうに違いない。



私「のぞみ」

希『んー?』



「ありがとう」。呑気に語尾を伸ばす親友に、本心から思ったこと伝えておいた。






81: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 20:09:24.65 ID:wbFxzP8+





二時。公園に到着。予定より三十分も早い。にこ、襲来まであと一時間。

噴水七色ライティングはボツをくらって、代わりに用意したプレゼント。それを背中に回した両手に包みながら空を見上げる。

早朝というよりは深夜だというのに、犬と一緒に散歩している人や、ランニングしている人たちがいた。

それらをなんとなく目で追いながら、ベンチに腰掛ける。

……ランニングしている人は、そこを周回コースにしているのだろう。何度も何度もすれ違った。

私は一人で座っているのが恥ずかしくなって、周辺を一周してみることにした。

ゆっくり歩いていると次第に、『もしかしてもうにこが来ているのでは』と気が気ではなくなって、早歩きからジョギング、最後は全力で走って噴水に戻ったけど、まだにこはいなかった。

私「はあ、はあ……何やってんだ私」


82: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 20:12:04.57 ID:wbFxzP8+

噴水の直下。水面に映る私の髪型は崩れていて、着飾った服の中も汗ばんでいた。

私「こういうときって、相手は遅れてくるのが定番だけど……戻ってシャワー浴びて着替える暇……なんてないわよね……そもそもアレがもう始まっちゃうし」



なんて言いつつ、これから始まる楽しい時間に想いをはせる。

この心地いい緊張感と高揚感をうまく表現できないだろうか。と、真っ赤なニヤけ顔の写る水面をパシャ……と手のひらではじいてみた。



******


84: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 22:08:36.47 ID:wbFxzP8+

******



***

二〇一二年 八月十四日



東條希の朝は遅い。……が、今日ばかりは例外だ。

私は絵里ちの予定と同じ零時に起きていた。

カーテンを開けても暗い時間に起きるのは妙な感じだった。

私はその気になれば三十分くらいでぱぱっと支度できちゃう人なので、これから二時間かけて支度する絵里ちの胸中は計り知れない。

ただ、私にとってこの二時間がものすごく暇なことだけは間違いない。



私「何やってるんや……ウチ」


85: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 22:09:09.58 ID:wbFxzP8+

私は、願わなくてはならない。今日という日が、誰かにとって、最高の日になることを。

もし私が、自分勝手な気持ちを少しでも優先しようものなら、今日はきっと誰にとっても最低の日になるだろう。

そんな最低なイメージに頭の中が支配される……寸前。スマホが鳴った。

いつもの着信音。バイブレーション。いつでも一瞬で私の頭を冴えさせてくれる。


86: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 22:09:56.77 ID:wbFxzP8+

私「もしもしー?」

絵里『あ、起きてた?』

私「モーニングコールで起きたかなあ」

絵里『あ……ごめん』

私「いぃよ。特別な日だもんね」

絵里『ねえ、今から今日の手順を一つづつ確認……』

私「えりち」

絵里「ん……」

私「大丈夫」

絵里『希……』

私「んー?」



「ありがとう」……そう言われて目をぎゅっとつむり、深く呼吸をする。……よし大丈夫だ。私は、ウチは絵里ちの幸せを願ってる。

――さあ。最低で最高の八月十四日が始まる。






87: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 22:10:43.58 ID:wbFxzP8+





私「もしもし。頼んでいた件なんやけど」

『ええ。事情はわかりませんが、協力はさせていただきます』

私「よろしく……こんな朝早く……夜遅く? にゴメンね」

『それは構わないのですが、本当に大丈夫ですか』

私「なにが?」

『まさか気が付いていないわけじゃないでしょう。相手方が……こんな時間に、まともに話したこともない相手と、二人きりで会うことを、承諾すると思いますか?』

私「あ……え……」

『常識で考えてください。“午前三時”ですよ?』


88: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/11(水) 22:11:48.06 ID:wbFxzP8+

そこで初めて、気が付いてしまった。

“いつもの噴水のある公園”で一人、浮かれ気分でくるはずのない相手を待つ絵里ちの姿を想像する。

自分のどうしようもなさ……愚かさ……狡猾さ……自分が今どんな顔をしているのか、怖くて鏡が見れない。

あの日師匠から送られてきた写真を思い出す。

……だって、そうだよ。うまくいくはずがないんだ。私はそれを“わかっててやっている”んだということに気が付いてしまった。



******


93: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 06:56:19.79 ID:2nL/WqmR

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Side B

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六月



お風呂上り。濡れた髪をタオルで乾かしながら自室のベッドに寝転がる。

充電器から引っこ抜いたスマホのバッテリーは、入浴している間に七十パーセントまで回復していた。

さっきまで観覧していたサイト――とある恋愛相談サイトを再び開く。

凛は恋愛ごとには疎いけど、人のそういう話を聞くのは結構好きだ。

今日見ていたのは掲示板の “恋愛マスターになりたい素人メイド”というタイトルのスレッド。
流れとしてはタイトル通り素人のくせに御主人様に恋愛の助言をしたい意地張りメイドに恋愛テクを伝授するもの。

このメイドさん、別口の管理人による即時対応の個別相談窓口まで利用しているようで必死さがうかがえる。

秋葉原のどこかのメイド喫茶には、このサイトの力を借りてナンバーワン人気を得た伝説のカリスマメイドがいるらしい。笑えるにゃ。

話に出てくる“占い好きの友達”とやらがこの事実を知ったときの顔が見てみたい。

笑い疲れて目を閉じると、凛はいつの間にかびしょびしょの髪のまま眠ってしまった。






94: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 06:57:34.69 ID:2nL/WqmR



六月



誰もいない屋上。広い空間で一人、仰向けになって空を見上げていると、終業を知らせるチャイムがなった。

今日は珍しく放課後まで学校にいた。……授業を受けたかどうかは別として。



あーつまんないつまんないつまんない!



立ち上がり、校庭を走り回る運動部を眺めながら、心のなかで叫ぶ。

どうして凛はこんなに退屈なんだ!?

昔は……中学生の頃は、何してたんだっけ……部活か。走ってたか。

そうだ、昔はちゃんと部活やってたんだった。なんで今はやってないんだろう。

ええと、じゃあ部活がない日はなにしてたんだっけ。今みたいに暇だったんだっけ。


95: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 06:58:06.38 ID:2nL/WqmR

違うな。もっと楽しかった。



かよちんがいた。



そうだ。今と昔との大きな違いは、かよちんだ。

かよちんはスクールアイドルを始めちゃって、あんまり凛と遊んでくれなくなった。

だからこんなにつまんないんだ。不満なんだ。

かよちんが悪いんじゃないけど、それが原因だ。

かよちんだけが見つけてしまった何かを、凛は見逃してしまったんだ。


96: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 06:58:43.53 ID:2nL/WqmR

凛「だから、こんなに……」



そのとき、校舎内に通じる扉の方から声が聞こえてきた。

――来る。

とっさに、入ってくる側からは見えない物陰に隠れた。

希「ね、お願い! 力を貸してよ」

花陽「うーん……」



かよちんだ。

アイドル研究部が放課後になると屋上を練習場所に使っているのは知っている。


97: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 07:00:36.01 ID:2nL/WqmR

希「ちょっとでいいから。絵里ちにアイドルのこと教えることってできひん?」

花陽「できるよ……できるけど……うーん」

真姫「何の話してるの?」

希「あ、真姫ちゃんもちょうどよかった。あのね、常に流行の最先端を行くお洒落な真姫ちゃんにお願いがあるんやけど」

真姫「最先端……おしゃれ……!? 何かしらなんでも言ってみてよ」

希「どうしたらそんなにスーパースペシャルおしゃれになれるのか教えて欲しいの」

真姫「す、スーパースペシャルおしゃれ……!? ふぅん。そこまで言うなら教えてあげてもいいけどー! 私のようになれるかはわからないけどー!」

希「ありがとう真姫先生!」

真姫「コツとしてはまず“自分を愛する”ことね! 生半可な愛じゃ足りないわ。すべてをささげてもいいと思えるほどの愛。そうよ自分に恋焦がれるの!」

希「あ、今じゃないんで」


98: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 07:01:39.66 ID:2nL/WqmR

居場所を失った凛は騒がしい屋上を背に黙って階段を降りて、家に帰って……。

帰っても、やることはなかった。

やるべきことはたくさんあったけど、やりたいことは何一つなかった。

だから結局、凛はまた一〇〇円を握ってそこに向かう。

――今日はゲームセンターのその一角には人だかりはなかった。



にこ「よっ、ほっ」



凛に気づいたのだろうか。にこちゃんは今まで黙っていたのに急に声を出したり、必要なさそうなポーズを決めるようになった。

一曲が終わるまで、凛はそんなにこちゃんと、硬貨投入口の『一回三〇〇円』の文字を交互に見ていた。


99: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 07:02:28.85 ID:2nL/WqmR

にこ「ふぅ……あー! この間の人だー!」

気づいていたクセにわざとらしくそう言って手を振ってきた。

恥ずかしいので控えめに振り返すと、それが不満だったのかほっぺを膨らませながら近づいてきた。

にこ「おっそーい! 今日の分はもう終わっちゃったよ」

凛「そうなんだ。ごめんね」

にこ「あなた……えっと」

何か困っている様子のにこちゃんを見て思い出す。そういえばこの間は、凛は名乗らなかったんだ。

凛「星空凛。音ノ木坂の高校一年生だよ。にこちゃんは……」

にこ「音ノ木坂……」

一瞬表情が曇ったように見えたけどきっと気のせいだろう。この子は凛が見ている限りではいっつも笑っている。


100: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 07:02:54.67 ID:2nL/WqmR

にこ「ニコはUTXの三年生ニコ。よろしくニコー」

凛「そっかぁ…………え、UTX!? 三年生!?」

にこ「うん」

凛「年上にゃ!」

にこ「いいのいいの。気にしないで。凛ちゃんってばもうかわいー」

凛「かっ……かわっ……ううん、えっと、その」

にこ「なに焦ってるのー?」

凛「い、いや、そうだ! にこちゃんの方が、かわいいよ。ほら、ダンスもすごいし」

にこ「まあねっ」

凛「あんな、人に見られるゲーム恥ずかしくないの?」

にこ「全然」

凛「え……」

表情一つ変えず、即答だったので面食らった。きっとにこちゃんには羞恥心がないにゃ。


101: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 07:03:25.50 ID:2nL/WqmR

にこ「だって、今はここがニコのステージだからね」

凛「どういう意味?」

にこ「そのまんまの意味だよ。それより凛ちゃん、やっぱりこのゲームやってみたいんじゃないの」

凛「それは、どうだろう」

たった三〇〇円のゲームすらプレイするお金がない……なんて言えなかった。凛には羞恥心があるにゃ。

凛「違うよ。凛はにこちゃんを見に来てるんだよ」

にこ「えぇ!?」

きつね? みたいな手をしながらシェーするにこちゃん。器用な驚き方だにゃ。

にこ「――っ! それってぇ、ニコのファンってことでいい?」

凛「ファン……まあそうだね。そうなるね」

にこ「ありがとっ! ねえねえ、向こうの通りにいいお店があるんだけど、よかったらお茶していかない?」

凛「え、と……でも」

一〇〇円しかない……やっぱり言えなかった。まずいのはわかってたけどつい誘いに乗ってお店について行ってしまった。






105: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 19:38:53.48 ID:2nL/WqmR





ミナリンスキー「おかえりなさいませ。ご主人様」

なぜ凛はメイドさんにおかえりなんて言われてるんだ。

にこ「ね! かわいいでしょ」

凛「う、うん……」

にこ「なに、こういうところ初めて?」

凛「まあ」

にこ「大丈夫ニコ! ここは若年層も狙った比較的リーズナブルなメイド喫茶だから」

凛「……と言っても、まさか銀色のワンコインで済んだりしないよね」

にこ「ここのダックワーズがちょーおススメなの!」

凛「へ、へえ。どうしよう」

にこ「“九十八円”ってところもいいんだけど何より食感が……」
凛「それにします」

にこ「はやいニコ……迷いないタイプね」


106: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 19:41:19.43 ID:2nL/WqmR

ポケットの中の全財産を確認。……よし、ギリギリ足りた。

にこ「ほかには?」

凛「え……えっ!?」

にこ「ほかにはいいのかって」

凛「あ、うん……ダイエット中で」

にこ「それは大変! 気持ちよくわかるから押し付けたりしないニコよ。じゃあニコもダックワーズだけでお揃いね」

凛「にこちゃんも同じの? その……ダッチワイフ」

にこ「ダックワーズね! その間違い二度としちゃダメにこ!」

ミナリンスキー「ご注文お伺いします」

にこ「ダッチワイフ二つ」

ミナリンスキー「つられてらっしゃいますねご主人様!?」



それから十分……も経っただろうか。とにかく思ったよりもはやくメイドさんがトレーに小さい袋を二つのせて戻ってきた。


107: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 19:43:32.98 ID:2nL/WqmR

ミナリンスキー「お待たせいたしました。ご注文のダッチ……む、むむむ?」

凛「な、なんでしょう」

ミナリンスキー「ご主人様……以前どこかでお会いしましたかな……?」

凛「えっ……どうだろう」

にこ「出た! 集客ナンバーワンメイドの必殺“占い攻め”」

ミナリンスキー「むむむ。ご主人様、人間関係でお悩みをお持ちであられるとみました」

にこ「人間関係の悩みなんて大抵誰でも……なんて野暮はナシだよ。凛ちゃん」

凛「わ、わかるんですか……」

にこ「のったーっ!?」

ミナリンスキー「えぇ、えぇ。わかりますとも。この “アキバの母”ことミナリンスキー」

凛「あ、アキバの母……!? すごそうにゃ……!」

ミナリンスキー「ご主人様のお悩み、ご相談、乗りますよ。ふぉっふぉっふぉっ」

なんかすごい無理してるのがバレバレな笑い声……。


108: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 19:43:58.70 ID:2nL/WqmR

凛「でも、お高いんでしょう?」

ミナリンスキー「もちろんタダで!」

凛「本当に!?」

ミナリンスキー「そう。この名刺をみせてくれれば“次回から”無料で」

凛「すごーい! 本当にタダなんだ、絶対またくるにゃ!」

にこ「凛ちゃんてばおもしろーい」

ミナリンスキー「それではごゆっくり」

メイドが去ってから、包装された“だっくわーず”を開封すると劣化した石鹸のようなものが出てきた。

凛「これが? なんか袋に入ってるし、お店でこれ出されちゃ騙された気分になるにゃ」

にこ「いいから食べてみてって」

凛「こんなの絶対おいしくないにゃ……うまーい!」

にこ「凛ちゃんってばおもしろーい」



にこちゃんはよく笑う子だ。

それで気がついちゃったんだけど、凛はまだにこちゃんの“笑顔しか見たことがない”にゃ。






109: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 19:45:22.37 ID:2nL/WqmR





