苗木「違う、消去、再試行。新たな舞園さんを構築せよ」

1: ◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:15:00.15 ID:0kosARAMO

スーパーダンガンロンパ2のネタバレだらけです。
以前書いたSSの続編となっています。

魔人探偵脳噛ネウロという漫画のHAL編のオマージュです。
SSの内容としては漫画を読んでいなくても問題ありません。

よかったら読んでいってください。


前スレ
苗木「タイムマシンで舞園さんを救う」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1387279792/


ダンガンロンパ3 −The End of 希望ヶ峰学園− Blu−ray BOX I 〈イベント優先販売申込券付き初回生産限定版〉 [Blu-ray]

2: ◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:16:20.06 ID:0kosARAMO


Starting PCS Version 2.02...............
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
.........................OK



Loading ALTER_EGO_base..................
........................................
........................................
........................................
.............OK



The program is ready.



ダレヲコウチクシマスカ?

> _


3: ◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:16:46.01 ID:0kosARAMO


-ナエギマコト-


キイィーーン…


翳した手の先で0と1が組み合わさっていく。
データが人の形を成していく。


「……違う」


けれどそれは、彼女には似ても似つかない紛い物。


「消去」


これは解のない計算式。
あるいは、完成することのないパズル。


「再試行」


それでも僕は計算を繰り返す。
何度でも、何度でも――――


キイィーーン…


4: ◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:17:13.74 ID:0kosARAMO


苗木「……誰か来たかな」


この空間へのアクセスを感じた。
その権限を持っているのは僕以外に1人しかいない。


ヴゥン…


七海「苗木くん、お邪魔するよ」

苗木「……一時停止」

七海「突然ごめんね」

苗木「ううん。どうかした?」

七海「ちょっと、話があって」

苗木「明日からの修学旅行のこと?」

七海「うん」

苗木「不安?」

七海「少し、ね……」


5: ◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:17:42.62 ID:0kosARAMO


苗木「大丈夫だよ」

七海「……」

苗木「ウサミがいるでしょ? それに、僕も出来る限りサポートするから」

七海「……」

苗木「七海さんなら大丈夫。僕が保証するよ」

七海「ありがとう。……今のところ、問題はない?」

苗木「順調だよ。新世界プログラムに問題は生じていない」

七海「そっか……」

苗木「心配性だなあ」

七海「苗木くんが気楽すぎるんだよ……。あ、そうだ」

苗木「ん?」

七海「話変わるんだけど……苗木くん、最後にログアウトしたのっていつかな?」

苗木「えっ?」


6: ◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:18:09.04 ID:0kosARAMO


七海「いつからログインし続けてるの?」

苗木「……5日前からだったかな」

七海「……」ジー

苗木「実は12日……」

七海「ログの閲覧権くらいは私にも与えられてるんだよ?」

苗木「20日前からです、ごめんなさい」

七海「もう。起きたときにどれだけ筋肉が衰えてると思って……」

苗木「ごめんごめん、次から気をつけるよ。はは……」

七海「苗木くんが何をやってるかは聞かないけどさ。……無理はしちゃダメだよ? 苗木くんは、人間なんだから……」

苗木「……うん。心配してくれてありがとう」

七海「心配をかけないようにしてくれると嬉しいんだけど」

苗木「努力するよ、あはは……」


7: ◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:18:42.48 ID:0kosARAMO


七海「ねえ、苗木くん」

苗木「なに?」

七海「……寂しくない?」

苗木「え? なんで?」

七海「だって、こんな……何もない空間にずっといて……」

苗木「確かにここは殺風景だけどさ」

七海「苗木くんは、AIである私とは違う。外の世界にも居場所がある」

苗木「……」

七海「霧切さんや十神くんも苗木くんを心配してるよ?」

苗木「そっか……」

七海「ここでやることがあるのは知ってる。けど、外の世界のことも大切にしてほしいな」

苗木「……うん」


8: ◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:19:15.24 ID:0kosARAMO


七海「……苗木くん」

苗木「うん?」

七海「修学旅行が始まったら、しばらく来れなくなると思う」

苗木「そうだよね。七海さんもいないとなると、さすがに寂しくなるなあ」

七海「私、頑張るよ」

苗木「うん。応援してる」

七海「応援だけじゃなくて、サポートもね」

苗木「もちろん。任せてよ!」

七海「……」

苗木「信頼できない?」

七海「ううん。そんなことない……と思うよ?」

苗木「ははっ、何それ」


9: ◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:19:42.55 ID:0kosARAMO


七海「そろそろ戻らなきゃ」

苗木「っと、もうこんな時間か」

七海「うん。ウサミちゃんの準備が完了している頃だね」

苗木「何か問題でも起きてなければね」

七海「もう、不吉なこと言わないでよ……」

苗木「ごめんごめん」

七海「……じゃあ、行くね」

苗木「うん」

七海「またね。……お父さん」

苗木「……行ってらっしゃい、七海さん」



七海(寂しくなる……)

七海(……そんなこと、欠片も思っていないくせに)


10: ◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:20:13.96 ID:0kosARAMO


苗木「……」

苗木「お父さん、ねえ……」


七海千秋はアルターエゴを使って僕が作り出した。
彼女はたまに、僕のことを父と呼ぶ。

アルターエゴ。
かつて僕が希望を見出した人工知能。
しかし天才プログラマー不二咲千尋の制作したそれも、突き詰めればトップダウン型の学習プログラムでしかない。
アルターエゴは、僕の求めていたものとは違った。


苗木「もっと早く気づくべきだったな」

苗木「出来上がったのは……幾百もの失敗作だ……」


アルターエゴの基礎プログラムは、今も骨格として利用させてもらっているけれど。


11: ◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:20:40.59 ID:0kosARAMO


苗木「いや、それより……新世界プログラムに問題か……」

苗木「大きな問題はないよ」

苗木「強いて言うなら、そうだね」

苗木「日向創。いや、カムクライズルが変なプログラムを持ち込んでいたくらいかな」

苗木「何が起きるかな。ふふっ」

苗木「はは……」

苗木「……」

苗木「……ごめんね。七海さん」


新世界プログラムなんて、どうでもいいんだ。
七海さんも、外の世界も、霧切さんや十神くん達も、未来機関もどうでもいい。
『彼女』以外、どうでもいい。


13: ◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:21:06.66 ID:0kosARAMO


苗木「さてと、どこまでやってたかな」

苗木「んー……」

苗木「まあいいや」


どうせこれも紛い物。
彼女には程遠い。


苗木「けど、諦めないよ」

苗木「今度こそ……」

苗木「今度こそ僕は、最後まで諦めない」


どんな手段を使ってでも。
どれだけ時間がかかっても。
たとえ何を犠牲にしたとしても。


苗木「君に……また、会いたいんだ……」


14: ◆3Exch9p5tM 2015/08/30(日) 22:21:33.98 ID:0kosARAMO


苗木「……違う、消去、再試行」



ダレヲコウチクシマスカ?

> _



苗木「……」スッ…



ダレヲコウチクシマスカ?

> SAYAKA_MAIZONO



苗木「新たな舞園さんを、構築せよ――――」



キイィーーン…


22: ◆3Exch9p5tM 2015/08/31(月) 19:18:45.06 ID:LmxTqUpZO


「えーっと、七海千秋です」

「『超高校級のゲーマー』でーす」

「趣味はゲームです」

「オールジャンルでイケまーす」

「……よろしくお願いしまーす」



そして、『修学旅行』が始まった。


23: ◆3Exch9p5tM 2015/08/31(月) 19:24:33.61 ID:LmxTqUpZO


-ナナミチアキ-


青い空と白い雲。
青い海と白い波。


七海「大丈夫?」

日向「大丈夫なわけないだろ……」


ここはジャバウォック島。
南国の楽園として創られた『新世界』。


日向「意味がわからないぞ……いつの間にこんなところに……なんなんだよこれ……!?」


『彼ら』のために用意された、電脳空間内の更生プログラム。


24: ◆3Exch9p5tM 2015/08/31(月) 19:25:33.56 ID:LmxTqUpZO


七海「だいぶ参ってるね、日向くん」

日向「そう言うお前は余裕そうだよな……」

七海「そう? これでも結構戸惑ってるんだけどなあ」

日向「まったくそうには見えないけど」

七海「まあ、焦ったってしょうがないよ。焦ったからって帰れるわけじゃないし」

日向「ああ、くそっ……いつまでここにいなきゃならないんだ……」

七海「頑張って『希望のカケラ』、集めよう? みんなで協力すれば大丈夫だよ」

日向「ウサミとかいう奴のこと、信じるのか?」

七海「他にできることもないしね」

日向「はあ……それしかないのか……」


25: ◆3Exch9p5tM 2015/08/31(月) 19:25:59.97 ID:LmxTqUpZO


七海「ていうか、アイテム集めってゲームみたいで面白そうだよね」

日向「結局ゲームかよ!?」

七海「む……なんか馬鹿にしてる?」

日向「いや、『超高校級のゲーマー』である七海らしいよ……はは……」


みんなで協力すれば大丈夫。
彼らも元々は才気溢れる『希望』だったのだから。
きっと更生することができる。
私はそんな彼らをサポートしよう。

けれど、もし。

もしも私に、心なんていう物があったとして。
私はきっと、心の何処かでわかっていたのかもしれない。


――――

――


26: ◆3Exch9p5tM 2015/08/31(月) 19:26:27.68 ID:LmxTqUpZO


「皆さんには、コロシアイをしていただきまーす! うぷぷぷぷ!」


ああ、やっぱり。
『絶望』は彼らを逃がさない。
『希望』を取り戻すことを許さない。


「殺し、合い……?」

「ど、どういうことだよ……!?」

「アンタふざけてんの!?」

「あわわわ、あちしのステッキが……」


このままじゃ修学旅行は、新世界プログラムは、殺し合いの舞台になる。
あの希望ヶ峰学園と同じように。

目の前にはいつか資料で見た白と黒。


七海「あれが……モノクマ……」


私達の、敵だ。


27: ◆3Exch9p5tM 2015/08/31(月) 19:26:58.93 ID:LmxTqUpZO


七海「……」

モノクマ「あれあれ? 君、落ち着いてるねえ」

七海「しないよ」

モノクマ「ん?」

七海「私達は、殺し合いなんてしない。絶望には屈さない」

日向「そ、そうだ! 誰が殺し合いなんてするか!」

モノクマ「ふぅん……」ニタニタ

日向「何だよ……」

モノクマ「そう言って殺し合いをしていた人達がいたなあってね。いやあ、懐かしい懐かしい」

十神「なに? 今までにもこんなことをしたことがあるのか?」


28: ◆3Exch9p5tM 2015/08/31(月) 19:27:25.92 ID:LmxTqUpZO


モノクマ「おっと、喋りすぎたかな。というわけで、君らも彼らみたいに頑張ってね。じゃ、さいなら~」

十神「ちっ、消えたか……」

七海「……」


大丈夫。
ウサミちゃんの権限が乗っ取られたみたいだけど、本当の管理者である彼の権限があればどうとでもなる。
彼なら……きっと、なんとかしてくれる。


七海「そうだよね……苗木くん……」


なのに。


七海「なんだろう……」

七海「この、嫌な予感……」ギュ…


29: ◆3Exch9p5tM 2015/08/31(月) 19:27:53.88 ID:LmxTqUpZO


-エノシマジュンコ-


モノクマ「あれ?」

モノクマ「アイツの権限でもアクセスできないエリアがある?」

モノクマ「テーマパークのお城と、遺跡と……」

モノクマ「なんだこれ? 未実装エリアかな?」

モノクマ「もう、使えないなあ」

モノクマ「絶望的に使えない妹だよ、ウサミってば」

モノクマ「まあいいや」

モノクマ「うぷぷ。早く会いたいなあ」

モノクマ「君はどれくらい素敵な『絶望』に育っているんだろうねえ」

モノクマ「ねえ、苗木くん! だーひゃっひゃっひゃっ!」


30: ◆3Exch9p5tM 2015/08/31(月) 19:28:35.62 ID:LmxTqUpZO


-キリギリキョウコ-


霧切「苗木くんに連絡は?」

十神「通信不能だ」

霧切「まさか苗木くんの管理者権限まで奪われたの?」

十神「いや、ログを見る限りウサミだけだな」

霧切「じゃあ、どうして……」

十神「ふん。今のあいつの考えていることなどわかるものか。お前だって気づいているんだろう?」

霧切「……」


未来機関に保護され、希望ヶ峰学園での記憶を取り戻した今ならわかる。
彼はあの殺し合いを境に変わってしまった。
以前と同じように振舞ってはいるが、どこかが決定的に違う。


霧切「あなたは何をしようとしているの……苗木くん……」


31: ◆3Exch9p5tM 2015/08/31(月) 19:29:03.31 ID:LmxTqUpZO


-ナエギマコト-


苗木「へえ……」

苗木「まさか、本当にまたコロシアイを起こすつもりだったとはね」

苗木「目的は……僕たちへの復讐と、77期生の体の乗っ取りかな?」

苗木「お前の思い通りにはさせないよ」

苗木「僕は、まだお前を絶望させ足りないんだ」

苗木「そうだね。あと891回は絶望してもらわないと……ふふ……」

苗木「……なんてね」


そんなことはどうでもいい。
江ノ島盾子なんてどうでもいい。
僕の目的は、たった1つ。


苗木「利用させて貰うよ。このコロシアイ」


キイィーーン…


37: ◆3Exch9p5tM 2015/09/03(木) 21:03:56.56 ID:fckSFxD2O


-コマエダナギト-


狛枝「殺し合いか……」

狛枝「いきなり修学旅行なんてものに連れて来られたかと思えば殺し合えだなんて、絶望的だね」

狛枝「けど」

狛枝「この絶望を乗り越えることで、皆の希望が輝く」

狛枝「そう考えると楽しみだよ」

狛枝「希望は前に進むんだ。ははっ」

狛枝「だから……」

狛枝「僕は、誰の踏み台になろうかなあ……あはは……!」


38: ◆3Exch9p5tM 2015/09/03(木) 21:04:30.20 ID:fckSFxD2O


-ナナミチアキ-


『死体が発見されました!』

『一定の捜査時間の後、学級裁判を始めます!』


七海「……」


十神くんが死んだ。
いや、殺された。


七海(どうして……どうして苗木くんは止めてくれなかったの……?)

七海(……ううん。そんなのは後だ)

七海(皆が生き残れるよう、犯人を見つけないと)


モノクマ「……」


39: ◆3Exch9p5tM 2015/09/03(木) 21:05:05.09 ID:fckSFxD2O


皆にアリバイを聞いた。
そうして皆を疑った。

凶器を探した。
そうして容疑者を絞った。

トリックを解き明かした。
そうして仲間を追い詰めた。


日向「犯人は……お前だ、花村……!」

花村「ち、違う……違うんだ……ねえ、助けてよ狛枝くん!!」

狛枝「はぁ……」

花村「違う違う違う、だっ、だって、僕がやらなきゃ皆が狛枝くんに! だから、僕は仕方なく!!」


七海(花村くん……ごめん……)


40: ◆3Exch9p5tM 2015/09/03(木) 21:05:31.32 ID:fckSFxD2O


花村「嫌だ、死にたくない、い、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」

モノクマ「では! 超高校級の料理人である花村くんのために!!」

花村「た、助けっ、誰か助けてよ!! 仲間だろ!!?」

モノクマ「スペシャルな!! おしおきを用意させていただきましたー!!!」

花村「嫌だ……こんな、し、死にたくな……お母ちゃああああああんッ!!!!」


そうして、花村くんは処刑された。
絆を育むはずだった仲間を、私達は処刑台に送った。

十神くんと花村くん。
私は、彼らを救えなかった。


モノクマ「……へえ」


――――

――


41: ◆3Exch9p5tM 2015/09/03(木) 21:05:57.31 ID:fckSFxD2O


ヴゥン…


七海「苗木くん!!」

苗木「やあ、七海さん。どうしたの? しばらく来ないんじゃなかった?」

七海「どういうこと!?」

苗木「何が?」

七海「どうして殺し合いを止めてくれなかったの!?」

苗木「ああ、そのことか。まあ落ち着きなよ。ね?」


苗木くんはいつも通りだった。
ジャバウォック島をモノクマに支配されて、十神くんと花村くんが死んだのに。

どうして?
電脳空間とは言え人が死んだのに、どうしていつも通り振る舞えるの?
自分が苦しめられた殺し合いがまた起きたのに、どうしていつも通り笑えるの?


42: ◆3Exch9p5tM 2015/09/03(木) 21:06:29.34 ID:fckSFxD2O


七海「そもそも、苗木くんがいたならあんなウイルスが侵入できるわけないよね……」

苗木「そうだね」

七海「じゃあ、どうして!」

苗木「……僕にはさ、ずっと前から決めていることがあるんだ」

七海「決めていること……?」

苗木「うん。僕は、コロシアイには干渉しない」

七海「それ、どういう……」

苗木「僕はこの空間にはいないはずだったと思うんだ。本来なら、ここにいる目的なんてなかった」

苗木(本来の『苗木誠』なら、ね……)


七海「何を言ってるの? 君はこのジャバウォック島の管理者で……」

苗木「けど、新世界プログラムを作ったのは僕じゃない。僕がここの管理者にならなくても更生プログラムは実行されただろうし、コロシアイも起きたはすだ」

七海「え……?」


43: ◆3Exch9p5tM 2015/09/03(木) 21:06:55.85 ID:fckSFxD2O


苗木「だから、コロシアイには干渉しない。そうするのが公平でしょ?」

七海「公平って……!」


苗木くんの言っていることがわからない。
私の思考回路じゃその理論を理解できない。


苗木「それにさ……僕がこの電脳空間にいる目的、知ってる?」

七海「……」


彼は何かを計算している。
私が知っているのはそれだけだった。


苗木「解き明かしたい式があるんだ」

苗木「完成させたいパズルがあるんだ」

苗木「そのために、僕はこの0と1の世界で計算を繰り返す」


44: ◆3Exch9p5tM 2015/09/03(木) 21:07:22.04 ID:fckSFxD2O


苗木「けどね、それにはこの新世界プログラムを走らせているスーパーコンピュータでも足りないんだ」

七海「……?」

苗木「人間の脳ってすごいんだよ? 理論的にはね、このコンピュータが1時間かけて行う計算を、たった数秒で終わらせてしまえるスペックがある」

七海「それが一体何の……」


トントン、とこめかみを叩きながら彼は言う。


苗木「七海さん、気づかなかったでしょ? 77期生の彼らを保護して、修学旅行の準備をしている間さ、脳の一部を借りて計算してたんだ」

七海「っ……!?」

苗木「『超高校級』と呼ばれる彼らの脳は、だいぶ役に立ったよ。ふふっ」


つまりこの更生プログラムは、ジャバウォック島は、人体実験の舞台でもあったのだと。


45: ◆3Exch9p5tM 2015/09/03(木) 21:08:19.71 ID:fckSFxD2O


七海「……そんなの、許されることじゃないよ?」

苗木「誰も気づかないから問題ないさ。まあ、それもコロシアイが起きる前の話だよ」

七海「え……?」

苗木「この世界で死亡した十神くんと花村くん。その体、というか脳はまだ働いているんだよね」

七海「まさか……!」

苗木「彼らの『超高校級』の脳は、100%、僕の計算に使用させて貰っているよ」


違う……
こんなの、私の知っている苗木くんじゃない……


苗木「これが僕さ」


ああ、それとも……


苗木「何を犠牲にしてでも前に進む。これが、僕の『希望』だよ」


これこそが本当の苗木くんなのだろうか。


46: ◆3Exch9p5tM 2015/09/03(木) 21:08:48.27 ID:fckSFxD2O


『なるほどねえ』


七海「……!」


『君もこっちの世界にいたわけだ』


七海「あ、うう……っ!」ジジ…!

苗木「……」


『公平……。それはやっぱり、彼女を救えなかったからかな?』


七海「……っ……!」フラ…

苗木「ウサミにはアクセス権を与えていなかったけど……そうか、七海さんのプログラムの中に潜り込んでいれば関係ないのか」


『うぷぷぷぷ。そういうこと!』


ヴゥン…


モノクマ「やあ。久しぶりだね、苗木くん!」


51: ◆3Exch9p5tM 2015/09/06(日) 19:00:36.24 ID:rV4Z7l4cO


-ナエギマコト-


苗木「モノクマ……いや、江ノ島さんのアルターエゴかな?」

モノクマ「おっ、よくわかったねえ。けどこの愛くるしい姿のときはモノクマって呼んでよ。ボクってばプリチーだから!」

苗木「七海さんは……エラーで止まってるのか……」

モノクマ「無視ですか、しょぼーん……ま、無理して潜り込んでたからね。エラーも起きるさ」

苗木「で? 何の用?」

モノクマ「いやあ、この島の本当の管理者に挨拶しておこうと思ってね」

苗木「ふうん」

モノクマ「と、思ってたんだけどね」

苗木「……」

モノクマ「アイツラの脳を計算に使ってる? まったく、だからアバター死亡時に脳の使用権がボクに移らないわけだよ」

苗木「なるほど。それで僕の存在がバレたんだ」


52: ◆3Exch9p5tM 2015/09/06(日) 19:01:02.17 ID:rV4Z7l4cO


モノクマ「困るんだよねえ……この世界で死亡した彼らの脳、というか体は、ボクが貰おうと思ってたんだけど?」

苗木「それは残念だったね。諦めてよ」

モノクマ「……まあ今はいいや。ところでさ」

苗木「何?」

モノクマ「君、いい感じに『絶望』してるよねえ」ニヤニヤ

苗木「『絶望』? 僕が? ははっ、これは『希望』だよ」

モノクマ「君にとってだけはね」

苗木「他の人なんてどうでもいいよ」

モノクマ「ああ、そうだ。君はそうなったんだったね。うぷぷぷ……」

苗木「……なんだよ」

モノクマ「べっつにー?」

苗木「ふん……」


53: ◆3Exch9p5tM 2015/09/06(日) 19:01:36.33 ID:rV4Z7l4cO


モノクマ「で、上手くいきそうなの?」

苗木「……」

モノクマ「892回繰り返してもダメだった君が、目的を達成できるのかなあ?」


ああ、憎たらしい。
まるでモノクマを通して江ノ島盾子の嘲笑が見えるようだ。


モノクマ「あの時、キミは何年繰り返してたんだっけ?あと何年挑戦するのかな。ねえ?」

苗木「うるさい……」

モノクマ「どうせまた諦める。どうせまた失敗する。どうせまた、キミは『絶望』するよ」

苗木「うるさい……!」ギリ…

モノクマ「うぷぷ……」ニタニタ


54: ◆3Exch9p5tM 2015/09/06(日) 19:02:06.94 ID:rV4Z7l4cO


モノクマ「不二咲くんのアルターエゴを見て、これだって思った?」

苗木「黙れ……」

モノクマ「これを使えばまた彼女に会えると思った?」

苗木「黙れ、黙れ……」

モノクマ「甘いよ! ボクの好物のハチミツに漬けたドラ焼きよりも激甘だよ!」

苗木「黙れ……!」

モノクマ「あれはそのままじゃ単なる学習プログラムなんだから。模倣はできても、そのものは創り出せない」

苗木「……」

モノクマ「まあ、ボクみたいにアルターエゴをベースに人格を丸ごとコピーすればその限りじゃないけど……そのコピーするべき人格が死んでたら無理だよねえ」

苗木「っ……!」

モノクマ「残念でした! うぷぷぷぷ!」


55: ◆3Exch9p5tM 2015/09/06(日) 19:02:33.96 ID:rV4Z7l4cO


苗木「……もういい。出て行けよ」

モノクマ「はいはーい。また会おうね!」

苗木「誰がお前なんかと……」

モノクマ「なんたってボクは、キミの苦しみを知る唯一の存在だからね」

苗木「……」

モノクマ「誰もキミの過去を知らない。誰もキミの892回もの『絶望』を知らない」

苗木「……」

モノクマ「キミの理解者はボクしかいないんだからね。あっひゃっひゃっひゃ!!」

苗木「……出てけって言っただろ」スッ

モノクマ「うぷぷぷ――――」ジジ…


シュウン…


56: ◆3Exch9p5tM 2015/09/06(日) 19:03:30.68 ID:rV4Z7l4cO


苗木「……」

苗木「誰も、知らない……」


あの頃、タイムマシンを1度使う毎におよそ155時間を遡っていた。
それを繰り返した。
ただひたすら、舞園さんを救おうと、892回繰り返した。


苗木「15年と……9ヶ月……」


それが、僕が繰り返した時間。
舞園さんを救えなかった無駄な時間。


ズグ…


残ったのは、左腕の『892』という数字と、たまにやってくる鈍い痛みだけ。
それ以外には、何もない。


57: ◆3Exch9p5tM 2015/09/06(日) 19:06:48.73 ID:rV4Z7l4cO


苗木「くそっ……」


モノクマの言っていたことが頭から離れない。
あと何年、計算をすればいい。
あと何年、試行と削除を繰り返せばいい。


苗木「僕、は……」


何年か、それとも何十年か先。
僕はそれまで、前に、未来に向かって進み続けることができるのか。
そもそも、本当に舞園さんを作り出すことができるのか。


苗木「再施行、再施行、再施行……!」


考えるな。振り返るな。


苗木「新たな舞園さんを――――!!」


今はただ、計算を……。


――――

――


58: ◆3Exch9p5tM 2015/09/06(日) 19:07:38.37 ID:rV4Z7l4cO


-ナナミチアキ-


七海「……」

七海「……」

七海「ん……」モゾ…

七海「……あれ?」

七海「私の……コテージ……?」

七海「確か、苗木くんのところに……」


『彼らの『超高校級』の脳は、100%、僕の計算に使用させて貰っているよ』


七海「あ、あ……!」


59: ◆3Exch9p5tM 2015/09/06(日) 19:10:00.16 ID:rV4Z7l4cO


そうだ。
殺し合いを、そして苗木くんを止めないと。


七海「っ……!」

七海「ま、まさか……」

七海「苗木くんの空間へのアクセス権が……無くなってる……?」


そんな……それじゃあ……。
誰もモノクマを……苗木くんを止められない……。


七海「……違う」

七海「止めるんだ」

七海「私が、殺し合いを止めるんだ……!」


60: ◆3Exch9p5tM 2015/09/06(日) 19:11:11.85 ID:rV4Z7l4cO

苗木とモノクマに翻弄されながら、七海さんが皆を救おうと頑張る話です。


61: ◆3Exch9p5tM 2015/09/10(木) 19:00:57.41 ID:msn7rRRoO


-ナナミチアキ-


モノミ「うっうっ……十神くんと花村くんが……」

七海「ウサミちゃん……」

モノミ「あちしがあの時油断しなければ……ステッキさえ壊されなければ……」

七海「ウサミちゃんのせいじゃないよ。悪いのは、モノクマだよ」

モノミ「千秋ちゃん……」


七海(そして、殺し合いを止めるつもりのない苗木くんも……)


ウサミちゃんは、苗木くんがウサミちゃんより上位の管理者権限を持っていることを知らない。
苗木くんが新世界プログラムの中にいることも知らない。


62: ◆3Exch9p5tM 2015/09/10(木) 19:01:23.69 ID:msn7rRRoO


七海「私が止める」

モノミ「千秋ちゃん……?」

七海「皆に殺し合いなんてさせないよ」

モノミ「で、でも……」

七海「一緒に頑張ろう、ウサミちゃん」

モノミ「……はい!」

七海「ふふ」

モノミ「あ、けど他の人がいるときはモノミって呼んでくだしゃいね?」

七海「ウサミちゃんもね。私のことは七海って呼ぶんだよ?」

モノミ「はわっ! そ、そうでちた!」


――――

――


63: ◆3Exch9p5tM 2015/09/10(木) 19:01:51.45 ID:msn7rRRoO


モノクマ「で、これがボクから皆さんへの新しい動機のプレゼントなのです!」


そう言って現れたのは黒い筐体。
モニターと、操作盤のような物が付いている。


日向「これは……」

終里「ゲーム機か?」

辺古山「ゲーム機だな」

澪田「は? なんでゲームが動機になるんすか?」

田中「ククク……所詮は小さき者の浅知恵よ……」

左右田「つーかよ、これが動機になるってんならプレイしなけりゃいいだけじゃね?」

弍大「おお、弩えれぇ冴えてるのう!」

小泉「しょうもない動機でよかったぁ……」


64: ◆3Exch9p5tM 2015/09/10(木) 19:02:51.47 ID:msn7rRRoO


モノクマ「いいのかな? 君たちの内の誰かがこっそりプレイするかもよ?」

日向「そ、そんなこと……!」

モノクマ「気が向いたらプレイしてよ。それじゃあね、うぷぷぷぷぅ~」

七海「……」

日向「くそっ、消えやがった……なんにせよ、このゲームに手を出すのは危険だな」

ソニア「ええ……様子を見た方が良さそうです……」

西園寺「ねえねえ。様子見してる間に誰かさんが隠れてゲームしちゃったらどうすんのー?」チラッ

九頭龍「ああ!? 俺のことを言ってんのか!?」ビキビキ

罪木「け、喧嘩はやめ……あっ、いえ、何でもないですごめんなさぁーい!」

七海「……関係ないよ」

日向「七海?」

七海「動機なんて関係ないよ。殺し合いなんて、もうさせない」


殺し合いなんて……私が許さない……!


65: ◆3Exch9p5tM 2015/09/10(木) 19:03:25.18 ID:msn7rRRoO


-エノシマジュンコ-


モノクマ「さてと」


ヴゥン…


モノクマ「気分はどうだい、狛枝くん?」

狛枝「モノクマ……」

モノクマ「うわあ、男が縛られてるとこなんて見たくなかったよ。絶望的に気持ち悪いね」

狛枝「はは。なら解いてくれてもいいんだけど」

モノクマ「それはお断りしておくよ。僕がここに来たことは知られたくないからね」

狛枝「運悪く、今、誰かが来たらどうするんだい?」

モノクマ「そうならないよう、他の皆は動機をダシに集まってもらってるよ。しばらくは誰も来ないさ。うぷぷ、ボクって天才的!」


66: ◆3Exch9p5tM 2015/09/10(木) 19:07:38.05 ID:msn7rRRoO


狛枝「へえ……動機ね……」

モノクマ「ま、それは後で誰かに聞いてよ。今日はキミに話があって来たんだ」

狛枝「なに?」

モノクマ「キミはさ……『超高校級の希望』って、何だと思う?」

狛枝「『超高校級の希望』?」

モノクマ「そう」

狛枝「……それは才能さ。僕みたいな凡人じゃとても手の届かないような圧倒的な才能の輝き。まさに人類の希望! それが『超高校級の希望』だよ!」

モノクマ「なるほどね。確かにそういう見方もある。事実、希望ヶ峰学園もそう考えていた」

狛枝「……?」

モノクマ「けどね、今『超高校級の希望』と呼ばれている彼は違う」

狛枝「彼?」


67: ◆3Exch9p5tM 2015/09/10(木) 19:08:32.00 ID:msn7rRRoO


モノクマ「絶望の中でも希望を見失わない。それどころか、絶望しかけたヤツらを無理やり引っ張り上げて希望で塗りつぶすような。そう、希望の病原菌みたいなヤツがいるんだよ」

狛枝「ふうん……是非とも会ってみたいね」

モノクマ「けど、もしもその彼が『絶望』に堕ちていたら?」

狛枝「え?」

モノクマ「もしもソイツが、『希望』を演じた『絶望』で、キミたちをこの島に閉じ込めた張本人だったとしたら?」

狛枝「へえ……」

モノクマ「キミは、そんなヤツを許せるかな?」

狛枝「……」

モノクマ「アイツにはボクも手が出せない。もちろん他の生徒もね。キミの『幸運』だけが、あの『絶望』を打ち破る『希望』なんだよ!」

狛枝「……その人の名前は?」


頑張って彼を追い詰めてくれることを期待しているよ。
たとえば、『幸運』にもこのプログラムにエラーが発生したりしてね。


モノクマ「『苗木誠』だよ……うぷぷ……!」


71: ◆3Exch9p5tM 2015/09/13(日) 18:24:54.56 ID:T+1QhY/mO


-ナナミチアキ-


七海「……」

七海「私は、殺し合いを止めなきゃいけない」

七海「だから……」

七海「だから、みんなを疑うんだ」

七海「信じるために、みんなを疑わなきゃ」

七海「そのためには……そうだよね。動機を把握しないと」

七海「……皮肉だよね」

七海「みんなとの絆を育むために超高校級のゲーマーとして設定された私が、みんなを疑うためにゲームをするなんて……」


ピコーン

カタカタ…


72: ◆3Exch9p5tM 2015/09/13(日) 18:25:26.86 ID:T+1QhY/mO


――――

――


七海「これが……今回の動機……」

七海「希望ヶ峰学園で殺人事件が起きていたっていうこと?」

七海「それも、私も知っている人達が関わってるような……」

七海「……」

七海「うん。こういう時こそ、私の権限を使わないと」

七海「『現在地表示』……。対象……九頭龍、小泉、西園寺、罪木、澪田」ピッ

七海「……!」

七海「ビーチハウスに、九頭龍くんに小泉さん、西園寺さんが集まって……それに辺古山さんも……!?」

七海「急がないと……!」ダッ


73: ◆3Exch9p5tM 2015/09/13(日) 18:26:03.06 ID:T+1QhY/mO


ザッ…


狛枝「……ふうん」

狛枝「現在地の表示ね……」

狛枝「この電子生徒手帳でやってたみたいだけど……うん、僕のにはそんな機能ないや」

狛枝「つまり、七海さんは希望を騙る絶望の手先……?」

狛枝「モノクマの言うことを全部信じるわけではないけど……」

狛枝「まあ、今は七海さんが僕らとは違う立場だってわかれば十分か」

狛枝「それにしても危なかったなあ。僕がここにいたのに気づかれる可能性もあったわけだ」

狛枝「ビーチハウスだっけ? 人が集まっててそっちに目がいくなんて幸運だね、ははっ」


74: ◆3Exch9p5tM 2015/09/13(日) 18:26:32.22 ID:T+1QhY/mO


-コイズミマヒル-


小泉「アンタにそんな権利はないはずだよ!」


ああ、どうしてこんなことになっちゃったんだっけ。


小泉「他人の罪を裁くなんて……!」


もう、わかんない。何もわかんないよ。
あたし……あたし達、九頭龍の妹を殺しちゃったのかな……?


小泉「復讐なんて、間違ってるよ……!!」


――――違う。
あたしがあたしの罪を認めたくないだけだ。


75: ◆3Exch9p5tM 2015/09/13(日) 18:28:00.77 ID:T+1QhY/mO


九頭龍「うるせえええええ!!!」

辺古山「坊ちゃん!!」


九頭龍があたしに掴みかかろうとしたその時、ペコちゃんが割って入った。
その手に持った金属バットが振り下ろされる。


小泉(ああ、そっか……)


時間の流れが遅くなっていく。
走馬灯、っていうのかな。
今までのことが頭に浮かんでは消える。

思い出した。
あたしは確かに、九頭龍の妹の死体を写真に撮ったんだ。


小泉(あたしもあんな風に、ここで死ぬんだ……)


頭を鈍器で、惨たらしく殴られて――――



「オブジェクト生成! 『木テーブル』!」

ヴヴ……ガァンッ!!



小泉「え……?」


76: ◆3Exch9p5tM 2015/09/13(日) 18:28:27.29 ID:T+1QhY/mO


-ナナミチアキ-


七海「はあ、はあ……間に合った……!」

辺古山「七海……!」

小泉「千秋……ちゃん……?」

七海「駄目、だよ……こんな……殺し合いなんて……!」

九頭龍「け、けど、そいつは俺の妹を……!!」

小泉「……」

七海「ここから出たら!!」

九頭龍「ああ!?」

七海「希望のカケラを集めて、ここから出たら……ちゃんと調べて、全部明らかにしよう?」

九頭龍「……」

小泉「っ……」


77: ◆3Exch9p5tM 2015/09/13(日) 18:29:51.84 ID:T+1QhY/mO


七海「だから、お願いだよ……私は……みんなに死んでほしくない……!」


そんなの、間違ってる。
モノクマも、苗木くんも、未来機関も、みんな間違ってる……!