ミナリンスキー「お会計百九十六円になります」

うぐ……これで今月の軍資金ほぼゼロ……よく考えたら次回の占いには来られないにゃ。

さよなら凛の一〇〇円……意を決して取り出す。

それより早く、にこちゃんが二〇六円を出した。

にこ「ファンサービスニコ。その代わりニコのかわいさを世に布教してね!」

凛「え、あの」

にこ「いいから。誘ったのも、あれ食べるように勧めたのもニコだし」

凛「いいの?」

にこ「いいよっ」



帰り道が分かれるまで一緒に歩いて、反対に歩いていくにこちゃんに大きく手を振って、その日はまっすぐおうちに帰った。

これがきっかけで、凛はにこちゃんとよく遊ぶようになったにゃ。






110: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 20:30:34.69 ID:2nL/WqmR

******

Side A

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八月十四日



海未「……して希、その人は本当に現れるんでしょうか」

私「大丈夫。きっと来る」

時刻は二時を過ぎたところ。

よく一緒に座ってお喋りした公園のベンチに、絵里ちが一人腰掛けている。

これだけ周りが暗ければ、噴水を挟んで反対側に位置するここからの監視がバレることはないだろう。

海未「まあ……この時間ですから、何かあると危ないので見届けさせてはもらいますよ」

私「ハハ……ごめんね、ほんと」

海未「いえ。絵里とその方がうまくいくか心配なのでしょう? 美しい友情にこの園田海未こころ打たれました」


111: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 20:31:13.85 ID:2nL/WqmR

私「そうだよ……うまくいくといいね」

――――な。

海未「ええ。今は信じて待ちましょう」

――――るな。

私「来る。きっと来るよ」

――――くるな。

私「だって今日まで頑張って……」



来るな。



もう気が付いてしまった自分の本心。


112: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 20:31:45.35 ID:2nL/WqmR

最低な思考がグルグルめぐる。“ウチ”はどうしようもないウソツキや。

このまま矢澤さんが来なければいい。そう思っている。

絵里ちには幸せになって欲しい、そう思っている。

時間が過ぎても現れず、いつまでも待ち続ければいいと思っている。

時間通りに来てくれるといい、そう思っている。

いつまで経っても現れない……来ない。そのことに気がついて絵里ちは絶望する、泣いちゃうかもしれない。

そしてそこにウチが出ていって……慰めてあげればいいやん……。



海未「のぞみ、希っ!」

私「あ、なに」

海未「なにを……笑っているんですか……?」

私「え……?」


113: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 20:32:17.15 ID:2nL/WqmR

笑う……そんな馬鹿な。今は長きにわたる計画の大一番。たくさんの人の協力そのすべてが実ることを願う緊張の一瞬。

そんな、笑うはずが……。



海未「絵里が動き出しましたよ!」

私「えっどこ!?」

海未「退屈すぎて少し周りを歩くことにした……と行ったところでしょう。追いますか」

私「そうやね。もっと距離をとって、見えるギリギリの範囲で追いかけよう」



のんびりと歩きだした絵里ちだったけど、何を思ったのかだんだん小走りになり、ついに全速力になり、完全に見失った。

私「ぜぇ、ぜぇ……なんでや……意味わからん……」

海未「ふう。さすがに速いですね」

私「ごめん……海未ちゃん一人なら……追えたでしょ……」

海未「大丈夫ですよ。あの足ならもう最初のベンチに戻っている頃でしょう」


114: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 20:32:50.65 ID:2nL/WqmR

切れた息を整えつつ、また噴水の前のベンチに戻ると、海未ちゃんの言う通り絵里ちは戻ってきていた。

海未「汗をかいてしまいましたね。きっと絵里も同じでしょう。これから、その、デ……だというのにいいのでしょうか」

私「まったく……台無しにする気かな……」



噴水の縁に両手をついて水をのぞき込んでいる絵里ち。髪が崩れていないかチェックでもしているのだろう……。

私「あ……」

海未「どうしました?」

私「な、ない……!」

海未「何がですか、なにかまずいことが……!?」



絵里ちは両手をついている。

……さっきまで持っていた“矢澤さんへのプレゼント”が、どこにもないのだった――。



******


115: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 20:34:04.30 ID:2nL/WqmR

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Side B

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六月



凛「どうしてこんなによくしてくれるの?」

いつものメイド喫茶。ずっと疑問に思っていたことを口にしてみる。

にこ「なにが?」

凛「だってほら、いっつもおごってくれるじゃん。今日だってそのつもりなんでしょ?」

にこ「どうしてって、それは……凛ちゃんがニコのファンだからニコ!」

凛「それだけ?」

にこ「それに、凛ちゃん……今月お小遣ピンチでしょ!」

凛「はっ……! なんで知ってるにゃ!?」

にこ「見てればわかるよぉ」


116: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 20:34:41.15 ID:2nL/WqmR

得意げにニタニタ笑うにこちゃん。悔しいけどすごいにゃ。

にこ「凛ちゃんのことは、よく見てるからね」

凛「ふうんヘンなの」

にこ「むう……。凛ちゃんこそ、どうしてあのときニコを見ていたの? また見に来てくれたの?」

凛「それこそ、凛がニコちゃんのファンだからじゃない」

にこ「あのとき……『にこちゃんを見に来てるんだよ』って言われたとき……どきっとしちゃった」

凛「凛なにか悪いこと言っちゃってた?」

にこ「いやそっちの“どきどき”じゃなくて……」

凛「わかんないよ」

にこ「……はぁ。もういい」


117: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 20:35:18.50 ID:2nL/WqmR

凛「……? とにかくあのときは、ただにこちゃんの姿に釘づけになっただけ、というか」

にこ「く、釘づけって、ニコに? うふふ……どうして?}

凛「なんだかとっても輝いて見えたのは……あれは……笑顔、かな」

にこ「笑顔……」

凛「うん。そう。凛はにこちゃんの笑顔好きだよ」

にこ「――っ!」

にこちゃんは一瞬目をそらして耳に髪をかけ直す仕草をしたあと、急に前のめりに、テーブルに乗り出してきた。



にこ「じゃ、じゃあ……凛ちゃんといるときはニコ、ずっと笑顔でいてあげる!」



凛は――七月になったら今度は凛がにこちゃんにおごってあげよう――そう思った。






118: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 20:35:50.08 ID:2nL/WqmR





六月



気まぐれにアイドルショップの前を通ってみることにした。

中学の頃はよくかよちんに連れられて行ったけど、凛には別に面白くなかった。

いまだにかよちんは通ったりしているんだろうか。そんなことを考えながら店内を覗いてみる。

――いた。

特に驚きはなかった。なんとなく、あるんじゃないかと思っていた後ろ姿が見えた。

凛と疎遠になってからは一人で来るようになったのかもしれない。

凛「おーい、かーよちんっ」



真姫「花陽、まだどっち買うか決まってないの?」


119: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 20:36:38.71 ID:2nL/WqmR

棚の陰から、見覚えのある赤まき毛が出てきて、かよちんの名前を呼んだ。

凛「――っとぉ……」

踵を返し、お店の出口に向かう。

真姫「あれ、知り合いだったんじゃない?」

ぎくぅ!

つい振り返ってしまった。つい振り返って、ついかよちんと目を合わせてしまった。

花陽「え……あ、凛ちゃん!」

昔と変わらない顔で笑いかけてくれた。あれ。凛はなにをそんなに気にしていたんだろう。

凛「う、うん。久しぶりだね」

真姫「だれ?」

そっちが誰にゃ。何で我が物顔でかよちんの隣に立ってるにゃ。

凛「こんばんは。星空凛です。えっと、あなたは?」

花陽「あ、紹介するねこちら真姫ちゃん」

なにかよちんに名乗らせてるんだ自分で名乗れないの?

凛「真姫さん? 下の名前は?」

真姫「西木野真姫よ。よろしく」

なれなれしいにゃ。


120: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/13(金) 20:38:07.36 ID:2nL/WqmR

凛「よろしく!」

真姫「それにしても……あなたが星空さんなのね」

花陽「真姫ちゃん知ってるの? あのね、陸上部なんだよ」

真姫「陸上部?」

花陽「うん、とっても足が速いんだ」

真姫「彼女、部活なんかやってないわよ」

花陽「え?」

真姫「知らないの?」

花陽「えっと……あはは。ごめんね凛ちゃん。真姫ちゃん、とってもいい子なんだよ」

真姫「ていうか、ほとんど学校に来てない時点でわかるでしょ」

花陽「えっと、えっと……あはは」

凛「……うるさいな。優等生ぶっちゃってさ」


123: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 15:49:27.03 ID:zHddF/18

凛「……うるさいな。優等生ぶっちゃってさ」

自分でも驚いた。まさかこんなどす黒い感情が……あることじゃない。表に出てしまうほど膨れてしまったこと。

そして一度あふれだしたら、もう止まらないこと。

真姫「な、なによ、みんなが当たり前にやってることもできないくせに。非行でしか自己表現できないの?」

凛「みんなと同じことしかできないとか気持ち悪いんだよ!」

真姫「はっ。なにその低次元な言いわけ。高校生にもなって恥ずかしくないの……いや、高校生くらいなら“よくあること”かしら」

凛「知らない人と一括りしないでよ!」

真姫「するわよ。それとも自分は特別だとでも? そんな傲慢な思い込みはテストで一〇〇点取ってからにしてよね」

凛「一〇〇点が特別って偏った価値観だなぁ!」


124: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 15:49:58.59 ID:zHddF/18

真姫「なんですって! あなた尾崎豊聞きすぎで頭おかしくなったんじゃないの」

凛「西木野さんこそ髪の毛ぐるぐるすぎてクルクルパーなんじゃないの!」

真姫「今クセっ毛関係ないでしょー!」

凛「尾崎豊のほうが関係ないじゃん!」

真姫「それは……っ! それは……確かに」

凛「はい凛の勝ちー。西木野さんの負けー」

真姫「ていうかそもそもあなたに関係ないじゃない、私たちアイドル部のことは」

凛「は――――関係ない? 凛が関係ない……ねえ、かよちんもそう思ってるの?」

花陽「え……それは……」

真姫「花陽を巻き込まないでよ」

凛「凛はかよちんに用があったんだよ」

真姫「なによ用って」

凛「それは、えっと」

真姫「ほら、さっさと用事済ませちゃって」

凛「…………」


125: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 15:53:25.20 ID:zHddF/18

完全に返す言葉を失った。

だって用事なんて、声をかけたいから……くらいだった。

凛を強気にしていた何かがすぅ、と失せていく。目の前の目つきの悪い女の子が急に怖くなってきた。

どうしよう……気を張ってないと体のどこかが震えだしそう……もう凛ができることは、虚勢を張ることくらいだ。

このまま黙って……黙って、逃げる……? そんなの悔しすぎる。黙って突っ立ってる? みっともなさすぎる……。

思いあぐねていると、奥からまた見覚えのある人が出てきた。



絵里「はいはい、そこまでよ」

真姫「エリー……」

絵里「黙って聞いてようかとも思ったけどね、二人とも度が過ぎるんじゃないかしら」

この金髪……! 集会で見たことある。生徒会長だ。

生徒会長ということは頭が良くて、優等生だ。優等生だということは凛みたいなのを見下してるに違いない。見下しているということは……つまり凛の敵だ。


126: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 15:54:30.43 ID:zHddF/18

絵里「私たち、今アイドルの勉強をしてたの。“部活動”でね。これ以上邪魔するのはよしてくれないかしら」

凛「凛は……別に邪魔なんて……」

絵里「結果的にしてるのよ。あなたは何? 下校中って風じゃないけど」

凛「…………」

絵里「先生たちも頭を抱えていたわよ。このままじゃ単位を落とすって。あなたのためにも、その辺にして置いたら?」

凛「関係ないじゃん……かんけーないじゃん!」



勝ち負けとかどうでもいい。とにかくここにいたくない。イヤな気持ちになる。

凛は出口に向かった。



花陽「り、凛ちゃん……たまにはちゃんと学校きてね」



聞こえないふりして、二度と振り返らなかった。






127: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 15:55:06.71 ID:zHddF/18





凛「ってことがあってさー! 頭きちゃったほんと」

にこ「大変だったねー」

凛「にこちゃんはどう思う……ていうかにこちゃんは何してるの? 部活とかいいの」

にこ「ニコは……大丈夫」

凛「だよねえ。大丈夫だよ。みんな将来とか、夢とか、よくわかんない話してさ。凛には理解不能だね」

にこ「夢は……」

凛「うん?」

にこ「夢ならあるニコ。部活は……なかなか練習場所が空かなくて、苦肉の策実施中なんだけどね」


128: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 15:55:50.95 ID:zHddF/18

凛「ちょっと待ってよ、にこちゃんも部活やってるの? なんか……熱中してるの」

にこ「うん。ニコはスクールアイドルになるのよ。大人気のね」

凛「…………」

にこ「凛ちゃんのことは好きだし、大切なファンだけど……人の夢は、けなしちゃダメだよ」

凛「なんだよ、なんで……なにが……そんなにいいの? アイドルとか、歌とか踊りとか……」

にこ「そんなの決まってるニコ。楽しいから」

凛「楽しい? どこが」

にこ「そうだよ。楽しい。例えば……自分のダンスに、誰かが釘付けになってくれたとき……とか」

凛「あ……」

にこ「ファンになってくれる子がいたりとか、頑張ってくださいって言われたら嬉しいし」

凛「そんなの自己満足じゃん……」

にこ「誰かが満足しているのをみて、満足する。それってすばらしいことじゃない」

凛「凛にはできないよ……満足してる人……充実してる人……楽しそうな人……見てると苦しくなる」

にこ「凛ちゃん……」


129: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 15:57:22.82 ID:zHddF/18

そのとき初めてにこちゃんの“笑顔”以外の表情を見た。

怒りも、悲しみも笑顔で上乗りできるにこちゃんは、凛をただただ“無表情”で見つめていた。

にこ「前から思ってて……口にはしなかったんだけど、もしかして学校行ってないの?」

凛「……登校は、してるよ。最後までいないだけ」

にこ「ダメだよ」

凛「そんなの、にこちゃんだって……」

にこ「ニコは、だって……通信制だもの」

凛「え……通信……?」

にこ「こんな時期の編入だったからいろいろ条件があったの。あとは学費が……それはいっか。とにかくスクーリングは月に数回しかないの。だからこうして、平日の昼でもあなたに会えるのよ」

凛「でも結局、遊んでるんじゃん!」

にこ「最近は、練習もバイトもない時間はだいたい凛ちゃんと会ってる。――あのね、これは誰にも秘密なんだけど、実は私あそこのゲームセンターでバイトしてるの」

凛「バイトを? いつ?」

にこ「あのダンスゲームも、本当は集客のためにやってるの。そういうバイト。誰にも言えないから、練習も兼ねてってことにしてるの……あんなので上達するわけないのにね」

凛「なんだよ……にこちゃんは仲間だと思ってたのに……凛ばっかり、凛だけ……何もない」


130: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 15:58:00.04 ID:zHddF/18

にこ「凛ちゃん……」

凛「はっ、もういいよ。“ファンサービス”なんでしょ! にこちゃんなんかもういい! 二度と……あっちいけぇ!」

にこ「……」

凛「こんな凛を内心笑ってたんでしょ!」

にこ「………」

凛「ばかにしてたんでしょ!」

にこ「…………」

凛「しかたなく付き合ってたんでしょ!」

にこ「……………」

凛「もういいんだよ! あっちいけ!」



にこ「いかないよ」


131: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 16:00:05.75 ID:zHddF/18

凛「あっちいけ! あっちいけあっちいけあっちいけ!」

にこ「いかないよ」

凛「あっちいけ、あっちいけ、あっちいけ……いけ……よぉ……」

にこ「いかない。笑ってもいないし、ばかにもしてないし、しかたなく付き合ってもいない」

凛「あっち……いけぇ……うぅ……」

にこ「こんなこと思っても……普段は絶対認めないんだけど……“私”は凛ちゃんと一緒にいたいから一緒にいるのよ」

凛「う、あ、あ、あ、あ」

我ながら不気味な声だと思った。

こういう泣き方をするのは初めてだった。

かよちんに言われたこと。にこちゃんに言われたこと。西木野さんに言われたこと。生徒会長に言われたこと。

ごちゃごちゃになって、今まで目をそらしていたものが浮き彫りになるようだった。


132: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 16:00:36.75 ID:zHddF/18

凛「凛だって……一緒にいたかったよぉ……ずっと一緒がよかったよぉ……“かよちん”がいないと、凛なんにもやる気しないよ、なんにもできないよぉ……」

にこ「かよちん……?」

凛「かよちん……会いたいよ、お話ししたいよ、声が聴きたいよ、笑いかけて欲しいよ、手を握って欲しいよ……ずっとずっとずっと一緒に居たかったよ……」

かよちん、かよちん、かよちん……かよちん。突然頭の中がかよちんとの記憶でいっぱいになる。

かよちんでいっぱいになって、溢れて、残ったのは……。



『り、凛ちゃん……たまにはちゃんと学校きてね』



その言葉が冷水のように凛を冷ます。

――ああ。何癇癪起こしてるんだろう。何で泣きわめいてるんだろう。



凛「…………もう遅いよ」


133: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 16:01:34.18 ID:zHddF/18

凛「…………もう遅いよ」

にこ「遅くないよ」

凛「でも……」

にこ「あなた私と違ってまだ高校一年生でしょ、時間はあるでしょ、やるべきこともわかっているんでしょ?」

凛「わからないよ……かよちんはもうスクールアイドルで忙しいんだから……」

にこ「だったら簡単じゃない! あなたも始めなさいよ!」

凛「え!?」

にこ「凛ちゃんもスクールアイドルになればいいじゃない」



……考えたこともなかった。そんな方法があったのか。


134: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 16:03:11.78 ID:zHddF/18

凛「でも、凛にはアイドルなんて無理だよ」

にこ「無理でもできなくてもやるのよ、その人と一緒にいたいんでしょ。なら即行動! あなたは私みたいになっちゃダメっ!」

凛「でも、でも……」

にこ「だったら私が教えてやるわよ! ……こほん、“ニコ”が教えてあげるニコ。“アイドルのなり方”!」

凛「アイドルに……? 凛が……?」

にこ「うん……うん! いいのよ。それをあなたが望むなら……ニコはその“かよちん”ってのと正々堂々正面から戦って勝ち取るだけなんだから」

凛「どうしてにこちゃんとかよちんが戦うの?」

にこ「わからないならいいニコ。とにかくニコは、凛ちゃんのほうからお願いしてくるなら、協力するニコ」

にこちゃんの言ってることは難しくてわからなかったけど、とりあえず凛がまたかよちんと仲良くなれるように応援してくれるんだということはわかった。

涙を拭いて、立ち上がる。



凛「うん――にこちゃん、力を貸して」




******


136: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 19:10:35.22 ID:zHddF/18

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Side ?

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ある校舎の階段。一人の少女が上の階へ昇る。

そこには少女のよく知る、大物が待ち構えていた。



ツバサ「こんにちは。矢澤にこさん」

にこ「あ……ツバサ、さん」

ツバサ「どう、励んでる?」

にこ「ええ……まあ」

ツバサ「あなたならきっとすごいアイドルになれる」

にこ「ありがとう」


137: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 19:11:10.75 ID:zHddF/18

ツバサ「そう思ったから、私が上に掛け合った……というのに、どうしたというのかしら。編入当初の覇気? 野心? が全く感じられないんだけど」

にこ「そんなことは……」

ツバサ「心配しなくても、三年生の三月までは誰でも平等にスクールアイドルになれるのよ」

にこ「ええ」

ツバサ「それとももう怖気づいちゃったのかしら。ほら、だってあなたは『音ノ木にいるから大成できなかった』『UTXに行っていれば人気スクールアイドルになれていた』んですもの」

にこ「…………そうよ」

ツバサ「ねえ……次の言いわけは考えてあるの」

にこ「ない! あるわけない。私はまだ……」

ツバサ「そうよね。諦めているはずがない。ここにいるのが何よりの証拠」

にこ「そうよ私……ニコは必ずトップスクールアイドルになる……ニコ!」

擦れたように見えて、矢澤にこはまだ矢澤にこのままだった。

――というか矢澤にこは割と元から結構擦れている。


138: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 19:11:45.96 ID:zHddF/18

『トップスクールアイドルになる』。



その夢だけを追いかけて、音ノ木坂からUTXへと編入を果たした矢澤にこ。

今はそれ以外、なにもいらない。なにも求めない。なにも考えない。

自分すら完全に客観視し、“矢澤にこ”を決して一人称で語らない。

一歩進むたび、矢澤にこと現トップスクールアイドル綺羅ツバサの距離は縮まる。

一歩昇るたび、同じ高さに近づく。

矢澤にこは綺羅ツバサを一瞥すると、そのまま階段を昇っていった。



ツバサ「これだけ発破をかけてもダメだったら……その時は少し考えないとね」






139: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 19:12:19.54 ID:zHddF/18





放課後。今日も矢澤にこの練習スペースはない。

この学校には無数のスクールアイドルが在籍している。地位を築いているユニット以外は、週に一度練習場所が与えられればいいほうなのだ。

地位はおろか、他にメンバーさえいない一人の生徒が特別扱いされることはない。

また一人、小さな空き地や空いている公園を探す。

不満はない。いつか必ず自分を見てくれる人が現れると信じている。

今まではスタートラインにすら立てなかったんだ。これくらいの逆境、今更なんでもない。

矢澤にこはいつか必ず報われると信じ、歯を食いしばって腕を必要以上に振って歩く。



……そんなときだったのだ。矢澤にこが星空凛と出会ったのは。



心が晴れるようだった。

思った通り、自分を見てくれている人はいるんだ! 自分の決断は間違っていなかったんだ!


140: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 19:12:50.15 ID:zHddF/18

……だから、星空凛の口からかつて自分が通っていた高校の名前が出た時は心底驚いた。

“音ノ木坂学院” 。

自分から離れた場所だけに、未練なんてものはなかったが、はやり名前を聞けば当時を思い出す。……あれから、どれだけの月日が経っただろうか。

こんなところにいたら無駄に時間を浪費するだけだ。そう思った矢澤にこはまず、“理事長の娘”である当時一年生の“ある少女”を探した。

こんなこともあろうかと顔を合わせれば挨拶を交わす程度の顔見知りにはなっておいた。

本当は実力で行きたかったから、これは最後の手段だった。

その少女と仲良くなるのに、時間はかからなかった。純粋にとてもいい子だった。

いつしか一緒に服を見に行ったり、毎日のように雑誌の話をするようになった。

そんなある日。矢澤にこがその少女に自身の境遇を告げると、その少女――“南ことり”は自分からこう言い出した。

『お母さんに、相談してみるよ』

心優しい少女だった。きっと本心から友達の力になりたいと思ったのだろう――そのために友達になったのだとも知らないで。

あるいは、知っていたとしても南ことりならそうしただろうか。


141: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 19:13:28.54 ID:zHddF/18

どちらにせよ、矢澤にこが彼女の働いているメイド喫茶を行きつけにしているのは、その密かな“罪滅ぼし”である。



――もう少し記憶を遡る。

矢澤にこはなぜ、UTXへの編入を決心したのだったか。

あれはたしか、気まぐれに応募した学校主催の美術館研修のときだった――。



館員『こちらが今開催中の展覧会の目玉“ヴィーナスの誕生”です。日本では今しか見られない貴重なものです』

ギリシャ神話……ヴィーナス。その誕生を描いたであろう絵画はあまりに有名で、芸術に興味のない矢澤にこでさえ、みた瞬間『ああこれか』と思った。

大きな貝殻と、その上の裸の女性。

まあ、なんだ。すごい絵よね。矢澤にこはそう思った。

隣にはほとんど話したこともないクラスメイトがいて……矢澤にことは対照的に本当に感動しているようだった。


142: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 19:13:57.62 ID:zHddF/18

『これが、女神(ヴィーナス)の誕生……すごいなぁ』

にこ『あなた、こういうの詳しいの?』

『え、ええと……うん。ギリシャ神話とか……知ってる?』

にこ『ああ、神話が好きニコね』

『うん……矢澤さんは、なにが好きなの』

にこ『ニコ? ニコは……アイドル好きニコ』

『やっぱりそうなんだ。あのね、アイドルも女神も、きっと似てるよ』

にこ『え?』

『な……なれるといいね! アイドル!』

にこ『……なれるかな』

『なれるようにおまじないしてあげる』


143: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/14(土) 19:16:02.54 ID:zHddF/18

電波入ってんなぁ……でも……そうか。そうだったのね。

そうだ。すべてはあの子との何気ない会話から始まったんだった。

なぜだか“私”は、あの言葉に……強く後押しされた。



『あなたに女神ミューズの加護がありますように』



思い出した。あの顔……あれが…… “東條希”だった。



にこ「そういえばアイツ……やっぱり関西弁じゃなかったじゃない」



******


148: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 09:19:28.37 ID:HPj0zqd1

******

Side B

******



六月

ホシゾラリン スクールアイドルプロジェクト 進行中!



にこ「まずはすべての基本。体力づくりよ、さあ走りなさい!」

凛「はい師匠!」

アイドル特訓初日。

まずはどんな踊りも踊りきる体力をつけるらしい。走るにこ師匠についてランニングが始まった。

にこ「言っておくけどアイドルのことになるとニコは厳しいニコよ! さあ覚悟してついてきなさい!」






149: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 09:20:31.71 ID:HPj0zqd1





にこ「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……ぜぇ……」

凛「ふぅ。久しぶりにこんなに走ったにゃ」

にこ「な、なんなのこの子……ものすごいスピードで追いかけてくるから……ぜぇ、ぜぇ、ペースが……っ」

凛「さすが師匠! ぜんぜん追い付けなかったにゃ!」

にこ「ま……まあね……ぜぇ……凛ちゃんも、最初にしては……やるニゴ……」

凛「はい師匠! あと何セットですか!」

にこ「きょ、今日は……このくらいにしておいてあげるわ」

凛「そう? まあ初日だもんね。まずは一通りメニューをこなす。そういうことだね!」

にこ「そ、そうよ……とりあえず、スクワットでもしてて……」

凛「了解っ! ほっ。ほっ、ほっ……何回?」

にこ「に、ニコがいいって言うまでよ……ふぅ、ふぅ」

凛「なるほど! アイドルにアンコールはつきもの! 終わるタイミングなんて選ばせてくれないんだね!」

にこ「なによこの体力バカ……こんなにイキイキできるんじゃない……げほ」


150: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 09:21:37.78 ID:HPj0zqd1

スクワットを一〇九回したところでようやくにこちゃんによるストップがかかった。

さすがに走ってすぐ一〇九回はかなりキツイ……アイドルって大変だ。

にこ「さあ! 次は反復横跳びよ!」

凛「オッス師匠! ……はあはあ」

にこ「さあ凛ちゃん飛びなさい! 飛ぶのよ! ウサギのようにカンガルーのようにワオキツネザルのように!」

凛「オッス! はっはっはっはっはっはっ……」

にこ「もっと速く! ダンスのステップはもっと速くて、もっと複雑よ!」

凛「も、もう太ももパンパンにゃ……これ以上は無理です師匠っ……」

にこ「強くなって“かよちん”に会いたいんでしょう!?」

凛「ぬ……!」

にこ「強くなって“妖怪赤まき釣り目”を見返してやるんでしょう!?」

凛「ぬぬぬぬ……にゃああああ!」

にこ「そう! いいペース! あと五十回三セット!」

凛「にゃあああああ!?」


151: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 09:22:32.37 ID:HPj0zqd1

もうダメだ。こんなの続けられない。なんで凛がこんなことしなきゃいけないんだ。

何度も何度もくじけそうになった。

そのたびにかよちんの顔を思い浮かべる。……ふさわしい人間になって、また一緒に遊ぶんだ!

……それでも、膝をついてしまいそうになる時がある。

そのたびにあのにっくき西木野……さんを思い浮かべる。打倒西木野! 打倒西木野!

凛だって……やればできるってところを見せてやるんだ……っ!

願い……闘志……誇り……後悔……挫折……そのすべてが凛を奮い立たせる。

今の凛はまさに……熱の中にいた。

それはたしかに、“熱中”だったのかもしれない。






152: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 09:23:25.63 ID:HPj0zqd1



七月



屋上で日光浴をしていると、太陽を遮る人影が現れた。

連日の猛特訓でボロボロの体を癒す貴重な時間だというのに……。



凛「誰にゃ」

真姫「こんにちは。星空さん」

凛「げ、西木野……さん」

真姫「げ、じゃないわよ。また授業抜け出して……」

凛「西木野さんこそ」

真姫「もう行間よ!」

凛「行間の屋上になんのよう? 友達いないの?」

真姫「なんでイチイチ喧嘩腰なのよ。言いたいことがあるならハッキリどうぞ」

凛「別に……」


153: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 09:24:18.24 ID:HPj0zqd1

めんどくさ。もう相手したくないにゃ。決戦の舞台はいずれ用意するんだから。

立ち上がり、校舎内に向かう。……なんだよ、ここからも凛を追い出すのか。



真姫「“また逃げるの”?」



ぴたり。足が止まる。



凛「“また”……? 凛がいつ、逃げたって?」

真姫「逃げたじゃない。この間」

凛「あれは……」

まずった。結果的に逃げたことになるか。……なら二度目の敗走は許されない。ここで会ったが千年目ェ……!