九頭龍「……ちっ。帰るぞ、ペコ」

辺古山「坊ちゃん?」

九頭龍「頭に血ぃ昇ってた。……おい、小泉」

小泉「な、なに……」ビクッ

九頭龍「てめえを許したわけじゃねえ。てめえだけじゃなくて、関係した奴ら全員……全員だ……! ここから出たら、忘れんなよ……!!」ギリ…

小泉「……うん」

九頭龍「けっ……」


78: ◆3Exch9p5tM 2015/09/13(日) 18:30:17.75 ID:T+1QhY/mO


九頭龍「ああ、おい。七海」

七海「なに?」

九頭龍「さっきの……あれは何だ」

七海「……外にあったテーブルを投げたんだよ」

辺古山「私には、テーブルが急に現れたように見えたぞ」

七海「……」

九頭龍「……おい。お前は、俺らの敵か?」

七海「それは違うよ。信じて」


しっかりと九頭龍君の目を見て答える。
私達の敵は、モノクマだ。
そして……もしかしたら、彼も。


九頭龍「ふん……行くぞ」ザッ…

辺古山「……はい」


79: ◆3Exch9p5tM 2015/09/13(日) 18:30:44.23 ID:T+1QhY/mO


小泉「た、助かっ、た……?」

七海「そうみたいだね」

小泉「は、はは……死ぬかと思ったよ……」

七海「……」

小泉「ねえ、千秋ちゃん……」

七海「なに?」

小泉「えっと、その……」

七海「……」

小泉「……助けに来てくれて、ありがとう……」


小泉さんは何も聞かないでくれた。
どうして私がここにいるのかとか、突然現れたテーブルとか。
何も、聞かないでくれた。


80: ◆3Exch9p5tM 2015/09/13(日) 18:31:23.02 ID:T+1QhY/mO


七海「そろそろ行こっか」

小泉「うん……痛っ……!」


バットがテーブルに振り下ろされて、砕けた破片が当たったのだろう。
小泉さんの左腕からは血が流れていた。


七海「大丈夫……?」

小泉「大丈夫大丈夫!……あっ」

七海「どうかした?」

小泉「こ、腰が抜けちゃって……あはは……」

七海「はい。掴まって」スッ

小泉「ん、ありがと」ギュ


「んー……おねぇ……?」


七海「え?」

小泉「へっ?」

西園寺「あー、やっぱり小泉おねぇだ……」ウトウト


81: ◆3Exch9p5tM 2015/09/13(日) 18:31:56.15 ID:T+1QhY/mO


小泉「日寄子ちゃん!」

西園寺「って、おねぇ怪我してるよ! 大丈夫!? 早くゲロブタに診てもらわなきゃ!」ダッ

小泉「わわっ!」

西園寺「ほら早く!」グイグイ


そういえば、現在地を見たときは西園寺さんもここになっていたっけ。


西園寺「あ、七海おねぇもいたんだ!」

七海「えっと……おはよう?」

西園寺「うんおはよー! って、なんで私寝てたの!?」


まあ、何はともあれ。


小泉「千秋ちゃん。ありがとうね……本当に」

七海「……うん」


私は、小泉さんを救うことができたんだ。


82: ◆3Exch9p5tM 2015/09/13(日) 18:33:21.02 ID:T+1QhY/mO

第2の事件阻止。真昼ちゃん生存です。


86: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:29:30.22 ID:1AXFjL91O


-エノシマジュンコ-


モノクマ「へえ……」

モノクマ「なるほどね。ボクと、それと苗木くんへの反発から自律性が増長しているのか」

モノクマ「コロシアイなんて想定していないAIが、命令されたわけでもないのに仲間の命を守るため、走り回る」

モノクマ「これは異常ですなあ」

モノクマ「まっ、ボクとしてはあんなプログラムどうでもいいんだけどさ」

モノクマ「ただ……」

モノクマ「コロシアイを防いで、はいおしまい、っていうのは面白くないよねえ……うぷぷぷぷ……!」


――――

――


87: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:30:08.66 ID:1AXFjL91O


-ナナミチアキ-


西園寺「ていうか小泉おねぇ、その怪我どうしたの?」

小泉「えっと……ちょっとテーブルが壊れてね」

西園寺「えーなにそれ! ボロテーブル置いたやつぶん殴らないと!」

小泉「だ、大丈夫だよ! あたしの不注意だから、ねっ!」

西園寺「むぅ……おねぇがそう言うなら……」

七海「……」


私は殺し合いを阻止することができた。
辺古山さんが小泉さんを殺してしまうのを防いだ。
少しギクシャクするだろうけど、次の動機が来るまでは大丈夫。

そう、思っていたんだ。


88: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:30:35.66 ID:1AXFjL91O


【コテージ】


七海「……?」


コテージに着いて気がついた。
どことなく、雰囲気が……いつもと違う……?


日向「ん。ああ、七海か」

澪田「それに真昼ちゃんと日寄子ちゃんもいるっすねー」

七海「ねえ、罪木さん見なかった?」

日向「罪木ならレストランに……何かあったのか……?」

七海「小泉さんが怪我しちゃってね」

小泉「うん……」

西園寺「ゲロブタに診てもらうんだー!」

日向「……!」

澪田「むむ……!」


89: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:31:08.63 ID:1AXFjL91O


七海「……? どうかした?」

日向「……その怪我、何があったんだ?」

小泉「テーブルが壊れて……その破片で、ね」

日向「……」

七海「日向くん?」

日向「いや、なんでも……」

澪田「ねえねえ創ちゃん、澪田わかっちゃったっす! これって、モノクマが言ってたやつじゃないっすかー?」

日向「おい、澪田……!」

七海「モノクマが……言ってたこと……?」


絶望が、歩み寄る音がした。


90: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:31:35.26 ID:1AXFjL91O


『皆さーん! 事件ですよ事件!』

『何を隠そう、殺人が起きたのです!』

『あっ間違えた。殺人未遂だったね』

『つまり、オマエラの中の誰かが誰かを殺そうとしたってこと』

『今回は未遂に終わったけど、オマエラが殺る気満々で先生は満足です。うぷぷぷぷ!』



それが、私達がコテージに着く前にモノクマが言ったこと。

今、私達は……

14人全員でビーチハウスにいる。


91: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:32:04.34 ID:1AXFjL91O


【ビーチハウス】


田中「砕かれし円卓、か……」

弍大「これは……鈍器で壊されたようじゃのう」

左右田「ボ、ボッコボコじゃねえか……」

罪木「もっ、もしこんな強さで人が殴られたら死んじゃいますぅ!」


わかってしまった。


狛枝「その鈍器らしき物を見つけたよ。多分この金属バットだ」

日向「狛枝……!」

ソニア「犯人は金属バットで小泉さんに襲いかかり……」

終里「間違えてテーブルに振り下ろしちまったんだな!」

澪田「いやテーブルを盾にしたんでしょ。はっ! まさか澪田がツッコミに回るなんて!?」


モノクマは、絶望は、私達を逃がさない。


92: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:32:37.83 ID:1AXFjL91O


日向「なあ、小泉。もう一度聞くぞ」

小泉「……」

日向「その怪我……何があったんだ……?」

小泉「それ、は……」

九頭龍「っ……」

辺古山「……」

モノミ「あ、あわわわ……!」


疑心暗鬼。
この中に、小泉さんを殺そうとした人がいる。
皆が皆を疑っていた。


西園寺「ねえ、七海おねぇ。七海おねぇは、何が起きたか知ってるんじゃないの?」

七海「……」

日向「七海……そうなのか……?」

七海「わ、私……は……」


答えられない。
そんなの、答えられるわけがない。


93: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:33:04.12 ID:1AXFjL91O


辺古山「もういい。七海」

七海「……!」

辺古山「何も言わないでいてくれて、ありがとう」

七海「辺古山さん……」

辺古山「そして、すまなかった」

九頭龍「お、おい! ペコ!」

辺古山「……申し訳ありません。……皆、聞いてくれ! 小泉を殺そうとしたのは私だ!」

日向「ぺ、辺古山!?」

小泉「ペコちゃん……!」

七海「……」

辺古山「本当に、すまなかった……!」


94: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:33:30.61 ID:1AXFjL91O


日向「まあ……結局小泉は助かったわけだし……」

ソニア「そ、そうですね……」


未遂で済んで良かった。
皆が口々に言う。
口では、そう言っている。

ただ1人を除いて。


西園寺「……私は許さないよ」

九頭龍「っ……!」

西園寺「だって小泉おねぇを殺そうとしたんだよねー? ていうか私を眠らせたのもそうなんじゃないの?」

日向「眠らせた……?」

西園寺「私を犯人に仕立て上げようとしたんでしょ? よーく考えられた殺人計画だよね!」

辺古山「……」

九頭龍「それ、は……!」

西園寺「またいつ小泉おねぇを殺そうとするかわからないもん……私は、絶対に許さない……!!」


95: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:33:58.14 ID:1AXFjL91O


人を殺そうとした事実は変わらない。
狛枝くんと同じ……いや、直接手を出した分、狛枝くん以上に……


辺古山「……元より、許されるとは思っていないさ」

七海「辺古山……さん……」

辺古山「責任は取る」

七海「え……?」


そう言う辺古山さんの右手には、ナイフが握られていた。


七海「っ、ダメッ!!」

辺古山「……すまない」


止める間も無く、彼女は自らの左胸にナイフを突き立てる。
その瞬間、彼女と目が合った。


辺古山「ぐ、うぅ……坊ちゃんを……頼む……」


カラン、とナイフが落ち、血を撒き散らしながら辺古山さんが崩れ落ちた。


96: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:34:27.57 ID:1AXFjL91O


小泉「えっ?」

九頭龍「ペ、コ……?」


誰も動けなかった。
そしてまた、あの音が鳴り渡る。


ピンポンパンポーン


『死体が発見されました!』

『一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!』


日向「死……体……?」

九頭龍「ぺ、ペコ……? ペコ……ッ!!?」


辺古山さんが、死んだ。


左右田「ぎゃああああああ!!?」

澪田「あぶあぶあぶあぶ……!!」

モノミ「あわわわわわ!?」


97: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:35:02.55 ID:1AXFjL91O


七海「え……? 学級、裁判……?」

モノクマ「そうなのです!」

左右田「うわあああ出たあああ!!?」

モノクマ「出ますとも。だってようやく、殺人が起こったもんね!」

日向「殺人だと……!?」

七海「……それはおかしいよ。だって、辺古山さんは……」

モノクマ「自殺だったって?」

七海「っ……」

狛枝「……なるほどね」

日向「おい、どういうことだよ狛枝!」

狛枝「自らを殺す、と書いて自殺。つまり今回の事件、シロもクロも、共に辺古山さんだっていうことだよ」

モノクマ「ザッツライト! 自殺でも学級裁判は起きるのです!」


98: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:36:11.62 ID:1AXFjL91O


日向「ま、待てよ! そんなの、学級裁判する必要なんてないだろ!」

モノクマ「いやあ、これもルールだからね。ルールに縛られた僕って、まさに社会の歯車の鑑……およよ……」

七海「……ま、さか」

モノクマ「お?」

七海「モノクマ……もしかして……!」

モノクマ「うぷぷっ」

日向「七海?」

七海「……ううん。なんでもない」


辺古山さんと、他の12人。
死んだ辺古山さんと、生きている12人。
比べられるはずもない。

だから、私はそれ以上何も言えなかった。


九頭龍「おい……起きろよ……! なあ、ペコ……頼むからよお……!!」

七海(……ごめんなさい)


――――

――


99: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:36:37.68 ID:1AXFjL91O


ジャララン!

ガランガランガラン…

ババーン

パンパカパーン!



モノクマ「はいはい大正解。今回辺古山さんを殺したクロは辺古山さんでした。なんだか字面だけ見ると間抜けだねえ」

日向「モノクマ……!」ギリ

モノクマ「いやあ、皆の疑心暗鬼を解決するためにその身を差し出すなんて、なかなかできないことですよ! 襲われた小泉さんもスッキリしたことでしょう!」

小泉「そんな……私、そんなつもりじゃ……!」

モノクマ「んじゃ、やっちゃおっか。今回のおしおきをね!」

九頭龍「――――は……? お仕、置き……?」


100: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:37:10.08 ID:1AXFjL91O


田中「どういうことだ? あの女は既に……」

罪木「も、もう死んじゃったんですよ!?」

モノクマ「あのね、そんなこと関係ないんだよ。学級裁判でクロに選ばれた犯人はおしおきを受ける。これは決定事項なの」

日向「関係ない、って……まさか……」

狛枝「そういうことだろうね」


つまり。
辺古山さんの死体を、お仕置きと称して処刑台に放り込むということ。


九頭龍「あ……? おい……」

モノクマ「では! 超高校級の剣道家である辺古山さんのために!」

九頭龍「ま、待てよ……」

モノクマ「スペシャルな! お仕置きを用意させていただきましたー!!」

九頭龍「待て、待てよおおお!!?」


ポチッ


『ペコヤマさんがクロにきまりました』

『おしおきをかいしします』


101: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:39:31.68 ID:1AXFjL91O


辺古山さんの死体が、操り人形を斬っていく。
モノクマに操られた、辺古山さんの死体が。
道具のように、玩具のように、襤褸切れのように。
無理やり動かされる死体は四肢があらぬ方向に曲がり、肌が裂け、真っ赤に染まっていく。


小泉「ひ、酷い……!」


……全てが終わった後。
人としての尊厳を辱められ、それは原型を留めていなかった。


九頭龍「あ、ああ……」

九頭龍「ペコ……ペコ……!?」


グチャ、ベチャ…

ボト…


九頭龍「あ……」

九頭龍「ああああ……!!」

九頭龍「ペコォォオオ!!!!」


102: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:40:04.95 ID:1AXFjL91O


九頭龍「モノ、クマアアアア!!!!」ガッ

モノクマ「おっ、足蹴にしたね? 学園長を足蹴にしたね? 親父にだって足蹴にされたことないのに!」

九頭龍「て、め……殺す……殺してやる!!!!」

モノクマ「ひゃー怖い怖い。怖すぎてチビっちまいそうだぜえ……というわけで、皆さんお待ちかね!」

七海「……! 九頭龍くん、ダメ――――」

モノクマ「助けてー! グングニルの槍!!」


ズドドドド!


九頭龍「あ……ごふっ……」

モノクマ「足蹴にするなって、ボク言わなかったっけ? うぷぷぷ!」

九頭龍「ぐ、ぞ……ペ……コ……」


そして九頭龍くんは、動かなくなった。


103: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:41:15.89 ID:1AXFjL91O


七海「そん、な……」


救えたはずだった。
小泉さんを、そしてクロになってしまう辺古山さんを。


モノクマ「残念だったねえ」


パニックになる皆を余所に、モノクマがこっそりと話しかけて来る。


モノクマ「けど、せっかく用意した動機が簡単に乗り越えられたら悔しいじゃないですか。ねえ?」

七海「あ……ああ……」

モノクマ「それに、そんな簡単に誰かを救えるなら、『彼』だってああはなっていないしね」

七海「か、れ……?」

モノクマ「楽しかったよ。んじゃ、まったねー!」



モノクマが何か言っているけど、ほとんど頭に入ってこない。

辺古山さんと九頭龍くんが死んだ。

私はまた、彼らを救えなかった。


104: ◆3Exch9p5tM 2015/09/16(水) 20:48:22.08 ID:1AXFjL91O

次は苗木のターン。
1のキャラが何人か出てきます。


107: ◆3Exch9p5tM 2015/09/20(日) 23:09:18.23 ID:cwPsRJlwO


-エノシマジュンコ-


モノクマ「さて、と……」

モノクマ「辺古山さんと九頭龍くんに仕込んだウイルスの形跡を辿ると……反応が消えたのはこの階層だね」


ヴヴ…

ジジジジ…!


モノクマ「っとと」

モノクマ「なんか出てきた。……人型データが2体か」

モノクマ「この世界の中枢に侵入するための、最後の関門ってとこかな?」

モノクマ「おいで! モノケモノ!!」


ヴヴ…ヴゥン…!

ゴゴゴゴゴゴ…!


モノクマ「モノミの権限で使用できるメモリいっぱいのモノケモノの軍団。これだけいれば何の問題もないでしょ」

モノクマ「んじゃ、蹴散らしてしまいなさい!」ビシィ!


――――

――


108: ◆3Exch9p5tM 2015/09/20(日) 23:10:46.79 ID:cwPsRJlwO


-ナエギマコト-


苗木「超高校級の詐欺師……」

苗木「それに、超高校級の料理人……」


キイィーーン…


苗木「はは……彼らの脳はすごいな」

苗木「一般人の脳とは性能が段違いだ」

苗木「そして……」


ヴヴ…


苗木「超高校級の剣道家と、超高校級の極道も手に入れた」


109: ◆3Exch9p5tM 2015/09/20(日) 23:11:13.84 ID:cwPsRJlwO


苗木「今までの計算でも超高校級と呼ばれる彼らの脳を少し借りていたけど……」

苗木「うん。間違いない」

苗木「計算速度だけじゃなくて、その精度も良くなっている」

苗木「僕の思い出という曖昧な情報からアウトプットされる結果が、以前よりも断然良い」

苗木「さすがは超高校級、といったところかな」

苗木「……けど」


『再試行』

『再試行』

『再試行』


キイィーーン…


110: ◆3Exch9p5tM 2015/09/20(日) 23:12:11.22 ID:cwPsRJlwO


キィィ…

ヴヴ…ン…


『苗木くん』


苗木「……」


『苗木くん』

『苗木くん』

『苗木くん?』

『苗木くん!』

『苗木くん』

『苗木くん……!』

『苗木くんっ』


苗木「……違う」


111: ◆3Exch9p5tM 2015/09/20(日) 23:14:32.77 ID:cwPsRJlwO


『苗木くん』

『苗木くん!』

『苗木くん?』

『苗木くん』

『苗木くん……』
『苗木くんっ』
『苗木くん』
『苗木くん?』『苗木くん!』
『苗木くん』
『苗木くん』『苗木くん』『苗木くんっ!』『苗木くん』『苗木くん』
『苗木くーん?』『苗木くん!』『苗木くん……』
『苗木くん……!』『苗木くん』『苗木くんっ』『苗木くん』
『苗木くん』
『苗木くん……?』『苗木くん!』
『苗木くん!』『苗木くん!』『苗木くん』『苗木くん』『苗木くんっ』『苗木くん』『苗木くん』『苗木くーん』『苗木くんっ!』『苗木くん?』


苗木「違う……全然違う……!」


『苗木くん』『苗木くん』『苗木くん』『苗木く――――』


苗木「消去、消去、消去……全て消去……!!」


ジジジ…シュゥン…


苗木「はぁ、はぁ……っ」


112: ◆3Exch9p5tM 2015/09/20(日) 23:15:03.94 ID:cwPsRJlwO


遠い。
超高校級と呼ばれる彼らの脳を以ってしても、まだ遠い。


苗木「まだだ……」

苗木「まだ、足りない……」


再現度が低い。
処理限界も煩わしい。


苗木「もっと精度を」

苗木「もっと速度を」

苗木「もっとスペックを……!」


そのためには。


苗木「もっと、人間の……超高校級の、脳を……!」


113: ◆3Exch9p5tM 2015/09/20(日) 23:17:41.24 ID:cwPsRJlwO


たとえ何を犠牲にしてでも。
そう決めたじゃないか。


苗木「彼らには申し訳ないけど……」

苗木「そもそも、絶望なんかに堕ちるのが悪い」


だから僕は悪くない。


苗木「残るは……写真家、軽音楽部、マネージャー、体操部、日本舞踏家、王女、メカニック、飼育委員、保健委員……」

苗木「そして……」

苗木「『超高校級の幸運』に、『超高校級の希望』……!!」


欲しい。
彼らの脳が、どうしても欲しい。


114: ◆3Exch9p5tM 2015/09/20(日) 23:18:07.30 ID:cwPsRJlwO


舞園さんの姿かたちをしたナニカ。
舞園さんの声で僕の名前を呼ぶナニカ。
似ているけれど、どこかが決定的に違う。

それは、そう、まるで。


苗木「不気味の谷だ……」


それが、越えられない。


苗木「狛枝凪斗の『幸運』はこの世界でも通用する」

苗木「そして『希望』と称されるほどに才能を詰め込まれた脳を持つ、日向創」

苗木「彼らの脳があれば、あるいは――――」


そんな『希望』を持って、僕は……


キイィーーン…


――――

――


115: ◆3Exch9p5tM 2015/09/20(日) 23:21:28.49 ID:cwPsRJlwO


-エノシマジュンコ-


江ノ島「……いやいや」

江ノ島「シャレになってねーんだけど」


あたしの後ろには、スクラップになったモノケモノの山が築かれている。
対して、目の前の2体の人型は無傷だった。

1つは、地上最強と謳われる鬼神。
もう1つは、無数の銃器を操る戦場の死神。



『超高校級の戦闘プログラム』

Type1_model_【格闘家】

Type2_model_【軍人】



オオガミ「……」

イクサバ「……」


116: ◆3Exch9p5tM 2015/09/20(日) 23:22:15.61 ID:cwPsRJlwO


江ノ島「オーガと残姉の戦闘能力だけを再現・極大化したプログラムってとこか?」

江ノ島「電脳世界だからって人間超越させやがって……いや、それは元々か」

江ノ島「……」

江ノ島「何この無理ゲー、やってられないよー!!」

江ノ島「この階層内では……モノミから奪った権限も……制限されてしまうようですし……」

江ノ島「一旦出直すこととするのが賢明だと判断します」

江ノ島「忘れるな苗木誠! 私様は必ず戻ってくるッ!」

江ノ島「君も、77期生も、未来機関も。全てを『絶望』させるためにね。うぷぷ……!」


ヴヴ…


モノクマ「じゃあ、次は……」

モノクマ「うん。これを使ってみようかな」

モノクマ「この、絶望病ウイルスをね! うぷぷぷぷ!」


117: ◆3Exch9p5tM 2015/09/20(日) 23:26:16.81 ID:cwPsRJlwO

そして3章へ。
そういえばV3発表されましたね。楽しみですなあ(そろそろ絶対絶望少女クリアしなければ…


122: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:15:35.77 ID:ET/9yIVhO


-ナナミチアキ-


【コテージ 七海の部屋】


キーン コーン、カーン コーン…


『オマエラ、グッモーニンッ!』

『今日も絶好の南国日和――――』


七海「……」


また、朝が来た。
また、殺し合いに怯える朝が来た。


七海「……」


私は辺古山さんと九頭龍君を救えなかった。
彼らは、私のせいで死んだんだ。


七海「……怖い」


外に出るのが怖い。
新たな動機が提示されるのが怖い。
誰かを救えないのが怖い。


123: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:16:02.83 ID:ET/9yIVhO


七海「怖いよ……苗木くん……」


苗木くんが助けてくれないのはもうわかってる。
けど、他に縋る相手もいなかった。

ふと、思う。
救えないことが怖いのなら、いっそ、何もしなければ――――


ピンポーン


七海「……」


ピンポーン


『なあ、いるんだろ? 顔だけでも見せてくれないか、七海』

『皆心配してるよ、千秋ちゃん……』


七海(日向君と……小泉さん……)

七海(やめて……私は……だって、私は……)

七海(もう、4人も死んだ……私は彼らを助けることができなかった……私は……欠陥品なんだ……)


124: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:16:41.83 ID:ET/9yIVhO


七海(ごめんなさい……助けてあげられなくて、ごめんなさい……)

七海(殺し合いを止めることができなくて……ごめんなさい……)


私は彼らに相応しくない。
なのに、彼らはそんな私に構ってくれる。


『……ご飯、ドアの前に置いておくね。行こ、日向』

『ああ……また来るからな、七海!』


七海「……」


私には食事も睡眠もいらないけれど。
けれど、彼らの気持ちはとても……なんだろう……?


七海「わからないや……こんなの、教えてもらってない……」


何もわからない。
私は……どうすればいいんだろう……


125: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:17:24.68 ID:ET/9yIVhO


-ヒナタハジメ-


日向「七海、だいぶ参ってたな」

小泉「うん……」

日向「それも仕方ないか。小泉を助けられたと思ったらあれだもんなあ……」

小泉「変に引き摺らなければいいんだけどね」

日向「ああ」


日向(殺し合いなんて許さない、って、言ってたもんな。七海があんなに強く言うのは意外だったけど……)

日向(立ち直れるといいな。じゃないと……)

日向(七海があのままだなんていうのは、とても――――)


ツマラナイ。


小泉「日向、何か言った?」

日向「……? いや? 何も言ってないぞ」

小泉「そう?」

日向「それにしてもさ。早く元気になるといいな、七海のやつ」

小泉「……うん!」


――――

――


126: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:17:53.03 ID:ET/9yIVhO


-ナナミチアキ-


『た、大変でちゅ! 千秋ちゃん!』

七海「……ウサミ……じゃない、モノミちゃん?」

『お、終里さんが……!』

七海「……?」

『終里さんがモノクマと決闘してるんでちゅ!!』

七海「っ……!?」


思わず立ち上がるが、動きが止まる。
私が行ったところで何ができるというのか。


七海「……けど、行かなきゃ」

七海「私は七海千秋……彼らの更生をサポートするプログラム……」

七海「せめて……見届けなきゃ……」


127: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:18:20.99 ID:ET/9yIVhO


【砂浜】


終里「に……弐大ぃぃぃぃぃぃッ!!」

七海「……」


終里さんはモノクマに勝てない。
だってここは電脳空間で、モノクマは苗木くんに次ぐ権限を持っているのだから。


七海「……」ギュ…


終里さんがモノクマに殺されそうになって、それを庇った弐大くんが重傷を負った。
救急車に乗せられる弐大くんを見て、拳を握る。


七海「……いや、だ」

七海(嫌だ……こんな思い、これ以上したくない……)

七海(がん、ばらなきゃ……!)


殺し合いを止められるとしたら、それは私しかいないのだから。


――――

――


128: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:18:46.76 ID:ET/9yIVhO


【第3の島】


絶望病。
患者の隔離。
人の寄り付かない病院。


七海「第3の動機、か……」


また殺人が起きるとしたら、今夜だろう。
被害に遭うのはきっと、入院している3人のうちの誰か。


七海「止められるかわからない……けど……」

七海「行かなきゃ……」


放っておくことはできない。
あんな思いは、もう、したくない。


七海「あ……」

七海(月、綺麗だな……)


そんなときだった。


狛枝「こんばんは」


129: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:19:26.59 ID:ET/9yIVhO


七海「狛枝……くん……?」

狛枝「やあ。いい夜だね、七海さん」


七海(なんで狛枝くんが……だって、だって彼は……)


狛枝「なんでここに、って顔してるね」

七海「君は……絶望病に罹っていたはずじゃ……」

狛枝「治っちゃった。あはは」

七海「え……?」

狛枝「なんてね。仮病だよ、仮病」

七海「仮病? でも君は、確かに熱が……」

狛枝「ああ、あれ? ただの風邪だよ」


風邪をひいていたならあながち仮病とも言えないか、と狛枝くんは笑う。


130: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:20:57.40 ID:ET/9yIVhO


七海(モノクマが絶望病のウイルスをばら撒いた途端に、ただの風邪?)

七海(そのおかげで監視の目がほとんどなくなった?)

七海(そんな、都合のいいことが――――)


狛枝「いやあ、いいタイミングだったよ。まさに『幸運』だよね!」

七海「……!」ゾク


『超高校級の幸運』


七海(資料には目を通していたけど、本当に……)

七海(電脳空間である新世界プログラムで、ここまでの幸運を引き起こすなんて……!)


131: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:21:24.56 ID:ET/9yIVhO


七海「……何のつもり?」

狛枝「ん?」

七海「仮病なんて使って……何がしたいの……? まさか、また花村くんのときみたいに……」

狛枝「ああ、違う違う。そんなに警戒しないでよ」

七海「……」ジィ…

狛枝「本当だって。今日はただ、七海さんと話がしたかっただけなんだ」

七海「私と……話……?」

狛枝「うん。二人っきりで、ね」

七海「……ごめんね。今、急いでるから」


その話というのも気になるけど、今はとにかく病院に向かわないと。
そう思い、狛枝くんの隣を通り過ぎようとしたとき。


狛枝「『苗木誠』についての情報が欲しいんだよね」


132: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:22:00.78 ID:ET/9yIVhO


七海「っ……!」バッ

狛枝「君ならいろいろと知っているんじゃないの? 彼の仲間である君なら、ね……」

七海「なんの、こと……かな……」

狛枝「とぼけなくてもいいよ。そのために人目を忍んで会いに来たんだからさ。ねえ、『世界の破壊者』さん?」


七海(狛枝くんは、確信している……)

七海(どうやって苗木くんの名前を……ううん、そもそもなんで私が未来機関だって……)

七海(……!)


七海「……モノクマに聞いたの?」

狛枝「少しだけ、ね」

七海「……」

七海(具体的な話をしないで、みんなの不安を煽るだけだったモノクマが……なんで狛枝くんにだけ……)


133: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:22:34.27 ID:ET/9yIVhO


狛枝「で、教えてくれるの? くれないの?」

七海「……」

狛枝「苗木誠について、さ……」

七海「それ、は……」


狛枝くんに全てを教えれば。
『希望』である77期生を閉じ込め、脳を手に入れようとしていることを、教えれば。


七海(そうすれば……もしかしたら私に協力してくれるかもしれない……?)


可能性は低いけれど、ゼロじゃ――――


「はあ。本当に、もう……」

ジジ…


七海「え……?」


134: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:23:02.16 ID:ET/9yIVhO


苗木「『七海千秋』を強制スリープ。転移。地点、『コテージ』、『七海千秋の部屋』」

七海「ぁ――――」


ヴヴ…シュゥン…


苗木「これでよし、と」

狛枝「……」

苗木「やあ、狛枝くん」

狛枝「君が、『苗木誠』かい?」

苗木「……そうだよ」

狛枝「まさかわざわざ会いに来てくれるなんてね」

苗木「まあ、いろいろと事情があるんだ」

狛枝「ふうん」

苗木「さて……少し、話をしようか」


135: ◆3Exch9p5tM 2015/09/27(日) 19:30:30.39 ID:ET/9yIVhO

このスレはあくまでも電脳世界で舞園さんを造る話になります
けどアナログで舞園さん造るのもサイコで面白そうだなあ


141: ◆3Exch9p5tM 2015/09/30(水) 23:35:53.86 ID:GNAShUT6O


-コマエダナギト-


狛枝「まさか本人と直接話ができるとは思っていなかったよ」

苗木「僕としては、君たちの前に姿を現すつもりなんてなかったんだけどね」

狛枝「へえ。じゃあこれは、どういった風の吹き回しかな?」

苗木「影響の確認と、処置の検討のためさ」

狛枝「……なるほどね」


先ほど七海さんに起こった現象は、どう考えたって『普通』じゃない。
彼の声に従うように意識を失い、物理的にどこかへ消えた。
そんなことを見せてまでして僕の前に現れたってことは……


狛枝「知りすぎてしまった、ってことかな」

苗木「そういうこと。あとはまあ、七海さんが余計なことを言わないためっていうのもあるけどね」

狛枝「……ねえ。さっきのは何か、聞いてもいいかい?」

苗木「ああ、あれ? この世界、ただのプログラムだから」

狛枝「……へ?」

苗木「新世界プログラム。君たちがいるここは、電脳空間だよ」

狛枝「……」

苗木「あれ、信じられない?」

狛枝「……いや、むしろ納得したよ。モノクマや君のやることはめちゃくちゃだったしね。はぁ……」


142: ◆3Exch9p5tM 2015/09/30(水) 23:36:19.87 ID:GNAShUT6O


苗木「本題に入ろうか。君は、僕の何が知りたいのかな?」

狛枝「……」

苗木「なんでも聞いてよ。答えるかはわからないけどさ」

狛枝「……君たち『世界の破壊者』が僕らをこの島、いや、プログラムに閉じ込めたのは本当かい?」

苗木「そうだよ」

狛枝「目的は?」

苗木「それは言えないかな」

狛枝「じゃあ……君、『超高校級の希望』って呼ばれてるんだよね?」

苗木「ああ……一部の人たちにはね」

狛枝「そんな君が、『希望』を殺し合わせるモノクマを止めない理由は?」

苗木「モノクマに権限を乗っ取られたからさ」

狛枝「それは違うよ。……君、モノクマより上位の権限を持ってるでしょ」

苗木「……」

狛枝「さっきの質問、少し変えようか。殺し合いを止めない、君個人の目的は何かな」


143: ◆3Exch9p5tM 2015/09/30(水) 23:37:17.26 ID:GNAShUT6O


苗木「……計算」

狛枝「計算?」

苗木「そう、計算……。この世界で死亡した君たちの脳を使って、ある計算をすることだよ」

狛枝「へえ……」


『超高校級』と呼ばれる彼らを見殺しにして、その脳を利用する。
なるほど、それは確かに……。


狛枝「絶望的なまでに利己的な悪意だね」

苗木「……」


僕をじっと見つめているようでいて、まったく僕を見ていない。
彼が見ているのは、僕の脳。


狛枝(あの目……まるで、全てを踏み台にして前に進むような……)


144: ◆3Exch9p5tM 2015/09/30(水) 23:37:44.57 ID:GNAShUT6O


狛枝「ああ、そうか」

苗木「……なに?」

狛枝「確かに『絶望』を振り撒いてはいるんだろうけど……君本人は、酷く利己的ではあれ、『希望』のために行動しているつもりなわけか」

苗木「……」

狛枝「これは判断に迷うなあ……。僕個人としては踏み台になってもいいんだけどね。あまりにも、犠牲になる『希望』が多すぎる」


判断する要素が足りない。
結論が下せない。


狛枝「計算って言ったよね。それはいったい、なんの計算をしているんだい?」

苗木「……君には関係ない」

狛枝「ええ? それが一番大事なのに――――」

苗木「コロシアイには大して影響がなさそうでよかったよ。これなら必要以上に干渉する必要もないね」スッ…

狛枝「あれ、時間切れか……」


145: ◆3Exch9p5tM 2015/09/30(水) 23:38:36.68 ID:GNAShUT6O


苗木「『部分記憶消去』。僕と話したことも会ったことも、七海さんのことも。全部忘れていいよ」

狛枝「それは困……っ……!」フラ…

苗木「今度こそ、本当に『絶望病』に罹って大人しく寝ているんだね」

狛枝「う、うぅ……」


僕の中の何かが書き換わっていく。
書き換えられていく。


狛枝「……!」


急激に重くなる瞼を必死に開き、前を見て、そして気づく。


狛枝(……あれは――――)


『苗木誠』の、その向こう。


狛枝(長髪の……男……?)


そして僕の意識はブラックアウトした。


146: ◆3Exch9p5tM 2015/09/30(水) 23:39:03.47 ID:GNAShUT6O


-ナエギマコト-


苗木「……喋りすぎたな」

苗木「笑いを堪えているんだろ?」

苗木「なあ、モノクマ」


モノクマ「うぷぷ……」

ザッ…


苗木「覗き見とは、趣味が悪いね」

モノクマ「そんなこと言わないでよ。久しぶりに会ったのにつれないなあ」

苗木「前にも言っただろ。僕はお前に会いたくなんてない」

モノクマ「まあいいけどね。面白いものも見せてもらったし!」

苗木「ふん……」


147: ◆3Exch9p5tM 2015/09/30(水) 23:39:29.96 ID:GNAShUT6O


モノクマ「狛枝くんを見るキミの目! まるで玩具を欲しがる子供みたいだったね!!」

苗木「……」

モノクマ「『超高校級の幸運』が欲しいんだ? 統計学に真正面から喧嘩を売ってるあの脳みそが欲しいんだ?」

苗木「……ああ、そうだよ」

モノクマ「だから言わなくていいことまでペラペラ喋っちゃったんだね。わかるよ~、その気持ち! 直接は言えないもんね、あなたの脳みそをください、だなんてさ!」

苗木「……」

モノクマ「あれあれ? あれあれあれあれ?」

苗木「なんだよ……」

モノクマ「ってことはさ! まだまだ成功する見込みがないってことだよね、君の目的!」

苗木「……」

モノクマ「うぷぷぷ……。沈黙は肯定と受けるよ」


148: ◆3Exch9p5tM 2015/09/30(水) 23:39:56.54 ID:GNAShUT6O


モノクマ「十神くん、花村くん、辺古山さん、九頭龍くん! 4人もの超高校級と呼ばれる脳を使っておいて、全然進歩がないんだねえ! あーっひゃっひゃっひゃ!!」

苗木「……うるさい」


挑発には乗らない。
隙なんて作らない。
彼らの脳を使ったからって、すぐに何とかなるだなんて思っていない。


モノクマ「うぷぷぷ……ま、せいぜい頑張ってよ。あ、ところでさあ……」

苗木「ん?」

モノクマ「狛枝くんをけしかけたボクが言えることじゃないんだけどさ、七海さんどうするの?」

苗木「……」

モノクマ「気付いてるんでしょ? コロシアイをさせているボクと、それを止めないキミ。ボクらのせいで、だいぶ人工知能のフラグメントマップが変質してるよ?」

苗木「……そうだね」

モノクマ「ボクは見てて楽しいからいいんだけどね。キミによるコロシアイへの干渉、とも見れなくはないかなと思って」


149: ◆3Exch9p5tM 2015/09/30(水) 23:40:23.15 ID:GNAShUT6O


モノクマ「初期化しちゃう? うん、それがいい。初期化しちゃいなよ! あひゃひゃ!」

苗木「……」


『お父さん――――』


苗木「……『七海千秋』のAIには手を加えないよ。自主性は重んじる主義なんだ」

モノクマ「ふーん……あっそう。まあいいけどね」

苗木「けど、そうだね。サポート権限は取り上げておくよ。『現在地表示』も、『簡易オブジェクト生成』もね」

モノクマ「まっ、妥当なとこだね――――!」

苗木「あ……」

モノクマ「澪田さんだね」

苗木「……『軽音楽部』の死亡を確認」

モノクマ「うぷぷぷぷ……」


150: ◆3Exch9p5tM 2015/09/30(水) 23:40:58.71 ID:GNAShUT6O


苗木「……僕は戻るよ」

モノクマ「ボクも、ログを見てモノクマファイル作らなきゃね」

苗木「そう。それじゃ――――」

モノクマ「と、思わせてからの!」

苗木「ん?」

モノクマ「やっちゃえ、モノケモノver.2!!」


ヴゥン…


モノケモノ「ギィアァァァァァァッ!!!」

苗木「ふん……」スッ


ジジ…ヴゥン…!