それに今は一対一だ。今なら……この目つき悪い赤まきげを言い負かせられる。


154: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 09:25:33.29 ID:HPj0zqd1

凛「……いいよ。逃げない」

やったるにゃあ! まずはジャブで様子見……いや、いきなりストレートでいって出鼻をくじいてやるか……オーケー。

放課後音楽室で一人、ピアノ弾いてるあたりから崩そう。このボティブローは後からジワジワ効いてくるにゃ。

凛「ねえねえ、放課後一人で音楽室でピアノ……」

真姫「謝ろうと……思ったのよ。寝ざめが悪くてね」

凛「弾くのって楽しいの……え!?」

真姫「だから! この前はその、悪かったわよ。頭ごなしにあなたを否定するようなこと言って」

凛「いや……え」

なんだと!? 凛はなんだ……謝られてるのか!?

このもじもじテレテレな女の子がこの前のあの暴言釣り目なのか!? あれ……あれなんか思ってたのと違う。


155: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 09:26:23.82 ID:HPj0zqd1

真姫「ずっと気になってたのよ。だから、ごめんなさい」

凛「先に謝るとかズルくないかぁあ!?」

真姫「えっなに!?」

凛「凛だってそりゃちょっとは悪いと思ってたよ!? でも引き下がれないじゃん!? なに、凛だけやる気まんまんで!? そっちは大人になって謝る!? 凛は何だ! こどもか!」

真姫「じゃあ、気は済んだし私は行くわ。許されるかどうかは別に問題じゃないし」

凛「冷静だにゃああああああ!?」

真姫「な、なに……さっきからおっきい声……」

凛「こっちはねぇ! アイドル研究部だかアイドリングストップだか知らないけどソチラにねぇ! ひと泡吹かせてやろうとダンスの特訓中だったんですのよ! それがなんですか! 平謝り! 凛がひと泡吹いたよ! 驚きのあまり語調が乱れてございますわ!」

真姫「な、なんなの」

凛「けど許す!」

真姫「はあ!?」


156: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 09:28:27.98 ID:HPj0zqd1

凛「コッチだけプンプンしてたんだもんね! もう凛情けないですよ! やってくれたよね!」

真姫「私は怒られているの……許されているの……?」

凛「計画が台無しだよ! あー……もうヤケクソにゃ! 西木野真姫さん、今ここで決闘を申し込む!」

真姫「あなたメチャクシャじゃない!?」

凛「特訓の日々を無意味にしてたまるかうわーん!」

真姫「なんか切実―っ! ……でも、おもしろいじゃない。いいわ……受けて立ちましょう」



こうして大幅な計画の変更アンド前倒しによって凛と西木野さんとのリベンジマッチが決まった。

師匠に勝利を誓うっす! ……でもでも師匠、なんかこれ既にもう色々意味を失ってる気がしますオッス……。






157: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 10:15:45.93 ID:HPj0zqd1





放課後。西木野さんには部活を休んでもらって、二人で街へ繰り出した。



凛「覚悟はいいかにゃ……“赤まき釣り目”」

真姫「“えりまきトカゲ”みたいに言わないで!?」

凛「さあ勝負するのは……これだぁあ!」

おなじみのゲームセンターの一角……そう。

真姫「ダンスゲーム……ですって……?」

凛「その通りぃ! ちなみに凛はこのゲームを直接やったことはないよ!」

真姫「どういうつもり? そっちからけしかけてきたんだから、何かしら私に不利な内容を押し付けてくると踏んだのに……わざわざこっちの土俵に上がってくるなんて」

凛「ふっ……言い回しが知的過ぎて何言ってるかぜんっぜんわかんないにゃ!」


158: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 10:16:20.94 ID:HPj0zqd1

真姫「どうしてアイドル研究部である私にダンスで勝負を挑むのかって言ってるのよ」

凛「そんなの簡単だよ。負けたら悔しいでしょ? “真姫ちゃん”」

真姫「……ふん。逆にあなたは負けてもなんら悔しくないって? そんな逃げ腰で勝てるの? この私に」

凛「そりゃね。アイドルとかダンスになんか凛はなんの思い入れもないし、負けたってどうってことはないけど……負けるつもりで勝負を挑むと思うの?」

真姫「どちらにせよ――決闘なんでしょ? ならさっさと決めましょう。“勝者の報酬”を」

凛「ふっふっふ……よくぞ言ったにゃ。この勝負。もしも凛が勝ったら、“アイドル研究部を解散”しろ!」

真姫「え!?」

いろいろ考えたけど――にこちゃんには悪いけど! 凛がアイドルやるのは絶対無理! 

だからかよちんにアイドルをやめさせてまた凛と遊ぶにゃ! 我ながら最低にゃ! 失うプライドのない凛だからできる最低で最高の特攻!


159: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 10:17:06.30 ID:HPj0zqd1

真姫「……いいわよ」

凛「言ったな」

真姫「私がどれだけレッスンを積んできたと思ってるの? あなたもそれなりに準備はしてたみたいだけど、そんな付け焼き刃じゃ、私には届かない」

凛「ふっ……たかが数か月で大した自信だね」

真姫「ええ。……そのかわり、私が勝ったら……」

凛「勝ったら?」

真姫「…………」

凛「なに黙ってるにゃ」

真姫「毎日ちゃんと、学校に来なさい」

凛「……へ?」


160: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 10:18:40.76 ID:HPj0zqd1

真姫「きちんと宿題をやってきなさい。最後まで授業を受けなさい。掃除を手伝いなさい。“ちゃんと”、学校にきなさい」

凛「な、なにそれ、おかしいよ……西木野さんにはなんの得も……」

真姫「この条件が飲めないなら、あなたの条件も飲めないわ」

凛「…………ヘンなの。わかった。いいよ」

真姫「言ったわね」

凛「一回三〇〇円だよ。――さあ、始めよう」



確かにせいぜい一週間そこらの付け焼き刃だ。

でも、西木野さんが学校で授業受けてる間も、お家で宿題やってる間も、凛は血のにじむような練習をしてきたんだ。決して届かない相手じゃない!


付けたばかりの刃は……焼けるように熱いにゃ!




161: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 10:50:33.04 ID:HPj0zqd1





――――――――。



――――。



“マキ スコアS” “リン スコア D”

それが、最終結果だった。

みじめに何度も再戦を申し込み、最終的な勝利数を競うことにしようとルール変更まで求めたが、最初のスコアを超えることはできず、繰り返す都度にスコアを落としていった。

対する西木野さんは一度だけ“B”を出したが、安定して“A”を出し続け、終いには慣れてきたのか、最高評価“S”までたたき出してきた。

〇勝十六敗。完膚なきまでに叩きつぶされた。



凛「…………」

真姫「ふぅ。あらもうお終い? 私は何度でも付き合うわよ。なんだったら“次の勝者には一万ポイント!”とかしましょうか?」


162: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 10:51:41.15 ID:HPj0zqd1

凛「…………」

一回三〇〇円かける十六回……四八〇〇円。

凛のお小遣いは――――底をついた。

真姫「ふぅん……どうやら負けを認めたようね。じゃ、失礼するわ。宿題と、今日は部活を休んだ分のアイドルの練習もしておかなきゃだし」

凛「…………」

負けた。

負けた。負けた。負けた。

また、負けたのだ。



にこ「あ、凛ちゃんっ! 今日はもう来てたニコね」



そうか、もうにこちゃんのバイトの時間か。そんなになるまで粘ってのか……みっともない。


163: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 10:53:29.23 ID:HPj0zqd1

真姫「あなたが“矢澤にこ”ね。直接顔を合わせるのは……初めまして」

にこ「あなたは……? え、ニコを知ってるの?」

真姫「そんなことより。明日、学校来なさいよ……“凛”」



西木野さんが出て行ったあとも、凛はへたれこんでいることしかできなかった。



にこ「凛ちゃん……なにがあったの」

凛「えへへ……負けちゃった」

にこ「え……まさかあれが例の? どういうこと、勝負はもっとずっと先のはずでしょ!」

凛「うん……ほら、アイドルには急な予定変更もつきものだから……

にこ「ギリギリひと月で基礎だけは詰め込めるかってところだったのに」

凛「うん……ごめん……みっともないね……」

みっともない……情けない……面目ない……。

凛「ごめんねにこちゃん……ごめんね……! せっかく特訓付き合ってくれたのに……!」


164: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 10:54:26.03 ID:HPj0zqd1

申訳なくて、涙がこぼれる。凛は愚かにも、その場の勢いでにこちゃんの厚意を台無しにしてしまった。

申訳なくて、涙が止まらない。



にこ「泣かないでよ……いいのよ、ニコは。それよりあなたが」

凛「凛が……?」

にこ「だって……そうでしょ……“泣くほど悔しい”んでしょ……!」



悔しい……悔しい……? 凛が……?



『そりゃね。アイドルとかダンスになんか凛はなんの思い入れもないし、負けたってどうってことはないけど』



凛「――――っ」


165: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 10:55:29.15 ID:HPj0zqd1

勝てると思った。

勝てると思ったんだ! 勝つはずだったんだ!



凛「………悔しい! 悔しいよぉ……あんなに頑張ったのに……一回も勝てなかった……悔しいよ……悔しいよぅ……!」



ダンスゲームの勝負なんかで、凛は大粒の悔し涙をこぼしていた。



凛「悔しい……悔しい……! かよちんも……取り戻せなかった……っ!」

にこ「はあ……そんなところだと思った。『勝負に勝ったらかよちんにアイドル部をやめさせろ』とか言ったんでしょ……バカ」

凛「だってだって……凛またかよちんと一緒に遊びたくて……」

にこ「ばか!」


166: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 10:56:23.71 ID:HPj0zqd1

にこちゃんは怒っていた。初めて見る顔をしていた。



にこ「“大切な人”ってそういうことじゃないでしょ! 自分の都合で足を引っ張るのは違うでしょ!」

凛「でもぉ……だってぇ……」

にこ「“私”言ったわよね! あなたもアイドル始めて、正々堂々一緒に居られる自分になりなさいって……なのにあなたって……」

凛「ごめんなさい……でもやっぱり凛にアイドルは無理だよ……」

にこ「無理じゃない! ダンスに負けてそんなに悔しそうな顔ができる子に……アイドルの素質がないわけがない!」

凛「…………っ!」

にこ「悔しいんでしょ。なら次は勝ちなさい! もっともっと踊りも、歌も……全部ぜーんぶ上手になって……いつか自分に勝ちなさいよ!」

そんなの……そんなこと……にこちゃんなんかに……。



凛「言われなくたってってそうするよ!」



こうして激闘は幕を閉じ、凛には“目標”ができた。






167: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 10:57:30.48 ID:HPj0zqd1



そして翌日。



先生「星空さん、星空さーん……はあ、今日も遅刻なのね……」

真姫「先生、さっきのは予鈴なので正確にはまだ遅刻じゃありません」

先生「でも……来ないでしょ、あの子」

真姫「…………」



そうしている間に、本鈴が鳴る。

それと同時に――どどどどどど! がらり!



凛「……おはようございます」



仏頂面でそう言い放ってから、得意げな笑みでチラリと真姫ちゃんのほうを見てみる。

眼は合わなかったけど――真姫ちゃんもまた、口元にうっすらと笑みを浮かべていた。



凛は約束は破らないにゃ。



******


179: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 09:20:12.40 ID:FG2srwiT





きーん、こーん、かーん、こーん。

授業終了の鐘の音を教室で聞くのは何か月ぶりだろう。

凛はすぐに席を立って、その人のもとに向かった。



真姫「……来たわね」

凛「……来たよ」



つい昨日のことだ。

凛は彼女に完全敗北を喫した。再起不能寸前まで追い込まれた。

思えば……あのアイドルショップでの一件から、突然屋上で謝られたことまで、何から何まで憎たらしくてしょうがない。



凛「……ふっ」

真姫「……っふふ」


180: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 09:20:44.78 ID:FG2srwiT

凛「あははははははは! おはよう真姫ちゃん!」

真姫「えぇおはよう凛。夕べはよく眠れたかしら?」

凛「眠れるわけないにゃ! 手つかずの宿題だらけでね!」

ほぼ徹夜で解いたプリントを広げる。

真姫「やってこなかったらどうしてやろうかと思っていたところよ……ここと、ここと、ここ。間違ってる」

凛「え!? どこ!?」

真姫「教科書もってきなさい。教えてあげるから」

凛「いいよ。正解なんてどうでもいいにゃ」

真姫「よくないわよ!?」

凛「いーのいーの。やったんだから、あとは先生が赤ペン入れて返してくるの待つのみ」

花陽「はい。教科書」

真姫「ありがと花陽。ほら凛! こっちきなさい。この赤き賢者にかかればハムスターでも九九を覚えるってものよ」

凛「えー…………」

……って。

凛「かよちーん!?」


181: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 09:21:15.74 ID:FG2srwiT

花陽「おはよう二人とも」

凛「いや、それは、そのぉ……いろいろと……」



あれ……あれあれあれあれ!? なんでだろうすごく緊張してきた! なんで!?

かよちんだよ!? かよちんに緊張するなんてありえない、今までしたことない、どうして!?

凛「あ、か、かかか、よちちち、ちんちん」

花陽「えらいね凛ちゃん。ちゃんと宿題やってきて」

あ……ふあぁ……かよちんが微笑みかけてくれた……なんだろう……いままでこんな……なんだろうこの気持ち……!?

凛「う、うん。それで、その、西木野さんに、わからないところを教えていただいていたのですわ」

うつむき、垂れた髪の毛を耳にかけながら、伏し目がちにかよちんを言葉を交わす。なんだか恥ずかしくて目がみられないよーっ!


182: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 09:22:18.15 ID:FG2srwiT

花陽「それにしても、いつの間に仲良くなったの? 私、心配してたんだよ」

凛「こぶしで語り合ったというか、熱い魂のシンパシーというか……」

真姫「“昨日の敵は今日の友”って言うでしょ。ね!」

凛「ね!」

花陽「何があったのかわからないけど……よかった」



真姫ちゃんとかよちんと笑い合う。

今日、高校生になって初めて凛にお友達ができたにゃ。






183: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 09:23:01.63 ID:FG2srwiT



七月



凛「――でね! そしたら真姫ちゃんったら、“一人で音楽室でピアノ弾くなにがいけないのよーっ!”って顔真っ赤にしちゃって……」

にこ「うんうん」

いつものメイド喫茶。学校であったことをにこちゃんに聞かせてあげていた。

凛は真姫ちゃんから“学校に行かなくてはならない呪い”を受けたので、最近はよく放課後ににこちゃんと会っている。

もしも放課後も学校にいるようになったら――。

そこにトレーを持ったメイドが寄ってきた。

ミナリンスキー「にこちゃん、凛ちゃん、来てたんだね」

凛「あ、ミナリンスキー!」

ミナリンスキー「また占いの結果出てるよ!」

凛「ミナリンスキーはすごいにゃ。相手の趣味趣向とか、好きなものとか、なんでも本当に当たっちゃうんだもん!」


184: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 09:23:30.16 ID:FG2srwiT

ミナリンスキー「えーとね、“大事な話をするならいつがいいか占い”の結果だけど……」

にこ「具体的ぃ!」

ミナリンスキー「“二〇一二年 八月十四日”が最高……と出ました」

凛「八月十四日か……! ちょうど夏休みだね」

にこ「……ふぅん。“凛ちゃんに大事な話をするなら”八月十四日ってことね」

ミナリンスキー「あ、その日はにこちゃん的にも悪い日じゃないみたいだよ」

にこ「本当!?」

ミナリンスキー「特に“午前二時四十四分”から“三時二十九分”にかけては恋愛運も絶好調……」

にこ「そんな時間はさすがに厳しいニコ!」

ミナリンスキー「とにかくこの時間に誰かといると、いいことが起こるんだよ」

そのとき店内にすみませーん、と声が響いた。

ミナリンスキー「あ、じゃあ私お仕事に戻りますね。ご主人様」

にこ「ふぅん……そんな時間に一緒にいようなんて人がいるかしら……あ!?」

凛「うわっ、びっくりした。どうしたの」

にこ「ちょ、ちょっとこれ見てよ」

そう言ってにこちゃんはおもむろにバッグから封筒を、封筒から手紙を取り出した。


185: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 09:23:58.37 ID:FG2srwiT

凛「なにこれ、ラブレター?」

にこ「そうなのよ」

凛「そうなの!? 冗談のつもりだったよ!」

にこ「内容はまあ、相手のために伏せるけど……ここ。このお誘いの時間帯見てよ」

凛「んん……“二〇一二年 八月十四日。音ノ木坂の噴水のある公園で待っています”……?」

にこ「ね……どんぴしゃなのよ。しかも時間に関しては“午前三時”を指定されているの」

凛「す、すごいにゃミナリンスキー占い……!」

にこ「相手はまあ知った顔なの。それに仲介人も、ヘンな人ではあるけど悪い人ではない……というか。少なくとも危なくはないと思うんだけど……」

凛「まあ普通警戒するよね……」

にこ「そうよね……」

凛「でも……これは行くべきだよ! にこちゃん」

にこ「そ、そう……凛ちゃんはそう思うのね」

凛「うんうん! にこちゃんも知ってるでしょミナリンスキーの的中率」

にこ「そう……ね」


186: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 09:24:25.30 ID:FG2srwiT

凛「凛もその日、かよちんにそのデ……デート、じゃないよ、じゃないけど……お誘いするからさ」

にこ「やっぱりそうなのね……」

凛「うん! お互い頑張ろうね」

にこ「いいえ」

凛「え?」

にこ「“私”は……もし凛ちゃんがうまくいったら、このお誘いを受けることにする」

凛「どうして? 凛がダメだったら、遠慮しちゃう?」

にこ「私は。“凛ちゃんがかよちんと八月十四日の約束をできたら、この手紙の送り主と”。“できなかったら、別な人に自分からお誘いをする”ことにするわ」

凛「ふーんヘンなの」

にこ「ヘンじゃないニコ。実に感情的なよくあるオトメのルールニコ」

凛「別な人ってだれ?」

にこ「それは内緒……でも、とっても大切な人ニコ」


187: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 09:25:30.17 ID:FG2srwiT

これまたよくわからないけど、話も一段落したところで……そろそろ行こうか。そう言って立ち上がろうとしたそのときだった。

店内がざわつく。

ねえ……あれってやっぱりそうよね? そんなようなひそひそ声が延々と聞こえてくる。

なんだろう? みんなが見ているのはお店の出入り口……じゃない。今入ってきたお客さんだ。

お客さんは迷いなく、姿勢正しく、一点に向かって歩く。

……あれ、なんかこっちに向かってきてないか? うっすらそのことに気が付き始めたとき、やはり凛のいるテーブル席の前で止まった。

ツバサ「……こんにちは。矢澤にこさん」



その日のメイド喫茶は、ちょっとした騒ぎになった。






189: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 12:55:07.70 ID:FG2srwiT





ツバサ「周りは気にしなくていい。少し話がしたいだけなの」

その人はにこちゃんの知り合いを名乗って、にこちゃんに向かい合う席……凛の隣に腰掛けた。

にこ「偶然……なの?」

ツバサ「いいえ。ここにいると聞いてきたのよ」

にこ「そう……それで話って」

ツバサ「ええ――矢澤にこの最近の腑抜けっぷりときたら……こういうことだったのね」

そういって凛をキッ、と睨む“おでこお姉さん”。誰だろう。

そしてにこちゃんと同じくらいの身長なのに年上だとわかるのはなぜだろう。


190: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 12:56:10.63 ID:FG2srwiT

ツバサ「こんなところでお茶しているだけでアイドルになれるならみんなそうするでしょうね」

にこ「でしょうね。なにが言いたいの?」

ツバサ「ねえ矢澤にこさん。私は本気で、あなたはアイドルになれると思っているの。でも、三年生のあなたにはもう時間がそんなにない。寄り道はしないでいただきたい」

にこ「ありがとうございます。でもこの子は大切なファンなの。無下にはできない」

ツバサ「ファン一人の対応にどれだけ時間をかけるつもりなの?」

にこ「“時間をかける”……? ファンとの時間はそんな機械的はものであってはならないニコ」

ツバサ「その通りね。でも一流なら、ファンとの付き合いはどこかで割り切らなくてはならない……でなければ、それは既にファンではない」

にこ「な……」

ツバサ「がっかりよ。矢澤にこさん」

にこ「な、なにが……ニコ」

ツバサ「あなたが誰よりもアイドルになりたいと願っていると思ったから、力になってあげようと思ったのに。練習もそこそここんな喫茶店で時間を浪費しているのはおろか、“誰かひとり”に入れ込むなんて、ありえない」


191: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 12:57:27.19 ID:FG2srwiT

にこ「そ、そんなつもりは」

ツバサ「アイドルとは誰のものでもなく……誰かのためではなく……みんなのためにみんなのものであり続けるもの。あなたがそれを知らないわけじゃないでしょう」

にこ「もちろんそのつもりニコ!」

ツバサ「そのつもりでも……そうはいかない気持ちがあるって? いいわ。あなたの自由よ。……でもね、“本当にアイドルになりたいんなら”……自分で決断しなさい」

にこ「…………っ」

押し黙るにこちゃん。この人は……にこちゃんの敵……だろうか。なら……。

凛「なんか、感じ悪いにゃ」

ツバサ「なに?」

凛「にこちゃんは凛の大切な友達だよ! なんか……悪く言わないで!」

にこ「待って。いいの凛ちゃん」

凛「え……」

にこ「ニコが悪いの。これは、いいの」

凛「……にこちゃんが、そう言うなら」

援護失敗……臨戦態勢に入ろうかと思ったけど、にこちゃん自身に制されたんじゃ仕方ない。

凛は黙ってストローを吸った。あ、もうカラだ。


192: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 12:59:24.15 ID:FG2srwiT

ツバサ「あなたもお友達だって言うなら、矢澤にこさんのためにも、彼女を諦めてくれないものかしら」

凛「なに…………?」

おでこお姉さんは凛の聞き返しは応えず、腕時計を確認する。

ツバサ「じゃあそろそろ行くわ。外に車を待たせているの」

そう言い残して、おでこお姉さんはお店を去っていった。

にこ「ふう、行ったわね。あー緊張したニコ」

凛「で、誰なのあの人?」

にこ「え!?」

凛「なーんか、偉そうな感じだったけど」

にこ「ぷっ! あはははは!」

凛「な、なに、ヘンなこと言ったかにゃ!?」

にこ「ええ! それはもう……はは、なーんだ。“綺羅ツバサ”もまだまだね」

凛「綺羅ツバサ……」


193: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 13:00:35.56 ID:FG2srwiT

アイドルになりたいにこちゃんのために……凛がすべきこと……。

あの人はそう言っていたんだ。

にこちゃんがアイドルになるためには……凛と過ごすこの時間は足を引っ張るものでしかない。

あの人は……そう言いたかったんだ。

『“大切な人”ってそういうことじゃないでしょ! 自分の都合で足を引っ張るのは違うでしょ!』

あの日のゲームセンターのにこちゃんの言葉を思い出す。

――凛は考えなくてはならない。どうすることがにこちゃんにとって一番なのか。


194: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 13:01:04.48 ID:FG2srwiT

にこ「どうしたニコ? 凛ちゃん」

凛「ううん……じゃあ、そろそろ今日の特訓行こうか」

にこ「そうね。今日はこの前のステップに上半身の振付けを加えてみましょうか」



今度こそ店を出るために立ち上がる。そして今日こそ伝票を手にするのは凛にゃ。そう意気込んで財布の中を……あっ。

二〇〇円しかない……。

そういえば真姫ちゃんとの激闘で使い果たしたんだった……!



凛「え、と……ごちそうさまでーす!」

にこ「もー凛ちゃん! だんだんしたたかになってなーい?」



八月になったらおごろう……そう心に誓ったにゃ。



******


195: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 19:44:19.06 ID:FG2srwiT

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Side A

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八月十四日



私「な、ない……! 矢澤さんへのプレゼントが!」

矢澤さんと待ち合わせしている絵里ちの両手が空いていることに気がついたウチは海未ちゃんにそのことを知らせる。

海未「そ、そういえば来たときは何か持っていましたね」

私「あの小づつみのなかに、プレゼントが入ってたんよ……ああ、気づかんかな絵里ち」

海未「先ほど走っているときに落としたのですね……私たちで探しに行くというのはどうでしょうか」

私「ダメよ、見つけたとして……出て行って渡すわけにもいかないやん」

海未「むう……しかし、これは緊急事態なのでは。そのために待機していたのでしょう」

私「それはそうだけどできれば出ていきたくないっていうか! あーもうどうしよ、どうしよ……」


196: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 19:45:34.87 ID:FG2srwiT

なんであのポンコツはこういう時に限って必ずポカをするっていうか詰めが甘いっていうかそんなところもかわいいんだけど今は割と本気でイラつくっていうかどないしよどないしよ……。

私「あ、そうだ」

海未「なにか妙案が?」

私「探しに行こう。で、海未ちゃんが偶然を装って渡せばいいやん」

海未「私が?」

私「そうそう。海未ちゃんならまあ、不自然ではないでしょ。たまたま夜走ってたらなんか拾ったってことで」

海未「それは私でも一目で絵里のものだとわかるものなのですか?」

私「そんなまさか。矢澤さんへのプレゼントなんやから“にこさんへ”しか書いてないよ」

海未「では私は普通、その“にこさん”とやらを探そうとしますよね? 絵里にたどり着くのは不自然です」

私「あっはっは。確かに。……ダメやーっ!」

海未「しかしもうすぐ約束の時間が……」

私「くそう、なにか、なにか手は……」

海未「……っ! しかしもう考えている時間はありません! やはり私が探しに行きます! ごまかしかたは……探しながら考えますっ!」

私「え、まっ――」


197: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 19:46:11.14 ID:FG2srwiT

静止も聞かず、海未ちゃんは夜のとばりの中へ飛び出していった。誰にも縛られたくないのかな。

ひとりになったウチは考える。

さっきのコースを単純に走るだけなら海未ちゃんなら十分そこらで戻ってこられるだろう。

それなら約束の時間にはギリギリ間に合う。しかしそれは単純に走るだけなら、の話だ。

外灯と月の明かりのみの中、どこに落としたかわからないものを探しながらとなればそうはいかない……。

こうなったら海未ちゃん、絶対間に合ってよ! 矢澤さんも遅れて来てよ!

……いや。

また最低なイメージが頭をよぎる。“来なければいいじゃないか”。

このまま矢澤さんが来なければ、プレゼント自体が不要になる。

……ふ。

それでいいじゃない。ウチにとってはそのほうがずっと都合がいい。

――ウチは絵里ちの幸せを……。

絵里ちはここで、失恋してしまえ!



八月十四日、午前三時。矢澤さんは、来ない。

最低で……最高なイメージ。

ウチは、傷心の絵里ちを慰めるセリフを考える。






198: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 19:46:54.73 ID:FG2srwiT





汗だくで噴水の縁に手をついていた絵里ちが上体を起こした。

絵里「落ち着くのよ絢瀬絵里! 大丈夫、そう。回転しましょう。乾燥機のように、高速回転することによって風を発生させるとともに遠心力で汗を飛ばし、さらに空気摩擦で発生する熱による相乗効果で……私……天才!?」



なんだそのバカの極みみたいな独り言は……。


絵里「――三十二回転アクセルよ!」



そのとき。絵里ちに近づく影が見えた。

……海未ちゃんや! 間に合ったんやよかった!

絵里ちの肩をトントン、と二回たたく人影に目を凝らす。

絵里ちより十センチくらい小さくて、左右で髪を縛っている。



にこ「あの……」



矢澤にこだった。



******


199: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 19:47:42.24 ID:FG2srwiT

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Side B

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二〇一二年 八月十四日



占いによると、星空凛の運気絶好調の日。

その日凛は、かよちんと星を見る約束をした。

“噴水のある公園”と森を挟んで反対側に位置する“街を一望できる丘”。

『星を見るならここだろう』と真姫ちゃんに強く勧められたスポットだ。なんでも天体観測が趣味らしい。



花陽「こんばんは……凛ちゃん」

凛「こんばんはかよちん。来てくれてありがとう」

花陽「夏だけど……夜は冷えるね。水筒にあったかいココアを入れてきたの。一緒に飲も?」


200: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 19:48:41.18 ID:FG2srwiT

向けられた紙コップを受け取る。

今日は、あえて何も着飾らなかった。

口紅くらいしてみようかとも思ったけどやめた。きっとかよちんはいつも通りだと思ったから。

なら凛もいつも通りの凛でいい。



凛「ずず……熱っ!」

花陽「大丈夫やけどしてない?」

凛「大丈夫、大丈夫」

花陽「凛ちゃんは猫舌だから」

凛「えへへ……」

花陽「ずず……」

凛「ずず……」

ココアをすする音だけが響く。……正確には近くでリンリン、と鈴虫が鳴いていた。


201: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 19:49:24.44 ID:FG2srwiT

花陽「なんだか……懐かしいな」

凛「え?」

花陽「昔はよく、こんなことをしたよね。……こんなに遅い時間はあんまりなかったけど」

凛「そうだね。虫取りとか、探検とか、秘密基地作ったり」

花陽「うんうん」

凛「嫌だったでしょ」

花陽「え?」

凛「かよちん、虫取りとか嫌だったでしょ」

花陽「そんなことは……」

凛「今だったら、わかるんだ。かよちんはそういうの好きじゃなかっただろうなー……って」

花陽「そっか……うん。本当はそうだったかな。虫も、森の中も、怖かった」

凛「ごめんね」

花陽「ううん。でも、凛ちゃんがいたから平気だったよ」

凛「……違うの」

花陽「何が違うの?」

凛「かよちんはさ、嫌なことでもなんでも、凛に付き合ってくれてたんだよね」

花陽「付き合ってるなんてそんな、私は凛ちゃんと一緒で楽しかったよ」

凛「なのに凛は……」


202: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 19:50:23.00 ID:FG2srwiT