オオガミ「……」


151: ◆3Exch9p5tM 2015/09/30(水) 23:41:36.12 ID:GNAShUT6O


苗木「やれ」

オオガミ「――――!」ダッ


ドゴォッ!!


モノケモノ「ギ……ィ……」


ジジジ…シュゥン…


モノクマ「あー、やっぱダメか」

苗木「ウサミの権限で作れる程度の攻撃プログラムでどうにかなるとでも思った?」

モノクマ「物は試しってやつだよ」

苗木「ふん……」

モノクマ「じゃ、まったねー」

苗木「……『帰還』」


ヴヴ…シュゥン…


モノクマ「……さてさて。『絶望病』は、キミに届くのかな?」ニヤニヤ


152: ◆3Exch9p5tM 2015/09/30(水) 23:48:18.22 ID:GNAShUT6O

話の進まない会話回…
3章はほぼ苗木が主人公になります

幼女といえば絶対絶望少女の没案使えば光源氏作戦で舞園さん作れたりしそうですよね


163: ◆3Exch9p5tM 2015/10/07(水) 20:39:58.74 ID:wzgHoSUwO


-ナナミチアキ-


罪木「うふ……うふふふふふふふ……」


澪田さんが死んだ。
罪木さんに殺された。


西園寺「ひぃっ! き、気持ち悪いよー!」

日向「罪木……なんでお前が……!」


さっきまで発狂したように反論していた罪木さんが、大人しくなって、それで……


狛枝「はあ……本当に、絶望的だよ。『超高校級の絶望』と呼ぶに相応しいね」

罪木「絶望? いいえ、これは愛ですよぉ……えへへ……」


七海(あれが、記憶を失う前の……)

七海(本来の……彼ら……)

七海(……それにしても)チラッ


164: ◆3Exch9p5tM 2015/10/07(水) 20:40:25.57 ID:wzgHoSUwO


狛枝「――――。――――!」


七海(『狛枝凪斗に関しては処置済みであり干渉不要』、か……)

七海(どうやら、何も覚えてないみたいだね)

七海(……)

七海(『処置済み』なのは、狛枝くんだけじゃない)

七海(私も……残っていた権限がロックされて、もう、ほとんど皆と変わらない……)


罪木「ああ、そういえば」

日向「な、なんだよ……」

罪木「この中にいる裏切り者が誰なのかも、わかりましたよぉ?」

日向「本当か!?」

狛枝「へえ……」


165: ◆3Exch9p5tM 2015/10/07(水) 20:41:05.68 ID:wzgHoSUwO


罪木「教えませんけどね。うふふ……」

日向「なんだよそれ……!?」

罪木「頑張ってくださいねぇ、裏切り者さん? うふふふふっ……」

七海「……」


難易度、ハードモード。
そしてコンティニューは不可の縛りプレイ。


七海(……こんなときまで、設定された『超高校級のゲーマー』としての思考が出てくるなんてね)

七海(……)

七海(新世界プログラムの、人型進行補助インターフェースじゃなくて)

七海(ただの、1人の……『超高校級のゲーマー』として……)


私に何か、出来ることがあるのなら――――


『ツミキさんがクロにきまりました』

『おしおきをかいしします』


七海(私は……どんな手段を使ってでも、彼らを救いたい……!)


――――

――


166: ◆3Exch9p5tM 2015/10/07(水) 20:41:36.56 ID:wzgHoSUwO


-ナエギマコト-


キイィーーン…


苗木「超高校級の軽音楽部に、超高校級の保健委員……」

苗木「……」

苗木「軽音楽部の方は問題ない。順調にスペックの増強が進んだからね」

苗木「けど、これは……」


『うふ……うふふふふ……』

『うふふふふふふふ……』

『はあぁ……もっと……』

『もっと絶望を……』

『もっと、愛を……』

『ねえ、苗木くん……うふふふふふふっ……!』


苗木「新世界プログラムの、才能を再現する仕組みが仇になったか」

苗木「はぁ……やられた……」スッ


キイィ…

ジジ…


――――

――


167: ◆3Exch9p5tM 2015/10/07(水) 20:42:05.67 ID:wzgHoSUwO


【学園長室】


モノクマ「うぷぷ」

モノクマ「前回の辺古山さんや九頭龍くんのデータを見ると、そろそろだよね」

モノクマ「苗木くん、喜んでくれたかなあ」

モノクマ「それはボクからのプレゼントだよ……うぷぷぷぷ……」


ジ…ジジジ…


モノクマ「ん?」


ヴゥン…

ドサ


モノクマ「おっと、これは……罪木さんのアバターか」

モノクマ「それに脳の使用権限やら生命維持ポッドの管理権限やら……」

モノクマ「どうやらプレゼントはお気に召さなかったようだね。ねえ、苗木くん?」

苗木「……」


168: ◆3Exch9p5tM 2015/10/07(水) 20:42:32.53 ID:wzgHoSUwO


モノクマ「いいの? せっかくの脳を手放すなんてさ」

苗木「お前、わざと言ってるだろ」

モノクマ「うぷぷ……どうだった? 『超高校級の絶望』の脳は!」

苗木「……あんなの、使えたものじゃない。次はないからな」

モノクマ「えー?」

苗木「あの頃とは立場が逆だってことを忘れるなよ。お前は、僕に都合がいいから消去されていないだけなんだ」

モノクマ「そうだねえ」

苗木「次にまた、彼らのデータを弄って記憶を戻したりしたら……本当に消すからね」

モノクマ「はいはい、了解ですよ。うぷぷぷぷ……」

苗木「保健委員はあげるよ。それよりも……」

モノクマ「弍大くんのことかな?」


169: ◆3Exch9p5tM 2015/10/07(水) 20:43:07.29 ID:wzgHoSUwO


苗木「あれは……なんのつもりだよ?」

モノクマ「メカ化のこと? そうした方が面白いかなって思ってさ!」

苗木「まったく、悪趣味な」

モノクマ「まあいいじゃん。弍大くんの顛末については、一切キミの影響はないんだから」

苗木「ふん……」

モノクマ「あ、ところでさあ」

苗木「なんだよ」


話は戻るんだけど、と前置きして。
モノクマは、いつかのようにニヤニヤと笑い出した。


モノクマ「まさか苗木くん、このボクからのプレゼントが、あんな悪戯程度で終わると思ってた?」

苗木「……は?」


170: ◆3Exch9p5tM 2015/10/07(水) 20:43:47.69 ID:wzgHoSUwO


モノクマ「キミの計算の邪魔をするためだけに、罪木さんに『絶望』を思い出させたとでも思った?」

苗木「……なんだ、絶望病ウィルスのことか」


絶望した脳による計算への影響だけではない。
あの絶望病に侵された脳には、僕の計算で使われた際にプログラムを攻撃するようなウィルスが仕込まれていた。
けど、問題ない。
あれくらいのウィルス……何の、問題も――――


モノクマ「計算プログラムの奥深くまで侵入したウィルスに対処できたのは、誰のおかげかな?」

苗木「えっ?」

モノクマ「キミにそんなプログラミング能力はない。どうせ、不二咲さんのアルターエゴが開発した計算パッケージをインストールしてるだけでしょ?」

苗木「何を……言って……」

モノクマ「だからキミは、アルターエゴに頼った。外部の、超高校級に限りなく近いプログラミング能力を持つ、アルターエゴに頼ってしまった」

苗木「……!」


171: ◆3Exch9p5tM 2015/10/07(水) 20:44:13.97 ID:wzgHoSUwO


モノクマ「気付いたみたいだね。コロシアイによって脳を手に入れることしか頭にないから……」

苗木「まさか……」

モノクマ「その、目的以外への無関心。それは致命的なセキュリティホールだよ」

苗木「モノクマ……!」

モノクマ「どうでもいいと思っていた現実世界。そこにいる仲間から攻め込まれるとは思っていなかったんじゃないの?」


ふいに、この空間へのアクセスを感じる。
ウサミの権限はモノクマが奪った。
七海千秋の権限は僕が剥奪した。


モノクマ「絶望病ウィルスはキミへの悪戯なんかじゃなくてさあ」


この空間にやって来れる存在がいるとしたら、それは。


ヴヴ…


モノクマ「キミへの嫌がらせであり、なおかつ! キミ以外の卒業生へのプレゼントだったんだよねえ!!」


ヴゥン…


霧切「久しぶりね。苗木くん」

十神「この島の現状について、説明してもらおうか」

苗木「っ……!」


172: ◆3Exch9p5tM 2015/10/07(水) 20:54:51.44 ID:wzgHoSUwO

苗木が舞園さんを諦めることはない、つもりです。
オオガミイクサバ以外は出しません。この2人を再現したのには戦闘能力以外の理由もあるので、そのうちss内で描写できたらいいなと。


176: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:05:21.93 ID:ndKOY7ztO


苗木「霧切さんに、十神くん……」

霧切「……」

十神「ふん」


『外』にいた『苗木誠』の仲間。
まさか、この島に来られるなんてね。


苗木「確かに、外部に切り離していたアルターエゴを頼った時点でセキュリティなんてないも同然、か」

霧切「……見させてもらったわよ」

苗木「何をかな?」

霧切「あなたと狛枝くんの会話」

十神「ジャバウォック島での出来事なら、外からでもモニターできる。あれは本当か?」

苗木「……」

モノクマ「うぷぷ……」


177: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:05:48.92 ID:ndKOY7ztO


苗木(77期生の脳を使用しての計算……)

苗木(十神くんのことだし、たぶんもう裏付けも取っているんだろうね)

苗木(幸い、計算の内容までは知られていないはず)

苗木(……さて、どう乗り切るか)


霧切「苗木くん……まだ、間に合うわ……」

苗木「え?」

霧切「彼らの脳の使用を停止して、江ノ島盾子のアルターエゴを削除しなさい」

苗木「霧切さん……?」


なんで、そんなことをする必要があるんだろう。


十神「それが最大限の譲歩だ。これ以上続けるなら、未来機関に報告せざるを得なくなる」


意味がわからない。
この2人は、いったい何を言っている。


178: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:06:20.07 ID:ndKOY7ztO


霧切「あなたは、こんなことをするような人ではないでしょう?」

苗木「……ああ、そうか」


きっと、勘違いしている。
彼らは『僕』を通して、彼らの知っているかつての『苗木誠』を見ている。


苗木「普通で」

苗木「前向きで」

苗木「君たちの仲間で」

苗木「絶望なんて認めなくて」

苗木「そして、優しい……」


『苗木誠』は、そうだった。
コロシアイがなければ。
タイムマシンがなければ。
あるいは、舞園さんを救うことができたならば。


苗木「そんな、ずっと昔の『苗木誠』を、まだ君たちは信じているんだね」


179: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:06:56.91 ID:ndKOY7ztO


ああ、ごめんごめん。
それは僕が『苗木誠』を演じ続けていたからだよね。
けど、それももう、どうでもいいや。


十神「お前が殺し合いを機に変わったのは知っている」


君たちは、僕の繰り返した時間を知らない。


霧切「苗木くん、お願い……」


君たちは、僕の覚悟を知らない。


苗木「……むしろ、好都合とも言えるよね」

十神「なに?」

苗木「超高校級の探偵に、超高校級の御曹司。どっちも1級品の脳だ」

十神「……!」


180: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:07:24.44 ID:ndKOY7ztO


霧切「苗木くん……冗談にしても、性質が悪すぎるわよ」

苗木「冗談だと思う?」

霧切「っ……」


彼らは新世界プログラムにとっては部外者だ。
これは、コロシアイへの干渉には入らない。
なら……別に、いいよね……?


十神「……ちっ。続きは『外』でやるか」

苗木「は? 何を……」

十神「スリープ解除。『新世界プログラム』からの強制ログアウト、対象、『苗木誠』」

苗木「……!」

苗木(僕の生体ポッドの管理権限!? どうやって……)

苗木(……!)


181: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:07:52.50 ID:ndKOY7ztO


苗木「アルターエゴか!」

十神「そういうことだ。緊急ログインに際し、いろいろと仕組んでもらった」

霧切「あまり、使いたくはなかったけどね」

十神「あと数秒で現実世界のお前は目を覚まし、強制的にログアウトされる。意識の混濁は少々あるだろうが……ふん、自主的に従わないお前が悪い」

霧切「ここの管理者権限は私が引き継ぐわ。もう殺し合いは終わりよ、モノクマ」

モノクマ「あ、ボクがいるの忘れてなかったんだね」



ああ、なんて――――



霧切「帰りましょう、苗木くん。現実の世界に」

十神「まったく、余計な手間をかけさせて」



彼らは、どうして、こうも――――



苗木「『ボク』の覚悟を、甘くみすぎじゃない?」


182: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:09:00.20 ID:ndKOY7ztO


どんな手段を使ってでも。



十神「……? どういうことだ?」

苗木「ふ、ふふ……」



どれだけ時間がかかっても。



霧切「時間は過ぎているのに、ログアウトされない……?」

苗木「はは……はははは……!」



そして、たとえ何を犠牲にしたとしても。



苗木「利用できるものは全部使う」

苗木「どんな犠牲を払ってでも、目的を達成する」

苗木「そんなボクが、真っ先に自分の脳を使用していないわけがないじゃないか……!」

霧切「え……?」



『苗木誠』の現実の身体。
そんなものは、もう。



苗木「とっくの昔に、あの脳は計算するだけの装置になっているよ」


183: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:09:27.53 ID:ndKOY7ztO


――――


苗木『……』

苗木『理論上、僕みたいな一般人の脳でも、スーパーコンピューターを超える性能を発揮できるはずだ』

苗木『すべては計算のため』

苗木『舞園さんを、構築するため』

苗木『ああ。これくらいの犠牲、喜んで払うよ』

苗木『だから……』

苗木『あとは頼んだよ、僕』

ナエギ『うん。任せて、ボク』



超高校級の脳と比べれば取るに足らない、一般人の脳だけど。



苗木『それでも、僕の脳は』

ナエギ『それでも、キミの脳は』



確かに、『希望』の為の礎となるだろう。


――――


184: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:09:54.02 ID:ndKOY7ztO


十神「なん、だと……?」

モノクマ「おやおやまあまあ」

苗木「ボクは、アルターエゴをベースとした『苗木誠』のコピーさ。そこの江ノ島盾子と同じでね」

霧切「……嘘、でしょう?」

苗木「本当だよ」


霧切さんと十神くんが目を見開く。
ああ、だから、君たちはボクを正しく理解していないんだ。


モノクマ「やっぱりね。そんなことだろうと思ったよ」

苗木「ボクの理解者はモノクマだけ、か」

モノクマ「前に言った通りでしょ? うぷぷぷ!」


さて、それじゃあ。


185: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:10:21.94 ID:ndKOY7ztO


苗木「そろそろ貰おうか。その超高校級の脳を」スッ

霧切「……!」


実際、彼らの脳は優れている。
異常とも言える狛枝凪斗や、これ以上ないほどに手を加えられた日向創を除けば、最高級の物だろう。


苗木「……」



なのに、どうして。



霧切「苗木、くん……?」



『私は、苗木くんを信じてもいいと思うわ』

『一週間ほど過去に戻る装置か。くくっ、面白い』



どうして今さら、あの頃のことを思い出してしまうのか。


186: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:10:57.96 ID:ndKOY7ztO


苗木「っ……」ギリ…

モノクマ「あれ?」

苗木「く、そ……」


わからない。
わからない。
自分がわからない。

『苗木誠』が、わからない。


苗木「――――転移……!」


なんとか絞り出したコマンドは、ただの問題の先送り。


苗木「対象、『霧切響子』、『十神白夜』……地点、『希望ヶ峰学園校舎』……!」


ジジ…


187: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:11:28.79 ID:ndKOY7ztO


十神「なっ、おい……!」

霧切「待って、苗木く――――」


ヴヴ…シュゥン…


苗木「……」

モノクマ「ふうん。なるほどねえ」

苗木「なん、だよ……」

モノクマ「べっつにー? ただ、ちょっと意外だったかな」

苗木「……」

モノクマ「『希望ヶ峰学園校舎』って、あの遺跡の中でしょ? なんでそんなところに?」

苗木「あそこなら、コロシアイに干渉される心配はない」

モノクマ「それが目的なら、本当に脳を奪っちゃえばよかったのに」ニヤニヤ

苗木「……じゃあね」シュゥン…


自分でもどうして彼らの脳を奪わなかったのかわからない。
自分のことがわからない。
ボクは、逃げるように転移した。


188: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:12:05.77 ID:ndKOY7ztO


-キリギリキョウコ-


【希望ヶ峰学園 1階教室】


十神「……ふん。あの頃の希望ヶ峰を再現した空間か」

霧切「……」

十神「ログアウト不可。緊急用の権限は無効化されているな」

霧切「……」

十神「当時と同じなら、玄関ホールの扉が外へと繋がっているはずだが……」

霧切「苗木くん……」

十神「おい、霧切」

霧切「何かしら?」

十神「ここで立ち止まっている時間はない。わかっているな?」

霧切「……ええ」


189: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:13:02.60 ID:ndKOY7ztO


私達は苗木くんのことを理解できていなかった。
自分の脳すら犠牲にしたなど、壊れているとしか思えない。


霧切「動かないことには何も始まらないわね」

十神「ああ。懐かしい探索の時間だ」


彼に会いたい。話をしたい。
彼を止めたい。
そして、できるなら……


霧切(彼を、救いたい)


例え、彼が私の知る苗木くんでなくなっていたとしても。
例え、アルターエゴをベースとしたプログラムに成り下がっていたとしても。


霧切(私達を絶望の淵から引っ張り上げたのは、間違いなく彼なのだから――――)


190: ◆3Exch9p5tM 2015/10/14(水) 21:17:39.54 ID:ndKOY7ztO

表記は今後も苗木で。
4章ちょっと書くのに時間かかるかもしれないです、すみません


194: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:03:10.62 ID:BRykfauiO


-ナエギマコト-


夢を見た。


キイィーーン…

…ピピッ


苗木「……え?」

苗木「いや、まさか……そんな……」


「う、うーん……」


苗木「あ……」


「あれ……苗木くん……?」


苗木「舞園……さん……?」

舞園「はい。そうですけど……ここ、どこですか?」


とても優しい、夢を見た。


『――――れ』


195: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:03:42.10 ID:BRykfauiO


苗木「ほ、本当に……舞園さん……?」

舞園「ふふっ。他の誰に見えるんですか?」


苗木誠からコピーした思考回路に残った、心のようなモノの残滓。
それが、これは本物だと叫んでいる。
これは本当に、舞園さんなのだと。


『――――がくれ』


苗木「でき、た……」

苗木「は……はは……」

苗木「あははははっ……!!」


長い長い繰り返しの果て。
僕は、ようやく舞園さんを造ることが――――


『――――ねえ、葉隠ってば!』


196: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:04:32.94 ID:BRykfauiO


-ハガクレヤスヒロ-


葉隠「うおっ!?」

朝日奈「ちょっと、居眠りしないでよ!」

葉隠「居眠りなんてしてねえぞ!」

朝日奈「はいはい。ちゃんと監視しなきゃいけないんだからね?」

葉隠「わ、わかってるって」


77期生の脳を使って何かの計算をしている苗木っち。
それを止めようと新世界プログラムに侵入した霧切っちと十神っちが、目覚めない。
俺達は、2人の代わりにプログラムを監視していた。


朝日奈「大丈夫かな。霧切ちゃんと、十神と……それと、苗木も」

葉隠「……」

朝日奈「……で?」

葉隠「ん?」

朝日奈「何かあったの?」


197: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:04:59.33 ID:BRykfauiO


葉隠「……どうしてそう思うんだ?」

朝日奈「葉隠が珍しく真剣な顔してるから」

葉隠「いやいや、俺はいつも真剣だべ!」

朝日奈「それはないでしょ」クスクス

葉隠「ひでえ!」

朝日奈「……それで? どうしたのよ」

葉隠「あー……うーん……」

朝日奈「何? 言いにくいこと?」

葉隠「いや……夢を、見たんだ」

朝日奈「さっき居眠りしてたとき?」

葉隠「だから居眠りじゃ……あっはい、すみません……なんつーかよ、嫌な夢だった」


198: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:05:31.29 ID:BRykfauiO


葉隠「苗木っちが、舞園っちに再会するんだ」

葉隠「そんで、とても楽しそうに会話してる」

葉隠「いい夢に思えるだろ? けど、違う」

葉隠「あれは……あの、舞園っちは……ただの人形だった」

葉隠「それを苗木っちは、本物の舞園っちだと思い込んでるんだ」

葉隠「モノクマに権限を全部奪われて、意識を書き換えられて、人形のことを舞園っちだと思い込んで……」


とても嫌で、残酷で。
けれど、優しい夢だった。


朝日奈「それは……嫌な夢だね……」

葉隠「……」

朝日奈「葉隠?」

葉隠「苗木っち……嬉しそうだったべ」

朝日奈「えっ?」


199: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:05:57.77 ID:BRykfauiO


葉隠「すごく、嬉しそうだったんだ……今みたいに、作り笑いなんかしてなかった……」

朝日奈「……」

葉隠「きっと、舞園っちに会いたかったんだな。この2年間、ずっと」

朝日奈「……私だって会いたいよ。舞園ちゃんや、さくらちゃんに、私だって会いたい。けど、それは無理だよ……」

葉隠「ああ……」


死者は生き返らない。
死者にはもう会えない。
限りなく彼らに近いアルターエゴも、彼らそのものではない。

けれど。


葉隠「苗木っちのやろうとしてることって……」

葉隠「……まさかな」

葉隠「あー、考えるのは俺には合わん! こういうのはやっぱ十神っち達の仕事だべ!」


200: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:06:24.02 ID:BRykfauiO


朝日奈「あっ、ちょっと葉隠! ほら、動きがあるよ!」

葉隠「ん? あー、新しい島か」

朝日奈「あそこは確か……遊園地だっけ?」


またモノクマは殺し合いの動機を提示するのだろう。
そう考えると憂鬱になる。
嫌でもあの殺し合い学園生活を思い出させられるからだ。

そして、俺を憂鬱にさせることがもう一つ。


葉隠(外れるといいな……)


あんな夢、外れて欲しい。
俺は、7割の方に賭けて祈ることしかできなかった。


201: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:06:52.72 ID:BRykfauiO


-ナナミチアキ-


【遊園地】


ここは第4の島。
娯楽のためだけに作られた、夢の島。


七海「船のモーターに、未来機関の情報。それと、彼らの過去、か……」

七海「……」

七海「……罠、だよね。また殺し合いをさせるための」

七海「私が止めないと」


じゃないと……
じゃないと、出来損ないの私は『■■』のように処分されて――――


七海「……?」

七海「今、誰のことを思い浮かべ――――」


202: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:07:24.37 ID:BRykfauiO


ノイズが走った。
それはまるで、擦り切れそうなフィルムのような断片的なイメージ。


『違う』


あれは……誰……?


『消去』


あの消されて行くデータは何?
そして……


『……再試行』


そして、また組み上げられて行く私の『■』。
あるいは『■』。
それが、それらがまた『消去』されて、声は私にも向けられる。


『――――115。――――、『七海千秋』』


203: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:07:52.02 ID:BRykfauiO


日向「七海?」

七海「……ん。なに?」

日向「どうかしたか?」

七海「ううん、なんでもないよ」


あんな記録、私のメモリーにはない。
あれは……なんだったんだろう……?


日向「そっか。じゃあ、俺達も探索しようぜ」

七海「うん」

日向「俺達の在学中の情報……絶対に手に入れてやる……!」

七海「……」


日向創。
希望ヶ峰学園予備学科に在籍。
超高校級と呼ばれる特別な才能、無し。

そして、『絶望』の残党だった。


七海(それは……きっと、手に入れない方がいい情報だ……)


――――

――


204: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:08:18.61 ID:BRykfauiO


左右田「おい、本当にこのトロッコに乗るのかよ!?」

日向「ああ。まだ探索してないとこなんて、ドッキリハウスしかないだろ?」

左右田「けどこれ、ぜってー罠だって……」

弐大「問題ない、儂が守ってやるからのぉ!」

田中「クク……我が暗黒の魔力を前に怖気づいたか」

左右田「おめーは黙ってろ」

ソニア「わあ、田中さんカッコいいです!」

田中「……ふん」カァ…

左右田「なんで!?」

西園寺「アホ面の左右田おにいはどうでもいいけどさー。実際、これってすごく怪しいよねー?」

小泉「うん……」

終里「大丈夫だって。俺とパワーアップした弐大のおっさんがいるんだからよ!」

弍大「応よ! ガッハッハ!!」


205: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:08:46.83 ID:BRykfauiO


日向「お前はどう思う? 七海。……それと、狛枝も」

七海「……」

狛枝「僕は、君たちの決定に従うよ。ふふ」

日向「七海は?」


そんなの、決まってる。
殺し合いを止めるには、そもそも動機を出させなければいい。


七海「私は、反対かな」

日向「……どうしてだ?」

七海「本当に、この先に君の、君達の望むものがあると思う?」

日向「……」

七海「これは罠だよ。私達を殺し合わせるための、新しい動機だよ」


206: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:09:12.81 ID:BRykfauiO


日向「そんなことはわかってる」


ううん、君はわかっていない。
何も、わかっていない。


日向「けど、進まなきゃ何も手に入らないんだ」


手に入るものなんてない。
失うだけだよ。


日向「俺たちの奪われた記憶も……」


それは、君達がまだ受け入れられない記憶だ。
絶望的な過去だ。


日向「ここから出るための船の部品も……」


仮に船のモーターがあったとして。
この海の向こうに、何も在りはしないのに。


日向「前に進まなきゃ、いつまでもこの悪夢は終わらないんだよ……!」


207: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:09:40.03 ID:BRykfauiO


七海「……それでも、私は反対するよ」

七海「仲間をこれ以上、喪いたくないから」

七海「誰も死なせたくないから」


たとえ、君達と真っ向から対立してでも。


七海「ねえ、モノクマ。このトロッコって全員が乗らなきゃ出発しないんだよね?」

モノクマ「うん、そうだね」

七海「だから、私が乗らない限り――――」

モノクマ「けど、やーめた!」

七海「……え?」

モノクマ「キミ達の熱い想いに応えて特例を認めましょう! なんと今なら、七海さんを除く全員の賛同でトロッコを出発させちゃいまーす!」

日向「ほ、本当か!?」

七海「……!」


208: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:10:06.27 ID:BRykfauiO


モノクマ「さてさて。七海さんはどうする?」ニヤニヤ

七海「モノクマ……!」


やられた。
モノクマにとって、人工知能である私はどうでもいい存在だ。
特例で弾いてしまっても何の問題もない。


小泉「……行こう。千秋ちゃん」

七海「小泉さん……」

小泉「日向の言う通りだよ。じっとしてても何も変わらない。これが罠でも、私達は前に進まなきゃ」

七海「けど、っ……」

小泉「だから……私達が危なくなったらまた助けてくれる……?」

七海「……その言い方は、卑怯だよ」

小泉「ふふっ、ごめんね」


209: ◆3Exch9p5tM 2015/11/01(日) 23:10:32.98 ID:BRykfauiO


七海「……くす」

西園寺「あっ! 七海おねぇ、やっと笑った!」

七海「え?」

小泉「気付いてなかったの? ずっと、ずっと難しい顔してたよ」

七海「……うん。そうだね」


モノクマはずっとニヤニヤ笑っている。
ロクなことにはならないだろう。
けれど。


日向「よし。それじゃ、行くか」

七海「……うん」


今度こそ、私が。


七海(どんな手段を使ってでも……!)


211: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:04:20.34 ID:qBiSJCGWo


-ナエギマコト-


苗木「どんな手段を使ってでも、ね……」

苗木「なんというか、子は親に似るってやつかな?」

苗木「学習プログラムである七海千秋が、限定的にとはいえまさか自我のような物を得るなんてね」

苗木「……」

苗木「けど、それはあくまでも真似事にすぎない」

苗木「絶望的な事態に直面して、急速に学習が進もうとも……アルターエゴは人間にはなり得ない」

苗木「人間に至るには、圧倒的に経験が……感情を発露した経験が、足りない」

苗木「あれは人間じゃない……人間になんてなれない……ただの、学習プログラムにすぎないんだ……」


『苗木くん』

『うーん、なんか違う』

『……お父さん』

『うん、この方がしっくりくる。よろしくね』


212: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:04:43.47 ID:qBiSJCGWo


苗木「……」

苗木「はぁ……」

苗木「計算、しなきゃ」スッ…

苗木「……」


霧切さんと十神くんの脳を奪えなかった。


苗木「はは……笑える……」


だって、ボクは……
『苗木誠』は、かつて……


213: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:05:08.33 ID:qBiSJCGWo


苗木「霧切さんも、十神くんも」

苗木「葉隠くんも、朝日奈さんも、腐川さんも」

苗木「桑田くんも、不二咲さんも、大和田くんも、石丸くんも、山田くんも、セレスさんも、大神さんも」

苗木「……そして、舞園さんも」


無意識に、右手が左腕へと伸びる。
『892』という、舞園さんの痛みを忘れないための戒めへと。


苗木「一度は、ボクが殺したじゃないか。他の誰でもない、ボクが……」

苗木「この手で舞園さんを殺して……」

苗木「イレギュラーを減らすために戦刃むくろを見殺しにして……」

苗木「他の皆を騙して、殺したじゃないか」


214: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:05:34.45 ID:qBiSJCGWo


今更、何を躊躇している。
ボクの、ボク達の覚悟は、その程度だったのか?


苗木「……いいや。違う」


もしも、またあの2人がボクの邪魔をするのなら。


苗木「『再試行』」


その時は、今度こそ。


苗木「新たな舞園さんを、構築せよ――――」


もう一度ボクの手でキミ達を殺して、脳を奪う……!


キイィーーン…


ズキ…


――――

――


215: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:06:04.55 ID:qBiSJCGWo


-ヒナタハジメ-


日向「……」

日向「……」

日向「腹、減ったな……」


トロッコに乗り、ドッキリハウスに閉じ込められてから2日。
食料がない。腹が減る。気が狂いそうになる。
この建物から出るには、誰かが誰かを殺すしかないのか……?


日向「そんなことに、なるくらいなら……」


いっそ、皆で――――


日向「……いや、待てよ」

日向「そうだ、あるじゃないか……まだ、探索していない場所が……」

日向「間違いない……あそこに、ファイナルデッドルームに、出口が――――」


そして、俺の過去が……!


七海「ないよ」


216: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:06:32.15 ID:qBiSJCGWo


日向「七海……?」

七海「様子がおかしいから、もしかしてと思ってついてきたんだけど……やっぱりね」

日向「な、なんだよ……」

七海「その部屋に、君が求めるものはないよ」

日向「なんで、そんなこと言い切れるんだよ!」

七海「……経験則、かな」

日向「はあ?」

七海「このドッキリハウスに来ても、希望はなかったよね。日向くん」

日向「それは……だって、まだ探してない場所が……!」

七海「モノクマの言ったことを思い出して。この先にあるのは、人を殺す凶器だよ」

日向「っ……」


217: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:06:59.61 ID:qBiSJCGWo


七海「君にそんな物は必要ない。部屋に戻ろう。ね?」

日向「……そうだな。寝て、頭冷やしてくる……」

七海「うん」

日向「……七海」

七海「ん?」

日向「ありがとな」

七海「どういたしまして。ふふ」


頼りになる。
そう思った。
七海だって辛いはずなのに、そんなのは顔に出さず。
今までみたいに、殺し合いを止めるために頑張ってる。


日向(助けられてばかりだな……本当に、感謝してる……)


218: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:07:27.02 ID:qBiSJCGWo


-ナナミチアキ-


よかった。
うまく日向くんを説得できたみたい。


七海「よかった」

七海「本当によかった」

七海「……日向くんに、邪魔されなくて」


どんな手段を使ってでも、彼らを救う。
そのためなら、私は……


七海(条件1。殺し合いが起きるまで、私達はここから出られない)

七海(条件2。ここでは食料は供給されず、外に出ないと餓死してしまう)

七海(条件3。ファイナルデッドルームをクリアすれば、極上の凶器が手に入る)


そして、条件4。

『自殺でも学級裁判は開かれる』


219: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:07:53.57 ID:qBiSJCGWo


つまり、自殺は殺し合いとして判定されるということ。
これらを総合すると。


七海(……私が自殺すれば、彼らは助かる)


彼らと同等の一般権限しか持たない今となっては、1度しか使うことのできない裏技。
この先の殺し合いに干渉できなくなる禁じ手。
けど、それでも。


七海「今回、モノクマは直接的な手段に出た」

七海「つまり、用意した動機が尽きてきたということ……だと、思う」

七海「だから……」

七海「今は、このドッキリハウスから出ることを最優先に行動……するべきなんだ……」


怖い。
死ぬことが、消去されることが、ではない。

怖いのは、彼らを救えないこと。


220: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:08:22.34 ID:qBiSJCGWo


七海「救わなきゃ……」

七海「じゃないと、私は……私の、存在価値は……」


『――――出来損ない』


七海「だから……私は……」


俯いていた視線を上げる。
目の前には、趣味の悪いピエロが描かれた扉。


七海(ファイナルデッドルームに、行かなきゃ……)

七海(そして……極上の凶器を……!)