凛はなにかしてあげただろうか。

かよちんが好きなこと、やりたいこと……一緒にやってあげたことはあっただろうか。



凛「スクールアイドル、頑張ってる?」

花陽「この間ね、とってもいい曲ができて、みんなで練習してるんだ……そうだ! 今度見に来てよ凛ちゃん。お客さんとしての感想とか欲しいし、参考にできたらいいのにって穂乃果ちゃんも言ってたの」

凛「穂乃果ちゃん?」

花陽「うん。二年生の先輩でね、本人は違うって言うけどリーダーみたいな人かな。凛ちゃんみたいにとっても元気で、明るくて……」

凛「凛みたいに?」

花陽「うん。凛ちゃんも気が合うと思うな……海未ちゃんとも、ことりちゃんとも、希ちゃんとも、会わせてあげたいなあ……あと絵里ちゃんだってとってもいい人なんだよ」



ウミ、コトリ、ノゾミ……生徒会長。たぶん一緒にスクールアイドルをやっている人だろう。

凛の知らない名前がいっぱい出てくる。



凛「かよちんは……頑張ってたんだね」

花陽「そん……」


203: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 19:50:51.99 ID:FG2srwiT

『そんなことないよ』。そう言おうとしたのだろうか。でも口をつぐんで、こう言い直した。



花陽「うん……頑張った。頑張ってる。これからも頑張る」

凛「――――っ」



かよちんって、そんな顔もできたんだ。

紙コップの底に溜まったココアの塊を見つめる。



凛「――あのね、かよちん」

花陽「うん?」

凛「あのね、今日は大事な話あるの」

花陽「……うん」

察したのだろうか。それとも最初からわかっていたのだろうか。

凛が、これからとても大事な話をするということを。

凛「あのね……あのね、凛……」

ちゃんと目を見て話そう。かよちんに向き直る。

そのとき、下で誰か走っているのが見えた。この辺りをランニングコースにしている人だろうか。

なんだか急に恥ずかしくなる。あの人が見えなくなってからにしよう……。


204: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 19:51:27.83 ID:FG2srwiT

花陽「凛ちゃん?」

凛がなにかを目で追っていることに気が付いたかよちんも、そちらを見る。

凛「えと、あのね……かよちん」

花陽「あ!」

凛「な、なに」

花陽「あの人、今何か落とした!」

凛「え……」

丘を駆け下りるかよちんを追う。

花陽「ほらこれ!」

かよちんが拾いあげたのは、小さなこづつみだった。


205: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/17(火) 19:52:03.14 ID:FG2srwiT

花陽「立派に包装されて……きっと大切なものだよ」

凛「うん、あの、かよちん」

花陽「届けなきゃ」

凛「うん……えぇ!?」

花陽「あの人、どこいったかな……私探してくる」

凛「ま、待ってよかよちん……あ、そうだ月を見て! 実はこれから……」

花陽「あの人が気が付いて戻ってくるかもしれないから、凛ちゃんはこれ持ってここにいて」

凛「ちょ、かよちん、もうすぐ……あの」

花陽「行ってくる! ダメそうだったら、すぐに戻ってくるから。ごめんね」

凛「あの……」



さっきの人が入っていった方向にかよちんは走っていった。

ここにいてと言われた以上、凛はここにいるしかなかった。



凛「せめてこれ……かよちんが持って行ったほうがよくないかにゃ……」



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208: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:35:59.60 ID:eRUyj4aE

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Side A

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にこ「あの……」

絵里「え、あ、ええと」

にこ「“絢瀬絵里”さん……?」

絵里「そ、そうです……?」

にこ「久しぶり」

絵里「え……え!?」

にこ「クラス一緒だったよね。その、あなたがニコのこと、す……だったのは知らなかったけど」

絵里「ど、どうしてそれを」

にこ「お手紙に書いてあったニコ」

絵里「そうじゃなくて、私がわかるの?」

にこ「うん。この前アイドルショップで会ったよね。……あのときはごめんなさい。ちょっと必死で、あんな乱暴なのはニコとは違うニコ」

絵里「うん……うん!」


209: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:37:00.11 ID:eRUyj4aE

二時五〇分。

約束の三時より十分はやく、矢澤にこさんが現れた。

私「そんな……まさか、来るなんて……」

ウチは……どうすれば……。

よかった。計画通りや。

違う。来るはずじゃなかった。

後は見守るだけや。頑張れ絵里ち。

違う行かないで絵里ち、ダメ……こんなのやっぱり嫌だよ……。

最低……最高……最低……最高……最低……最低……最低……。

私「あ、あ、あ、あ、あ……ふ、ふふ。ははは」



最高だ。

これでいい。絵里ちと矢澤さんが無事デートを終えるように祈る。

そいで、いい感じなるように祈る。

それが絵里ちの幸せ。それが私の望み。


210: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:37:39.58 ID:eRUyj4aE

絵里「あ、あの、まだ三時前、よね」

にこ「ああ……ファンを待たせるわけにはいかないニコ! ……そう思ったんだけど。絵里ちゃんいつからいたニコ?」

絵里「はぅ、天使……? はっ! いけない。ええ大丈夫。私も今きたところ。本当よ」

にこ「よかったぁ」

絵里「かっわい……! ああダメダメ。来てくれてありがとう。矢澤さん」

にこ「ニコでいいニコ。そう呼んで欲しいな」

絵里「に、に、ににに……こ、に……に」

にこ「“にこにー”? それってすっごくかわいいかも!」

絵里「に、に、にこにー!」

にこ「はい! にっこにっこにー!」

絵里「かっわいいいいいいいい……! かわい……かわいそうね」

にこ「かわいそう?」

絵里「え、ええと、こんな時間に呼び出しちゃって、かわいそうなことしたな……って」

にこ「ああ。いいニコ。むしろベスト。ほら見て。二時五〇分! に、こ。ニコ!」

絵里「キューティいいいいい! きゅ、きゅ……“宮廷”」

にこ「宮廷?」

絵里「そ、そう宮廷よ。あのね、こんな時間に呼び出したのはわけがあるの。見て欲しいものがあって……とりあえず座りましょうか」

にこ「…………宮廷?」


211: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:38:19.88 ID:eRUyj4aE

歩き出す二人。

いつ絵里ちの感情が決壊するか不安だけど、とりあえずいい感じだ。

大丈夫……ウチ、応援できてる。



物陰から二人を見守る……だから、それは完全に予想外だった。



「こんばんは。こんなところで何をしているの?」と、後ろから誰かに声をかけられた。



私「え……?」



「あの二人を見張っている……といったところかしら……私と同じように」



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212: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:38:51.43 ID:eRUyj4aE

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Side B

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く、暗い……こんな時間にこんな場所でひとりで突っ立ってるの……結構辛いにゃ。

かよちんが落とし主を追いかけて、何分経ったかな。月を見上げる。

凛「ああ……もう隠れて……」

「あの、すみません」

凛「え、はい」

「この辺りで、何か拾いませんでしたか」

凛「え?」

「あ、失礼。わたくし“園田海未”と申します。ええと、実は知り合いの落とし物を探していまして……」



“ソノダウミ”……どこかで聞いた名前だにゃ。

とりあえずさっきかよちんが拾ったものを差し出してみる。――知り合いの、と言ったから時間的に違うと思うけど。


213: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:39:38.20 ID:eRUyj4aE

凛「あの、もしかしてこれですか?」

海未「どれどれ……どこかに名前があるはずなんです……あ、ありましたこれです!」

凛「え、本当に!?」

海未「ええ。どうもありがとうございました」

凛「いえ、実は拾ったの凛……私じゃないんです」

海未「というと?」

凛「友達……友達……うん。友達が拾って」

海未「そうでしたか。そのお友達にもお礼を言いたいのですが」

凛「それが、落とした人を探しに言っちゃってて。でも落とした人が戻ってくるかもって私はここに」

海未「そうでしたか……そのお友達は聡明ですね。戻ったら『ありがとうございました』とお伝えください」

凛「はい」

海未「……しかし、こんな時間に何を? いえ、恩人であることには変わらないのですが、夜遊びはほどほどにしたほうがよろしいかと」

凛「ち、違う違う。凛はもう……ちゃんとするんだから……違うんです」


214: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:40:02.06 ID:eRUyj4aE

海未「ではなぜ? 何かお困りのようでしたら……」

凛「星を見ていたんです」

海未「星……ですか」

凛「知らないんですか?」

海未「はい?」

凛「今から珍しい“天体ショー”が見られるんですよ」

海未「なんと! どれどれ、どこですか、何が見られるんですか?」



……本当はそれは、かよちんと二人きりで見るつもりだった。

想い人と見ることができれば、その恋は成就する……とある恋愛相談サイトにそうあったのだ。

けどもう時間だ。仕方がない。

一人で見るよりは……この通りすがりの人のよさそうなお姉さんと見るのも悪くないかもしれない。



凛「月です。“二〇一二年 八月十四日 午前三時二十九分”に……」

海未「いやぁ。こんな時間まで起きているものですね。今日は最高の一日になりそうです」



かよちんとは縁がなかった……のかもしれない。

夜空の見上げるのは月をみるためだろうか。それとも涙が出そうだったからだろうか。



******


215: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:40:36.32 ID:eRUyj4aE

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Side A

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「あの二人を見張っている……といったところかしら……私と同じように」

“私と同じように”……!? 誰だ、この人は……いや、見たことがある。この人は……。

私「あなたは……“綺羅ツバサ”……さん」

ツバサ「私を知っているの? ありがとう。あなたは……」

私「東條希と言います。えっと、あそこにいる人の“友達”で」

ツバサ「どっちの?」

私「はい?」

ツバサ「とても重要なことよ。あなたはどっちのお友達なの?」

私「あの、金髪のほうです」

ツバサ「ああそう……よかった」

“よかった”……? なんなんだ、何か目的があって私に声をかけたのだろうか。


216: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:41:09.08 ID:eRUyj4aE

ツバサ「見たところ、付き合ってまだ間もないって感じね。あの二人」

私「え!?」

ツバサ「ああごめんなさい。付き合うっていうのはそういう意味ではなく」

私「ああ……」

ツバサ「……っふふ! わかりやすいわね。あなた」

私「な、なにがですか」

ツバサ「好きなんでしょ?」

私「は!?」

ツバサ「だってそうじゃない。わざわざ二人の会う時間を調べたの? 集合場所に先回りしてたの? やるじゃない」

私「い、いや、“私”は、その、えっと」

ツバサ「隠すことない。いいと思うわよ。私」

私「…………」

ツバサ「あの金髪の子……みたところとってもいい子そう。本当、いいと思うわ」

私「……ありがとう」


217: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:41:45.09 ID:eRUyj4aE

ツバサ「……と、なると。アレはまずいわよねぇ?」

私「え……」

ツバサ「いいの? 二人きりにさせちゃって。あの二人くっついちゃうかもしれないわよ」

私「いいの。ウチは応援するって決めたから」

ツバサ「なにそれ。本当にそれでいいの?」

私「い……いいやん。ほっといてください」

ツバサ「本当に欲しいものは、待っているだけじゃ手に入らないわよ」

私「…………っ」

ツバサ「ねえ……”本当にいいの“……? ダメよ。絶対ダメ。そう思うでしょ? 思っているんでしょ?」

私「でも、絵里ちは矢澤さんのことが好きで……」

ツバサ「それ、なにか関係あるの?」

私「え……」

ツバサ「あなたが彼女を好きってことと、彼女が誰を好きってことは関係のないことよ」

私「そ、そんな風に……考えたことなかったな……」


218: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:42:49.51 ID:eRUyj4aE

ツバサ「好きなら好きでいいじゃない。私にはわかる。あなたいっつもそうやって自分の気持ちは後回しにして、周りを優先してきたんでしょ」

私「それは……」

ツバサ「いいじゃない……何か一つくらい譲れないものがあっても」

私「それは……それは……でも、許されない」

ツバサ「じゃあ、動機をあげましょう」

私「なんやって? 動機……?」

ツバサ「誰かのためにしか動けないあなたに、動く理由をあげましょう」

私「どういうこと?」

ツバサ「知ってるかもしれないけど、彼女……矢澤にこはアイドルを目指しているの」

私「それは……知ってる」

ツバサ「私は彼女に可能性を感じているわ。アイドルになる宿命にある……そんな気さえしてる。あの子はアイドルになるべきであり、そのためにはもう寄り道している暇なんてないの」

私「というと?」

ツバサ「アイドルは誰かのものになってはいけないのよ」

私「…………!」


219: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:43:16.19 ID:eRUyj4aE

かつて私は……矢澤さんが覚えているかは知らないが、彼女にアイドルになれるようおまじないをかけたことがある。

そんな私が、矢澤さんの夢の障害になるものがわかっていて、それを放置していいのだろうか。

絵里ちと矢澤さんが付き合うなら、矢澤さんの夢は潰える。

付き合わないなら、絵里が傷つく。

どちらに転んでも最低だ。



ツバサ「“矢澤にこ”のために、二人の仲を裂いてくれない?」



甘いキャラメルのように、そのセリフが脳内にこびりつく。

う、ウチは……私は……ウチ……は……。

私「で、でも……」

ツバサ「何を迷っているの。このままじゃ誰も報われない。あなたは彼女を自分のものにしたい……私は矢澤にこをアイドルにしたい……矢澤にこもアイドルになりたい……そして綾瀬絵里はいずれ不幸になる恋をしている……」

私「でも、でも……!」



それは論理や打算で片付けていいものではなく…………。


220: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:44:04.28 ID:eRUyj4aE

『私、にこのことが好きだったの』

あのいつもの公園……いつものベンチ……“ここ”。

ここは私と絵里ちだけの思い出の場所であり、あのベンチに座る絵里ちの隣にいつもいたのは私でしかありえなかった。



絵里ちと矢澤にこ、二人の座るベンチを改めて見据える。

“そこ”に座っていいのは私だけだったんだ…………!