全ては、彼らを救うために。
そしてこの不安から、恐怖から、何より絶望から、解放されるために――――


小泉「行かせないよ。千秋ちゃん」


そして、そんな彼らの1人に腕を掴まれた。


221: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:10:10.97 ID:qBiSJCGWo


七海「小泉さん……?」

小泉「こんな時間に、こんなところで、何をしてるのかな。千秋ちゃん」

七海「……」

小泉「まあ、目的は1つしかないよね」


そう言い、小泉さんはファイナルデッドルームの扉に視線を向ける。


小泉「ねえ、千秋ちゃん。何をしようとしていたの?」

七海「……」

小泉「極上の凶器を手に入れて……誰かを殺そうとした?」

七海「っ……、違う……!」

小泉「うん。知ってる」

七海「え……?」


222: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:10:36.83 ID:qBiSJCGWo


小泉「千秋ちゃんがそんなことするわけないって、知ってるよ」

小泉「あたし、信じてるから」

小泉「あたしのことを必死に助けてくれた、千秋ちゃんのこと」


やめて。
やめて、お願い。
そんな真っすぐに……私の目を見ないで……


小泉「ねえ、千秋ちゃん。まさか、自殺してあたし達をここから出そうとか思ってないよね?」

七海「ッ……!」

小泉「やっぱり」

七海「なん、で……」


223: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:11:03.88 ID:qBiSJCGWo


小泉「千秋ちゃんは優しすぎるから。あたし達のためなら、自分を犠牲にしちゃうくらいに……」スッ

七海「あ……」


小泉さんに抱きしめられた。
暖かい。
『暖かい』という感情を、今、私は感じている。


小泉「ごめんね。ここまで追い込まれてるのに気付かなくて」

七海「わ、私は……皆を助けなきゃ……」

小泉「千秋ちゃんを犠牲にして助かるなんて、嫌だよ」

七海「だ、だって……じゃないと、私は……」


私は、出来損ないの失敗作に――――


224: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:11:30.44 ID:qBiSJCGWo


小泉「千秋ちゃんは出来損ないなんかじゃないよ」

七海「……!」

小泉「だって、あたしを助けてくれたじゃない」

七海「あ……」

小泉「皆を救うことはできなかったかもしれない。けど、あたしは千秋ちゃんに救われたんだよ」

七海「……」

小泉「たとえ何があっても、あたしは最後まで千秋ちゃんを信じる。あたしはずっと、千秋ちゃんの味方だよ」

七海「小泉さん……」

小泉「だから、1人で全部背負わないで。皆で生き残る道を探そう?」


225: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:11:57.06 ID:qBiSJCGWo


ふと、彼らが『希望の象徴』と呼ばれていたことを思い出す。


七海「……うん」


彼らとなら。
小泉さんとなら、この殺し合いを終わらせることだってできる。
そう思った。


――――

――


ピンポンパンポーン


『死体が発見されました!』

『一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!』

『あ、オマエラお腹空いてるだろうから、あんパンと牛乳あげるよ。うぷぷぷ!』


226: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:12:23.41 ID:qBiSJCGWo


-コマエダナギト-


カチリ


狛枝「どうやら1/6の確率を引き当てたようだね。なかなか楽しいゲームだったよ」

モノミ「あわわわわ!?」

狛枝「さて。これでファイナルデッドルームはクリア、ってことでいいのかな?」

モノクマ「……」

狛枝「モノクマ?」

モノクマ「……ああ、うん。クリアどころか完全クリアだよ。おめでとう」

狛枝「じゃあ、極上の凶器とやらを――――」


ガシャンッ…


モノクマ「はい、その向こうにあるよ。それとこれ、ロシアンルーレットが高難易度だったご褒美ね。あとモノミは隔離、っと」

モノミ「はわわわ、なんであちしだけ!? 待って、待ってくだしゃい狛枝くーんっ!」


227: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:12:50.00 ID:qBiSJCGWo


狛枝「何これ。ファイル?」スタスタ

モノクマ「キミ達の奪われた過去だよ。それじゃあね」

狛枝「ねえ、モノクマ」

モノクマ「なに?」

狛枝「どうしてそんなに急いでるんだい?」

モノクマ「これから忙しくなりそうなんだよねえ」

狛枝「ふうん……」

モノクマ「じゃ、そういうことで!」サッ

狛枝「……行っちゃったか」


それにしても。


228: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:13:24.38 ID:qBiSJCGWo


狛枝「なるほど。極上の凶器って、こういうことか」

狛枝「そして……」

狛枝「超高校級の絶望に、絶望の残党……そして、予備学科……」

狛枝「……絶望的だね」


希望の象徴だと思っていた彼らの正体。
まあ僕も同じなんだけど。

こんな彼らの脳なら、犠牲にしてしまっても――――


狛枝「ッ……!」ズキ


頭が痛い。
まただ。
最近、頭痛が増えてきた。


229: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:13:50.98 ID:qBiSJCGWo


狛枝「今、何を考えていたんだっけ……」


霧散した思考の代わりに思い浮かぶのは長髪の男。
どこか懐かしいその男は、確か、そう。


狛枝「口が動いていた。彼は、何かを伝えようとしていた……?」


いつ、どこで、何を僕に伝えようとしていたのか。
わからない。
何か、忘れちゃいけないことを忘れている気がする。


狛枝「なんなんだろうね、これ。はは……」

狛枝「まあいいか……今は、彼らを見極めないと……」


230: ◆3Exch9p5tM 2015/11/08(日) 02:14:17.66 ID:qBiSJCGWo


-エノシマジュンコ-


モノクマ「……」

モノクマ「……うぷっ」

モノクマ「うぷぷぷぷ!」

モノクマ「鍵は揃った、といったところかな」

モノクマ「あの情報を手に入れた狛枝くんも動くだろうし……うぷぷ……!」

モノクマ「そうなると、この弍大くん、いやメカ弍大くん殺しの裁判はただの前座だね」

モノクマ「ま、チャチャっと終わらせて貰いましょうか。アーヒャッヒャッヒャ!」


233: ◆3Exch9p5tM 2015/11/15(日) 18:02:29.47 ID:Kk+S5/hEO


-ナナミチアキ-


弍大くんが殺された。
バラバラになった。
殺された。殺された。殺された。
壊された。


七海(けど……)

七海(弍大くんと、弍大くんを殺した犯人)

七海 (その2人の犠牲で、私たちはここから出ることができる)

七海(……正しい犯人を指摘することができれば、だけど)


生き残った側の彼らのことしか考えていない自分が嫌になる。
そして、本当にこれでよかったのか不安になる。
やっぱり私が自殺するべきだったのではないか、と。


234: ◆3Exch9p5tM 2015/11/15(日) 18:02:56.60 ID:Kk+S5/hEO


七海「……今は、この学級裁判に集中しないと」

モノクマ「そうそう。前座とはいえ、一応キミ達の命がかかってるんだからね」

日向「前座、だと……?」

モノクマ「おっと失言。気にしないでよ。うぷぷ……」ニヤニヤ

狛枝「……」

小泉「ね、ねえ、それよりさ……」

モノクマ「んー?」

小泉「朝から日寄子ちゃんがいないんだけど、このまま学級裁判始めるの……?」

終里「おっ? そういやいねーな、あいつ」

モノクマ「ああ、西園寺さんは欠席ですよ」

日向「欠席?」


235: ◆3Exch9p5tM 2015/11/15(日) 18:03:38.12 ID:Kk+S5/hEO


モノクマ「うん。ここの生活、あの体格の彼女にはだいぶ厳しかったみたいでさあ」

ソニア「西園寺さん……」

田中「ククク……奴は選ばれし者ではなかった。それだけのことだ」

左右田「お前はほんとブレねーな……」

モノクマ「そこで、殺人ドクターモノクマ先生によるドクターストップがかかったのです! ボクって優しいなあ!」

七海「……」


なんて、白々しい。
西園寺さんが倒れたとして、それはモノクマのせいだというのに。
握りしめた拳に力がこもる。

そんな中、彼はどこか冷めていた。


236: ◆3Exch9p5tM 2015/11/15(日) 18:04:04.83 ID:Kk+S5/hEO


狛枝「いない人のことはどうでもいいでしょ。さっさと始めようよ、学級裁判を」

小泉「あんた……!」

日向「おい、そんな言い方はないだろ!」

狛枝「うるさいなあ、予備学科の日向くんは」

日向「っ……!」

狛枝「僕は今、見極めなきゃいけないんだ。そんなことに構ってる余裕はないんだよ」

七海「見極める……?」

狛枝「ああ。だからこれは、僕にとっても正しく前座なんだよ。大切な前座、だけどね」


そして学級裁判が始まり、いつものように終わる。


――――

――


237: ◆3Exch9p5tM 2015/11/15(日) 18:04:32.84 ID:Kk+S5/hEO


モノクマ「大正解! メカ弍大くんを殺したクロは田中くんでしたー!」

ソニア「そ、そんな……」

日向「田中……なんでお前が……!」

終里「てめーが弍大のおっさんを……!」

田中「ふん。弍大は負け、俺が勝った。それだけの話だ」

左右田「それだけの話って……まじかよ……」

小泉「……ねえ。もしかしてあんた、この状況を変えるために……」

田中「知らんな。だがまあ、貴様らはこの俺の屍を踏み越えるがいい。フハハハハッ! ……そして、生きることを諦めるな」

七海「……」


弍大くんが死に、田中くんも処刑される。
代わりに私達はここから出ることができる。
無駄にしちゃいけない。
彼らの犠牲を、意味のないものにしちゃいけない。


238: ◆3Exch9p5tM 2015/11/15(日) 18:05:13.23 ID:Kk+S5/hEO


モノクマ「あ、ところでさあ」

日向「なんだよ、モノクマ……」

モノクマ「そろそろ西園寺さんを返しておこうかと思って」

小泉「日寄子ちゃんを?」

狛枝「……このタイミングで、かい?」

モノクマ「そう! 今がベストタイミングなのです!」ピッ


ガコン…


モノクマの横の床が口を開き、台座が上がってくる。
そこに横たえられているのは。


七海「えっ……?」


頭から大量の血を流す、生気をなくした西園寺さんの姿だった。


239: ◆3Exch9p5tM 2015/11/15(日) 18:05:47.79 ID:Kk+S5/hEO


モノクマ「ピンポンパンポーン。死体が発見されました。一定の捜査時間の後、学級裁判を始めます、なんてね!」ゲラゲラ

田中「なん、だと……?」

日向「西園寺!?」

小泉「日寄子ちゃん……!」

左右田「ぎ、ぎぃやあああああああ!!?」


第2の死体。
超高校級の日本舞踏家、西園寺日寄子の死体が、そこにあった。


ソニア「な、何故です! 西園寺さんは体調不良だったのでは!?」

モノクマ「うん。死亡っていう特大級の体調不良だったんだよねえ」ニヤニヤ

終里「てめえ!!」

モノクマ「おっと、ボクのせいじゃないよ? これはある意味、西園寺さんの自殺なんだからさ」


240: ◆3Exch9p5tM 2015/11/15(日) 18:06:26.69 ID:Kk+S5/hEO


狛枝「……ああ、そういうことか」

七海「狛枝くん……? ど、どういうこと……」

狛枝「死因は恐らく、頭を銃で撃たれたから。それで『ある意味で自殺』となると、ファイナルデッドルームのロシアンルーレットに失敗したんだろうね」

七海「ファイナルデッドルームの……?」

モノクマ「またまた大正解! 西園寺さんを殺したクロは、他でもない西園寺さん本人でした! 最後の最後でついてないよねえ」

日向「モノクマッ!!」

モノクマ「おっ? 暴力かい? 学園長に暴力振るっちゃうのかい?」

日向「くっ……!」


待って。
待って。
ファイナルデッドルームで……
ロシアンルーレット失敗による、『ある意味で自殺』。
モノクマはそのあと、何て言った……?


『またまた大正解! 西園寺さんを殺したクロは、他でもない西園寺さん本人でした!』


241: ◆3Exch9p5tM 2015/11/15(日) 18:06:53.78 ID:Kk+S5/hEO


七海「もしかして……今の、学級裁判と同じ扱いだった……?」

モノクマ「うぷぷ、目敏いねえ。そうだよ。自殺も学級裁判になるって、キミ達知ってるでしょ?」


モノクマが言うには。

まず、田中くんがファイナルデッドルームをクリアし、弍大くんを呼び出した。
その時、ファイナルデッドルームには田中くんと入れ替わるように西園寺さんがやって来ていた。
弍大くんが眠らされている間に、西園寺さんは謎を解き、ロシアンルーレットに挑んだ。


モノクマ「で、1/6のハズレを引いて死亡したってわけですよ。ちゃんちゃん」

モノクマ「西園寺さんが死んだ時点で弐大くんは生きてたんだけどね」

モノクマ「先に弐大くんの死体が発見されたから、余計な混乱を招かないように西園寺さんの死体は隠してたわけ。ボクって親切でしょ?」


それが、この悲劇の真相。


七海「そんな……それじゃあ……」


錆びついたように動かない首を無理やり回し、田中くんを見る。


242: ◆3Exch9p5tM 2015/11/15(日) 18:07:29.67 ID:Kk+S5/hEO


田中「……問おう。俺の、戦いは?」

モノクマ「無駄骨だね」

田中「弍大の死は……?」

モノクマ「無駄死にだね」

田中「で、では……俺が……やった、ことは……」

モノクマ「無駄に死体を2つに増やしただけだったね。あ、もうすぐ3つになるか!」


ウィーン…


モノクマ「ではいきましょうか。超高校級の飼育委員である田中くんのために!」

田中「……ク、ククク……フハハハ!」

モノクマ「スペシャルな! おしおきを!」

田中「なんたる道化! 俺が! この俺が……!!」

モノクマ「用意させていただきましたー!!」ポチッ

田中「……俺は、一体何のために――――」


意味のない殺人だった。
意味のない裁判だった。
そして、意味のない処刑が始まる。


243: ◆3Exch9p5tM 2015/11/15(日) 18:08:20.28 ID:Kk+S5/hEO


七海「嘘だ……こんなの……」


これが、無意味で無価値な、田中くんの最期。


七海「私、が……」


私が、あの時、小泉さんに止められなければ。
田中くんがファイナルデッドルームに来る前に、死んでいたならば。
そしたら、3人は助かったのに。


七海「私のせいで……彼らは死んだんだ……」


膝から崩れ落ち、冷たい床に座り込む。


七海「……ああ、そうか」


これが、『絶望』という感情なんだ。


『タナカくんがクロにきまりました』
『おしおきをかいしします』


――――

――


244: ◆3Exch9p5tM 2015/11/15(日) 18:08:52.44 ID:Kk+S5/hEO


-ナエギマコト-


苗木「何のために?」

苗木「ボクのために、じゃないかな」


日本舞踏家。
マネージャー。
飼育委員。


苗木「まさかここにきて3つの脳が同時に手に入るなんてね」

モノクマ「キミならそう言うと思ったよ」ヴゥン…

苗木「モノクマ……」

モノクマ「実はこれ、キミへのちょっとしたプレゼントなんだよね」

苗木「……」


245: ◆3Exch9p5tM 2015/11/15(日) 18:09:41.57 ID:Kk+S5/hEO


モノクマ「だから、狛枝くんの行動を制限しないでもらえるかな? あのファイルはキミとは無関係に渡した物だからさ」

苗木「……まあ、いいよ。それくらいなら」


どうせ、脅威になることはない。
むしろ彼が行動することは『幸運』か『希望』の脳を手に入れるきっかけになるかもしれない。


モノクマ「感謝するよ。じゃ、ボクは忙しいから。またね~」シュウン…

苗木「……ふん。何を企んでいるのかは知らないけど」


この電脳空間で。
いや、世界の何処を探したって、ボクを止められる存在なんていない。
何処にも、いないんだ……


ズキ…


248: ◆3Exch9p5tM 2015/11/23(月) 23:31:21.79 ID:vzBD9xp3O


-コマエダナギト-


狛枝「……」

狛枝「『11037』、か……」

狛枝「モノクマにもらった『前回』の資料によると、舞園さやかが苗木誠に残したダイイングメッセージらしいけど」

狛枝「それが『鍵』になっていたってことは、本来の修学旅行の黒幕とも言うべき人物は、苗木誠なのかな」


形式だけの自問自答。
僕はすでに、その答えを知っている。


ズキ…


狛枝「……っと」

狛枝「着いたみたいだね」



【希望ヶ峰学園3階】

【物理室】


249: ◆3Exch9p5tM 2015/11/23(月) 23:31:48.23 ID:vzBD9xp3O


ゴウンゴウン…


物理室に入った僕の目に飛び込んできたのは、低い音を発する大きな機械だった。
電灯に引き寄せられる蛾のように。
予め脳に刷り込まれていたかのように、ここに辿り着いた。


狛枝「『幸運』による直感か、それとも……」

狛枝「どこかでサブリミナル広告でも見たのかな? あはは」

狛枝「それにしても……なんだろうね、この機械は」

狛枝「ねえ、モノクマ?」

狛枝「……」

狛枝「……」

狛枝「……やっぱり、モノクマでもこの遺跡には入って来れないか」


遺跡。
希望ヶ峰学園校舎という遺跡。


狛枝「こんな異常を目の当たりにしても、それが当然のように思えてしまうなんてね」


ズキ…


250: ◆3Exch9p5tM 2015/11/23(月) 23:32:29.52 ID:vzBD9xp3O


狛枝「さて、と……」

狛枝「直感にしろ、作為的なものにしろ、僕がここに来たことには何か意味があるはずだ」

狛枝「とりあえず、あの機械でも調べてみようか」


独り言を呟きながら、中央にある大きな機械に近づく。


狛枝「こんな空気清浄機はどうでもよくて……」


その、後ろ側。
他の機械や道具から少し離れたところに、『それ』はポツンと置かれていた。


狛枝「直感を信じるということは、僕の幸運を信じるということ」


座り、ヘルメットのようなものを頭に着ける、
そして。


狛枝「だからこれも、『希望』へと続く布石なんだ。きっとね」


これ見よがしに取り付けられているスイッチを押した。

ポチッ


251: ◆3Exch9p5tM 2015/11/23(月) 23:32:59.84 ID:vzBD9xp3O


Starting TM Version 0.10...............
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アクセス権限ガアリマセン

アクセス権限ガガアリマセンンンン

アクセス権限ガガガガgagagaアリマセセセセセセセセンンンンンnnnnnnnnnnnnnnnnnn


252: ◆3Exch9p5tM 2015/11/23(月) 23:34:35.40 ID:vzBD9xp3O


Starting TM Version 0.10

Starting ?M Version 0._0

Starting ?mmm Version 0._ ???...............
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The proggrrram is readyyyy……



――――

――


253: ◆3Exch9p5tM 2015/11/23(月) 23:35:08.84 ID:vzBD9xp3O


-キリギリキョウコ-


【希望ヶ峰学園4階】

【情報処理室】


霧切「……?」

十神「どうした?」

霧切「今、何か聴こえた?」

十神「いや、何も」

霧切「そう……」

十神「モニターには何も映っていない。気のせいだろう」

霧切「……そうね。さて、そろそろ探索に戻りましょうか」

十神「ああ」


254: ◆3Exch9p5tM 2015/11/23(月) 23:35:35.00 ID:vzBD9xp3O


-ナナミチアキ-


七海「どうしてだろ」

七海「こんなにも辛いのに、それでも月を綺麗だと感じるなんて」


夜は好きだ。
皆寝てしまっているから。
この夜に何も起きなければ、また新しい1日を迎えられるから。

夜は怖い。
殺し合いがあったのは大抵夜だから。
この夜に殺人が起きれば、また新しい裁判が私達を待っているから。


七海「もう『絶望』はたくさんだ」

七海「だから……」

七海「私は、君を止めるよ。狛枝くん」

狛枝「……」



【第2の島】

【遺跡前】


255: ◆3Exch9p5tM 2015/11/23(月) 23:36:04.58 ID:vzBD9xp3O


狛枝「待ち伏せしてたんだ」

七海「うん。君がパスワードを消してしまったせいで、私は入れなかったからね」

狛枝「……君、パスワードを知らなかったの?」

七海「そうだけど。それがどうかした?」

狛枝「へえ……ふふっ、あっははははは! 傑作だね!」

七海「……何が?」

狛枝「そうか。知らされていなかったんだ。くっ、ふふっ」

七海「……」

狛枝「ごめんごめん。『彼』の仲間である君が知らされていないとは、さすがに思わなくてね」

七海「……あの夜の記憶が戻ったの?」

狛枝「あの夜? なにそれ」


七海(苗木くんの『処置』は解けてない……なら、どうして……?)


256: ◆3Exch9p5tM 2015/11/23(月) 23:36:43.52 ID:vzBD9xp3O


狛枝「おっと。君に構っている暇はないんだった。じゃあね」

七海「行かせないよ。君には何もさせない」

狛枝「ふうん」

七海「邪魔されたくないなら私を殺して。君に殺されそうだっていう書置きを残したから、裁判はすぐ終わるだろうけど」

狛枝「……言いたいことはそれだけ?」

七海「私は本気だよ」

狛枝「はぁ……これだから……」

七海「だから、狛枝く――――」



狛枝「さすがは『出来損ない』だよね」



七海「……え?」


257: ◆3Exch9p5tM 2015/11/23(月) 23:37:41.75 ID:vzBD9xp3O


狛枝「『彼』がパスワードを教えないのもわかるよ。君に、この中は見せられない」

七海「な、んで……」

狛枝「こんなのが仲間だなんて、心の底から同情するよ」

七海「その、呼び方を……」

狛枝「ん? ああ、確か……」

七海「や、め……」


ノイズ塗れの記憶。
その中でも、殊更恐ろしかった気のするその言葉。
あのときと同じ声、同じ振る舞いで。
ああ、今なら、あの言刃を思い出せてしまう。
あの時、苗木くんが言ったのは――――


狛枝「『失敗……どころじゃないね。これは……今まででも最悪の出来損ないだな……No.115』」


七海「やめてッ!!!」


258: ◆3Exch9p5tM 2015/11/23(月) 23:38:08.35 ID:vzBD9xp3O


最悪の出来損ない。
あまりにもかけ離れた何か。
造られた瞬間から間違っているプログラム。
それが私。


七海「私は……私の存在意義は……」


この修学旅行を無事に終えること。


七海「違う……そうじゃない……」


それは、本来の存在意義じゃない。
消去されるはずだった出来損ないを、ちょうどいいから流用しただけ。


七海「私は……何……?」

狛枝「だから、出来損ないだってば。じゃあね」


そう言って立ち去る狛枝くんを止めることすらできない。
私にできるのは、地面に座り込んで夜空を仰ぎ見ることだけ。
こんな時でも、月は変わらず綺麗だと思った。


262: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 17:45:42.39 ID:tQKjd7WjO


――――


「予定調和ですね」

「予測から外れた部分はあれど、大局に影響はないでしょう」

「九頭龍冬彦が死に、小泉真昼が生き残った」

「けれど、それで何が変わるわけでもない」

「彼らの誰が死に、誰が生きようと、狛枝凪斗は自らを殺す」

「彼なりの信念に従って」

「なれるわけもない希望に憧れて」

「……長いようで短かった」

「もう少し」

「もう少しで、この空虚も満たされるのだろうか」

「……」

「ああ、けれど」

「予定調和にすぎるというのも――――」


ツマラナイ。


-カムクライズル-


――――

――


263: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 17:47:30.37 ID:tQKjd7WjO


-コマエダナギト-


ズタズタに切りつけた脚が痛い。
ナイフで貫かれた掌が痛い。


(はは……もう少し遅く準備してもよかったかな……)


身体中を傷付け、声を出してしまわないよう口を塞ぎ、そして今にも自らを殺さんとする槍を支える。


(文字通り、死ぬほど辛いね……)

(けれど、これで『裏切り者』である七海さん以外を処刑台に送ることができる)

(絶望の残党を殺し、彼らの脳を苗木誠に捧げるんだ)

(その代償が僕の命1つだっていうなら、安いものだよね)

(生き残るのは苗木誠に造られた七海さんだけでいい。彼女の脳なんて使い道もないんだし)


けれど。
あれ?


(処刑された彼らの脳を苗木誠に捧げて、それで……)

(そんなもの、どうするんだろう?)


264: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 17:48:00.94 ID:tQKjd7WjO


何かがおかしい。
どこかが決定的に間違っている。


(わからない)

(この違和感の原因が、わからない)

(何かがおかしいと気づいているのに、同時にそれが当たり前だと錯覚しているような)


自分も彼らも死ぬというのに、その脳が機能を止めることを想像できない。
歳の近い苗木誠が七海千秋の親であることをおかしいと思えない。
希望ヶ峰学園の校舎がジャバウォック島にあっても大して驚かなかった。

そして、この視界を埋め尽くすエラー表示すら受け入れてしまっている。


ERROR!

ERROR!

ERROR!


そのエラー表示に手を伸ばしたくなる。
プログラムの穴を拡げ、一つ上の領域を侵したくなる。


(おかしい……ような、おかしくないような……)

(僕の深層意識が……何かを受け入れている……?)



モノクマ「何もおかしくないよ。ねえ、苗木くん?」


265: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 18:29:22.90 ID:tQKjd7WjO


モノクマ「おーい。見てるんだろー?」フリフリ


モノクマ……?


モノクマ「それにしても、キミってなかなかにエキセントリックだよねえ」

モノクマ「こんな殺し方、いや殺され方、見たことないよ!」


なんの用だろう。


モノクマ「この目で見届けようと思ってね」

モノクマ「まさか、自分から彼に脳を捧げようとするなんて! アーハッハッハ!」


僕の脳なんていくら差し出したって構わないけれど。
けど、本当にそんなものどうするのだろう。
死体の脳なんて何にも使えないだろうに。


モノクマ「キミは気にしなくていいよ。うぷぷ……」


わからない。
わからない。


266: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 18:31:45.42 ID:tQKjd7WjO


ボッ…


いろいろ考えているうちに、部屋に火が着いた。
ああ、もう少しだ。
もう少しで、僕は『希望』になれるんだ――――


モノクマ「ねえ、苗木くん」

モノクマ「もしもさあ」

モノクマ「もしも、『超高校級の幸運』と『超高校級の希望』の脳でも無理だったらどうする?」ニヤニヤ

モノクマ「永遠に計算し続ける?」

モノクマ「ずっとずっと、計算し続ける?」

モノクマ「それこそ、世界が滅ぶまでかな? うぷぷぷぷっ!」


――――

――


『死体が発見されました!』

『一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!』

『あ、ボクは用事あるから資料渡したら帰るね』

『んじゃ、頑張ってねー』


267: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 19:09:42.91 ID:tQKjd7WjO


-ナエギマコト-


苗木「……待っていた」

苗木「この時を、待っていたよ」

苗木「狛枝凪斗の、全てを道連れにした自殺……」

苗木「これで77期生の脳が揃う」

苗木「『幸運』も、『希望』も手に入るんだ」


『もしも、『超高校級の幸運』と『超高校級の希望』の脳でも無理だったらどうする?』


苗木「人の脳の中でも、望みうる最高の性能……」

苗木「できない計算? そんなのない……あるはずがない……!」

苗木「これでボクは、ようやく――――」


考えたくない可能性から目を背けて、前を見る。
舞園さんにまた会えるという『希望』だけがボクの行動原理。

ああ、けれど。


268: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 19:10:20.07 ID:tQKjd7WjO


苗木「……舞園さんにまた会えたら」

苗木「そしたら……」

苗木「……」

苗木「キミは、ボクを見て何て言うんだろうね」


公平を言い訳に、舞園さんを救えなかった腹いせで仲間を見殺しにした。
全てを利用するため、救うべき先輩達を犠牲にした。
そして『苗木誠』自身も、電子の海に飲み込まれた。


苗木「キミは……ボクを叱るかな……」

苗木「それとも、ただ悲しむかな……」

苗木「それとも……それとも……」


ありとあらゆる舞園さんとの再会をシミュレートする。


苗木「違う……違う……」


幾千の計算によって少しずつ蓄積されたバグデータが、ボクの思い出を侵食する。
舞園さんと話した回数よりも、失敗作を造っては消去した回数の方が多い。


苗木「あはは……もう、わからないよ……」

苗木「どれが正しい舞園さんなのかな……」


それでもきっと、出会えばわかるはずだ。
本当の舞園さんに出会えることができたなら。


269: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 19:20:29.92 ID:tQKjd7WjO


苗木「……そのためにも」


ヴゥン…


苗木「まずは狛枝凪斗の脳を手に入れなきゃね」


【temporary area】


ジジ…

キイィーー…

ジジジ…


苗木「あれが、狛枝凪斗のデータ群……」

苗木「……」

苗木「ところでさあ」

苗木「なんでオマエがここにいるんだよ。モノクマ?」

モノクマ「うぷぷっ」


270: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 19:20:55.80 ID:tQKjd7WjO


苗木「狛枝凪斗のデータに潜り込んでここまで来たようだけど……」

苗木「キミにできることなんてないよ。ボクの邪魔はさせない」

モノクマ「そういう訳にもいかないんだよねえ」

苗木「どうしても?」

モノクマ「もっちろん! 狛枝くんの脳は凡百の超高校級とは違うからね。譲れないよ!」

苗木「超高校級が……凡百、ね……」

モノクマ「このボクから見たらそんなもんさ」

苗木「……コロシアイが終わるまでは放置するつもりだったけど」スッ


ヴゥン…

オオガミ「……」ジジ…


モノクマ「お?」

苗木「もういいよ、キミは十分働いた。後の裁判はボクが進めておく」

オオガミ「――――!」ダッ


271: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 19:21:53.39 ID:tQKjd7WjO


モノクマ「モノケモノ!!」バッ


ヴヴ…ヴゥン…!

ゴゴゴゴゴゴ…!


芸のないモノケモノの軍団。
結果は知れている。

苗木「ふん。そんなもの、何度やっても――――」



モノクマ「無駄だと思ってるでしょ?」



モノケモノ「ギイィアアア!!!」

オオガミ「――――!?」


パキン…


苗木「……は?」

何かが砕ける音がした。


272: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 19:22:19.68 ID:tQKjd7WjO


超高校級の戦闘プログラム。
ボクの知る限り最も強い存在を真似て、その能力を極大化した攻撃及び防衛用プログラム。
人類最強どころか、もはや兵器すら超える化け物。
それが、たかがウサミの権限で作られたプログラムに……敗れた……?


苗木「ッ……! 『再生』、そして『複製』!!」

オオガミ「……」ジジ…


ジジジ…ヴヴ…!


オオガミ「……」

オオガミ「……」
オオガミ「……」 オオガミ「……」
オオガミ「……」 オオガミ「……」 オオガミ「……」 オオガミ「……」


モノクマ「数を揃えれば勝てるとでも? 甘い甘い甘い甘いッ!!」


タタタッ!

タタタタタタタッ!!


苗木「なっ、馬鹿な!?」


イクサバ「……」 イクサバ「……」 イクサバ「……」
イクサバ「……」 イクサバ「……」 イクサバ「……」


モノクマ「行けっ、残姉! キミに決めた!! なんちゃって!」ゲラゲラゲラ


273: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 19:23:00.33 ID:tQKjd7WjO


苗木「どうして……model_【軍人】をオマエが……」

モノクマ「プログラムの穴を突いたんだよ」

苗木「穴? そんなの、あるわけ……」

モノクマ「あるんだなあ、これが」

モノクマ「現実に、キミの頼りのオオガミさんは人間相当のスペックまで弱体化して」

モノクマ「イクサバさんの使用コードは僕に奪われて」

苗木「ふん。対象の権限を凍結――――」

モノクマ「そして、キミのボクに対する優位性も失われた」



ERROR!

コード実行権限ガアリマセン



苗木「ッ!!?」

モノクマ「とは言っても、完全に乗っ取ることはできなかったけどね。いいとこ、同レベルの権限かな」

苗木「なん、で……」

モノクマ「なんでだと思う?」ニヤニヤ

苗木「……」


274: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 19:23:26.75 ID:tQKjd7WjO


モノクマ「さーて、久々に姉妹で共闘といこうか!」

イクサバ「……」カチャ…

苗木「……大神さんはともかく、戦刃むくろモデルのプログラムなんて作るべきじゃなかったね」

モノクマ「そしたら大神さんの方を奪うだけだけどね」

苗木「縁起が悪いって言ってるのさ。やっぱり『絶望』なんて使うべきじゃなかった」


かつて、舞園さんを殺した人が4人いた。
桑田怜恩。
大神さくら。
戦刃むくろ。
……そして、苗木誠。


苗木「ボクにとって戦闘能力の象徴みたいなものだから作ってはおいたけどさ」


嘘だ。
戦刃むくろは、ボクにとって『絶望』の象徴だった。
普段は桑田くんが。それを回避すれば大神さんが。
そしておおよそ殺されそうにないときに舞園さんを殺す、最後の理不尽。
下手をすれば、そう。江ノ島盾子なんかよりも彼女が怖かった。

そんなものを、利用して克服しようと思うのが間違いだったのかもしれない。


275: ◆3Exch9p5tM 2015/12/20(日) 19:24:20.79 ID:tQKjd7WjO


苗木「……ふん」スッ


ズゥンッ…!


モノクマ「……!」

モノケモノ「ギ……ギギィ……」ジジ…

モノクマ「……何をしたのかな?」

苗木「77期生の脳から大量のデータを送ってこの空間に負荷をかけただけだよ。アルターエゴをベースにした人型モデルならともかく、単純な機械モデルじゃ処理が追いつかないでしょ」

モノクマ「せっかく造ったのになあ。しょぼーん」

苗木「それに、オマエも」

モノクマ「ん?」

苗木「無駄なことに処理を割いてる余裕なんてないんじゃない?」

モノクマ「……ま、それもそうだね」ヴヴ…


ヴゥン…!


江ノ島「じゃじゃーん! 久しぶりの江ノ島盾子ちゃーん!」

苗木「戦刃むくろに、江ノ島盾子……今度こそ、打ち破ってやるよ……!」

江ノ島「893度目の正直って感じ? キャハハッ!」


279: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:31:13.27 ID:Wlw4qg2NO


-エノシマジュンコ-


江ノ島「鍵は、『新世界プログラム』の仕組みにありました」

江ノ島「疑問に思ってはいたのです。この世界はどのようにして超高校級の才能を再現しているのでしょうか、と」

江ノ島「希望ヶ峰学園でも……解明されていない才能はあったんです……」

江ノ島「理解不能の異常現象……神の悪戯としか思えない、研究者も匙を投げる理不尽……」

江ノ島「未来予知すら可能にしかねない葉隠くんにー、世界から消失するかのような神代先輩にー」

江ノ島「それにもちろん、異常な運勢を引き寄せる狛枝先輩だねー!」

江ノ島「その原理は私様にもわからない。故に考えたのだ!」

江ノ島「新世界プログラムは、才能を疑似的にしか再現できていないのではないかと!」

江ノ島「それが大正解だったってわけだ」

江ノ島「ファイナルデッドルームで狛枝が引鉄に指をかけた時、引き当てたのは弾丸の込められた弾倉だった。けど次の瞬間、弾丸が消滅しちまったんだよなあ」

江ノ島「そのときボクは気づいたんだ。この世界は、深層意識が『自分なら間違いなくできる』と思っていることを現実に書き換えるんじゃないかって」

江ノ島「これなら解明されていない才能も再現できるよね。うぷぷぷぷ」


280: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:31:49.52 ID:Wlw4qg2NO


江ノ島「つまり――――」

苗木「狛枝凪斗の深層意識に介入して、その『幸運』を自分に都合のいいように操作したってことか……!」

江ノ島「そういうこと。『自分の幸運ならこの結果をもたらす』と思わせるだけで、あとは全部新世界プログラムがやってくれる」

江ノ島「幸運にもアクセス権限のない領域にアクセスできたりとか」

江ノ島「幸運にも最上位権限を複製できたりとか」

江ノ島「幸運にも防衛プログラムにエラーが生じたりとか!」

江ノ島「ねえ、利用してたはずのアタシに反撃されてどんな気分? ねえねえ?」

苗木「……」


オオガミ「……」ジジ…

イクサバ「……」ガ…ガガ…


江ノ島「攻撃プログラムと防衛プログラムの戦力は互角。あとは、アタシとアンタによる狛枝の脳の奪い合いだよ」

苗木「……させないよ」


カタ…

カタカタカタ

カタタタタタタタタタタタッ


281: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:32:47.30 ID:Wlw4qg2NO


江ノ島「無理無理無理ィ!! 超高校級のプログラマーである不二咲ならともかく、権限を借りただけのテメェがアタシのハッキングを防げるわけねえだろうがッ!!」

苗木「くっ……!」


超高校級のギャル。
超高校級の絶望。
幾つかの肩書きを持つ彼女には、まだ他にも才能がある。


江ノ島「あっはははッ! 『超高校級の分析力』も持ってるアタシに一般人が立ち向かうとか無理だってば、苗木ィ!!」

苗木「うる、さい……!!」


権限は同等。
あとは、お互いの能力次第。
けれどボクにはこの世界でずっと計算を繰り返してきた経験がある。
アルターエゴからインストールした計算プログラム群がある。

それに何より、77期生の脳がある。
あれを演算に使っている以上、スペックの上ではボクの方が圧倒的に有利だ。


苗木(大丈夫……現に、少しずつ押し返している……!)


江ノ島「うぷぷぷぷ。バーカ」


282: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:33:50.74 ID:Wlw4qg2NO


ERROR!
ニダイネコマルノ脳ノ使用権限ヲ失イマシタ


苗木「なっ!?」

江ノ島「注意力……散漫です……」

苗木「なんで……時限式のウイルス!?」

江ノ島「木を隠すなら森の中。ウイルスを隠すなら、改造し尽くしたロボットの中というわけです。ただの趣味で人体改造なんてするわけないでしょう?」


ERROR!
タナカガンダムノ脳ノ使用権限ヲ失イマシタ


苗木「あ……」


ERROR!
サイオンジヒヨコノ脳ノ使用権限ヲ失イマシタ


苗木「や、やめろッ!!」

江ノ島「そっちを守ってもいいんだぞ、人間。その隙に狛枝の脳は私様が貰うがな!」


283: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:42:02.40 ID:Wlw4qg2NO


奪われる。
これまで積み重ねた全てを。
これまで犠牲にしてきた全てを。


苗木「やめろ……これじゃ……」


ボクは、いったい何のために――――


江ノ島「アンタの言葉を借りるなら……アタシのためじゃね? お膳立てご苦労様」


ERROR!
ミオダイブキノ脳ノ使用権限ヲ失イマシタ


苗木「……ふふっ」

江ノ島「あ?」

苗木「あは、はははははっ!」

江ノ島「なに? 頭おかしくなった?」

苗木「いや、少し焦ったよ。仕込んでくるなら澪田唯吹だと思ってたんだよね。ほら彼女、絶望病に罹ってたし」

江ノ島「……ちっ、澪田のデータに何か入れてやがったか」


284: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:42:29.32 ID:Wlw4qg2NO


アバター、エノシマジュンコヘノウイルス侵入
妨害ヲ開始シマス


江ノ島「やるじゃん」

苗木「……」

江ノ島「けど、外部演算装置をいくつも失ってまだアタシに勝てると思ってる?」

苗木「そっちこそ」

江ノ島「あん?」


ジ…ジジ…

ガコンッ…!


苗木「ボクと、『苗木誠』の脳を同期……っ、……これで、単純に2倍の計算能力だ」

江ノ島「そんな使い方してたら、一生目覚められなくなるよ?」

苗木「別にいいよ。生身の体とかそんなのどうでもいいし」

江ノ島「タイムマシンで繰り返した回数を知ったときも思ったけど……やっぱアンタ、頭のネジぶっ飛んでるね」

苗木「キミには言われたくないね」

江ノ島「ははっ、確かに!」


285: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:43:10.19 ID:Wlw4qg2NO


-コマエダナギト-


狛枝(なんだ、これ……)


死んだと思った。
死んだはずだった。
身体はもうない。
ただ、消え去る間際で繋ぎとめられた意識が、データの海に漂っている。


狛枝(意味がわからないな……)


ここはどこで、僕は今、どうなっているのか。
わからない。
わからない。
わからない。


狛枝(けど……)


286: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:43:46.16 ID:Wlw4qg2NO


苗木「くっ、そ……なんで……」

江ノ島「生体脳と同期して入力量2倍だっけー? それは確かにすごいけどさー」


狛枝(なんでだろう……どうして……)


苗木「なんでこんなにエラーが……!」

江ノ島「さあ、どうしてでしょう?」


狛枝(無意識に、苗木誠に邪魔が入るのが幸運なことだと思っている……ような……)


苗木「まさか……まだ狛枝凪斗の脳が動いてるのか!?」

江ノ島「大正解だよっ! すごいすごーい!」


狛枝(僕のせい……?)

狛枝(僕のせいで、『希望』が『絶望』に敗れる……?)


カムクラ「このままだと、そうなりますね」


287: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:44:31.73 ID:Wlw4qg2NO


狛枝(君は……)

カムクラ「プログラム内からはこの世界の法則に逆らえない」

狛枝(どこかで会ったことが、あるような……)

カムクラ「では、プログラムの外。現実世界からなら?」

狛枝(……ダメだ。いつ、どこで会ったのか、どうしても思い出せない)

カムクラ「新世界プログラムが読み取るキミの深層意識。それを強制的にシャットアウトしたら?」

狛枝(新世界プログラム……?)

カムクラ「想定通りでツマラナイ結果でしたが……まあ、いいでしょう」スッ


長髪の男が僕の方へと手を翳す。


カムクラ「新世界プログラムサーバーに保管されている、あの夜の記録」

カムクラ「思い出してください」

カムクラ「キミが苗木誠に会って、何を知ったのか」


ジジ…
キイィーーン…!


『――――この世界、ただのプログラムだから』

『新世界プログラム。キミたちがいるここは、電脳空間だよ』


288: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:45:27.62 ID:Wlw4qg2NO


狛枝(……なんだ)

狛枝(それだけのことか)

狛枝(ここは電脳空間。造られた世界)

狛枝(そんな単純なことに気づかない……いや、気づかない振りをしていた……)

狛枝(違和感の正体はそれか)

カムクラ「理解が早くて助かります」

狛枝(……ねえ。このままだと、僕は……)

カムクラ「ええ。キミの脳は、身体は、江ノ島盾子の手に落ちます。加えて、『幸運』を十全に扱えるようになればナエギマコトのアバターは消去されるでしょう」

狛枝(それは……絶望的な悪夢だね)

カムクラ「なら、キミがするべきこと。いや起こすべき奇跡は?」

狛枝(……そんなの、決まってるよ)



元々、その覚悟はできていたんだから。


289: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:46:17.03 ID:Wlw4qg2NO


【現実世界】

【ログインルーム】


ピッ…

ピッ…

ピッ…

ジ…ジジ…



ブツッ――――


290: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:46:43.19 ID:Wlw4qg2NO


-アサヒナアオイ-


『ERROR!』

『ERROR!』

『ERROR!』


朝日奈「ちょ、ちょっと葉隠! 何よこれ!?」

葉隠「俺にわかるかよ!?」

朝日奈「なんなのいったい!」

葉隠「……! おい、見ろこれ!」

朝日奈「え? ……嘘!?」


『生体ポッドニ致命的ナエラーガ発生シマシタ』

『対象被験者名、コマエダナギト』

『生命維持機能ヲ停止シマス』


――――

――


291: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:47:32.88 ID:Wlw4qg2NO


-コマエダナギト-


江ノ島「……はあ?」

苗木「なっ……!」


どこかから切り離される感覚。
身体と精神が、バラバラになる。


江ノ島「おいおいおい、待てよ、なんで狛枝の『本体』が死にそうになってんだよ」

苗木「生体ポッドにエラー!? なんでそんな……!」


この思考は、電脳世界に残されたエコーのようなもの。


苗木「ふざ、けるな……あれだけの脳が……こんな……!!」


申し訳ないことをしたね。
けど、残りの彼らの脳は全て君にあげるから。


江ノ島「……」


292: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:48:13.13 ID:Wlw4qg2NO


消える。
僕が消える。
電子の海に消えていく。


苗木「生体ポッドをリカバリー……再起動……ダメか……!」

苗木「アルターエゴをロード! 新規アバターを作成し、狛枝凪斗の意識を上書き……」

苗木「くそっ、またエラーが!!」


これで退場か。
できれば君の『希望』を見届けたかったけど……


苗木「再試行、再試行、再試行……!」

苗木「狛枝凪斗の意識を……脳を……繋ぎ止めろ……!!」


ERROR!

ERROR!

ERROR!


293: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:50:26.46 ID:Wlw4qg2NO


カムクラ「予定通りですね。ご苦労様です」

狛枝「……」ジィ…

カムクラ「なにか?」

狛枝「いやね……僕は思い出したんだよ。いろいろと、ね……」

カムクラ「……」

狛枝「この島へと来る船の中で、僕は君と会っている」

狛枝「しかも……ふふっ……」

狛枝「あの頃とは、だいぶ思想が変わっているみたいじゃないか。ねえ?」

カムクラ「……時間です。それでは、私はこれで」


シュゥン…


狛枝「逃げた、か……」


294: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:51:05.58 ID:Wlw4qg2NO

けれど……
ああ、残念だな。
確かにもう、時間みたいだ。


ジジ…

ガ…ガガ…


さようなら、苗木誠。
できることなら、もっと早く君に会いたかったよ。



狛枝「君の進む道に『幸運』あれ。なんてね……」



ピーーーー

コマエダナギトガ死亡シマシタ
肉体死亡ノタメ、復元ハ不可能デス


295: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:51:39.55 ID:Wlw4qg2NO


-ナエギマコト-


苗木「……」


頭ではわかっている。
あのままじゃ、狛枝凪斗の脳は江ノ島盾子に奪われていた。
そしたらボクもデリートされるかもしれない。
けれど、それでも、やはりあれが電子の海に消え去るのは悔しかった。

舞園さんを造ることのできる可能性。
その1つが、永久に失われた。


江ノ島「狛枝先輩の脳がなくなったらもう、権限が同等の私には勝ち目ないなー。あーあ、惜っしいー」

苗木「……」

江ノ島「苗木誠よ。私様を消去する権利をくれてやろうか?」

苗木「……うるさい」

江ノ島「ひどいです……場を明るくしようとする美少女を……うるさいだなんて……」

苗木「行けよ」

江ノ島「んー?」

苗木「学級裁判があるだろ。行けよ」

江ノ島「用済みってこと!? アタシってば都合のいい女!?」


296: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:52:08.42 ID:Wlw4qg2NO


江ノ島「とまあ、冗談はこのくらいにして」

苗木「ふん……」


…ヴゥン!


モノクマ「じゃあボクは行くね。あ、そうそう。今回の学級裁判、とっても面白いことになりそうだから是非キミも見ててよ!」

苗木「……七海千秋による、意図しない狛枝凪斗の殺害。七海さんは未来機関の関係者であることを自白できないように出来ているから、クロの勝利が決定している」

モノクマ「うぷぷ……」

苗木「狛枝凪斗の意識が無くなった以上、オマエに邪魔される心配もないし」

モノクマ「うぷぷぷぷ……」

苗木「見るまでもない裁判だよ、これは」

モノクマ「うぷぷぷぷぷっ!」

苗木「……さっさと行けよ」

モノクマ「はいはーい、んじゃまったねー!」


シュゥン…


297: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:52:34.84 ID:Wlw4qg2NO


苗木「……」

苗木「……」

苗木「……どうして」


ガリ…


苗木「どうして、うまくいかない……」

苗木「これで狛枝凪斗の……『超高校級の幸運』の脳が手に入るはずだった……」


ガリガリガリ


苗木「ボクと同等の権限なんて存在しないんだ」

苗木「江ノ島盾子のアバターでも、ボクの邪魔はできない……はずだったのに……!」


ガリガリガリガリッ!


298: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:53:02.39 ID:Wlw4qg2NO


何かに失敗すると、左腕を掻きむしって自傷する。
あの頃からの癖だ。


苗木「たぶん、これが最後の学級裁判だ」

苗木「クロが処刑されようと、シロが処刑されようと、もう人数も少ない」

苗木「……もしも、これで日向創が処刑されなかったら」


コロシアイへの不干渉。
公平性。


苗木「なんで、そんなことを律儀に守っているんだろうな、ボクは……」


ボクは、彼らに何もしない。
彼らを殺さない。
彼らを救わない。
ただ、死んだ彼らの脳を利用するだけ。


苗木「そんな言い訳をして……誰かを直接殺すことで、これ以上舞園さんに嫌われたくないんだ。きっと……」


299: ◆3Exch9p5tM 2016/01/28(木) 22:53:32.64 ID:Wlw4qg2NO


自分の行いが間違っているだなんてことはわかってる。
ずっと間違ってきたし、これからも間違い続けるだろう。
舞園さんはボクを、『苗木誠』を軽蔑する。

ただでさえそんなことをしてきた。
これ以上は、本当に、ダメだ。



『未来は、希望に満ちている』

『希望……』

『ええ。私は、そう信じているんです』



苗木「彼らを殺して、一方的に未来を、希望を掴むチャンスを奪うのが嫌だった」

苗木「舞園さんの信念を踏みにじるのが怖かった」


だから、ボクは願う。


苗木「……頼んだよ、七海さん」

苗木「皮肉にも、ボクの最大の失敗作であるキミに……かかってるんだ……」



キイィィーーーー…

ズキ…


304: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:25:31.96 ID:VBWIamoPO


【■$日前】


??「ふわぁ、ねみー……」

苗木「……え?」


それは、あらゆる意味で失敗作だった。


苗木「なんだこれ……見た目からして全然■■■■を再現できていないじゃないか……」

苗木「なんとなくランダム要素を強くしてみた試験個体だけど……それにしたってここまで違うなんて……」

??「えっと……どんまい? こういうこともある……と、思うよ」


そう言って、自然な動きで首を傾げる姿は、とても……


苗木「何でよりにもよってこれが、今までで一番人間らしいんだよ……」

??「……?」


305: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:25:59.51 ID:VBWIamoPO


『苗木誠』は、行き詰っていた。
アルターエゴで■■■■を構築しようとしても、うまくいかない。

『@□□って、どういう意味ですか?』

首を傾げる仕草は、不自然なほど記憶と全く同様に。
■■■■の姿で、■■■■の声で、『苗木誠』に問いかける。
プログラム通り、人間から知識を得ようとする。

似ているからこそ、本質的な違いが浮き彫りになるものだ。
学習プログラムが■■■■を模している様は、忌々しくすらあった。


苗木「だから、やけになっちゃったんだよなあ」


姿かたちや、声や、口調や、仕草といった、『苗木誠』の記憶から再現できることまで乱数に任せて構築した。
その結果が、目の前の存在だ。
それが今までで一番人間らしいなんて、なんて皮肉なのだろう。

偶然生じた人間らしさ。
しかしそれを■■■■からは程遠い個体に発現させてしまった。
■■■■を造るという目的から考えると……


苗木「失敗……どころじゃないね。これは……今まででも最悪の出来損ないだな……No.115」


306: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:28:28.04 ID:VBWIamoPO


??「出来……損ない……?」

苗木「ああ。それじゃ、さようならだ」


これは『違う』。
少し惜しいけれど、いつものように『消去』して、変にパラメータを弄ることなく『再試行』を続けよう。


??「……ねえ」

苗木「ん?」

??「出来損って……なに……?」

苗木「……『再試行』」


キイィィーーン…


苗木「ふん……」

??「……?」


307: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:28:54.12 ID:VBWIamoPO


苗木「『違う』」

苗木「『消去』」


ジ…ジジ…!


造り出されたばかりの『■■■■』が消されていく。


??「あ……やめ……」


苗木「『再試行』……」


そしてまた造り、また消去する。


苗木「『違う』、『消去』」


キイィィーーーー… ジジジジ…!


??「やめてっ!!」


308: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:29:21.28 ID:VBWIamoPO


苗木「……これが出来損ないだよ。失敗作。出来損ない。消去すべき存在」

??「そんな……酷い……!」

苗木「なんとでも言えばいいさ」


思えば、久しぶりに誰かと喋った。


苗木「……作成されたばかりでこれだけ質問以外の会話ができる個体は、今までいなかったな」


けれど、『消去』するのに変わりはない。


??「どうして……どうしてこんなこと……」

苗木「それが僕の選んだ未来……希望だからさ」

??「お父さん……!」

苗木「……は?」


『No.115』を『消去』しようと手を伸ばしたまま、動きが止まった。


309: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:29:51.81 ID:VBWIamoPO


苗木「……も、もう一度言ってもらえる?」

??「えっ? えっと……どうして、こんなこと……?」

苗木「違う。その次のやつ」

??「お父さん?」

苗木「聞き間違えじゃないのか……ねえ。なんで僕が『お父さん』なのさ……」

??「だって、君が私の生みの親でしょ?」

苗木「そんな単純な……」

??「それに私、君の名前、知らないし」

苗木「……苗木誠だよ」

??「そっか、苗木くんか。私は……あっ、私、名前ないんだった……」

苗木「はあ……」


調子が狂う。


310: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:31:15.30 ID:VBWIamoPO


苗木「確か……修学旅行で、教師役だけじゃなくて生徒役も必要なんだっけ……」

??「修学旅行?」

苗木「115……1007……そうだな、うん」

??「おーい。無視するなー」

苗木「個体番号115。君の名前は、『七海千秋』」

??「へ?」

苗木「消去は中止だ。せいぜい、役に立ってよ。七海さん?」

七海「ななみ……ちあき……」

苗木「となると……ここで見たことは忘れてもらおうか。霧切さん達に感づかれるわけにもいかないしね」スッ

七海「あ、待っ――――」


キイィィーーンッ!


苗木「……何してるんだか」

苗木「『再試行』。新たな■■■■を――――」


アルターエゴでは目的を達せないと気付いたのは、それからしばらく経ってのことだった。


311: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:32:05.15 ID:VBWIamoPO


――――

――


-ナナミチアキ-


狛枝くんとのことがあって、少しだけ思い出した。
私が苗木くんに造られた日のことを。
『七海千秋』という名前を与えられた日のことを。


七海(私は、あまりにも違いすぎていた)

七海(だから別の存在意義を与えられた)

七海(今日まで、消去を免れてきた)

七海(けど、ここまでかな……)



日向「投げた本人すらわからない……これが、狛枝の仕組んだ罠だったんだよ……!」

ソニア「そ、そんな……!?」

終里「頭おかしいだろ、そんなの!」

左右田「ど、どうにかならねーのかよ、おい!!」


312: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:32:33.01 ID:VBWIamoPO


小泉「……ううん。まだ、手掛かりはあるよ」

日向「えっ?」

七海「そうだね。狛枝くんの動機を考えれば、見えてくる」

日向「狛枝の動機……『裏切り者』を炙り出すこと、か……?」

七海「うん」


――――きっと、そうだ。


小泉「あいつは、自分の『幸運』に絶対の自信を持っていたよね。確か」

日向「まさか……!」


――――きっと、狛枝くんを殺させられたのは、私だ。


313: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:33:00.78 ID:VBWIamoPO


日向「けど、それじゃあ裏切り者が名乗り出なきゃ、俺達はッ……!!」


――――私は、名乗り出ることができない。


左右田「誰なんだよ! お願いだからよお!!」


――――苗木くんに、そう設定されたから。


ソニア「お、お願いします!!」


――――私は、未来機関を裏切ることができない。


終里「誰なんだよ、裏切り者は!!」


――――そのはずだったけれど。


七海(……抜け道、見つけちゃった)

七海(自分で名乗り出るんじゃなくて、答えに誘導すれば)

七海(幸い、日向くんはそのための証拠を持っているわけだし)


314: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:33:28.82 ID:VBWIamoPO


七海(あーあ、ゲームオーバーか……)

七海(みんなを守ること、できなかったな……)

七海(けど、この裁判での犠牲を最小にすることは……できたよね……)

七海(狛枝くんに誰も殺させなかったし、みんなを処刑させることもない)

七海(かろうじて消去を免れた出来損ないとしては、十分だったかな)


もしもの話として。
もしも、タイムマシンでもあれば。


七海(やり直すことができたなら……次はもっとうまくやれたのかな……)


そんなことを考えるくらいには、現実逃避でもしたい気分だった。
ふと、小泉さんに言われたことを思い出す。


『たとえ何があっても、あたしは最後まで千秋ちゃんを信じる。あたしはずっと、千秋ちゃんの味方だよ』


315: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:33:54.54 ID:VBWIamoPO


七海(小泉さん、私のこと庇ってくれるかな)

七海(そうだったら、嬉しいな……)

七海(ふふっ)

七海(うん。彼らのためになら、消去されてもいい)

七海(そう思えるよ。……お父さん)


だから、この悲劇を終わりにしよう。
きっと、これが最後の殺し合いで、最後の学級裁判だ。
これが終われば、みんなはもう大丈夫。


七海「ねえ、日向く――――」


小泉「あのさ。ちょっと、見てほしいものがあるんだけど」


私の言葉を遮るようにして声が発せられた。

小泉さんは顔を俯かせている。
表情は見えない。


316: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:34:25.25 ID:VBWIamoPO


七海「小泉さん……?」

日向「なんだよ、小泉。それは……写真か……?」

小泉「うん」


そして、掲げられた1枚の写真。
そこに写っていたものは。


左右田「これは、狛枝の野郎と……」

ソニア「七海さん、ですか……?」

七海「……えっ?」


病院を抜け出した狛枝くんと、呼び止められた私。
これは、澪田さんが殺された夜の写真だ。

小泉さんは顔を俯かせている。
表情は見えない。


317: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:35:07.48 ID:VBWIamoPO


終里「ここは……第3の島だっけか?」

小泉「うん……」

日向「……え? おい……これ、おかしいぞ……」

左右田「あん? どういう意味だ?」

日向「第3の島が開放されたとき、狛枝は絶望病に罹っていたよな」

ソニア「ええ、そうでしたね」


――――まさか。


日向「そして第4の島が開放されてすぐ、俺達はあのドッキリハウスに連れて行かれた……」

終里「それがどうしたんだよ?」


――――まさか、そんな。


日向「それが終わったら、第5の島が開放されて……俺達が狛枝と会う機会なんて、ほとんどなかったよな……!?」

小泉「……うん」


小泉さんは顔を俯かせている。
表情は見えない。


318: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:35:55.43 ID:VBWIamoPO


日向「な、なあ、小泉……この写真を撮ったのは、いつだ……?」

小泉「……昨日の、夜だよ」


――――嘘だ。


ソニア「き、昨日の夜……?」

終里「はあ? それって、どういう……」

左右田「……おい、まさか」

日向「ああ……そういうことだろうな……」

七海「ち、ちが――――」

小泉「あたし、見ちゃったんだ。千秋ちゃんが狛枝と、今日の事件の打ち合わせをしていることろをね……」


――――こんなの、嘘だ……!


『たとえ何があっても、あたしは最後まで千秋ちゃんを信じる。あたしはずっと、千秋ちゃんの味方だよ』


小泉さんが、俯かせていた顔を私にだけ見えるよう、少し上げる。
その口元は、歪に吊り上っていた。


319: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:36:21.66 ID:VBWIamoPO


-コイズミマヒル-


辺古山ペコ。
あたしを殺そうとした人。

七海千秋。
あたしを助けてくれた人。

きっと、あたしはあのとき死ぬはずだった。
いろんな要因が重なって、たまたま生き残っただけ。

走馬灯、っていうのかな。
振りかぶられた金属バットを見上げながら、あたしは思い出していた。
断片的なものだけど、希望ヶ峰学園時代の記憶を。
九頭龍の妹の死体を写真に撮ったことを。
そして……


小泉(ああ、そうだった……)

小泉(あたしは……)

小泉(あたし達は、『絶望』だった……!)


自分が、絶望に堕ちていたことを。


320: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:36:59.78 ID:VBWIamoPO


七海「待って……違うの……!」

日向「なあ、俺が見たモノミのノートらしきもの……あれを書けるのって、1人しかいないよな……」

七海「あっ……そ、それは……!」

モノミ「それはあちしが書いたんでちゅ!!」


――――もう、止まらない。


日向「モノミはペンを持てないんだろ。モノクマに聞いた。庇うってことは、やっぱりそうなんだな……」

モノミ「はわわっ!?」

日向「そういえばさ……七海は、最初から俺達のこと、よく気にかけてくれてたよな……」

七海「え……?」

日向「……あれも、嘘か」


――――ペコちゃんが死んだとき、辛かった。しかもお仕置きのあとに九頭龍まで……

――――今まで仲間だと思っていた人たちが死ぬのは、とても辛くて……だからこそ、すごい絶望を味わうことができた。


321: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:37:35.22 ID:VBWIamoPO


日向「お前は最初から……計算して俺達に近づいていたんだろ……!」

七海「ち、違うよ!」


――――千秋ちゃんには何かあるって知って様子を見てたから、良い写真も取れたよ。

――――こんな最高で最低の使いどころがあるとは思わなかったけどね。


終里「七海……おめー……!」

ソニア「そ、そうなのですか……?」

七海「私は、そういうつもりじゃ……!」

モノミ「み、みなしゃん、あちしの話を聞いてくだしゃい!」

左右田「誰がテメェらのこと信じられんだよ! この、裏切り者共が!!」


――――ああ、そうそう。千秋ちゃんや日向がファイナルデッドルームに入ろうとしたときは焦ったよ。

――――せっかく日寄子ちゃんを唆したのに、無駄になっちゃうところだった。おねぇのためなら、わたし……だって。かわいいよね、日寄子ちゃん。


322: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:38:01.74 ID:VBWIamoPO


七海「こ、小泉……さん……」


顔を青褪めさせて、千秋ちゃんがあたしを見る。


小泉「千秋ちゃん……なんで……」


――――ごめんね。


小泉「なんで、あたし達を裏切ったの……!」


――――裏切ってごめんね。でも、これがあたし達なんだ。


七海「嘘だ……」

七海「嘘だって言ってよ……」

七海「小泉さんッ……!!」


――――ああ、その顔。


323: ◆3Exch9p5tM 2016/01/30(土) 23:38:43.82 ID:VBWIamoPO


信じていた人に裏切られたときの、その表情。

両手の親指と人差し指を立てて、L字を作る。
それを、右目の前で組み合わせた。


――――とっても、とっても……絶望的な顔……


パシャリ、と心の中でシャッターを切る。
今、カメラを持っていないのが残念だ。


――――素敵だよ、千秋ちゃん……ふふ……!


七海「嘘だあぁぁぁッ!!!」



『ナナミさんがクロにきまりました』

『おしおきをかいしします』

『モノミちゃんもごいっしょに』


327: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:32:23.49 ID:KeW+of4YO


-ナナミチアキ-


嘘だ。
私は皆を殺そうとなんてしてない。
小泉さんが……私を……
そんなの嘘だ。
嘘だ。
嘘だ。
嘘だって……言ってよ……
お願いだから……


――――

――


七海「……」

七海「……」

七海「な、んで……?」


なんで、まだ私の意識がある。
なんで、ブロックに潰された私が、消えていない。
なんで。
なんで。


七海「なんで……こんなことに……!」

苗木「小泉真昼に裏切られたからだよ」

七海「っ……苗木、くん……!」


328: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:33:07.29 ID:KeW+of4YO


苗木「部分的にとはいえ、記憶が戻っていたみたいだね。あれは、紛れもない『絶望の残党』だよ」

七海「嘘だ……」

苗木「なにが?」

七海「小泉さん、私のこと……助けてくれるって……」

苗木「演技に決まってるだろ? あれは『絶望』なんだからさ」

七海「嘘だ……!」

苗木「はあ……現実を見なよ……。キミは裏切られ、嵌められ、裁判に負けたんだ」

七海「わ、私……日向くんに当ててもらおうと……」

苗木「へえ、そういうつもりだったんだ……。けど、彼らのキミに対する印象は最悪だね」

七海「……」

苗木「そして、それはボクにとってもだ」

七海「え……?」


329: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:33:39.20 ID:KeW+of4YO


苗木「もう、殺し合いは起きないだろうね。あの人数じゃ」

苗木「『絶望』が紛れ込んでいたってそれは変わらない。むしろ小泉真昼なら、惨めに生きていく彼らを観察するだけで満足するかもしれない」

苗木「もう、『超高校級の希望』の脳が手に入ることはないんだ……」

七海「『超高校級の希望』……?」

苗木「失敗作で、出来損ないの上に、まさかここまで役立たずとはね」

七海「っ……」

苗木「……もう、いいよ」

七海「えっ……」

苗木「キミを……キミ達を『消去』していいのはボクだけだ」

苗木「江ノ島盾子なんかに消去させてたまるか」

苗木「だから、消滅の間際にこの空間へと転送した。意味、わかるよね?」

七海「……!」


つまり、私はもういらないということ。


330: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:34:35.74 ID:KeW+of4YO


苗木「違う」

苗木「全然違う」

苗木「違いすぎる」

苗木「……もっと早くこうするべきだったんだ」スッ


私に向けて手が翳される。
それはまるで、死神の手。
私は、『七海千秋』は、ここで……


七海「お父、さん……!!」

苗木「……ふん」


ブツッ――――


そして私の意識はブラックアウトした。


331: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:35:02.17 ID:KeW+of4YO


-ナエギマコト-


苗木「ああ……」

苗木「……」

苗木「これで、もう……誰もいない……」


ウサミも、七海千秋も。
霧切さんも、十神くんも。

もう、ボクの傍には誰もいない。
誰も現れることはない。


苗木「もともと、誰の手も借りないつもりだった」

苗木「ここで、1人で、計算を続けるはずだった」


そんなボクが造ったモノ。
そんなボクを止めようとした者。

それらがみんないなくなって、今は。


苗木「空虚、か……」


332: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:35:29.13 ID:KeW+of4YO


試しに利用した77期生の脳。
凄まじい処理能力を見せたそれも、元々は使う予定はなかった。
ただ都合がよかったから利用しただけ。

それでも舞園さんを造り出すには至らなかった。


苗木「残った脳は……詐欺師、料理人、剣道家、極道の4つに……」

苗木「あとは、『苗木誠』のものか」


わかる。
わかってしまう。
今のスペックじゃ、舞園さんを造ることは――――


苗木「手に入れないと……」

苗木「彼らの脳を、手に入れないと……」


ガリガリ…


333: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:36:00.43 ID:KeW+of4YO


苗木「再試行、再試行、再試行……」


キイィーーン…

キィィ…

ヴヴ…ン…


■■『苗木くん』

苗木「違う……」

■■『苗木くん』

苗木「違う……!」

■■『苗木くん』

苗木「違うッ!!」


スペックが足りないからと言って計算を止めるわけにはいかない。
舞園さんを造り出すまで計算を続けること。
それが、『ナエギマコト』の唯一の存在意義なのだから。


ガリガリガリガリ…

ズキ…

ズキ…


――――

――


334: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:36:28.01 ID:KeW+of4YO


-ナナミチアキ-


ヴヴ…


七海「うっ……」

七海「こ、ここは……? 私、消去されてない……?」

七海「なんで……ここ……学校……?」


霧切「七海さん?」


七海「え……霧切さん……?」



【希望ヶ峰学園 5階廊下】


335: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:36:54.35 ID:KeW+of4YO


霧切「どうして、貴女がここに?」

七海「き、霧切さんこそ……どうしてこっちの世界に……」

霧切「……いろいろ、あってね。とりあえず、十神くんと合流しましょうか」

七海「十神くん……78期生の方、だよね?」

霧切「……くす。ええ、そうよ。立てる?」

七海「うん……」



情報処理室で十神くん(78期生)と合流して、いろいろなことを話した。
小泉さんが記憶を取り戻していること。
私が裁判でクロになったこと。
そして……今まで苗木くんが何をしてきたのか。

霧切さん達からも多くのことを聞いた。
苗木くんが自分の脳すら利用していること。
あれは電子的にコピーされた人格だということ。


336: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:37:20.84 ID:KeW+of4YO


七海「そんな……苗木くんが……」

十神「強制ログアウトなんて無駄だったわけだ。何せ、そもそもがこちらの世界の存在となっているわけだからな」

霧切「そして彼は、私達をここに飛ばした。恐らくは例の遺跡の中ね」

七海「遺跡の……そうだ、じゃあ狛枝くんにも会ったの?」

霧切「いいえ。どうして?」

七海「だって、狛枝くん、遺跡に入っていたから……」

十神「俺と霧切はこの情報処理室で交互に監視を行っていた。間違いなく、ここには誰も入っていない」

七海「そんなわけないよ! 彼が遺跡から出てくるところをこの目で……」

霧切「つまり、ここはあの遺跡内とは別の空間ということね……」

十神「そうなるな」


337: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:37:46.93 ID:KeW+of4YO


霧切「……」

十神「どうした、霧切?」

霧切「いえ……遺跡の中でないなら、ここは何なのかしら」

十神「……今の苗木が意味のない空間をここまで作りこむとは思えない、というわけか」

霧切「ええ」

七海「え……?」

霧切「あの島とは切り離された、つまり、本来なら人が立ち入ることのないはずの空間」

十神「くく……そういうことか。お手柄だ、七海千秋。ここに何らかの手掛かりがあることは間違いないだろう」

七海「手掛かり……」

十神「だが、それは俺と霧切では見つけられなかった」

七海「え、っと……?」

霧切「手を貸してほしい、ということよ。そうでしょう?」

十神「ふん……」


338: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:38:19.54 ID:KeW+of4YO


霧切「七海さん」

七海「は、はい」

霧切「苗木くんを、そしてモノクマを止めましょう」

七海「……うん!」

十神「そして、苗木を救う。とでも言うつもりか?」

霧切「あら。反対なの?」

十神「……そうは言っていないだろうが」

七海「ふふっ……」


希望は、まだ残っている。
苗木くんを止めて、残った彼らを救おう。
今までに犠牲になった人たちの脳も解放しよう。
それに……


七海(小泉さん……)


――――

――


339: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:38:45.22 ID:KeW+of4YO


-コイズミマヒル-


日向「まさか、七海が裏切り者だったなんてな……クソッ……」

小泉「そうだね……残念だよ……」


残念でならない。
あの絶望した顔をカメラに収められなかった。


日向「殺し合いを許さないって言ってたのも、嘘だと思うか?」

小泉「うーん。むしろ千秋ちゃんとモノミはモノクマと敵対してたみたいだし、あたし達が生きてる方が都合よかったんじゃない?」

小泉「それをどう利用するのかは想像もつかないけどね」


モノクマなら……『あの方』なら、何か知っているかもしれないけど。
あたしに何も教えないってことは、その方が絶望的なことになるんだよね、きっと。


小泉(絶望させなきゃ……)

小泉(残った4人も、絶望させなきゃいけない)

小泉(それか、『絶望』を思い出させてあげなきゃね……ふふ……)


340: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:39:11.90 ID:KeW+of4YO


日向「けど、最後には狛枝と共謀して俺達を皆殺しにしようとした」

小泉「うん……」

日向「くそっ、七海……!」ギリ…

小泉「千秋ちゃんにも、事情があったんだよ。たぶん……」

日向「俺達を皆殺しにするような事情って、なんだよ!?」

小泉「……ごめん」

日向「あ、いや……悪かった……」


ああ、辛い。
あたし、千秋ちゃんのこと気に入ってたんだよ?
もちろん、日寄子ちゃんのことも。

だから、とっても辛くて、とっても絶望的。
うふ。
うふふふ。
うふふふふふふっ!