ツバサ「ほら……行っちゃいなさいよ……」




その瞬間、何かが切れた。崩れた。壊れた。

希「絵里ちっ!」



私はベンチに座る二人の前に飛び出していた。



ツバサ「ふふ……そう。それでいい。ありがとう。そしてごめんなさい。“東條希”さん」






221: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:44:44.45 ID:eRUyj4aE





私「絵里ちっ!」

絵里「え、希!?」

にこ「希ちゃん!?」

絵里「ど、どうしたの……あ、もしかして心配してきてくれた? なら大丈夫よ。ほらこの通りにこにーは来てくれたから。でもありがとうね、あなたのおかげで……」

私「その子は絵里ちにはふさわしくないよ!」

絵里「…………え?」

私「その子は、絵里ちが思っているような子じゃない。計算高くて、お腹の中は真っ黒で……」

絵里「も。もう、なにを言っているのよ希。あ、紹介するわねにこにー。私の友達の……」

にこ「……知ってるニコ。“東條希”ちゃんでしょ」

絵里「あ。そうだったわね。希にお手紙を渡してもらったんだった」

にこ「いいえ、それより前から知ってる。あなたと同じように」

絵里「え……そう……そうよね。私だけ特別に覚えていてくれたわけじゃないわよね……」

にこ「……私は彼女のおかげで“転校”を決心できた」

絵里「え……?」

私「そんなの知らん! とにかく絵里ち、この子はダメやって……」

絵里「じゃあ……“希のせいで”にこは転校してしまったの……?」


222: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:45:03.41 ID:eRUyj4aE

私「え……」

絵里「どういうこと……二人は仲がよかったの……? どうして私に黙ってたの……?」

私「違うよ絵里ち、ウチには何のことがわかんないし……」

絵里「ていうか何よ……にこが私にふさわしくないって……応援してくれるって言ったじゃない!」

私「あ……」

絵里「どうしてそんなこと言うの!?」

私「だって! その子は……絵里ちのことなんて見てないよ! 今日来たのだって、きっと絵里ちの気持ちに応えに来たんとは違う!」

絵里「どうして……? どうしてそんなひどいことを言うの……?」



絵里ちは泣いた。

ウチはうろたえた。絵里ちが泣いたからじゃない。そんなものは何度だって見たことある。

でも。ウチが泣かせるのは、初めてだった。


223: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:46:42.32 ID:eRUyj4aE

絵里「どうして希……わからない……わからない……」

にこ「どういうことなの希……私はあなたに免じてここに……だっていうのに」

私「な、だって、絵里ち……」

絵里「うっ……うっ……」

私「だって絵里ち、今の聞いたでしょ……矢澤さんは絵里ちのことなんか……」

絵里「うるさい!」

私「な……あ……?」

絵里「わかってる……そんなのわかってる……気づいてた……」

私「じゃ、じゃあどうして……おかしいよ絵里ち! なんなん!? じゃあこれはなんなの!? ウチはなんだったの!?」

絵里「わからないわよ……私は好きだったから! でもわからないわよ希には……私の気持ちなんて……“誰かを好きになったことなんてないあなたなんかには!”」


224: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:47:38.84 ID:eRUyj4aE

――――。



別に。

なんともない。

誰かに何を言われたって大丈夫。

誰かにそんなことを言われたって、痛くもかゆくもなかった。全然平気。

でも。

他の誰でもないあなたにだけは、そんなことは言われたくなった。





絵里「が…………っ」



気がついたら、絵里ちをぶっていた。


225: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:48:44.90 ID:eRUyj4aE

絵里「…………っつ」

私「はぁ……はぁ……」

にこ「ちょ、ちょっと……」

絵里「…………なによ」

私「あ……ち、ちがう、こっこれは……」



違う……違うよ絵里ち……それは……そんな目は、私を見る目じゃない……。



私「ち、違うの……こんなはずじゃ……」

絵里「最低よ……あなた」

私「…………ア」



頬を抑えて走り去る絵里ちの顔を、私は見ることができなかった。



私「ア、ア、ア、あアああああああああああああああああ…………」



最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低で最低の……。


226: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:51:30.96 ID:eRUyj4aE

にこ「ちょっと、大丈夫しっかり……」

そこまで言って、矢澤にこの動きが止まる。



にこ「な、なにあれ……」



視線の先には、月。始まったのだ。“金星食”が。

終わりだ。これで絵里ちの計画も――何もかもがぶち壊しだ。



そうしてすべてが終わった。



暗いくらい闇に意識が沈んでいく。



こんなことなら――――



******


227: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 07:56:25.64 ID:eRUyj4aE

******

“Side A ”&“Side B”

Bad end

******


228: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:03:56.15 ID:eRUyj4aE

******

Side C

******

八月



穂乃果「おかしい……」

おかしい。最近おかしい。なにがおかしいかって、とにかくなんかおかしい。

穂乃果「おかしいよ。ねえことりちゃん」

ことり「なにがおかしいの?」

穂乃果「なんというか……みんながすごく……というか、穂乃果が蚊帳の外な気がする」

ことり「え?」

穂乃果「なんか……みんななんかやってない? なんていうか、このままではスタッフロールに穂乃果の名前がないんじゃないかという危機感……的な」

ことり「よくわからないんだけど」

穂乃果「いやいやいや、隠したって無駄だよ。何か知ってるでしょことりちゃん」

ことり「わ、わかりません。ことりはなにも知りませーん!」


229: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:04:50.36 ID:eRUyj4aE

穂乃果「ことりちゃん。こんな私でさえも……得意なことが二つある」

ことり「な、なに……?」

穂乃果「“ことりちゃんの嘘を見抜くこと”と……“ことりちゃんのお気に入りの靴にカエルを仕込ませること”さ……」

ことり「ひ、ひいいいいいいい! し、知ってます!」

穂乃果「話してもらおうか……」






230: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:05:32.55 ID:eRUyj4aE





穂乃果「うーんなるほど。事態は思った以上に深刻……だね?」



絵里→にこ→凛→花陽

真姫

と書かれたホワイトボートに“ことり→海未”と書き加えながらうなずく。



ことり「あっいっけなーい。大事なことを書き忘れちゃってたー」

穂乃果「もう、うっかりさんだなあことりちゃんは」

ことり「えへへ……ええええええ!? どうして知ってるの!?」

穂乃果「バレバレだよ」

ことり「いつから!? どうして!?」

穂乃果「いつからだろう……ずっと前から知ってたよ」

ことり「そんな……いつか海未ちゃんにアタックする日に備えてみんなの恋愛相談にのってシミュレーションしてたのに……まさかこんな近くに頼れる友達がいたとは……」


231: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:06:18.66 ID:eRUyj4aE

穂乃果「しかしこれアレだね。真姫ちゃんだけどこにも矢印なくてかわいそうだね。なぜ書いた」

ことり「そうだね。じゃあこうしておこうか」

絵里→にこ→凛→花陽

ことり→海未

真姫←→真姫

穂乃果「なんだこれは」

ことり「ほら真姫ちゃん、自分大好きだから」

穂乃果「なるほど。そういえばこの間『なぜ“同性婚”を認める風潮が広がる中で“同人婚”は許されず自己への強すぎる愛は病気に分類されてしまうのか』って熱く語っていたよ」

ことり「なるほど興味深いね」

穂乃果「真姫ちゃんは自分と結婚したいんだ」

ことり「なるほど業が深いね」

穂乃果「そういう偏見が人類の新しいあり方の模索を滞らせているんだよ」

ことり「自分ひとりで完成しているから他への愛は生まれない……悲しいけどもしかしたら究極の恋愛のあり方かもしれないね」

穂乃果「そう! 未完成ゆえに人は人に恋い焦がれるのだーっ!」

ことり「素敵。でもそのセリフ穂乃果ちゃんちの漫画で読んだことあるよ」

穂乃果「穂乃果にはまだ知りえぬ感情なので書物で想像するほかないのです」


232: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:07:11.63 ID:eRUyj4aE

ことり「じゃあこの話はこの辺で……」

穂乃果「穂乃果もまぜてよ!」

ことり「えー……」

穂乃果「まぜてよーっ! まぜてまぜてまぜてまぜてー!」

ことり「うう……こうなると聞かないのよね……そんなこと言っても、みんながいつどうなるかなんてわからないでしょう?」

穂乃果「ふっふっふ……」

ことり「ま、まさか……」

穂乃果「私の情報によると……“八月十四日”に希ちゃんが噴水のある公園に早朝現れるらしい……こりゃなにかあるね」

ことり「微妙にずれたところの情報つかんでるーっ!?」






233: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:07:56.16 ID:eRUyj4aE





八月 十四日



穂乃果「……というわけで、希ちゃんを家から付けてきたよ!」

ことり「ねむぅ……うーん……」

穂乃果「こんな時間にどうするんだろうね!? わくわくだね!?」

ことり「むにゃ……うーん……」

穂乃果「誰かきたよ!」

ことり「穂乃果ちゃーん……もう帰ろ……」

穂乃果「海未ちゃんだ!」

ことり「ぴぃいいいいい!? どこ! どうして!?」

穂乃果「希ちゃんと海未ちゃん……こんな時間にガールミーツガール……ごくり」

ことり「あ、あわわわわわ、そんな……希ちゃんの次のターゲットって海未ちゃんのことだったの……? 『ツインテやおさげをしてる』って……海未ちゃん希ちゃんの前ではそんなプレイスタイルなの……!?」


234: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:08:19.97 ID:eRUyj4aE

絵里→にこ→凛→花陽

ことり→海未←希

真姫←→真姫

ことり「こういうことなの……!? いやでも希ちゃんはまだ絵里ちゃんに未練があった様子……」



絵里→にこ→凛→花陽

希→海未←ことり

真姫←→真姫

ことり「こうなのぉ!?」

穂乃果「一人でどうしたことりちゃん」

ことり「海未ちゃんは!? 海未ちゃんはどうなの希ちゃんが好きなの両想いなの!?」

穂乃果「知らないよ……あ、動き出した」

ことり「追いかけよう!」



のんびりと歩きだした希ちゃんと海未ちゃんだったけど、何を思ったのかだんだん小走りになり、ついに全速力になり、完全に見失った。


235: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:09:10.08 ID:eRUyj4aE

ことり「な、なんなの……はぁ、はぁ……どこか行っちゃった」

穂乃果「くそう……ま、まさか、 尾行に気づかれてた……!?」

ことり「そんなまさか!」

穂乃果「あの希ちゃんと海未ちゃんだよ。対して私たちは穂乃果とことり……化かされても不思議じゃない」

ことり「たしかに……でもだとしたら尾行を振り払うほどのことって……」

穂乃果「これはひょっとしたらひょっとするかも……」

ことり「あばばばば」

穂乃果「とりあえず最初の場所に戻ろう」



また公園の前のベンチに戻ると、なんと希ちゃんと海未ちゃんが戻っていた。

穂乃果「間違いない……さっきのは穂乃果たちを撒くためだったんだ……!」

ことり「どうしよう穂乃果ちゃん」

穂乃果「なぁに、二人はもうすっかり尾行を撒いたと思い込んでる……好都合だよ」

ことり「なるほど! さすが穂乃果ちゃん」


236: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:09:43.68 ID:eRUyj4aE

穂乃果「ん……なにやらお話ししているね。聞こえる?」

ことり「ううん。遠すぎてわからない」

穂乃果「なんだろう……あっ! 海未ちゃんが走っていく!」

ことり「どうしたんだろう!?」

穂乃果「二手に別れるつもりだ!」

ことり「なぜ!?」

穂乃果「わからないけど……行くんだことりちゃん」

ことり「え……?」

穂乃果「こっちのことは私に任せて。……好きなんでしょ。海未ちゃんのこと」

ことり「穂乃果ちゃん……!」

穂乃果「私のことは気にするな! いけーっ!」

ことり「うん――っ!」



海未ちゃんのことはことりちゃんに任せて、穂乃果は希ちゃんの監視を続ける。

それにしてもさっきから、あんなところで何をやっているんだ希ちゃんは。木陰で一人とかちょっと普通じゃないぞ。



******


237: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:10:42.31 ID:eRUyj4aE

******



穂乃果ちゃんと別れて海未ちゃんを追うことり。

『私のことは気にするな! いけーっ!』

ことり「穂乃果ちゃん……犠牲は無駄にはしないよ! ことり頑張ります!」



幸い海未ちゃんの移動ペースはゆっくり……というよりじっくりと言うべきかも。とにかくカメさんでも尾行できそうな速度だった。

何かを探している……?

やはりそうなのだろうか。海未ちゃんは急に何かを見つけたように走り出した。



ことり「……! 誰かいる」



海未ちゃんの向かう先に人影。いったいどういうことだろう。バレない程度にもう少し近づく。相手は何者……。



ことり「あれは、凛ちゃん……?」


238: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:11:54.43 ID:eRUyj4aE

そうか、八月十四日……凛ちゃんもまた大事な人と“金星食”――金星と地球の軌道上に月が入り込むことで起こる地上視点からの金星の消失――を見るつもりだったのだろう。

例の恋愛サイトの管理人“A.K”も大々的に取り上げていて、“恋愛運UP”などとうたっていた。

凛ちゃんの相手は間違いなく花陽ちゃんのはずだけど……いない?

まさか、まだ来てないの……? もうすぐアレが始まっちゃうのに!

ことり「大変だ……! どこだ花陽ちん……探さなきゃ」

どうして花陽ちゃんじゃなくて海未ちゃんが凛ちゃんと……?

再び二人のほうを見る。

――凛ちゃんが海未ちゃんになにか小づつみを渡していた。

なにいいいいい!? ウワキ? フリン? どういうこと!?

どうして凛ちゃんが海未ちゃんにプレゼント!? 花陽ちんは!? 希ちゃんは!?

どういうことぉ!?



絵里→にこ→ 凛→花陽
↑       ↓↑
希   →   海未←ことり

真姫←→真姫



こうなの!? こういうことなのぉ!?


239: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:12:25.07 ID:eRUyj4aE

ことり「大変だ……大変だ……!」

パニックを起こした私はとりあえず走ることにした。

ことり「はぁ、はぁ、大変だ大変だ……希ちゃんは海未ちゃんと絵里ちゃんで絵里ちゃんはにこちゃんでにこちゃんは凛ちゃんで凛ちゃんは花陽ちゃんと海未ちゃんで海未ちゃんは……うわああああああ」

頭を抱える。慣用句ではなく、本当に抱える。ワケがわからないよ!?

すでにことりブレインでは情報が処理しきれません……とりあえず走る。Lading now……



「――――」

「――――」



はっ! ピタリ。

向こうで何か会話が聞こえた。

顔をそちらに向けてみる。


240: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:13:04.54 ID:eRUyj4aE

花陽「――が――で、絵里ちゃん、“街が一望できる丘”の辺りで何か落とさなかったかな?」

絵里「うっ……うっ……ぐすっ」

花陽「えぇ!? どうして泣いているの絵里ちゃん……?」

絵里「あう、花陽ぉ……」

花陽「大丈夫だよ。大丈夫……よしよし」

ことり「…………」



絵里→にこ→ 凛→花陽→絵里→にこ→凛→花陽…
↑       ↓↑
希   →   海未←ことり

真姫←→真姫



ことり「うわああああああああああああ」



******


241: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:13:36.58 ID:eRUyj4aE

******



ことりちゃんがいない間に、穂乃果サイドではとんでもないことが起こっていた。

実は希ちゃんは絵里ちゃんを監視してて出て行ったら絵里ちゃんをビンタして絵里ちゃん走っていっちゃって……もう一人あの子誰だ?