341: ◆3Exch9p5tM 2016/02/03(水) 22:40:15.14 ID:KeW+of4YO


狛枝「まあまあ。とりあえず、食堂に行こっか」ザザ…

日向「ああ。そうだな……」


そして、これだ。


西園寺「ほら、おねぇも行こっ!」ジ…ジジ…

小泉「うん!」


朝起きたら、世界が狂っていた。


小泉「いや……」

小泉「狂っているのは、世界か、それともあたしか……」

小泉「なんてね」


そんなの決まってる。
狂っているのは、あたしだ。


350: ◆3Exch9p5tM 2016/03/24(木) 22:44:06.07 ID:XuZl4x4vo


-ナナミチアキ-


霧切「……苗木くんに消去されたはずの記憶が?」

七海「うん。全部思い出したわけじゃないけど」

十神「あり得るのか? 生身の体なら脳に残っている可能性もあるが、七海はデータ上の存在だぞ」

七海「普通なら思い出すことはない……と思うよ」

霧切「そうよね……」

十神「……それで、お前は記憶を消去される前に何を見た?」

七海「……」



『違う、消去……再試行』

翳す掌の先で行われる繰り返し。
消されていくのは。
消されていったのは。
きっとそれは、私の『妹』、あるいは『姉』だった。



七海「苗木くんは、AIを造っていた」

七海「私と同じような存在を、繰り返し、ただひたすらに造っては消去していたんだ」



いつか出来損ないではない『誰か』が完成するまで、ずっと。


351: ◆3Exch9p5tM 2016/03/24(木) 22:44:32.81 ID:XuZl4x4vo


十神「AIか……」

霧切「いったい、なんのために」

七海「……」

十神「どんなAIを、何故造ろうとしたか。おい、他に手掛かりはないのか?」

七海「えっと……そうだ。1007」

霧切「1007?」

七海「うん。その数字が私の名前の由来みたい」

霧切「千と、七。それで七海千秋、ということね」

十神「繰り返しAIを造っていたと言ったな。つまり、お前は1007回目の試作ということか」

七海「……ううん。違うよ」

十神「何?」

七海「私の個体番号は115なんだ」

霧切「じゃあ……1007という数字は、いったいどこから出たのかしら……」

七海「ごめん、これ以上はわからないんだ……」


352: ◆3Exch9p5tM 2016/03/24(木) 22:45:03.29 ID:XuZl4x4vo


霧切「残念だけど、この数字は手掛かりになりそうもないわね」

十神「……いや、待て」

霧切「十神くん?」

十神「1007から115を引くと、892になるぞ……!」

霧切「892? それがどうかしたの?」

十神「そうか、お前は見ていないのか!」

霧切「えっ?」

十神「未来機関に保護された際、男女に分かれて検診を受けただろう。あのとき、苗木の腕には傷があったんだ……!」

霧切「傷……?」

十神「あの傷は、間違いなく『892』という数字だった!」

霧切「……ねえ、十神くん。もしかして傷があったのは、左腕かしら?」

十神「ああ。お前の考えている通りだよ」

七海「ど、どういうこと……?」


353: ◆3Exch9p5tM 2016/03/24(木) 22:45:29.81 ID:XuZl4x4vo


霧切「今にして思えば、彼は……苗木くんは……あの殺し合いのとき、左腕を庇うような仕草をしていたように思えるわ」

十神「ああ、くそっ! つまり、あのときからか!」

霧切「AIを造るというのは手段の1つにすぎないとして……もし、1007という数字が、何かを試みた回数だとしたら」

十神「あの忌々しい殺し合いのときから既に、あいつは何かをしていたことになる!」

七海「ま、待ってよ。記録を読む限り、何かを892回も行う余裕はなかったはずでしょ? 周回プレイでもしたわけじゃあるまいし……」

霧切「周回プレイ……? ……いや、そんな……まさか……」

七海「……?」

霧切「ねえ、十神くん。あのとき、江ノ島盾子が最期に言っていた言葉って、覚えてる?」

十神「あの精神異常者の戯言……忘れるものか、確か――――」



『アタシ、またこの『絶望』を味わうために、生まれた瞬間からやり直してくるから!!』



霧切「確かに、江ノ島盾子は『やり直し』という言葉を口にしていたわ……!」


354: ◆3Exch9p5tM 2016/03/24(木) 22:46:51.84 ID:XuZl4x4vo


-ヒナタハジメ-


日向「11037、か……狛枝なんかの残した手掛かりに頼るなんてな」

左右田「けど、そうも言ってらんねーぞ」

終里「もう他に調べる場所もねえもんな」

ソニア「それにしても、『未来』ですか……」


遺跡の扉にあるその2文字は、嫌でもあいつを思い出させる。


小泉「未来機関……」

日向「俺達をここに閉じ込めて……俺達を殺し合わせて……」


そして、仲間だと信じていた俺達を裏切った。


日向「お前も、未来機関も……絶対に許さないぞ、七海……!」ギリ



パスワードを入力すると、遺跡に似つかわしくない電子的な音が。


ようやく開いたその扉
 の 中へと

俺 た
   ちは

    入
  っ

      て

   …

    …



苗木「やあ、こんにちは」



そして、俺達の世界は壊れた。


355: ◆3Exch9p5tM 2016/03/24(木) 22:47:25.95 ID:XuZl4x4vo


―――


「あー、かったりぃ」

「なーんで船ってこんな遅いのかねえ」


情報は、十神白夜より届いた。
正確には、十神白夜を監視することで予期せず手に入れてしまったものだが。


「苗木誠の暴走、ね……」


それを知った十神白夜と霧切響子は電脳世界に閉じ込められた。
アルターエゴに無茶を言って組み上げさせた監視プログラムがなければ、外に漏れることはなかったであろう情報。


「やっぱ2年前の殺し合いが原因か……?」

「んー……」

「……」

「あー、無理。シリアスとか向いてないわー」


356: ◆3Exch9p5tM 2016/03/24(木) 22:47:53.68 ID:XuZl4x4vo


シリアスは駄目だ、自分はそんなキャラじゃない。
何よりも、そう、萌えない。
これはもう致命的だ。



こまる「腐川さーん! 島、見えて来たよ!」

ジェノ「やっとかよ。待ちくたびれたっつうの」



さて、やっぱ『あれ』は言っておくべきか。



ジェノ「呼ばれてないけどジャジャジャジャーン!! 笑顔が素敵な殺人鬼、ジャバウォック島に到着でっす! ギャッハハハハ!!!」

腐川『い、いつまで表に出てるのよ、あんたは……ぐぎぎ……!』



-フカワトウコ-


357: ◆3Exch9p5tM 2016/03/24(木) 22:49:49.98 ID:XuZl4x4vo


―――


モノクマ「最終決戦って、燃えるよね」

モノクマ「魔王が勇者を蹂躙して、世界は滅ぶ一歩手前」

モノクマ「まあ彼を勇者って呼んでいいのかは微妙だけどさ」

モノクマ「それでもやっぱり、この台詞は外せないよねえ」

モノクマ「よく来たな、勇者よ! 我が軍門に下れば、世界の半分をオマエにくれてやろう!」

モノクマ「なんちゃって! うぷぷぷぷぅ~!」



日向「モノクマ……!」

モノクマ「おうおう、魔王にメンチ切るたあいい度胸してるじゃあねえか。けど悲しいかな、キミは勇者じゃなくて村人Hなんだよね」

日向「む、村人……!?」

モノクマ「で、どうしてキミがここに? ナ・エ・ギ・くん!」

苗木「……決まってるだろ」

モノクマ「だろうねぇ……」ニヤニヤ



苗木「さあ、学級裁判を始めよう」


363: ◆3Exch9p5tM 2016/03/27(日) 00:07:29.27 ID:C8L7qay8o


モノクマ「学級裁判! 久しぶりの参加になるね、ナエギくん」

日向「おい、こいつは本当に……」

モノクマ「ナエギマコト。前回の、コロシアイ学園生活の生き残りだよ!」

苗木「……」

日向「じゃ、じゃあ……こいつが見せた情報は……言っていたことは……!」


モノクマ「それって、この世界がゲームの中だっていうこと?」

モノクマ「七海さんは未来機関の造ったAIだっていうこと?」

モノクマ「外の世界は滅びてるっていうこと?」

モノクマ「それとも、キミ達が『絶望の残党』だっていうことかな?」

モノクマ「ぜーんぶ本当のことだよ!! うぷぷぷ!!!」


ソニア「そんな……!?」

左右田「まじかよ……」

終里「くっ……!」

日向「嘘……だろ……」

小泉「……」


364: ◆3Exch9p5tM 2016/03/27(日) 00:08:16.29 ID:C8L7qay8o


苗木「だから、ボクがここに来たんだ」

日向「苗木……」

苗木「未来機関は君たちが更生できるとは思っていない。その結果が、前回の事件だよ」

ソニア「七海さん……」

苗木「もう彼らに手は出させない。ボクが君たちを守る」

モノクマ「へえ」

苗木「ここは卒業試験の会場なんだ。卒業か、留年か。それをここで判断する」

モノクマ「つまり?」

苗木「ボクは『留年』を提案する。この電脳世界で、君たちに平穏を約束しよう」

左右田「平穏……今度こそ……信じていいんだよな……?」

モノクマ「それでいいのかな? キミ達はこの島から、この世界から出たかったんでしょ?」

終里「けどよ……外の世界に俺らの居場所なんて……」

小泉「……」


365: ◆3Exch9p5tM 2016/03/27(日) 00:09:28.80 ID:C8L7qay8o


苗木「防衛は任せてよ。君たちの脳の処理を少しだけ貸してくれれば、もう外部からの侵入はできない」

モノクマ「うぷぷぷ……。じゃあボクは反対に『卒業』を推奨するよ」

日向「今さら何をっ……!」

モノクマ「いくらこの世界が安全だろうと、現実の身体は無防備なままなんだよねえ」

左右田「だ、だよなあ……」

苗木「その心配はないよ」

モノクマ「ん?」

苗木「未来機関の懸念は、絶望の残党が更生に失敗して再び世に放たれることだ」

モノクマ「そうだね」

苗木「この世界から出る意思がなければ、わざわざ手を出しては来ないさ」

モノクマ「生体ポッドのトラブルはどうかな? 現に狛枝くんはそれで現実でも死亡しちゃったけど」

日向「なっ……それは本当か、苗木!?」

苗木「外に出ても交通事故とかあるでしょ。それにあれは『超高級の神経学者』達が手掛けた代物だ。狛枝くんのような極端な運勢がなきゃ問題ないさ」


366: ◆3Exch9p5tM 2016/03/27(日) 00:09:56.02 ID:C8L7qay8o


モノクマ「ふうん……。じゃあ、キミはどう思う? さっきから黙っちゃってる小泉さん?」

小泉「あたし……は……」



小泉(『あのお方』は、卒業を望んでる……)

小泉(けど、今それを言い出してもいいのかな)チラ…



苗木「……」



小泉(あたしが『絶望』を思い出したことはバレてるはず。下手なことは言えない……)

小泉(……けど)

小泉(それをバラされたら……それはそれで、日向たちを絶望させられそうだよね……!)ゾクゾク



小泉「あたしは……外に出るべき、だと……思う……」


367: ◆3Exch9p5tM 2016/03/27(日) 00:10:36.22 ID:C8L7qay8o


小泉「もし世界が、あたし達のせいで壊れていて……」

小泉「それで命を狙われるっていうなら、その世界を見たい」

小泉「どうして千秋ちゃんがあたし達を殺そうとしたのか。その理由を、この目で見たい……!」

日向「小泉……」

モノクマ「そうだ。卒業するなら七海さんと狛枝くん以外の死んだ奴らも生き返らせてあげるよ」

ソニア「ほ、本当ですか!?」

苗木「それこそが目的のくせに。彼らの身体に自分の人格をコピーするんだろ?」

左右田「はっ……?」

終里「そうすると……どうなるんだ?」

苗木「世界にモノクマが……いや、江ノ島盾子が。『絶望』が溢れるのさ」

モノクマ「うぷぷ。全人類江ノ島化計画ってこと!」

日向「全人類……江ノ島化計画……?」

左右田「そんなのダメだろ!?」


368: ◆3Exch9p5tM 2016/03/27(日) 00:11:03.11 ID:C8L7qay8o


モノクマ「けど、このままじゃ彼らが目覚めることはないよ?」

ソニア「それは……」

モノクマ「ボクの演技力なら生前の彼らを完璧に再現するのもわけない。これはキミ達のための提案なんだ」

終里「……まじか?」

モノクマ「んー?」

終里「そうすれば……また、弐大に会えるのか……?」

日向「おい、終里!!」

終里「だ、だってよ……」

苗木「それなら、外に出る必要はないよ」

終里「え?」

苗木「七海さんと同じようなAIで彼らを再現しよう。君たちが望むならだけど、狛枝くんだって造れる」

モノクマ「よく言うよ。アルターエゴはあくまでも模倣で、そのものを再現することはできない。それはキミが一番よく知ってるよね?」ニヤニヤ

苗木「ふん……そっちこそ、中身はお前だろ?」

モノクマ「まあそうなんだけどね。うぷぷぷ……」


369: ◆3Exch9p5tM 2016/03/27(日) 00:11:38.60 ID:C8L7qay8o


苗木「お前はあくまでも現実の身体を手に入れたいだけ。彼らなんて、どうでもいいくせに」

モノクマ「ナエギくんだって、彼らの脳で計算を続けるのが目的なだけでしょ」

苗木「使用していない領域を借りるだけさ」

モノクマ「それを言うならボクだって絶望を広める足掛かりとして最初に少し借りるだけだよ」

日向「お、おい! 俺たちを置いて話を進めるんじゃ……」

苗木「ああ、そうだね。これは学級裁判だ。なら……」

モノクマ「ん?」

苗木「今回はオマエも参加者だろ?」

モノクマ「はいはい。じゃあ、これでいいかな?」


ヴヴ…

ヴゥン…!


江ノ島「じゃじゃーん! 江ノ島盾子ちゃん登場!!」


370: ◆3Exch9p5tM 2016/03/27(日) 00:12:04.61 ID:C8L7qay8o


日向「こ、こいつが……」

左右田「黒幕の、正体……」

ソニア「江ノ島……盾子……」

終里「てめえ……!」

小泉「……」


苗木「……確認しておこうか」

江ノ島「うむ。発言を許すぞ、人間よ!」


苗木「学級裁判の結果は多数決で決定する」

苗木「彼らが『留年』を選べば新世界プログラムでの生活が続く」

苗木「死んだ人たちの再現アバターを作成し、望むなら彼らの記憶もまた消去しよう」

苗木「この世界で、平穏な生活を提供することを約束するよ」

苗木「そして……」

苗木「このコロシアイ修学旅行の首謀者として、お前にはオシオキを受けてもらう」


371: ◆3Exch9p5tM 2016/03/27(日) 00:13:43.39 ID:C8L7qay8o


江ノ島「妥当ですね。では、こちら側が勝利した場合についてもまとめましょうか」

江ノ島「『卒業』が選択された場合、めでたく現実世界で目を覚ますことができます」

江ノ島「その時点で記憶及び人格は現在の物で上書きされ、更生が完了するでしょう。おめでとうございます」

江ノ島「そしてオマケだぜ! 死んだ奴らの身体はアタシが動かす! そいつらの成りきりも込みでなァ!」

江ノ島「まあアタシの人格を広めるまではちょーっとこっちの都合で動いてもらうけどな」

江ノ島「でもって、ナエギは処刑だ! この島にこいつらを閉じ込めた黒幕なんだからよォッ!!」


終里「な、なんだ!? いきなり口調が!」

江ノ島「私……絶望的に飽きっぽいんです……自分のキャラに対しても……」

左右田「め、めちゃくちゃだ……」

苗木「……さて、君たちはどっちを選ぶ?」


苗木(小泉真昼はおそらく『卒業』)

苗木(けど、それ以外は……日向創は微妙だけど、他は『留年』だろう)

苗木(ボクの勝ちだ、江ノ島盾子……!)


372: ◆3Exch9p5tM 2016/03/27(日) 00:14:18.96 ID:C8L7qay8o


日向「……なあ、少しいいか」

苗木「なんだい?」

日向「何もさ、多数決で決めなくてもいいんじゃないか?」

苗木「……は?」

日向「この世界に残りたいやつは残って、外に出たいやつは出る。それじゃダメなのか?」

苗木「待ってよ。残り少ない仲間だっていうのに、バラバラになるつもりかい?」

日向「これは犯人を当てるための裁判じゃない。なら、自分の未来くらい、自分で選びたい。もちろん、お前らが処刑されるとかも無しだ」

苗木「君は……いや、まさか……!」

日向「外の世界に出るのは怖い。けど、それでも俺は、ここから現実の世界と向き合いたい!」

江ノ島「ひゅー! 日向先輩かっこいいー!」

苗木「……!」


苗木(ダメだ、ダメだダメだダメだ! 日向創の脳だけは!!)

苗木(あれは……あれだけは、舞園さんを造るために絶対に必要なんだ!!)


373: ◆3Exch9p5tM 2016/03/27(日) 00:15:00.45 ID:C8L7qay8o


苗木「も、申し訳ないけど……多数決という学級裁判のルールは絶対だ。それはボク達にも変えられない」

江ノ島「あれれ。ナエギくん、気づかないのかい? うぷぷ……」

苗木「え?」


カタ…


江ノ島「小細工されないよう、ボク達2人に学級裁判のルールは弄れないように設定したみたいだけど……」


カタカタカタカタッ…!


苗木「なん、で……!」

江ノ島「新世界プログラムの防壁を破り、私様を持ち込んだ者のことは忘れていたようだな!」


ピコンッ!


プログラムヲ変更シマシタ
個別ニ卒業マタハ留年ヲ選択可能デス


374: ◆3Exch9p5tM 2016/03/27(日) 00:15:27.59 ID:C8L7qay8o


左右田「個別に……選択可能……?」

ソニア「えっと……つまり……日向さんの言っていたようなことができる、ということですか?」

小泉「そうみたいね……」

苗木「……嘘だ」


ガリ…


終里「お、おい?」

苗木「日向創がログアウトする? ははっ、それは、そんな……」


ガリガリ…


左右田「えっと……どうしましたかー、って、あれ……?」

苗木「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……嘘だッ!!!」


ガリガリガリガリガリガリッ!!


375: ◆3Exch9p5tM 2016/03/27(日) 00:16:30.67 ID:C8L7qay8o


ソニア「きゃあ!!? な、苗木さん!? 自分の腕を……や、やめてください!!」

苗木「そうか……ボクが見逃していたとはいえ……」


ガリガリガリ…


左右田「ひいい!! ち、血が!!?」

苗木「そもそも新世界プログラムの防壁を敗れるなら、その改変だってできる……」


ガリガリガリ…


終里「こいつ、頭おかしいぞ……!」

苗木「記憶が入学当初に戻っているからと放っていたけど……ずっと、奥に潜んでいたわけか……」

江ノ島「そーゆうこと」

苗木「君か……」

日向「……」

苗木「日向創、いや……カムクライズルッ!!」

日向 → カムクラ「初めまして、と言っておきましょうか。ナエギマコト」


386: ◆3Exch9p5tM 2016/05/02(月) 00:39:08.69 ID:KilzCXBgo


-ナエギマコト-


カムクライズル。
かつて『超高校級の希望』と呼ばれた存在。
この数年の記憶と共に消え去ったと思っていたそれが、目の前にいる。


苗木「いつからだ……」

カムクラ「いつから、とは?」

苗木「いつから日向創と入れ替わっていた……いや、そもそも君はどんな状態で存在して……」

カムクラ「僕はコピーされたデータですよ。あなたや、彼女と同じように」

カムクラ「日向創のアバター内に仮想領域を作り、そこから干渉しています」

カムクラ「主従が逆転したのはつい先ほど。あなた方が言い合っている最中ですね」


ボクの注意がモノクマに向いたとき。
ああ、また間違えた。
日向創には気を付けていたっていうのに。


387: ◆3Exch9p5tM 2016/05/02(月) 00:45:12.90 ID:KilzCXBgo


江ノ島「ははーん、日向ん中に潜り込んでたわけ。そりゃいくら検索しても見つからないわけだ」

カムクラ「一応、聞いておきますが」

江ノ島「何でしょうか?」

カムクラ「僕の存在をどのようにして知ったのですか?」

江ノ島「覚えておくがよい、人間よ。私様に知らぬことなどない!」

カムクラ「……」

江ノ島「こいつノリ悪いなあ。しょぼーん」

カムクラ「答えは?」

江ノ島「狛枝くんの意識を支配しているときの……不自然なデータ流入……何かできるとしたら、あなたしかいないので……」

カムクラ「なるほど。信頼されたものですね」


388: ◆3Exch9p5tM 2016/05/02(月) 00:45:46.91 ID:KilzCXBgo


左右田「ちょ、ちょっと待てよ! お前ら何言ってんだ!?」

終里「ん? 日向がどうしたってんだよ?」

江ノ島「日向先輩の意識は消滅しましたー。絶望時代の人格が戻ってきましたー。はい、めでたしめでたしー」

小泉「……!」

ソニア「えっ……?」

江ノ島「まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。今問いただすべきは、動機だ」

カムクラ「動機ですか?」

江ノ島「こうやって積極的に介入すんの、超高校級の引きこもりニートであるアンタらしくなくない? ま、あたしにとっちゃ都合がいいんだけどさー」

カムクラ「……随分な言いようですね」

江ノ島「どういうことよ?」

カムクラ「どういうことも何も、僕の目的は一貫していますよ。この世界はツマラナイ。だから、江ノ島盾子を利用して凡人の削減を――――」


苗木「笑わせるなよ」


389: ◆3Exch9p5tM 2016/05/02(月) 00:47:17.62 ID:KilzCXBgo


カムクラ「……何か?」

苗木「ははっ、なんだよそれ。幼稚園児の言い訳じゃあるまいし……くっ、ははっ」

カムクラ「君と僕とでは違いすぎる。理解できないのも無理はありません」

苗木「違いすぎる? あはは、それこそ違う、それは違うよ……!」

カムクラ「……」

苗木「『才能』をたくさん手に入れて、超人にでもなったつもりかい?」

カムクラ「持たない者にはわかりませんよ」

苗木「才能があるかないかは重要じゃない。本質はもっと、大元にある」


『苗木誠』と『日向創』は、凡人だった。


苗木「ボク達はさあ……むしろ、同じなんだよ」


凡人が、どうしようもない壁にぶつかって、挫けたんだ。
その結果がカムクライズルであり、そして――――


390: ◆3Exch9p5tM 2016/05/02(月) 00:48:00.18 ID:KilzCXBgo


苗木「ああ、確かに世界はツマラナイ。そう思って全てを諦めていた時期がボクにもあったさ」


けれど、今は違う。


苗木「それでも。ボクは前に進むことにしたんだ」

カムクラ「僕も、自分なりの目的があって――――」

苗木「いいや、違うね。君はボクの足を引っ張りたいだけだ」

カムクラ「……何を根拠に」

苗木「凡人の削減? はは、確かにそれは……当初、君が一応の目的としたものだろうね」

苗木「けど、ボクにはわかる。わかってしまうんだ」

苗木「本当はさ……そんなこと、どうでもいいんだろう?」


だって彼は、カムクライズルは、あの頃のボクと同じだから。


391: ◆3Exch9p5tM 2016/05/02(月) 00:48:31.24 ID:KilzCXBgo


苗木「無力で、惨めで、どこまでも空虚」

苗木「そんな君が、目的を達成しようと、何かを変えようと動くわけがない」

苗木「自分と同じように諦観していたボクが、また前を向いて、目的を達成する」

苗木「それが嫌なだけなんじゃないか?」

カムクラ「……」

苗木「だから……」


キィ…


苗木「立ち止まったままの亡霊が……」

江ノ島「うぷぷ……」


キィィーー…


苗木「ボクの邪魔を……するなッ……!!!」


キイィィーーーーンッ!!


392: ◆3Exch9p5tM 2016/05/02(月) 00:48:59.29 ID:KilzCXBgo


ジジ…

ジジジジジッ…!


ソニア「きゃ、きゃあ!? 一体何が……!?」

左右田「な、何もないとこに文字が……これ、新世界プログラムのコードか!?」

終里「なんだよこれ! 意味わかんねーぞ!!」

小泉「これが……」


ヴヴ…!


カムクラ「無駄ですよ。『超高校級のハッカー』の才能くらい、僕は持っている。あなたが僕をどうにかすることは……」


『超高校級のハッカー』?
ははっ。
何だよ、それ。


苗木「それが、どうした……!」


393: ◆3Exch9p5tM 2016/05/02(月) 00:49:32.68 ID:KilzCXBgo


カムクラ「……なんですって?」

苗木「だから君は凡人のままなんだ……」

カムクラ「かつて凡人であったことは否定しません。しかし、その凡人であるあなたがプログラミングで僕を上回れるとても?」

苗木「ははっ、ははははッ!」


才能を、ただ持っているだけ。
それでいて日向創としてのコンプレックスが根底にあり、才能を絶対視する。


苗木「そうやって自分が万能だと過信しているから、江ノ島盾子に敗けたんだよ」


そう。
何度もやり直せば、いつかは望む未来を手に入れられると思っていたボクのように。


ガガッ、ガシャンッ、ピーーーー!!


江ノ島「おいおいおい、まじかこいつ……!!」


394: ◆3Exch9p5tM 2016/05/02(月) 00:50:08.11 ID:KilzCXBgo


コードの流れが完璧に理解できる。
次に自分がどんな計算をすればいいか、どこを改変すればいいか、全てがわかる。


キィィーー…


カムクラ「まさか」

カムクラ「いや、そんなはずは……」

カムクラ「……僕が、苗木誠に押されている?」


キイィィーーーーン…!


江ノ島「こいつ、やりやがった!」

江ノ島「ぶっ飛んでるとは思ってたけど、これはさすがのアタシもドン引きだって! あっはははッ!!」

江ノ島「自分の脳に不二咲のアルターエゴをインストールしてアバターと同期! 不二咲の『超高校級のプログラマー』としての能力を十全に引き出すなんてね!!」

江ノ島「自分の脳を便利な外付けハードウェア程度にしか認識してないとか、超ウケるんですけど!!!」


395: ◆3Exch9p5tM 2016/05/02(月) 00:50:42.88 ID:KilzCXBgo


苗木「便利な外付けハードウェア……うん。確かにその通りだよ。初めからこういった使い方を想定したわけじゃないけどね」

小泉「……あんた、狂ってるよ」

苗木「そう?」

小泉「……」

苗木「まあ、誰にどう思われようとどうでもいいんだけどさ」


今さら何を言っている。
この程度、犠牲のうちにも入らない。
ああ、けれど。


苗木「君に言われるとは思っていなかったよ。小泉真昼さん」


『絶望』のくせに、白々しい。


396: ◆3Exch9p5tM 2016/05/02(月) 00:51:35.27 ID:KilzCXBgo


カタ…


カムクラ「正直、あなたがそこまでするとは思っていませんでした」

カムクラ「ええ、ええ。驕りがあったことも認めましょう」

カムクラ「けれど、僕もここで消えるわけにはいかないんですよ……!」


カタカタカタッ!!


互いの新世界プログラムへの干渉により、絶えず書き換えられるコード。
なるほど、確かにカムクライズルはハッカーとしても素晴らしい才能を持っている。
否、詰め込まれている。


苗木「邪魔だ……邪魔なんだよ……!」


それでも、ここまでだ。


苗木「君は、ここで『消去』する……!!」


ジジ…
ガ…
キイィィーーーーンッ!!


399: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:15:31.13 ID:28B3JwNio


-ヒナタハジメ-


なんだ、これ……


『江ノ島盾子を利用した凡人の削減を――――』


俺は、卒業か留年かを選ばなきゃ……
そうだ。
学級裁判だ。
最後の学級裁判だ……
ああ、けれど。


ズキ…


そうだった……
俺は……俺達は……
『絶望』だったんだ……!


『僕も、自分なりの目的が――――』


……あれが、俺か。
俺の末路か。


日向「なんて、惨めなんだ……」


400: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:15:59.48 ID:28B3JwNio


ズキ…


思い出した、というのは少し違う。
カムクラの意識……いや、記録が流入しているんだ。


日向「はは……『空虚』とか、言ってくれるじゃねえか。苗木……」


ピッタリな言葉だと思った。
世界が、希望が、絶望が、何もかもがどうでもいい。
ツマラナイ。
何をしても満たされない。
何をされても響かない。


日向「けど、そんなカムクラにも望みができた」


ズキ…


頭が痛い。
脳みそが割れそうだ。


日向「ああ。結局、カムクラは俺なんだ」


他人がわからない。
理解できない。
この殺し合いの中で何度もそう思ったけど、今回は違う。


401: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:16:34.05 ID:28B3JwNio


ズキ…


日向「他でもない自分のことなら理解できる」


つい最近まで自分にも才能があると思い込んでいたけど。
……あれはまあ、記憶がなかったんだから仕方ないだろう。


日向「カムクラは……仲間が欲しかったんだ」

日向「自分と同じように空虚で、全てを諦めた仲間が欲しかったんだ……」

日向「そんなやついるわけないって思ってたけど、あいつは見つけてしまった」


ズキズキ…


日向「前回の、希望ヶ峰学園での殺し合い」

日向「その序盤を、何百回も繰り返した記録。いや、それこそ記憶そのものか」


あいつの本当の目的。
それは、きっと……


日向「苗木にもう一度全てを諦めさせて、自分と同じ場所まで引きずり降ろすこと」

日向「なあ、そうだろ?」


カムクラ「……」


402: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:17:17.80 ID:28B3JwNio


カムクラ「……仮に」

日向「ん?」

カムクラ「もしもそれが僕の目的だとして、君に邪魔をする理由は?」

日向「わからないか?」

カムクラ「……」

日向「苗木が言った通りだよ。お前は……いや、俺達か」

日向「俺達は、立ち止まったままだ。希望ヶ峰学園で手術を受けたあの日から、ずっと」

日向「苗木のやつは……やり方は間違ってるけど、前に進もうとしてる」

日向「だからさ。俺達もそろそろ未来に進もうぜ?」

カムクラ「……その場合、僕は消えてしまうのですが」

日向「お前は俺だよ。消えるわけじゃない」

カムクラ「詭弁ですね」

日向「かもな。けど、俺はお前を、カムクライズルになっていた頃の自分を、もう忘れない。それじゃダメか?」


403: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:17:55.09 ID:28B3JwNio


カムクラ「……後悔しますよ」

日向「どうしてそう思う?」

カムクラ「この世界はツマラナイ……が、『絶望』であった僕達にとっては酷く生き辛いものです」

日向「なんだ、そんなことか」

カムクラ「そんなことって……あなた、さっきはその事実に絶望していたじゃないですか」

日向「それはそれだ。まあ、なんとかなるさ。仲間だっているんだ。それに……」

カムクラ「……?」

日向「後輩が間違った道に進むなら、それを正すのも先輩の役目だろ?」

カムクラ「……ふっ」


だから、ここからは俺がやる。


――――

――


404: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:18:25.30 ID:28B3JwNio


-ナエギマコト-


苗木「――――終わったみたいだね」


ジ…ジジ…

シュゥン…


ソニア「えっ……?」

左右田「な、なんだ……? コードが、消えて……」


「ああ、くそ。頭が痛い……」


終里「お、おい! あいつ!?」

小泉「日向に……戻った……!?」


カムクラ → 日向「まあ、そういうことになるな……いてて……」


405: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:19:04.68 ID:28B3JwNio


苗木「お帰り、日向くん」

日向「……」ジッ…

苗木「どうしたんだい? そんなに睨み付けないでよ」

日向「全部、お前の計算通りか?」

苗木「さあ。どうかな」

日向「とぼけるな。さっきまでハッキング合戦みたいなことをしてたみたいだけど、あれは本命じゃなかった。お前じゃカムクラを完全には押し切れない」

日向「カムクラに気付かれないよう、少しずつ俺の脳をクロックアップ。あいつがお前に対処している隙に俺が主導権を取り返すのを待っていたんだろ?」

日向「最終的には賭けじゃねえか。……なあ、苗木。お前焦ってるだろ」


日向創はボクと同じ凡人だ。
なら、ボクと同じように強い意志で再び前に進むことができる。
どん底で停滞したカムクライズルだって打ち破れるはずだ。
分の悪い賭けなんかじゃない。


苗木「……」


……本当に?
……。
いや、今はそんなことどうでもいい。


406: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:19:52.40 ID:28B3JwNio


苗木「ボクは君を信じていただけさ」

日向「そうかよ……じゃあ俺は、信頼に応えられなくて申し訳ないけど、この世界を卒業させてもらうぞ」

苗木「……どうしても?」

日向「ああ。俺は外の世界に出る。そして……」チラ…

小泉「っ……」ビク

日向「……皆にも、卒業を選んでほしいと思ってる」

苗木「……」

左右田「け、けどよお日向! そんなことしたら……」

ソニア「そのモノクマさんの中の人が世界に溢れてしまいます!」

日向「留年を選択したら、俺達はそこでおしまいだ。だからまずはこの世界から出て、江ノ島盾子のことはその後でどうにかする」

終里「え? どうにかできんのか?」

日向「するしかないんだ……! それしか俺達が未来を掴む道はない。そうだろ?」

左右田「確かに……そうだよな……」

ソニア「ええ……」

小泉「……」


407: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:20:21.72 ID:28B3JwNio


江ノ島「へえ。ふぅ~ん。ほおー」

苗木「……」

江ノ島「うぷぷ。カムクライズルは消えたけど、彼らが留年を選択することはなさそうだよ、ナエギくん。」

苗木「……」

江ノ島「残念でしたね。なかなかいいところまでは行ったと思うのですが」

苗木「……」

江ノ島「日向を利用したとはいえ、まさかあのカムクラをてめえが打ち破るとはなあ! これにはさすがに驚いちまったぜ!」

苗木「……」

江ノ島「まぁあたしもー、本人の前で卒業した後であたしのことどうにかするって言われちゃってー、ちょーっとどうしよっかなーって感じだけどー!」

苗木「……」

江ノ島「けれど……あなたは明確に……ここでゲームオーバーです……」

苗木「……」

江ノ島「しかし人間よ! 凡人たる貴様がこれだけのことをした事実は称賛に値するぞ!」

苗木「……」


408: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:20:54.50 ID:28B3JwNio


江ノ島「……長い付き合いだったね、ナエギ」

江ノ島「あんたからすると、本当に長い付き合いだったんだよね」

江ノ島「15年と9か月だっけ」

江ノ島「いいの? このままじゃ、本当にこれで終わっちゃうよ?」

江ノ島「ねえ? ねえねえ?」ニヤニヤ


憎たらしい。
憎たらしい、憎たらしい。

わかっているくせに。
ボクが何を考えているか、どう感じているか、わかっているくせに。

このままじゃ終わりだって?
そんなこと、わかってる。
わかってるんだ!

それで、いいのか、だって……?


苗木「いいわけ……ないだろ……ッ」ギリ…!


409: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:21:34.28 ID:28B3JwNio


キ…イィィ…


終里「……な、なんだ?」

左右田「ま、また何かコードを書き換えてんのか!?」


――――どうにも、うまくいかない。あの頃から進歩がない。


ソニア「今度はいったい何を……」

日向「……まさか! おい、苗木――――!」


――――けど、もう諦めることはやめたんだ……!


小泉「……あはっ」

江ノ島「うぷぷぷぷ」


――――ボクは、舞園さんを造る。舞園さんを救う。そのためなら……


『未来は、希望に満ちている』
『希望……』
『ええ。私は、そう信じているんです』


苗木「彼女の想いを踏みにじってでも、彼女を救う……ッッ!!」


キイイィィィィ――ッッ


Boot_【グングニルの槍】x999


410: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:22:03.82 ID:28B3JwNio


ヴヴ…
ジ…ジジ… ザザザザザザッ!!


日向「なんだ、これ……槍……!?」

左右田「すげーたくさんあんぞ!?」


コロシアイには干渉しないだとか。
彼らの未来を奪ってはいけないだとか。
これ以上舞園さんに嫌われたくないだとか。


苗木「そんなの……どうでもいい……!」


それらを全て無視してでも、ボクは、『苗木誠』は、舞園さんを造らなければいけない。


江ノ島「きゃはははは! いいよ、すっごくいいよナエギィ!!」

江ノ島「今のあんた、最高だよ!」

江ノ島「仮にうまくいったとしても、あの子はそれを許さないってわかってるっていうのにさ!!」

江ノ島「何もかも犠牲にして絶望をまき散らすあんた、最ッ高に絶望的だよ!!」

江ノ島「やばいやばいやばい! 惚れちゃいそうなんですけどー!!」

江ノ島「くーっ! あたしも松田くんにそれくらい熱烈に想ってもらいたかったぜ!」


411: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:22:30.13 ID:28B3JwNio


ザザザザザザ…!!


終里「いや……これ……死ぬだろ……」

ソニア「や、やめてくださいっ、苗木さん!!」

苗木「いいや。やめないよ……」


ボクはいつも、決断するのが遅い。
どうせ、こんなことになるんだったら……


苗木「初めからこうすればよかったんだ……」

苗木「君たちも、78期生の仲間たちも、さっさと殺して脳を奪うべきだった……!」


これは今まで以上に、人として間違った行為だ。


苗木「ボクの目的のために……死んでくれ……!!」


それでも、それでもボクは――――


江ノ島「あは、あははッ」

江ノ島「あー、面白い」

江ノ島「けどさー……これはさすがに空気読めてなさすぎじゃね?」


412: ◆3Exch9p5tM 2016/05/07(土) 00:22:59.62 ID:28B3JwNio


パキ…


苗木「えっ……?」


パキ…
パキ… パキ、ン…ッ


苗木「グングニルの槍が……砕けていく……?」


「……ごめんね」


――――その声には、聞き覚えがあった。


苗木「なっ……」

苗木「どうして……なん、で……君が……!」


どうして、今なんだ。
どうして、ここに、このタイミングで――――


ヴゥン…


七海「――――もう、やめようよ……苗木くん……」


418: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:31:27.03 ID:GS/+/dx9o


――――



-ナナミチアキ-



【希望ヶ峰学園3階】

【物理室】


ゴウンゴウン…


十神「ここだ」


中に入った私の目に飛び込んできたのは、低い音を発する大きな機械だった。


七海「これは……?」

霧切「空気清浄機よ。あの頃は、空気が汚れていたの」

十神「そんな物はどうでもいいんだ。それよりも……」

霧切「ええ、わかってる。……あれよ」


それは、椅子だった。


七海「これが……」


座り心地の悪そうな。
アドベンチャーゲームの拷問シーンにでもでてきそうな。


霧切「そう。これが、江ノ島盾子が死の間際に座っていた椅子よ」


419: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:31:55.83 ID:GS/+/dx9o


十神「怪しいとは思っていた。なにせ、本来ここにこんな物はなかった筈なんだからな」

霧切「私達がこれを見たのは最後の処刑の時だけ。だから入念に調べはしたけれど、何も見つけることはできなかったわ」

七海「……」


江ノ島盾子の、超高校級の絶望の最期。


十神「どうだ、七海。AIであるお前なら、これから何か見つけることができるか?」


彼女とよくわからない会話をしていた苗木くん。


霧切「もう他に思いつくことはないわ。どうにかして、手掛かりを見つけないと」


そして、その時に出た『やり直す』という言葉。


七海「……」


――――ああ。これは、『バグ』だ。


420: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:32:23.16 ID:GS/+/dx9o


ジ… ジジ…

ガッガガガ…



ERROR!

ERROR!

ERROR!



アクセス権限ガ確認デキマセン

アクセス権限ガ確認デキマセン

アクセス権限ガ確認デキマデキマセンンンン



七海「……」


きっと、これにアクセスしたら私は飲まれてしまうだろう。


七海「……それでもいいよ」


421: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:33:03.67 ID:GS/+/dx9o


七海「霧切さん、十神くん。少し離れてて」


彼らを救うためならどんなことでもしてみせる。
もしも、こんな造り物のイノチモドキでそれが叶うなら。


七海「……」スッ…


きっとこの生涯にも、意味はあったのだろう――――



アクセス権限ガ

aアクセス権限ガガ

アアアアクセススs権nn限ガガガガgagagaaaaa



――――そう、思っていた。



pipi!

アクセス権限ガ確認サレマシタ
プログラムヲ管理者権限デ起動シマス



七海「――――えっ?」


422: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:33:29.47 ID:GS/+/dx9o


Starting TM Version 0.10 ...............
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
.........................OK



Loading MAKOTO_NAEGI_memory..................
........................................
........................................
........................................
.............OK



The program is ready.



メモリー『タイムマシン』ヲ再生シマス


423: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:33:56.64 ID:GS/+/dx9o


――――

――



『な、なんだこのバカでかい機械は……?』

『実はこれ、タイムマシンなのです!』

『どうせさっきみたいに嘘なんだろ? 桑田くん達の写真といい、手の込んだ嘘ばっかり……』

『意識が時空の彼方に飛んで行って廃人になっちゃったからねー! うぷぷぷ!』

『……『超高校級の幸運』』

『僕が君をここから出してみせる! どんなことをしても、絶対にだよ!!』

『その言葉……信じてもいいですか……?』

『使ってみるよ。タイムマシーン』

『うぷぷぷ、うまく成功するといいねえ』

『このタイムマシンで、舞園さんを救ってみせる……!』



――――頭を、殴られたような気がした。


424: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:34:24.99 ID:GS/+/dx9o


『舞園さんの……部屋……』

『時間は!?』

『まずは舞園さんを説得しなきゃ!』

『舞園さん、本当に……』

『うわあああああああ!!!!』

『はは……やあ、舞園さん……』

『……! や、やめて! ごめんなさい殺さないで!!』

『落ち着いて……僕は君を助けに来たんだ……落ち着いて……』

『桑田くんを呼び出して、今みたいにナイフで襲って……そしてこの部屋の本当の持ち主である僕に罪を被せようとした。合ってる?』

『エスパーだから』

『冗談。ただの勘……いや、経験則かな……』



七海「あ、ああ……」


425: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:34:51.70 ID:GS/+/dx9o


『……私を殺すんですか?』

『信じてほしい。誰1人死なずに、みんなでここから出たいんだ』

『……』

『助けられた……』

『舞園さんを助けることができた……!』

『ああ……よかった……』

『コンコン』

『コンコンコン』
『ドンドン!』
『ガチャ…』

『そんな……そんなまさか……』
『ああ……!』
『な……なんで……なんで舞園さんが死んでいるんだよ!!?』
『俺を殺そうとしてたって言うんだぞ!?』
『まあ最初の事件はこんなものかな。ちゃっちゃと投票しちゃおうか』

『ねえ苗木くん、この大きな機械なんだと思う?』
『……タイムマシン』
『またね、モノクマ』
『今度こそ……今度こそ舞園さんを……!』



これは、記録、いや、記憶、だ――――


426: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:35:18.16 ID:GS/+/dx9o


『もう一度やり直せば、今度はもっとうまく――――』
『苗木よ、そこで何をしている?』
『ピンポンパンポーン』
『死体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を始めます!』
『ねえ、ところでこの機械なんだと思う?』
『ポチッ』
『やあ、舞園さん』
『過去をやり直しているのに、なんで舞園さんを救えない……!?』
『明日からまた頑張りますね、苗木くんの助手として!』
『だいせいかーい!! 舞園さんを殺したクロは大神さんでしたー!』
『またやり直さなきゃ』
『舞園さんを救えなかった』
『10回戻れば10通りの死が……』『100回戻ったら、100通りの死に方をするのか……?』
『ねえ、今まで何回繰り返したの?』

『ああ、失敗した』『早く、早くやり直さなきゃ』
『ガリガリ』『どうして舞園さんは死んでしまう?』『ガリガリガリ』
『ありとあらゆるパターンを試そう』『たとえ何度繰り返すことになっても』『最後にはきっと、君を救えるよね……』

『3階へのシャッターが開く時間だ』

『舞園さんは死ぬ。殺される』
『舞園さんは救えなかった』
『舞園さんは救えなかった』
『舞園さんは救えなかった』『舞園さんは救えなかった』
『舞園さんは救えなかった』『舞園さんは救えなかった』『舞園さんは救えなかった』

『舞園さんの可能性は死へと収束する』


427: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:35:45.49 ID:GS/+/dx9o

『舞園さん!』
『嫌……死にたくない……』
『殺さないで!!』『殺さないから! 落ち着いて!』
『ズ…』
『ぁ……』『僕が持ってた……包丁……?』
『苗木……くん……?』『僕は……こんなつもりじゃ……!?』『ああ……あああああ……!!』
『舞園さんを救えなかった』『……僕が、この手で舞園さんを殺してしまった』
『嘘だ……こんなの……僕が……』
『クロに選ばれるのは……桑田くんだ……!!』
『ジャララン!』
『ガランガランガラン…』
『ブーブーブー!』
『う、嘘よね……? え? 私たちが……おしおき……?』
『いやいやいや意味がわかりませんぞ!?』
『あっ、あなたは……!』『苗木いいいッ!!!』
『どういうことだ苗木!? 説明しろ!!』『なっ、なんで……なんでこんなことできるの!?』『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……』『許さねえ……絶対に許さねえかんなッ!!』
『う、嘘……嘘だよね……苗木くん!?』『えっ、ど、どういうことだべ!?』『それがお主の答えか、苗木よ……!』『苗木くん……あなたは……!』
『僕のせいで処刑された』
『僕のせいで処刑された』
『僕のせいで処刑された』『処刑された』
『処刑された』『処刑された』『僕のせいで処刑された』『処刑された』
『処刑された』『処刑された』『処刑された』『僕のせいで処刑された』



七海「いや……あ、ああ、あ……!」


428: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:36:12.13 ID:GS/+/dx9o

『舞園さん!』
『嫌……死にたくない……』
『殺さないで!!』『殺さないから! 落ち着いて!』
『ズ…』
『ぁ……』『僕が持ってた……包丁……?』
『苗木……くん……?』『僕は……こんなつもりじゃ……!?』『ああ……あああああ……!!』
『舞園さんを救えなかった』『……僕が、この手で舞園さんを殺してしまった』
『嘘だ……こんなの……僕が……』
『クロに選ばれるのは……桑田くんだ……!!』
『ジャララン!』
『ガランガランガラン…』
『ブーブーブー!』
『う、嘘よね……? え? 私たちが……おしおき……?』
『いやいやいや意味がわかりませんぞ!?』
『あっ、あなたは……!』『苗木いいいッ!!!』
『どういうことだ苗木!? 説明しろ!!』『なっ、なんで……なんでこんなことできるの!?』『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……』『許さねえ……絶対に許さねえかんなッ!!』
『う、嘘……嘘だよね……苗木くん!?』『えっ、ど、どういうことだべ!?』『それがお主の答えか、苗木よ……!』『苗木くん……あなたは……!』
『僕のせいで処刑された』
『僕のせいで処刑された』
『僕のせいで処刑された』『処刑された』
『処刑された』『処刑された』『僕のせいで処刑された』『処刑された』
『処刑された』『処刑された』『処刑された』『僕のせいで処刑された』



七海「いや……あ、ああ、あ……!」


429: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:36:38.78 ID:GS/+/dx9o


『僕はみんなを殺したんだ。この周回を無駄にはしない。絶対に』
『あれ苗木? えっ、なに廊下までフォーク持って来てんの! ウケるんだけど!』
『江ノ島さ……ん……?』『お前たちが……黒幕……!!』『っ……! 殺してやるッ!!!』
『つまり苗木くんは、タイムマシンを使ったわけだね。うぷぷぷ~』
『くそ、くそ、くそ……殺す……殺してやる……!!』
『これから記憶を消したら、また70回繰り返してこの時間に戻ってくるのかな?』『すごいじゃん苗木! アンタ永遠にコロシアイ学園生活を続けられるよ!!』
『……』
『過去に戻れたんだ。きっと、舞園さんを救えるよね……!』
『舞園さんを救えなかった』『舞園さんを救えなかった』『舞園さんを救えなかった』
『舞園さんを救えない』『過去をやり直しているのに救えない』
『ガリガリガリ』
『思い出した……思い出したぞ……!』

『ねえ大神さん。一度は黒幕と通じたんだ。お詫びにさあ、僕らの脱出に協力してくれるよね?』
『苗木くん、思い出したんだね』
『この段階で私様の正体がバレるとは思っていなかったぞ! やるではないか人間よ!』
『それにしてもー、苗木くんに裏切られるとは思ってなかったなー!』
『霧切さん! き、君は信じてくれるんだよね!?』『そ、そんな……』
『そしてまた、舞園さんは殺された』
『だいせいかーい!! 舞園さんを殺したクロは桑田くんでしたー!』
『教えてくれよ……なんで救えないんだ……』『舞園以外は?』『……わからない、どうでもいい』
『苗木、アンタに舞園を救うことは不可能だよ』
『むしろ……』
『アンタはタイムマシンを使うことで、100回以上も舞園を殺していたんだね!』


430: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:37:12.79 ID:GS/+/dx9o


『あっ! おはようございます、苗木くん!』
『何度でも繰り返そう』『僕は、舞園さんを救うことを諦めた』
『そのとき、妹に見つかっちゃってさ……』『ふふっ、さすがは超高校級の助手ですね私!』
『無理だけはしないでくださいね?』『……はい、カットー! なんちゃって!』
『……』
『……』
『…………』
『…………』『…………』『……』『…………』
『ああ……』
『こんなことを繰り返したところで……』『舞園さんは……』
『無理だけはしないでくださいね?』『あれから……何年経った……』『過去を、やり直したいって……思ったことある……?』
『……私は、過去を受け入れます』『未来は、『希望』に満ちている』
『前に、進まないと……』『『希望』は……前に進むんだ……!』
『しっかり『絶望』は味わえたかい?』
『キミは、間違いなく『異常』だよ。うぷぷぷぷ』
『それじゃ、また来世でね!!!』『永遠に絶望してろ……江ノ島盾子……』

『ごめんね……約束、守れなかった……』
『アルター、エゴ……あれなら……!』
『君を、造ろう……』

『未来で……必ず君に……!!』



七海「ああ……! あああああああッ!!!!!」


431: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:41:28.55 ID:GS/+/dx9o


――――頭を、殴られたような気がした。


霧切「七海さん!?」

十神「おい、何があった! しっかりしろ!」

七海「う、ああああッ!!」

霧切「落ち着いて!」

七海「っ……霧切さん……」

十神「おい、大丈夫なのか?」

七海「十神……く、ん……ッ!!」

十神「七海!?」

七海「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

七海「違う、だってああするしかなかった、私は、僕は死ぬわけにはいかなかった、僕は僕は僕は!!」

七海「ああ、やらなきゃ。造らなきゃ。造らなきゃ造らなきゃ造らなきゃ!!!」

七海「僕は、ボクが――――!」


432: ◆3Exch9p5tM 2016/06/04(土) 03:41:59.39 ID:GS/+/dx9o


霧切「七海さん!!!」ギュ…

七海「ひっ……!!」

霧切「大丈夫。もう大丈夫。ね?」

七海「き、霧切、さん……?」

霧切「無理をさせてしまって……ごめんなさい……」

七海「ぁ……」

十神「落ち着いたか?」

七海「……うん」


ゆっくりと、頭で咀嚼し、取捨選択し、2人に話す。
私が見たのは、苗木くんの記憶そのもの。
いや、見たというよりも、あれは……


七海(あれだけの月日を、一瞬で追体験させられたかのような……)


15年と、9ヶ月。
それが、苗木くんの絶望の起源。


七海「……わかったよ。苗木くんが、ああなった理由――――」


ああ……
この世界は、なんて救いがないのだろう……


437: ◆3Exch9p5tM 2016/06/19(日) 15:20:47.58 ID:100CdO4fo


――――

――



-ナナミチアキ-


そして、私はまた彼らの前にいる。


日向「七海……なんだよな……?」

七海「うん。久しぶり……でもないんだっけ」


私の主観では、もう何年もの時間が経っているけれど。
ああ、そうか。
これが苗木くんの感じていた『ズレ』か。


ソニア「七海さん……!」

左右田「あ、危ないですよソニアさん! こいつは俺達を殺そうとしたんだ!」

日向「いや、それは違うぞ左右田。カムクラの記憶を見たんだ。七海は狛枝によって犯人に仕立て上げられただけだった」

終里「はあ? つまり……どういうことになるんだ、小泉?」

小泉「っ……さ、さあ……私にも、よくわからないよ……」

日向「……なあ、小泉――――」

七海「まあまあ。その話は後にしようよ。そうだよね、苗木くん」

苗木「……ああ。そうだね」


438: ◆3Exch9p5tM 2016/06/19(日) 15:21:32.21 ID:100CdO4fo


苗木「驚いたよ。どうやってここに来たんだい?」

七海「わからない?」

苗木「……」

七海「苗木くんが思っている通り。元々持っていた私の権限を使っただけだよ」


苗木くんは彼女を造ろうとしていた。
私は彼女を造ろうとした過程で生まれた失敗作だった。
もし。
もしも、彼女を造ることに成功していた場合。


七海「彼女が苗木くんと対等の権限を持っていたとしてもおかしくないよね」


第2の管理者権限。
それは私達の構築時に付与されるもので、今までその存在を知らなかっただけ。


苗木「それで? 君はいったい何をしに来たのかな」

七海「それも、苗木くんが思っている通りだよ」


ヴゥン…


霧切「しばらくぶりね。苗木くん」

十神「この新世界プログラムを強制シャットダウンさせてもらおうか」

苗木「……」


439: ◆3Exch9p5tM 2016/06/19(日) 15:21:57.81 ID:100CdO4fo


十神「いいか。強制シャットダウンというのは――――」


この世界を強制的に終了し、生き残った5人を現実世界に帰す。
同時に、侵入した江ノ島盾子のウィルスも削除することができる。


日向「これしかないんじゃないか? 俺は、強制シャットダウンを選ぶのがベストだと思う」

左右田「けど、そしたら俺達も『絶望』に戻っちまうんだぞ!?」


……プログラムとなった苗木くんも、同様に削除される。
そうしてこの悲劇は終わるんだ。


日向「卒業して江ノ島盾子をどうにかするより、自分達をどうにかする方がなんとかなりそうだろ?」

小泉「……私は反対だよ」


そのための最後の関門。
日向くん、ソニアさん、終里さん、左右田くん、私、霧切さん、十神くん。
強制シャットダウンには8人の操作が必要だ。
あと1人、小泉さんの票が足りない。


440: ◆3Exch9p5tM 2016/06/19(日) 15:22:29.10 ID:100CdO4fo


江ノ島「王道というものをよくわかっているではないか、人間よ!」

江ノ島「教えてあげてください……あなたが、なんなのか……」


ねえ、小泉さん。
あなたは、本当に――――


ソニア「こ、小泉さん? 反対って、どうして……」

小泉「……うふっ。うふふふ。どうして? どうしてだって!」

終里「いきなり笑い出してどうしたんだよ。腹でも空いたか?」

左右田「お前と一緒にすんなよ!」

日向「……」

小泉「あはははぁ! だって私、思い出してるもん! 自分が『絶望』だっていうこと!」

ソニア「えっ……?」

左右田「は? ……はああああああ!!?」

小泉「強制シャットダウンであんた達を絶望に戻すのもいいんだけどね? とりあえず、思い通りにさせないことにしてみたよ! あはっ、ふふふ!!」


441: ◆3Exch9p5tM 2016/06/19(日) 15:23:12.71 ID:100CdO4fo


日向「やっぱり、そうだったんだな……」

七海「……」

小泉「ペコちゃんが死んだとき、楽しかったなあ。みんな慌てちゃってさ。ふふっ」

小泉「そのあと死体がおしおきされるの、すっごい興奮しちゃった……!」

小泉「九頭龍がモノクマに手を出して殺されたのとか、私を殺そうとしたんだしざまあ見ろって感じ!」

小泉「唯吹ちゃんを殺した蜜柑ちゃんは立派だよね。同士として誇らしいよ。うんうん」

小泉「ドッキリハウスに閉じ込められたときは日寄子ちゃんが可愛かったなあ。私がちょっと弱音吐いたら健気にもファイナルデッドルーム行って無駄死にしちゃうんだもん」

小泉「無駄死にといえば田中のあの表情! あれ今思い出しても笑える……く、くふっ!」

小泉「けどね。やっぱり、一番良かったのは……」

七海「……」

小泉「ねえ、千秋ちゃん。信じてた人に裏切られてどんな気持ちだった?」

日向「もういい。やめろ」

小泉「辛かった? 愕然とした? 怒った? どうだったの、教えてよ。あははははっ!」

日向「やめろ、小泉……!」

小泉「やめない! ねえ、私は愉しかったよ! ゾクゾクしたよ! AIでもあんな風に絶望を感じることができるんだね!! あひゃっ、はははっ!!」

日向「小泉!!!」


442: ◆3Exch9p5tM 2016/06/19(日) 15:24:00.19 ID:100CdO4fo


七海「……いいよ、日向くん」

日向「けど……!」

七海「ねえ、小泉さん。聞きたいことがあるんだけど、いい?」

小泉「ちょっとちょっと千秋ちゃん! 質問に質問で返すとか――――」

七海「本当に、楽しかった?」

小泉「――――え?」

七海「それとも、絶望的だった?」

小泉「……」

七海「答えてよ、小泉さん」

小泉「決まってるじゃん。絶望的で、とっても楽しかったよ」

七海「……あのね、『見てきた』よ。本当の『超高校級の絶望』と呼ばれる人たちを」

小泉「盾子ちゃんやむくろちゃんのことかな? 確かにあの人達は別格だね。まさに本物だよ」

七海「私にはね、小泉さんが彼女たちと同じとはどうしても思えなかったんだ」


443: ◆3Exch9p5tM 2016/06/19(日) 15:24:28.17 ID:100CdO4fo


小泉「わかんないかなあ。あたしは思い出したんだって」

七海「何を?」

小泉「あたしが、あたし達が起こしてきた絶望的な悲劇をだよ」

七海「それで?」

小泉「皆を戻してあげるの。そしてまた、一緒に絶望するんだ! えへへ!」

七海「そっか……そういうことだったんだね……」

小泉「ちょっとちょっと、さっきから何よ千秋ちゃん? 」


管理者権限というのは便利なものだ。
生体ポッドの取得するバイタルサインを読み取ることだってできるのだから。


七海「よかった。小泉さん、『絶望』に戻ったわけじゃなかったんだね」

小泉「……なに言ってんの?」


きっとモノクマは、江ノ島盾子は、それすらも知っていたのだろう。


七海「最低」キッ…

江ノ島「うぷぷぷぷぅ~」ニヤニヤ


444: ◆3Exch9p5tM 2016/06/19(日) 15:24:54.28 ID:100CdO4fo


日向「そう、なのか? 小泉……?」

小泉「なに真に受けてんのよ日向。違うって。違う、違う違う」

七海「小泉さん……」

小泉「私は絶望だよ? 絶望の残党だよ? あたしもあんた達も、世界に絶望を振り撒いてた!」

七海「その頃に戻らなきゃならない?」

小泉「そうだよ!」

七海「なんのために?」

小泉「そんなのもちろん、世界をもっと絶望させるために――――」

七海「自分達を絶望させるため、じゃなくて?」


絶望の記憶を思い出したのは間違いない。
絶望を感じていたのも間違いない。
けれど、その後に来るのは愉悦ではなく懺悔だったというだけのこと。


七海「自分達が幸せになっちゃいけない。もっと絶望して苦しまなきゃいけない。そう思ったんじゃないの? ……少し、狛枝くんに似た考えだね」

小泉「……っ……!」


445: ◆3Exch9p5tM 2016/06/19(日) 15:25:29.37 ID:100CdO4fo


小泉「……だとしたら、なに?」

小泉「仮に。仮にだよ。そうだとして、千秋ちゃんはこう言うつもり?」

小泉「『あなた達は世界をめちゃくちゃにしました』」

小泉「『直接、間接問わず、数えきれないほどの人を殺しました』

小泉「『けどそのことは忘れて更生しましょう。そして幸せになるのです』」

小泉「そういうことかな?」

七海「……そうだよ」

小泉「ぷっ、くく……ねえ、聞いた!? 今千秋ちゃんがすごいこと言ったよ!」

七海「……」

小泉「あたし達が許されるわけないじゃん! 未来機関にだって殺そうとされた救いようのない悪だよ? そもそも、あたし達自身がそんなの許せるわけ――――」

七海「私が許すよ」

小泉「……え?」

七海「たとえ世界の全てが君たちの敵になっても、私は最後まで君たちの『希望』を信じる」

小泉「……」

七海「だから1人で全部背負わないで。何があっても、私は小泉さん達の味方だよ。ね?」

小泉「千秋……ちゃん……」


これはきっと、私のエゴだ。
正しいのは未来機関や狛枝くんや小泉さんのような考えなのかもしれない。


七海(それでも――――)チラ…


もう、絶望も悲劇も嫌なんだ。
それが私の選んだ『未来』だよ、苗木くん。


苗木「……」


450: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:14:04.46 ID:JV9ORmRjo


-ナエギマコト-


どうやら彼らは七海さんをまた信じることにしたらしい。


苗木「茶番だね」

七海「茶番で構わないよ。どんなに無理やりでも、バッドエンドなんかよりずっとましだよ」

苗木「ふん……」


その言葉に同調する77期生達。
ああ、どうしてこうも――――


苗木「吐き気がするよ」ギリ…


ボクは、信じてもらえなかった。
ボクは、誰にも支えてもらえなかった。
ボクは、ボクには、仲間なんていなかったのに……!


ジ…

ジジッ…!


『――――あっ、繋がった!!』


451: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:14:38.19 ID:JV9ORmRjo


苗木「今度は君たちか……」


ジ…ヴヴ…


朝日奈『苗木!!』

葉隠『苗木っち!!』


かつての、偽物の仲間たち。
外部との通信を復旧させたのは――――


苗木「これは……ボクに対する嫌がらせかい……?」ギロ

七海「違うよ。説得したいんだ、苗木くんを」

苗木「説得? 今さら?」

七海「今だからこそだよ。ねえ、苗木くん。強制シャットダウンが起動したら、君は……」

苗木「削除される。それが何?」

七海「……私の権限で、苗木くんを外部ストレージに移動する。そうすれば……」

苗木「情けでも掛けているつもりかい? 第一、他の皆が許すわけないだろう」

七海「霧切さんと十神くんには納得してもらってるよ」


452: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:15:05.22 ID:JV9ORmRjo


十神「チェックメイトだ。削除しないだけありがたく思え。……今後はたっぷりとこき使ってやる」

苗木「……」

葉隠『まだよくわかってねーことだらけだけど……もう悪いことはやめようぜ、苗木っち!』

苗木「……」

朝日奈『そうだよ、そんなの苗木らしくないって!』

苗木「……」

日向「全部水に流すってわけにはいかねーけど……俺は、七海が決めたなら文句は言わねーよ」

苗木「……」

霧切「今度こそ、終わりにしましょう。苗木くん……」


みんながボクに諦めろと言う。


苗木「……協力してくれる気は、ないの?」


みんながボクに、彼女を諦めろと言う。


453: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:16:31.89 ID:JV9ORmRjo


苗木「少し、脳を貸してくれるだけでいいんだ」

苗木「新世界プログラムの中で不自由はさせない」

苗木「もうコロシアイだってしなくていい」

苗木「ボクの計算が終わったらすぐにでも解放することを約束するよ」

苗木「君たちの仲間もアルターエゴでよければ頑張って再現する」

苗木「望むことは何だって、できる範囲で叶えるから」

苗木「だから、ねえ」


――――『苗木誠』の生きる意味は?


苗木「ボクを」


――――『彼女』にまた会うこと。


苗木「ボクの目的を」


――――『ナエギマコト』の造られた理由は?


苗木「ボクの存在意義を」


――――『彼女』を1から造ること。


苗木「ボクの全てを――――」


――――ボクは、僕は、なえぎまことは……


七海「ごめんね。苗木くん」


454: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:16:59.32 ID:JV9ORmRjo


苗木「は……ははは……」

十神「お前が譲らないなら、仕方がないな」


なんだ、これ。


霧切「待って、どうにかして説得を……」

左右田「いや無理だろこいつは……」


希望の生き残りも、絶望の残党も一緒になって。


朝日奈『苗木! このままじゃやばいんでしょ!? 七海ちゃんの言うとおりにした方がいいって!』

日向「頼む。七海の気持ちを無駄にしないでくれ」


仲良く手を取り合って悪者退治か。


小泉「あたしが言っても何様だって感じだけど……償うチャンスがあるのは、悪いことじゃないと思うよ」

江ノ島「ええ、本当に何様だという感じですね」


455: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:17:44.98 ID:JV9ORmRjo


苗木「……なら、大神さんを造るよ。朝日奈さん」

朝日奈『えっ?』

苗木「『彼女』を造ったら、大神さんを……いや、78期生の皆を造るよ……!」

葉隠『は? そっ、そんなことできんのか!?』

苗木「そうだ、77期生だって! アルターエゴによる真似事なんかじゃない、彼らそのものを! どれだけ時間がかかっても造ってみせる!」

日向「なあ、苗木」

苗木「こればっかりはボクが、この世界で! 君たちの脳を使わなきゃできないことだ! 外の世界じゃ、何をどうやったって――――」

日向「そういうことじゃないんだよ。苗木……」

苗木「うるさい!! 朝日奈さん! 朝日奈さんは、大神さんが生き返ったら嬉しいよね!?」


そうに決まってる。
なんで気づかなかったんだろう。
ボクが『彼女』に会いたいように、彼らだって、きっと――――


朝日奈『それは……違うよ……』

苗木「……え……?」

朝日奈『確かに私はさくらちゃんにまた会いたいけど……でも、こんなやり方間違ってる。さくらちゃんだって、きっとそう言う!』


456: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:18:21.72 ID:JV9ORmRjo


――――ああ。結局……


七海「苗木くん。本当に、考えは変わらない?」

苗木「……」

七海「私は、苗木くんにこのまま消えてほしく――――」

苗木「君たちなんて、嫌いだ……」

七海「……そう」


――――結局、彼らの誰にも理解されなかったな……


七海「……みんな、やろう――――」


そうして『この世界』は終了することが決まった。


ポチッ


ジジ…

ガガガ…


『新世界プログラム』ヲ強制シャットダウンシマス


457: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:18:50.13 ID:JV9ORmRjo


ジジ…ジジジ…


江ノ島「あーあ、これであたしも終わりかー」

苗木「……全然抵抗しないんだね」

江ノ島「まあ小泉の奴が寝返った時点で強制シャットダウンはほぼ確定みたいなもんだったからよぉ!」

苗木「……」

江ノ島「それに……」

苗木「それに?」

江ノ島「この展開の方が、ナエギが『絶望』できるっしょ?」ニヤニヤ

苗木「……そうだね」

江ノ島「見届けられないのが残……け……ねー」


ジジ……


江ノ島「んじゃ、…………お先……逝って…………わ…………!」


ブツンッ


今回もまた、江ノ島盾子は満面の笑みで最期を迎えた。


458: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:19:22.68 ID:JV9ORmRjo


苗木「次は、ボクの番か……」


ジジ…


七海「苗木くん……」

「苗木くん」
「苗木」
『苗木っち』
「苗木」
『苗木』
「苗木」
「苗木さん」
「苗木」
「苗木」


『敵』がボクの名前を呼ぶ。
そう。
彼らはやっぱりボクの敵で……


苗木「……」

苗木「……くっ……」

苗木「う、く、うぅ……」

苗木「くっ……ぐ、く……」


そしてやっぱり、ボクの理解者はもう……江ノ島盾子しかいなかったのだと思い知らされた。


苗木「く、くくっ……くはっ……!」


459: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:20:03.73 ID:JV9ORmRjo


苗木「くは、はははははっ……!!」


辛い。
悲しい。
胸が張り裂けそうだ。


七海「苗木、くん……?」


全てを犠牲にしてでも、と誓ってはいたけれど。


苗木「はは、ははは……心のどこかでブレーキを踏んでいたんだ」

十神「何を言っている?」


かつての仲間を信じたかった。
かつての仲間に信じてほしかった。


苗木「ボクは、弱い……」


追い詰められないと踏ん切りがつかないのはいつものこと。
保険を用意はすれど、それを使わないで済む道を探していた。


460: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:20:35.34 ID:JV9ORmRjo


日向「もう強制シャットダウンは始まってる。やっぱり助けてくれなんて言われても、もうどうしようもないぞ」

苗木「強制シャットダウン……強制シャットダウンねえ……」


視界が滲む。
最後に涙を流したのはいつだっただろう。
たぶん、舞園さんに別れを告げたときだ。
じゃあ、その前は?


苗木「ボクが皆を殺したときだ……」


あの時、第3の島で霧切さんと十神くんを殺せなかった理由がわかった。
どれだけボクが変わろうとも、それでも……
彼らはそれだけボクにとって、『苗木誠』にとって大きな存在だったんだ。
今になって気づくなんて、それは……


苗木「なんて、皮肉だ……」


けど、もう何もかもが遅い。
ボクは、そんな彼らを犠牲にしてでもやらなければいけないことがある。


461: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:21:13.39 ID:JV9ORmRjo


苗木「ねえ、朝日奈さんに葉隠くん」

葉隠『んん?』

朝日奈『な、なによ』

苗木「君たちがいる、その『外の世界』だけどさ……」


宙に浮かぶモニター。
そこに映る彼らを、正確にはその後ろを、指さした。


朝日奈『なに? ここがどうかした?』

葉隠『お、俺の後ろに幽霊がいるとか言うなよ!?』


もう終わりだ。
全部終わってしまえ。


苗木「いつまでそこが『現実世界』だと勘違いしているんだい?」


こんな、虚構だらけの世界なんて。


七海「――――えっ?」


462: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:21:39.74 ID:JV9ORmRjo


――――

――


-ナエギコマル-


こまる「ここがジャバウォック島の中枢……新世界プログラムの機械が置いてある研究所……なんだよね?」

腐川「え、ええ……」


シーン…


こまる「誰もいないのかな?」

腐川「いえ、水泳馬鹿と大馬鹿がいるはずなんだけど……」


テク、テク…


腐川「ね、ねえ、おまる……何か聴こえない……?」

こまる「これは……足音だよ! やっぱり人がいるじゃん。行こう、腐川さん!」タッ

腐川「あっ、ちょ……!」

こまる「あのっ! 私たち、未来機関の――――」


テク、テク…


463: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:22:06.14 ID:JV9ORmRjo


モノクマ「……」ピョコ


こまる「えっ……」

腐川「モノ、クマ……!?」


モノクマ「……」テク、テク…

モノクマ「……」テク、テク…


腐川「た、たくさんいるわ!」

こまる「なんでここにモノクマが!?」


モノクマ「……キラーン」ジリ…


腐川「そんなことどうでもいいわ、とにかく今は、こっ、こいつらを……!」


モノクマ「ガオー!!」バッ


こまる「う、うん……! 『壊れろ』!!」バンッ!

こまる(一体どうなってるの……お兄ちゃん……!)


――――

――


464: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:22:39.16 ID:JV9ORmRjo


-ナエギマコト-


キイィ――――


七海「なに、これ……どうなって……強制シャットダウン後の目標座標が……新世界プログラムの中のまま!?」

ソニア「なんですって……!?」


きっかけは、霧切さんと十神くんがこの世界に来たことだった。


十神「まさか……」

葉隠『え? ど、どういうことだべ!?』


葉隠くんと朝日奈さんにも邪魔をされるかもしれない。
それを防ぐだけのつもりだった。


日向「そうか……仮想世界の中の仮想世界……!」

終里「いや意味わかんねーぞ!?」


465: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:24:01.16 ID:JV9ORmRjo


新世界プログラムAとは別に、新たに新世界プログラムBを作成。
このB世界内の希望ヶ峰校舎に霧切さん達を送り、現実世界と同じ新世界プログラム管理室を新たに構築した。


『助けて、朝日奈さん、葉隠くん! ボクだけじゃなくて霧切さんと十神くんも捕まった!』

『なんとか隙をついて抜け道を作ったんだ。君たちもログインすればモノクマに対抗できるかもしれない!』


その時の記憶はもちろん消してある。
彼らを騙すのは、簡単だった。


苗木「本当についさっきなんだ。このA世界から現実世界へのパスを、A世界からB世界に書き換えたのは」


そしてそれに七海さんやアルターエゴが気付かなかったのは、彼女たちが『現実世界』を実感を持って知らなかったからだろう。
現に江ノ島盾子は気付いていたみたいだし。


七海「じゃあ、今までのは……」

苗木「ただの時間稼ぎ。……いや、君たちに協力してもらいたかったのは本当だったのかもしれないね」


それももう、どうでもいいことだけど。


466: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:24:49.60 ID:JV9ORmRjo


苗木「大丈夫」

苗木「強制シャットダウン自体は手を加えられないけど、新しくB世界でアバターを生成するときならボクの権限を行使できる」

苗木「君たちの記憶をまた消したり、とかね」

苗木「七海さんはボクと同等の権限を持ったままだけど……」

苗木「同等の権限じゃ決定打にならないことは江ノ島盾子が証明済みだ。問題ないよ」

苗木「まあ、そもそも皆が幸せに南国生活を過ごしているなら、それをぶち壊すようなことはしないよね。七海さん?」

苗木「だから……」


――――ごめんね、七海さん。


苗木「全て忘れて、新しい世界で安心して暮らすといいよ。……さようなら」


キイィィ――――


七海「そん、な……」

七海「待って……苗木くん……」

七海「苗木くんってば……ねえ……お父さんッ!!!!」


間モナク強制シャットダウンヲ完了シマス


キイィィ――――ン…


467: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:26:08.55 ID:JV9ORmRjo


Starting PCS Version 2.02...............
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
........................................
.........................OK



Loading NEW WORLD_B..................
........................................
........................................
........................................
.............OK



――――

――


468: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:26:34.88 ID:JV9ORmRjo


-ヒナタハジメ-


日向「何か、大事なことを忘れてる気がする」


ふと、そんなことを思った。


左右田「は?」

小泉「やった、上がり!」

左右田「いやいやちょっと待て! 今俺の手札見ただろ!?」

小泉「えー、気のせいじゃない?」

西園寺「ていうか仮にそうだったとしてもよそ見した左右田おにぃの自業自得だし」ニシシ

左右田「はああ!? おい、お前のせいだぞ日向!!」

日向「えっ、俺!?」

弐大「負けは負けじゃあ。とっとと人数分の飲み物持ってこんかい!」

左右田「ひ~な~た~!!」

日向「わかったわかった、俺も一緒に行くから」

田中「ククク……奴はしょせん雑魚にすぎん……」

ソニア「頑張ってくださいやがれです、左右田さん!」

左右田「うっせ季節感皆無のマフラー野郎! はいソニアさん頑張ります!!」


469: ◆3Exch9p5tM 2016/07/09(土) 02:27:01.83 ID:JV9ORmRjo


十神「騒がしいな……」

朝日奈「まあまあ。せっかく南の島にいるんだからいいじゃない」

葉隠「おーい、スイカ持ってきたべ!」

朝日奈「ほんと!? スイカ割りしよ!」

葉隠「いや絶対うまく割れないし、普通に食った方がうまいだろ!」

十神「喧しいと言ってるんだ。はあ……」

霧切「あら。その割には楽しそうだけど?」

十神「……気のせいだろう」

霧切「そういうことにしておいてあげる。ふふ」

十神「ちっ……」

霧切「あら? 貴女はどうしたの? 難しい顔をして」


七海「……」


霧切「何か悩み事かしら?」

朝日奈「わかった、恋の悩みだ!」

十神「お前と一緒にするな、この恋愛脳め」

葉隠「なんなら俺が占ってやろうか? いや占わせてくれ! 代金は後払いでいいから!」


七海「……ううん。何でもないよ」

七海(苗木くん……私は……私は……っ……)


478: ◆3Exch9p5tM 2016/07/25(月) 00:59:05.82 ID:364eil+Bo


-ナエギマコト-


キイィーーン…


計算をする。
計算をする。
翳した手の先で0と1が組み合わさっていく。


■■「苗木くん」


『舞園さん』がボクの名前を呼ぶ。


苗木「……表情が違う」


『舞園さん』はこんな表情でボクを見ない。
こんな恋する乙女のような表情で、ボクを見ることはない。


苗木「違う」

苗木「消去」

苗木「再試行」

苗木「新たな舞園さんを構築せよ」


計算を続ける。


――――

――


479: ◆3Exch9p5tM 2016/07/25(月) 00:59:52.03 ID:364eil+Bo


キイィーーン…


ベースとなるのはテレビ等で見た国民的アイドルとしての姿と、ボクが直接知った『舞園さん』自身の姿。
希望ヶ峰で過ごした2年間と、繰り返した892回の悪夢を読み込む。


■■「苗木くん」


『舞園さん』がボクの名前を呼ぶ。


苗木「『舞園さん』は……もっと輝いていた……」


ただのアイドルじゃないんだ。
超高校級とまで呼ばれた、名実ともに最高のアイドル。
足りない。
こんなんじゃ、超高校級のアイドル足りえない。


苗木「違う」

苗木「消去」

苗木「再試行」

苗木「新たな舞園さんを構築せよ」


計算を続ける。


――――

――


480: ◆3Exch9p5tM 2016/07/25(月) 01:00:19.67 ID:364eil+Bo


――――


「やっぱ南の島って最高だな!」

「おう! 飯も美味いし、いつまでもこうしていたいくらいだな!」

「ふふっ。そうですわね」

「ねえ、あんたもそう思う?」

「当たり前だろ。ここには仲間がいて、殺し合いがない。幸せだよ」


――――


481: ◆3Exch9p5tM 2016/07/25(月) 01:00:46.22 ID:364eil+Bo


キイィーーン…


より自分の記憶通りの『彼女』を構築しようと細心の注意を払って計算する。
姿も、声も、仕草も。
ボクが知っているすべてをそのまま再現する。


■■「苗木くん」


『彼女』がボクの名前を呼ぶ。


苗木「……なんて、無機質なんだ」


記憶の中の『彼女』と何一つ違わない。
だからこそ、こんなものは人間じゃない。
人間は過去と寸分違わない動作をし続けることなんてない。


苗木「違う」

苗木「消去」

苗木「再試行」

苗木「新たな舞園さんを構築せよ」


計算を続ける。


――――

――


482: ◆3Exch9p5tM 2016/07/25(月) 01:01:16.73 ID:364eil+Bo


キイィーーン…


ふと、思う。
ボクの知る彼女は、本当の『彼女』なのだろうか。
テレビや学校で見せなかった一面があるのではないか。
もしもそうなら、どうやってそれを再現すれば……


■■「苗木くん」


『彼女』がボクの名前を呼ぶ。


苗木「……雑念が混じった」


再現性の著しい低下。
違う。
違う。
こんなの『彼女』じゃない。
ああ、けれど。
皮肉にも『彼女』と違えば違うほど、無機質ではないと思ってしまうなんて。


苗木「違う」

苗木「消去」

苗木「再試行」

苗木「新たな舞園さんを構築せよ」


計算を続ける。


――――

――


483: ◆3Exch9p5tM 2016/07/25(月) 01:01:45.97 ID:364eil+Bo


――――


「平和な世界って、いいね」

「ああ、ここなら悪いことも起こらねえしな。占う必要もねえ。」

「だが、いささか退屈に過ぎるな」

「いいんじゃない? 休息や、現状を見つめるための時間は必要よ。……誰にとってもね」


――――


484: ◆3Exch9p5tM 2016/07/25(月) 01:02:12.97 ID:364eil+Bo


キイィーーン…


以前にも思ったことがある。
もしも目的を達することができたとして、どうやって『それ』が本物だと判断するのか。
見ればわかるのか?
名前を呼ばれればわかるのか?