私「す、すごいもの見ちゃった……とにかくあとでことりちゃんに話してあげよう……」

木の陰からことの顛末を見届けた私は静かにこの場を去ることにした。

私「やばいな……蚊帳の外にいたほうがよかったか……明日からみんなにどう接したものか……。わっ!」

ツバサ「希さんとあの金髪の彼女には悪いけどこれで矢澤にこさんはアイドルに専念してくれるはず……心苦しいけどこれでいいのよ……きゃ!?」



どん! お互いなにかブツブツ言いながら考え事をしていたんだろう。私は前を歩いていた葉っぱだらけの人とばったりどっかりぶつかった。



ツバサ「いたた……ごめんなさい。大丈夫?」

穂乃果「こ、こちらこそごめんな…………」

ツバサ「どうしたの? 頭でもぶつけた? なら大変……」

穂乃果「つ、ツバサさん……!?」



******


242: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:15:36.46 ID:eRUyj4aE

******

All side “A.K”

******



そうしてそれぞれの運命とか想いとか勘違いとかが交錯する中、ついに“金星食”が始まる。

“金星食”……金星(ヴィーナス)を大きな月が覆いつくしていく。

しかし“金星食”の真髄は金星の消失ではない。まったくもって逆なのだ。

それは“金星食”の終わり……つまり月の陰から金星が現れる瞬間にある。

まるで月から生まれ出てくるかのような金星。その神秘的な光景に名前をつけるなら――“ヴィーナスの誕生”。

その瞬間を想い人と迎らえれたのなら、きっと二人は結ばれる……などと恋する乙女たちをこの日に導いたのは確かに私である。

だがしかし……なかなか思い通りにはいかないものね。


243: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:17:24.47 ID:eRUyj4aE

凛「ほら、始まったよ。金星が出てきた」

海未「これは……なんと……こんな明けの明星は生まれて初めて見ました……!」

凛「あーあ……あなたじゃないの」







絵里「うっ、えぐっ……」

花陽「え……!? ねえみて絵里ちゃん、月からなにか出てくる……!」

絵里「うわあああああああん!」

花陽「なんでーっ!?」

絵里「あなたじゃないのぅ……おうおうおう」






244: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:17:59.79 ID:eRUyj4aE





にこ「……なにこれ」

希「“ヴィーナスの誕生”。絵里ちはこれをあなたと一緒に見たかったんよ」

にこ「“ヴィーナスの誕生”……それって……ギリシャ神話の」

希「あ、もしかして覚えてた?」

にこ「あの絵画の……そっか。また“ヴィーナスの誕生”なのね」

希「私には……“月の涙”に見えるかな……」







穂乃果「月が……綺麗ですね」

ツバサ「ええ。あんじゅと英玲奈に言われて外出した矢澤にこさんを付けた甲斐はあったかな……」

穂乃果「わ、私も……」

ツバサ「な、なによその目は……なんか照れるじゃない」

穂乃果「ごめんなさい……どうしたんだろう。私」






245: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 19:21:16.85 ID:eRUyj4aE





――私の苦労はなんだったのかしら。とんだ茶ばんね。まさか“誰一人想い人といられない”とは。



恋愛相談サイト“Makipedia”……彼女たちを応援するために管理人“A.K”としてわざわざ開設したというのに……。

まったく、ここまでチグハグなんじゃこの“赤き(A)賢者(K)”もお手上げだわ――。

そっとパソコンを閉じ、望遠鏡を覗き込む。



真姫「……まったく、みんなして何やってんだか……」



******


246: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 20:32:34.67 ID:eRUyj4aE

******

Side ?

******



私「いい加減、立ちなさいよ」

希「あ……うん」

私「それから……はやく追いかけなさい」

希「え……」

私「絵里、一人で走っていっちゃったでしょ」

希「でも……」

私「謝ってきなさい。それから、私はもうあの子には会わないから」


247: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 20:33:40.18 ID:eRUyj4aE

希「そんな!」

私「いいの。もともとそのつもりで今日は来たの。また“ヴィーナスの誕生”を見て、決心はより固くなった」

希「じゃあ矢澤さんは……」

私「“ニコ”よ」

希「ん……」

私「に、こ」

希「にこちゃ……“にこっち”は……」

私「もう決めた。だからこれから、もう一人会わないといけない人がいるの。さっさと行ってくれないかしら」

希「…………うん。そうやね。謝らないと」



弱弱しかった……けど、あんたなら大丈夫でしょう? “希”を見送った私は“街を一望できる丘”へと向かった。






248: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 20:34:06.05 ID:eRUyj4aE





肌寒い風が吹き抜ける丘。彼女は一人、座り込んでいた。



私「風邪ひくわよ……」

凛「うん……」

私「私がいることに驚かないの?」

凛「うん……まあね」

私「そ」

凛「にこちゃん」

私「んー?」

凛「“ヴィーナスの誕生”、終わっちゃったね」

私「……そうね」

凛「凛、かよちんに何にも言えなかった」

私「そう……」

凛「…………」

私「…………」


249: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 20:34:54.81 ID:eRUyj4aE

凛「にこちゃんに、大事な話があるんだ。凛、決めたことがあるの」

私「そうなの? 実は私もなのよ」

凛「にゃはは。気が合うね」

私「そうね……そうじゃなければよかったのに」

凛「少し前から、覚悟はしてたんだ」

私「せーの、で言いましょうか」

凛「いいね。じゃあ、行くよ」

にこ「せーのっ……」
凛「せーのっ……」



******


250: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 20:35:46.64 ID:eRUyj4aE

******

九月



凛「行ってきまーす!」

ちゃんと高校に通うようになって、どのくらいになるだろう。

つい最近……いや、もうずっとずっと前な気もする。

今日は宿題も全部やったし、授業もサボらないで受けるつもりだ。

これは継続期間にかかわらず誇ってもいい進歩だと思う。

真姫「――なにが進歩よ! ここの計算式、この前と同じ間違いしてる!」

凛「えへへ……」

花陽「まあまあ真姫ちゃん。この前よりたくさん途中式かけてるから……」

真姫「途中式に配点はないのよ! これじゃ一〇〇点なんて取れないのよ!」

凛「まーた一〇〇点……偏った価値観だなぁ……」

真姫「わかってるわよ。テストで一〇〇点取れたからって、なんでも思い通りになんていかないなんて」

凛「おや? おやおや?」

真姫「私がこの世で一番嫌いなのは“偏見”と“差別”よ。心底軽蔑してる」






251: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 20:36:20.52 ID:eRUyj4aE





絵里「――さて。文化祭も近いことだし……気合い入れていきましょうか」

海未「ただし力みすぎないように。怪我の原因になります」

希「あの、絵里ち……」

絵里「な、なに……?」

希「いや、えと、その……一緒にストレッチ、しない……?」

絵里「…………いいわよ」

花陽「じゃあ私たちもやろうか、ことりちゃん」

ことり「希ちゃんが絵里ちゃんと海未ちゃん、海未ちゃんは凛ちゃんのプレゼントが花陽ちんループ……」

花陽「な、なにブツブツ言ってるの……?」

真姫「あ、そうそう。新曲のパート分けができたの」

穂乃果「どれどれ、見せてーっ!」

真姫「なによ上機嫌ね穂乃果」

穂乃果「えー聞いちゃう? ふふふ実はこの前ツバサさんとねー!」

真姫「またなの……いいから早く見てよ」

穂乃果「むぅ……あれ、パートがろく、なな……はち? 八つ? 私たち、七人しかいないけど……」

真姫「そのことなんだけど……」


252: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 20:37:03.88 ID:eRUyj4aE

あの日決めた……あの人と交わした約束。

階段を昇り、屋上への扉を開く。



凛「八人にゃ! 凛を入れて」



ありがとう。きっとこれから、楽しいことがたくさんあると思います。



******


254: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 21:00:59.10 ID:eRUyj4aE

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Epilogue 1/2

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今でも時々、あのゲームセンターに行くことがある。

それはあの頃の自分を忘れないためでもあるし、あの時の気持ちを思い出すためでもある。

……それでもやっぱり、ふと“あの姿”を探してしまう。

いないとわかっているのに、あのきらきら笑顔でダンスゲームをやっているんじゃないかと思ってしまう。

――いた。

一人の少女が、ゲーム機の前に立っていた。

凛「にこちゃん……?」



少女「うぅん……うーん!」



凛「……な、わけないか」


255: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 21:01:21.59 ID:eRUyj4aE

財布とにらめっこしながらうなる少女に、声をかけてみようか迷った――が。

“一回三〇〇円”の文字を見て、ため息をつく。

凛「はぁ……またお金足りないにゃ……」

ポケットに手を突っ込み、踵を返す――。

凛「あ――」

手に固く小さな感触。そして思い出す。

あの――“七月の一〇〇円”が右ポケットに。“八月の二〇〇円”が左ポケットにそれぞれ残っていた。

足して三〇〇円。凛は数学は苦手だけど、算数は得意な方にゃ。

凛「にひっ」

少女「あの……なんですか?」

凛「やらないの?」

少女「それは、その、見てただけです」

凛「ふぅん」

硬貨投入口に三〇〇円を投入する。


256: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 21:01:50.52 ID:eRUyj4aE

凛「どうぞ」

少女「え……?」

凛「凛のおごり!」

少女「でも」

凛「あなたがやらないと、無駄になっちゃうにゃ」

少女「……! ありがとうございますっ!」



“絢瀬亜里沙”と名乗ったその少女と、凛がまた会う約束をしたかどうかは――また別のお話しにゃ。





******


257: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 21:02:40.02 ID:eRUyj4aE

******

Epilogue2/2

******



にこ「あんたも、大変だったわね」

希「にこっち程やないよ」

にこ「どうだか……まあ揃って大馬鹿だったのは間違いないわ」

希「ハハ。二人して好きな人の恋を応援してたんだもんね」

にこ「それよ! ほんと馬鹿よ。希は」

希「いやぁ……ウチは結局、心の底から応援はできなかったし。にこっちみたいに正々堂々戦うなんてつもりじゃなくて」

にこ「それはまあ、仕方ないんじゃない? そんなもんでしょ」

希「そうかな……」

にこ「それよりね、諦めたフリしてんのが馬鹿なの」

希「すみません……」

にこ「謝るなら私じゃないわよ。それで、あれから絵里はどうなの」

希「謝ったよ! 許してもらえた……けど、関係は元には戻らなかったなぁ」

にこ「そ。自業自得ね」

希「うん。でも“関係が変わった”んだって捉えることにした。これまでのままじゃ、どのみち望み薄だったし、意識してもらえるようになればいいなって」

にこ「まあすべてが無意味ではなかったってことね」


258: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 21:03:11.16 ID:eRUyj4aE

希「そうそう。凛ちゃんもメンバーに加わったしね」

にこ「…………」

希「会ってないの?」

にこ「ええ。あの日以来ね。……そう決意したし、約束もした」

希「それでいいの? つらくない?」

にこ「いいのよ。あの子には“かよちん”がついてるから大丈夫でしょ」

希「にこっちは?」

にこ「ふ……あんた誰に言ってるの?」

希「そうでした……デビューシングルすごい売れ行きなんやってね。ウチも買ったよ」

にこ「ありがとニコ! あとでサインしてあ、げ、る」

希「すごいなぁ……でも、凛ちゃんといても同じ結果だったかもよ」

にこ「それはないわね。トップアイドルはそんなぬるいもんじゃない」

希「耳に痛いなぁ……」

にこ「少なくとも後悔はしてないの」

希「ならいいんやけど……ウチも絵里ち狙えるし」

にこ「言うようになったじゃない」


259: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 21:03:42.27 ID:eRUyj4aE

希「もう諦めないよ……そだ、これプレゼント」

にこ「髪ゴムじゃない。どうしたの」

希「あの日絵里ちが渡しそびれてたやつ」

にこ「ああ……なら受け取れない」

希「いや、絵里ちが『渡しそびれちゃったし、希にあげる』なんて言うから」

にこ「余計もらえないわよ」

希「考えてみ? 絵里ちがにこっちのために選んだプレゼントがウチに回ってくる気持ち」

にこ「……やっぱいただいておくわ。結構かわいいし」

希「そそ。もらっとき。似合うと思うよ」

にこ「うん……さて、もうそろそろ行かないと。学校の少ない設備使わせてもらってるんだから徹頭徹尾時間いっぱいいないと失礼でしょう?」

希「そか。頑張ってな。あなたに女神ミュ……」
にこ「ええ久しぶりに話せてよかったわ! みんなには、ニコにあったことは内緒ニコよ? ちゅっ」

希「はいはい。あなたに女神……つっ!」

投げキッスで飛んでくるハートマークを払うように乱暴に手を振る。

今度はいつ会えるかわからないけど、今なら街に出れば彼女の顔を見ない日はないし、つい先ほど巨大スクリーンで踊る“矢澤ニコ”を見てきたばかりだ。

あの最低で最高の八月十四日から、それほど月日は経っていないようにも思うけど、これだけの変化がある程度に時は流れていたらしい。

にこっちだけじゃない。ウチも、みんなも、きっと少しづつ進歩してる。

『想い人と一緒に金星食を見られたら恋愛が成就する』。根も葉もない占いを信じた乙女たちは――恋愛の成就はさておき――そこに至る過程も含めて何かを得られた……なんてね。


260: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 21:04:14.38 ID:eRUyj4aE

にこ「伝票取って」

希「割り勘しよっか」

にこ「あ、いいのいいの。領収書“UTX高校”で万事解決ニコ」

希「いいん? そういうの最近アレよ? ホラますぞ……」

にこ「しーっ、いいのよ!」

希「またしばらく会えないかな」

にこ「そうね。心の中で応援してて。できればグッズも買って。ライブにも来て……あ、そしたら会えるニコ」

希「ちゃっかりしてるなぁ……」

にこ「じゃあ、本当にこれでさよならよ」

希「うん。あなたに女神ミュー……」
にこ「あ、そうだ」

希「あーもうなにぃ!?」

にこ「次会ったら聞こうと思って忘れてたのよ」

希「うんうんなに?」



にこ「やっぱり希って関西弁じゃなかったわよね?」


261: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 21:05:30.66 ID:eRUyj4aE

――――。



希「うん」

最後だというのに至極どうでもいい話だ。

……思い出す。あれは三年生になる前の話。

絵里ちが好きで……でもどうすればいいのかわからなかった“私”は、とある恋愛相談サイト“Makipedia”にこう投稿した。

『好きな人に興味を持ってもらう、簡単で恥ずかしくない方法はありませんか?』

『そんなの簡単よ。相手に“好きな方言”を聞きなさい』



希『ねえねえ絵里ち』

絵里『どうしたの? 希』

希『絵里ちって好きな方言とかあるー?』

絵里『なによ急に』

希『いいじゃん教えてよー』

絵里『そうねぇ……』



――しいて言うなら“関西弁”かな……柔らかめのね。


262: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 21:06:03.49 ID:eRUyj4aE





次の金星食は、二〇六三年 五月三十一日だそうだ。

End


263: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 21:07:16.53 ID:eRUyj4aE

誰も報われない何の意味もない恋のお話し

おしまい。


264: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/05/18(水) 21:08:08.37 ID:EHsKGAjQ

おつでした



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