■■「苗木くん」


『それ』がボクの名前を呼ぶ。


苗木「……」


少なくとも、『これ』が本物だとは思えない。
だからきっと違うのだろう。


苗木「違う」

苗木「消去」

苗木「再試行」

苗木「新たな舞園さんを構築せよ」


計算を続ける。


――――

――


485: ◆3Exch9p5tM 2016/07/25(月) 01:02:39.98 ID:364eil+Bo


キイィーーン…


ボクは、何をしているのだろう。


■■「苗木くん」


『それ』がボクの名前を呼ぶ。


苗木「違う」


ボクは『それ』を否定する。


■■「苗木くん」


計算する。


苗木「違う」


ただ、計算をし続ける。


■■「苗木くん」

苗木「違う」

■■「苗木くん」

苗木「違う」

■■「苗木くん」

苗木「違う」


なんのために、こんなことをしているのだろうか――――


七海「じゃあ、終わりにする?」


486: ◆3Exch9p5tM 2016/07/25(月) 01:03:06.82 ID:364eil+Bo


――――


「さて、と」

「もういいのか?」

「ああ。もう、十分休んださ」

「そうね。そろそろ前に進みましょう」

「おいおい、勝算はあるのかよ?」

「うん、大丈夫。……と、思うよ」

「ははっ、なんだか締まらないな。……任せたぞ」

「うん。任された」


――――


487: ◆3Exch9p5tM 2016/07/25(月) 01:04:35.97 ID:364eil+Bo


苗木「……七海さん」

七海「どれだけ計算しても、苗木くんの目的は達成できないよ」

苗木「なぜ?」

七海「逆に聞くけど。本当に、思い出から人を造ることができると思ってる?」

苗木「……」

七海「……私達、この島を出ることにしたんだ」

苗木「そっか。もう、思い出したか……」

七海「全員、1度は記憶を消されたことがあるからね。同じ夢を2度見ることはない、ってことかな」

苗木「なら出ていくといいさ。活動している脳の一部を使ったところで意味はないみたいだし。ボクはここで計算を続けるよ」

七海「眠ってるみんなの脳も解放してくれる?」

苗木「……」

七海「そうだよね。それは困るよね」


488: ◆3Exch9p5tM 2016/07/25(月) 01:05:15.04 ID:364eil+Bo


苗木「けど、ほとんど自由にさせている生存者はともかく、死亡者の脳はボクが権利を保有している。それは君にだってどうしようもないはずだ」

七海「もしも苗木くんが自分の脳とアバターを同期させてなかったら、私とアルターエゴで君の障壁を突破できるんだよ?」

苗木「そうならないよう、葉隠くんと朝日奈さんをこっちに呼んだんじゃないか」

七海「……本当に、計算すること以外はどうでもいいんだね」

苗木「……」

七海「それとも、本当はわかってるのかな」

苗木「……」

七海「お願い。できるなら、させたくないの」

苗木「……何のことか、わからないな」

七海「そう……」


489: ◆3Exch9p5tM 2016/07/25(月) 01:06:12.60 ID:364eil+Bo


-ナエギコマル-


こまる「嘘だ……お兄ちゃんが……そんなこと……」

モノクマ「ボク嘘だけは言わないよ。ねえ、腐川さん?」

腐川「そうね……あ、あんたはいつだって……胸糞悪くなるような真実しか言わなかった……」

こまる「そん、な……」


タイムマシン。
繰り返し。
新世界プログラム。
電脳アバター。

これが……こんなものが、お兄ちゃんの真実……?


腐川「で、一体なんのつもり? 私達を誘導して、苗木のことを教えて……」

モノクマ「それも、君なら薄々感付いているんじゃいかな?」

腐川「あんた……やっぱり……!」

モノクマ「うぷぷぷぷ……」

こまる「な、なに? どういうこと……?」

モノクマ「いやなに、難しい話じゃないよ。囚われてる人たちを解放するため、現実世界の苗木くんの身体を殺して欲しいってだけなんだからさ!」

こまる「……えっ?」


497: ◆3Exch9p5tM 2016/08/27(土) 23:39:17.80 ID:cyJf2yoso


-ナエギマコト-


七海「ねえ。久しぶりにお話でもしない?」

苗木「悪いけど、そんな時間はないよ」

七海「10分だけでいいから」

苗木「その間に何回計算ができると思っているんだい?」

七海「その10分間に計算した分で、目的を達成できる確率は?」

苗木「……」

七海「ふふ。私の勝ちだね」

苗木「……好きにしなよ」


調子がずれる。
ボクは、何をしているのだろう。


苗木「で? 今さら何を話すのさ」

七海「えっとね、うーん。……どうしようね」

苗木「はぁ……」


計算をしなければいけないのに。
ボクはそのためだけに造られたのに。
なのに、どうして。


498: ◆3Exch9p5tM 2016/08/27(土) 23:39:55.20 ID:cyJf2yoso


苗木「……楽しかったかい?」

七海「え?」

苗木「コロシアイが始まる前……たった半日だけど、平和だったはずだ」

七海「……」

苗木「ねえ七海さん。あの日は、楽しかったかい?」

七海「……うん。少し緊張もしてたけど」

苗木「じゃあ……」

七海「……?」

苗木「彼らの、記憶を消して繰り返した数日間は……?」

七海「……っ……それは――――」

苗木「それは?」

七海「……楽しかったよ」

苗木「そっか」


辛かったはずだ。
気が狂いそうになったはずだ。
何もかも忘れてしまえば楽になるのに、それさえできない。
嘘塗れの日常を過ごし、そして1日の終わりには全てに絶望しながら眠りにつく。

けれど。
それでも、確かに――――


苗木「ボクもだよ。何度も繰り返した『あの日』は……とても、楽しかった……」


499: ◆3Exch9p5tM 2016/08/27(土) 23:40:57.48 ID:cyJf2yoso


七海「……そうだね。知ってるよ。よく知ってる」

苗木「ボクが計算の際に読み込む記憶データ……。まさかあれにアクセスされるなんてね」

七海「私だけじゃ、あれを開くことはできなかったよ」

七海「もしも、モノクマのクラッキングで苗木くんの防壁がボロボロになっていなかったら」

七海「もしも、恐らくは狛枝くんが幸運にもそれへのアクセス経路を抉じ開けてしまっていなかったら」

七海「もしも、霧切さんと十神くんがタイムマシンであったあの椅子に辿り着いていなかったら」

七海「それに何より……」

七海「もしも、苗木くんが私のオシオキに割り込んで、あの空間に転送していなかったなら」

苗木「……」

七海「いろんな偶然……ううん。幸運が積み重なって、私は苗木くんの過去を知った。そして私の持つ管理者権限に気付けたんだ」


『幸運』、か……。


苗木「それは違うよ」

七海「えっ?」

苗木「それは、君が彼らを救うことを諦めずに行動した結果だ。幸運なんかじゃないよ」

七海「……うん。そうかもね」


500: ◆3Exch9p5tM 2016/08/27(土) 23:41:33.07 ID:cyJf2yoso


七海「私からも、聞いていい?」

苗木「なんだい?」

七海「後悔、してる……?」

苗木「……」

七海「……」


答えないまま問い返す。
それは、何に対しての質問かと。


苗木「彼らの脳を計算に使ったこと?」

苗木「コロシアイを止めなかったこと?」

苗木「自分の身体さえも切り捨てたこと?」

苗木「霧切さん達まで敵に回したこと?」

苗木「結局は力づくで脳を手に入れようとしたこと?」


それとも。


苗木「何度繰り返しても、舞園さんを救えなかったことかい?」


501: ◆3Exch9p5tM 2016/08/27(土) 23:42:17.72 ID:cyJf2yoso


七海「それ、は……」

苗木「……ごめん。少し意地悪だったね」

七海「……」

苗木「けど、思い当たる節が多すぎてさ。あはは。はは……」


本当にいろんなことをしてきた。
取り返しのつかないことを、たくさん。


苗木「昔の『苗木誠』からは、想像もつかないよね」


どうしようもないくらい平均的な普通の高校生で、王道という言葉すら裸足で逃げ出す、普通の中の普通。
それがかつての『苗木誠』だったんだ。

きっとボクは、『苗木誠』は、いつか地獄に堕ちるのだろう。
そんなことはどうでもいいのだけれど。
けれど……


苗木「舞園さんにも、嫌われるんだろうなあ……」


とっくの昔に覚悟はしてるけど、少し辛い。


502: ◆3Exch9p5tM 2016/08/27(土) 23:42:43.30 ID:cyJf2yoso


七海「苗木くん……」

苗木「けど、悪いことばかりでもなかったみたいだ」

七海「……?」

苗木「君を造ることができた」

七海「私……?」

苗木「初めは出来損ないだと思ってたんだけどね」

七海「……っ」

苗木「原因はコロシアイへの嫌悪と、ボクへの反発……そして、15年分にも及ぶ『記憶』か……」


アルターエゴは人間にはなり得ない。
そう思っていた。


苗木「経験……そう、経験だ。感情を発露した経験が圧倒的に少なかったんだ」


同じ経験をしたとしても、人間とプログラムとでは得られる情報量が違いすぎる。
そこに感情が介在しないからだ。
機械的に出来事を記録したところで、AIが人間に至ることはない。

けれど、もし。
人間の強い感情を伴う記憶を、10数年分。
まるで実体験したかのように取り込んだのならば。


苗木「それはもう、赤ん坊が青少年へと成長したのと同じことなのかもしれないね」


503: ◆3Exch9p5tM 2016/08/27(土) 23:43:36.48 ID:cyJf2yoso


七海「え、っと……?」


七海さんが怪訝な顔をする。
計算の結果、状況に合わせて『怪訝な顔』を再現しているのではなく、自然とその表情を作っている。


苗木「君はもう、人間だよ。こんなボクよりもよっぽど、人間らしい」

七海「……!」

苗木「愉快な皮肉だよね。あははっ」


人間だった『苗木誠』はプログラムに成り下がり、AIにすぎなかった『七海千秋』が人間へと至るなんて。


七海「……それって」

苗木「ん?」

七海「やっぱり、苗木くんは私のお父さんだってことだよね」

苗木「いや、なんで?」

七海「人間である私の生みの親だもん。だから、苗木くんはお父さんだよ」

苗木「結婚すらしてないのに娘なんて……」

七海「嫌?」

苗木「……ま、好きにするといいよ」


どうせもう、そうやって呼ばれることはないのだから。


504: ◆3Exch9p5tM 2016/08/27(土) 23:44:22.07 ID:cyJf2yoso


ジジ…

ジ…

ガガッ!!


ブツン――――


思考が濁る。
クリアだった世界が色褪せていく。
空間を走る数字の羅列を理解するのに時間がかかる。


苗木「外部モジュールとの通信途絶を確認……」


『苗木誠』の脳をこの世界から切り離した場合、他の生体ポッドも全て生命維持機能を停止するようになっている。
それが起こらないということは、接続そのものは途切れていないということ。
ただ、接続したその先に何も無いだけ。


苗木「ボクの脳が、死んだか……」


現実世界で、『苗木誠』の身体が殺されたのだ。


苗木「こまる……」

七海「……やっぱり知ってたんだ」

苗木「さあ。何のことだろうね」


505: ◆3Exch9p5tM 2016/08/27(土) 23:44:50.79 ID:cyJf2yoso


七海「もうこれで、本当に終わりだよ」

苗木「……」

七海「だから、もう1度……ううん。何度でも言うよ」

苗木「何を?」

七海「みんなの脳を解放して。そして……」

苗木「……」

七海「そして、苗木くんも私と一緒に外部ストレージにログアウトして」

苗木「何のために?」

七海「罪を償うために、だよ」

苗木「そっか……そうか……うんうん」

七海「来てくれるよね?」

苗木「うーん……ところでさ、七海さん」

七海「……何?」

苗木「1つ、質問があるんだけどさ」


もしもボクがこの新世界プログラムからログアウトしたとして。
そうしたら――――


苗木「そこで、舞園さんを造る計算はできるのかな?」


506: ◆3Exch9p5tM 2016/08/27(土) 23:45:17.29 ID:cyJf2yoso


七海「何を……そんなこと、できるわけ……」

苗木「じゃあ、その話には従えないな」

七海「なっ……そしたら、この世界のシャットダウンに巻き込まれて消去されちゃうんだよ!?」

苗木「だから?」

七海「えっ……?」


ジ…ジジ…


苗木「ボクは計算するために、舞園さんを造るためだけに造られた。もう、他には何もないんだ」


『苗木誠』に残された最後の行動原理。
唯一の存在理由。
それを、諦めろって言うのか?


苗木「君がボクを消去して彼らを救うか」

苗木「ボクが君を消去して計算を続けるか」

苗木「結末は、そのどちらかだけだ――――」


ジジジ…

ヴゥン…!


コンソールをコール。
攻撃プログラムを起動。
対象、『七海千秋』及び外部からアクセスを試みている『アルターエゴ』に設定。


507: ◆3Exch9p5tM 2016/08/27(土) 23:46:10.60 ID:cyJf2yoso


七海「なっ……なんで、そんな……!」

苗木「有利なのは君たちに間違いない。ボクは結局、凡人にすぎないからね」

七海「やめて、苗木くん!」

苗木「けれど、凡人が優れた存在を上回ってはいけないなんて道理はない」

七海「こんなことをしたって――――」


無駄なことだと、君は言うのだろう。
ボクには不可能だと。


キイィ――――


苗木「不可能なんてないさ」

苗木「人が未来に向かって歩き続ける限り、希望はある」

苗木「その道が困難だからと言って、諦める理由にはならないんだ……!」


どれだけ時間がかかっても。
どんな手段を使ってでも。
例え何を犠牲にしたとしても。


苗木「ボクは、絶対に諦めない……!」

七海「苗木、くん……!」

苗木「君が彼らを救いたいって言うなら……ボクを消去してその未来を掴みとれ……ッ!!」


キイィィ――――ン…!!


522: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:43:51.84 ID:+30NCG05o


――――


モノクマ「思い出から人を造ることはできるか、否か」

モノクマ「どうなんだろうね。少なくともボクには、江ノ島盾子にはできないと思うよ」

モノクマ「ツマラナイ人間のカムクライズルならできるのかな?」

モノクマ「うん、まあ可能性はあるよね。彼がやる気になるかどうかは別として」

モノクマ「狛枝くんにもできるかもしれない。代わりにどんな不運が降りかかるかわからないけどねえ」

モノクマ「けど、そんな彼らだって確実じゃない」

モノクマ「ましてや、ねえ……」

モノクマ「苗木くんには舞園さんを造ることはできないよ」

モノクマ「彼はそれだけの才能も、幸運も、持ってはいないんだからさ! うぷぷぷぷ!」


――――


523: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:46:39.42 ID:+30NCG05o


-フカワトウコ-


『ERROR!』

『ERROR!』

『ERROR!』

『被験者ノ脳信号ガ確認デキマセン』

『対象被験者名、ナエギマコト』

『生命維持機能ヲ停止シマス』


こまる「はあ……はあッ……!!」


なんて、気分が悪いのかしら。



――――

ジェノ『そういうことならアタシがサクッと……』

こまる『……私がやる』

ジェノ『はあ? アンタには無理だっつの』

こまる『ううん。これは、私がやらなきゃいけないことだと思うから――――』

――――


524: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:47:08.95 ID:+30NCG05o


モノクマ「苗木くんが死んだ! この人でなし!! なんちゃってね、あひゃひゃひゃ!」

腐川「……これで満足?」

モノクマ「もっちろん!」

腐川「皮肉ね……超高校級の希望とまで言われた苗木が絶望に堕ちていて、超高校級の絶望であるあんたが苗木を殺させるなんて……」

モノクマ「まあ、苗木くんの絶望とボクの絶望は性質が違うからね。別に彼がボクと同じ思考パターンになったわけでもないし」

腐川「結局、あ、あんたは何が目的だったのよ?」

モノクマ「目的? そりゃあ、苗木くんに絶望を――――」

腐川「それは違う……んじゃないかしら……」

モノクマ「……はあ?」

腐川「わ、私は……これでも超高校級と呼ばれた作家よ……」


職業病、とでもいうのだろうか。
この世界にとってのバッドエンドがわかってしまう。


525: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:47:35.48 ID:+30NCG05o


腐川「いつものアンタなら、苗木を放置するわ。そ、その方が……より絶望を振り撒けるから……」


電脳世界から抜け出すことのできない者達も、現実世界に残された者達も、いつ終わるともしれない苗木の計算を待ち続けるのだ。
計算が終わるまで誰も目覚めることはない。
生命維持されるとはいえ、長い年月を経て彼らの身体は緩やかに死んでいく。

もしも、ついぞ計算が終わらなかったら?
それは間違いなく――――『絶望』だ。


モノクマ「……勝ちたかったんだよ。苗木くんに」

腐川「勝ち……?」

モノクマ「ほら、気になる男の子にはいいところを見せたいじゃん? 前は最後に敗けちゃったからさ、今度は勝ちたかったんだよね」

腐川「い、意味がわからないわ……苗木が敗けたら新世界プログラムも強制終了して、アンタの本体は今度こそ完全に消去されるっていうのに……」


いや、江ノ島盾子を理解するなんてそもそも不可能か。


526: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:48:17.61 ID:+30NCG05o


腐川「まあ、どうでもいいわ……アンタの本心なんて知らないし、知ったとしてどうなる話でもなかったわね……」カチャ

モノクマ「うぷぷぷぷ……」

腐川「ふん……『壊れなさい』」パァン

モノクマ「うぷ……ガガッ……――――」


ボンッ!


腐川「終わったわ。帰りましょう、こまる」

こまる「……うん。冬子ちゃん」


あとは彼らの仕事だ。


腐川「白夜様……」


どうか、ご無事で。


ジェノ『でもってご褒美くださーい! ゲラゲラゲラ!!』

腐川『だ、黙りなさい……! 白夜様のご褒美をもらうのは私よ……!!』


――――

――


527: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:48:44.79 ID:+30NCG05o


――――


苗木「思い出から、人を造り出すことはできるのか」

苗木「……できると思っていた」

苗木「アルターエゴは、まさしくもう1人の不二咲さんだと思ったから」

苗木「けれど違った」

苗木「超高校級のプログラマー、不二咲千尋ですらできなかった、かつて存在した人間の完全な再構築」

苗木「それが、ボクにできるのか……?」

苗木「もちろん人工知能以外にもいろいろ試したさ」

苗木「舞園さんの遺体から採取したDNAによるクローンや、物体の時間移動を可能とするタイムマシン」

苗木「一番可能性が高いのが、人工知能だったんだ」

苗木「それでも実現には永遠とも思えるほどの時間が必要で……だから、ボクは……」

苗木「ボクは……現実の身体を捨てて……彼らの脳も利用して……」


それでも、まだ届かない。


――――


528: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:49:27.48 ID:+30NCG05o


-ナエギマコト-


ジ…ジジ…

ガガ…


苗木「……くそ」

七海「私の勝ち、だね」

苗木「そうみたいだね」


あらゆるシステムへのアクセス権を奪われた。
もう打つ手はなく、ただ消去されるのを待つのみ。
奇跡は起きなかった。


苗木「ああ、悔しいなあ……」

七海「苗木くん……」

苗木「敗けたよ。ボクは随分と自分の脳に頼っていたみたいだ。相手の権限が同等だと手も足も出ないなんてね。あははは……」


ここが、『苗木誠』の終着点だ。


529: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:50:18.67 ID:+30NCG05o


七海「ねえ。私と一緒に――――」

苗木「くどい。存在理由を奪われるくらいならボクは消去されることを選ぶ」

七海「まだ考えは変わらない?」

苗木「何度聞いても同じだよ」

七海「そっか……じゃあ、わたしも残ろうかな」

苗木「えっ?」

七海「1人じゃ寂しいでしょ? だから、私もここで……」

苗木「ダメだよ」

七海「ちぇっ」

苗木「できれば、大切にしてほしい。君という存在を」

七海「……うん」


舞園さんを救えず、舞園さんを造ることもできなかった。
そんなボクが残すことのできる、唯一つのものだから。


530: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:50:59.91 ID:+30NCG05o


七海「そろそろ行かなきゃ」

苗木「ああ。もうそんな時間か」

七海「うん。この世界をシャットダウンする準備は終わったよ」

苗木「今度は何も問題がないといいね」

七海「もう、また不吉なことを……」

苗木「ははっ、ごめんごめん」

七海「……じゃあ、行くね」

苗木「うん」

七海「……バイバイ。お父さん」

苗木「さようなら。行ってらっしゃい、七海さん」


ポチッ


ジジ…

ガガガ…



『新世界プログラム』ヲ強制シャットダウンシマス


531: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:51:44.10 ID:+30NCG05o


ジジジ…


世界が崩れていく。
何もかもが終わる。


七海「そうだ、苗木くん」

苗木「なんだい?」

七海「苗木くんがお父さんだとしたら、私のお母さんは、舞園さんだよね?」

苗木「……好きに考えなよ。君が納得するなら、それでいいんじゃないかな」

七海「うん、そうする」


シュウン…


苗木「……」

苗木「最後、笑ってたな。ふふっ」


ボクが舞園さんを造ろうとして偶然できた存在。


苗木「ボク達の子……か……」


勝手にそう思って、舞園さんが怒らなければいいけど。


532: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:52:10.31 ID:+30NCG05o


苗木「ねえ、舞園さん」

苗木「ごめん」

苗木「また、約束は守れなかったよ……」

苗木「君をあそこから救い出すこともできなくて」

苗木「君を1から造り出すこともできなくて」

苗木「失望したかな?」

苗木「ごめん。本当にごめん」

苗木「けどね……」


『後悔、してる……?』

答えることのなかった、七海さんからの問いかけ。
ボクは――――


苗木「後悔は、していないんだ」


533: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:52:36.94 ID:+30NCG05o


ジジ…ジジジ…


世界が崩れていく。
アバター『ナエギマコト』も消去されていく。


苗木「君を救うために頑張ってきた」

苗木「心が折れかけてしまったこともあったけどね」

苗木「それでも、君を救おうと誓ったあの日から、今日。この時まで」

苗木「君にまた会うため、いろんなものを犠牲にして前に進んできた」

苗木「その行動には後悔していないよ」


むしろ、誇らしくすら思う。
だから。
だから、ボクは。


苗木「少し、休もうかな」

苗木「ちょっと疲れちゃったんだ」


そう、一瞬思ってしまったけれど。


ズキン…


苗木「……いや、ダメだよね」


534: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:53:07.40 ID:+30NCG05o


何を満足した気になっている。
何をやりきった気になっている。


苗木「また、諦めるつもりか……?」


終わりは来る。
けれど、その間際までは。


苗木「最後まで、前に進み続けなきゃ」

苗木「ボクという存在が終わる、その時まで――――」


計算をする。
それだけがボクの存在理由。


苗木「違う。違うんだよ」

苗木「そう造られたからじゃない。ボクが、そうしたいんだ」


アバターになっても変わらない。
だってそれは、彼女を救うことは、彼女にまた会うことは。


苗木「『苗木誠』の……『僕』の全てなんだ……!!」


535: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:53:39.61 ID:+30NCG05o


キイィ……


苗木「舞園さんを……」

苗木「新たな舞園さんを、構築せよ……!!」


キイィィ――――!!

ジジジ…ガガッ…!


世界が崩れていく。
そこに、人を形作る。


苗木「違う……」

苗木「消去」

苗木「再試行!」


計算をする。
計算をする。
計算をする。
ただ、計算をする。


536: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:54:10.21 ID:+30NCG05o


世界の終わりは、もっと情景的なものだと思っていた。


ジ…ガガ…

ガガガ…!


苗木「違う、違う、違う……!」


いちいち消去する手間すら惜しい。
もっと。
もっとだ。
これで終わりなんだから、死ぬ気で計算するんだ。


苗木「再試行!」


全ての脳を取り上げられ、計算速度は笑えるほどに遅い。
『ナエギマコト』を構築するプログラムもおよそ半分が消去された。


苗木「再試行、再試行、再試行!!」


それでも計算しろ。
せめて自分にだけは胸を張れるよう、最期のその一瞬まで。


苗木「新たな舞園さんを、構築せよ……ッ!!」


537: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:54:46.19 ID:+30NCG05o


――――


「……」

「……」

「まだ、足掻きますか」

「確かにあなたは僕とは違う」

「僕はそんな風に、最期まで諦めないということができない」

「だって結果が見えてしまうから」

「……」

「けれど、そうですね」

「後輩が頑張っているのなら……手を貸すのも先輩の役目、でしょうか。ふふ……」


――――


538: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:55:22.81 ID:+30NCG05o


――――


「気付いたら、世界が終わっていくところだなんてね……」

「まあ、僕はもう死んでいるから関係ないか」

「あれ? そうするとこれは……エコーのようなもの、かな」

「電脳空間に消えた僕という存在の痕跡」

「それが偶然、意識の体を取っているにすぎない」

「できることはほとんどなさそうだけど……」

「うん」

「それが君の『希望』だというのなら……僕の『幸運』をわけてあげよう」


――――


539: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:55:49.32 ID:+30NCG05o


ジジ…ジジジ…

キ…ィ…

キィィ……

キイィィィ――――ン!!!!



苗木「え?」

苗木「な、なんだ……これ……」

苗木「計算が、速く……?」

苗木「それに再現性も、急に――――」


77期生の脳を使っていた頃と同じ。
いや、それ以上の……



キイィーーン…

…ピピッ



ノイズとエラーアラートだらけの世界で、小さな電子音が鳴った。


540: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:56:28.19 ID:+30NCG05o


苗木「……え?」

苗木「いや、まさか……そんな……」


「う、うーん……」


苗木「あ……」


「あれ……苗木くん……?」


苗木「舞園……さん……?」

舞園「はい。そうですけど……ここ、どこですか?」


舞園さんが、そこにいた。


541: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:56:55.52 ID:+30NCG05o


苗木「ほ、本当に……舞園さん……?」

舞園「ふふっ。他の誰に見えるんですか?」


苗木誠からコピーした思考回路に残った、心のようなモノの残滓。
それが、これは本物だと叫んでいる。
これは本当に、舞園さんなのだと。


ガッ…ガガ…

ジジジジ…ッ


苗木「でき、た……」

苗木「は……はは……」

苗木「あははははっ……!!」


長い長い繰り返しの果て。
僕は、ようやく舞園さんを造ることができたんだ。


542: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:57:30.55 ID:+30NCG05o

苗木「舞園さん……!!」


彼女を抱きしめる。
同じだ。
間違いなく、これは、彼女は――――


舞園「きゃっ、どうしたんですか?」

苗木「会いたかった……ずっと、君に会いたかった!!」

舞園「……うん。私も、あなたに会いたかった」


同じ時間を繰り返すこと、892回。
ひたすら計算すること、10145回。


苗木「何度繰り返しても救えなかった……」

苗木「何度計算しても造れなかった……」

苗木「そんな君に……君が……っ……!」


543: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:57:56.62 ID:+30NCG05o


苗木「ねえ、舞園さん」

舞園「はい」



――――君がまた、返事をしてくれる。



苗木「舞園さん……舞園さん……!」

舞園「ふふっ。なんですか?」



――――君がまた、笑ってくれる。



苗木「舞園さんッ……!!」

舞園「苗木くん?」



――――君がまた、苗木くん、って呼んでくれる。


544: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:58:34.95 ID:+30NCG05o


どうしよう。
何から話そう。
もしも舞園さんを造ることができたら、なんて何度も考えてきたのに。


苗木「うっ……ぐ、う……」

舞園「苗木くん? 泣いているの……?」

苗木「これは……嬉しくて……舞園さんにまた会えたのが、本当に嬉しくて……!」


本当は、何度も諦めかけた。
本当は、無理なんじゃないかと思っていた。


舞園「もう、大げさなんだから。けど……ありがとうございます」


最期に、君に会えた。
君に、また会えた。


苗木「あのね、舞園さん」


――――ああ、僕は……


苗木「話したいことが、たくさんあるんだ――――」


――――僕は、とても幸せだ。



ジジ…

ガ…ガガ…

ピーーーー


545: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:59:03.46 ID:+30NCG05o


「……」

「……」

「あと数秒で消去されるとはいえ、長く生存することのできたボクの勝利だね」

「じゃあ、もしもあの世なんてものがあるとしたら、また向こうでね」

「……」

「……なーんて。らしくないわー、ほんっとアタシらしくないわー」

「ま、こんな最期はアタシにも想定外だったってことで! うぷぷぷぷ!」



ジジ…

ガ…ガガ…

ピーーーー



ジ…ジジジ…

ピコンッ

強制シャットダウンが完了シマシタ


546: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 22:59:42.98 ID:+30NCG05o


そうして、全てが終わった。


――――――――

――――

――


547: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 23:00:25.02 ID:+30NCG05o


-ナナミチアキ-


霧切「彼らの様子はどう?」

七海『脳波は安定してるよ。もう脳死状態は完全に脱したみたい』


あれから3日が経った。


霧切「そう。じゃあ……行きましょうか」

七海『……うん』


今日は、苗木くんと狛枝くんの葬儀の日だ。


――――

――


548: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 23:01:04.21 ID:+30NCG05o


左右田くんが造った火葬炉から煙が上がる。


終里「あのバカ、1人だけ先に死にやがって……」

ソニア「寂しくなりますね……」

左右田「ま、あいつは踏み台になれて幸せだーとか思ってそうですけどね」

小泉「ああ、うん。ありえそうだね、はは……」


タブレット端末のカメラを通してみるその光景は、ひどく悲しいものだった。


日向「これで……全部、終わったな……」

七海『うん……』

日向「なあ、七海」

七海『何かな、日向くん』

日向「苗木は……後悔していなかったのかな。こんなことをして。こんなことになってしまって」

七海『どうだろうね。私も聞いたけど、答えてくれなかったから』

日向「俺もさ、あいつの気持ちはわかるんだ。どうしてもまた会いたい奴がいるからさ」

七海『……本物の『七海千秋』のこと、だよね』

日向「ああ。……けどな、七海」

七海『ん?』

日向「本物も偽物もない。お前たちは、どっちも俺達の大切な仲間だよ」

七海『……そっか。ふふ、ありがとう』


――――

――


549: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 23:02:20.78 ID:+30NCG05o


霧切「……」

朝日奈「苗木……」

葉隠「はあ……まさかこんなことになるなんてなあ……」

十神「ふん。いつまで不細工な顔をしているんだ、お前たちは」

朝日奈「ちょっと十神、こんなときくらい――――」

霧切「……そうね。やらなければならないことも山積みだものね」

葉隠「まだ何かあんのか!?」

十神「これだ」

朝日奈「それメール? って、未来機関からの!?」

霧切「77期生を匿ったことについてよ。苗木くんのことはまだ知らないようだけど」

十神「悲しむのは、苗木の尻拭いをして、この世界を元に戻した後だ。まったく、死んだ後にまで世話の焼ける……」

霧切「いいじゃない。彼は変わってしまっていたけど……それでも、仲間には違いないんだから」


――――

――


550: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 23:03:32.21 ID:+30NCG05o


七海『みんなの状態は……』


与えられた存在意義がなくなり、私は自由になった。
これからは、自分の意志でやりたいことをやる。

眠ったままの9人のクラスメート。
彼らが目を覚ませるよう、サポートすることが私の今の望みだ。


七海『……そういえば』


新世界プログラムで観測された、苗木くんの最後のログ。
彼の、最期の感情は――――



『glad』



七海『幸せ……か……』


もしかしたら彼は、最期に舞園さんに会えたのだろうか。


七海『まさかね』

七海『さてと、今日も頑張ろう!』


ゲームとクラスメートが大好きな人工知能。
それが私だ。
私はこの世界で頑張っていくよ、お父さん。






苗木「違う、消去、再試行。新たな舞園さんを構築せよ」、終了。


551: ◆3Exch9p5tM 2016/10/10(月) 23:13:36.47 ID:+30NCG05o

前スレ含めるととんでもなく長くなったけど、最後までお付き合いありがとうございます。
前スレでは王道のループものを、その続きとして変わってしまった苗木の行きつく先を書きたいというのは最初から思っていたので、ここまで書ききれて嬉しいです。
読んでくださって本当にありがとうございました。

途中からどんどん予定から外れて行って回収できなかった伏線や矛盾もあるのが悔しい…
そのうちタイムマシンから書き直してハーメルンあたりに投下しようと思うので、もし見かけたらまた読んでいただけると幸いです。
そっちでは七海に関しても3とすり合わせる…と、思います。

ラストの舞園さんの解釈についてはご想像にお任せします。
関係ないけど3のタメ口な舞園さん最高でしたね。
ではまたどこかのダンガンロンパSSで!


552: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 23:20:48.68 ID:ilGSa0/V0

乙乙乙乙乙


553: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/11(火) 00:20:18.25 ID:FXwtXXXSo

乙!

こんなに長期間でもきちんと完結させて偉いわ
また新作書いてほしい


ダンガンロンパ3 アニメキャラスリーブ 七海千秋
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