1: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:04:08 ID:K7pWgpbE
レッスンに夢中になるあまり、脱水寸前で膝をついた。
凛「はぁっ……はぁっ……」
急なスケジュールの空きに入った個人レッスンなので、トレーナーはいない。
体調管理は自己責任だ。
汗で湿ったジャージが体に張り付く。
傍らに置かれたスポーツドリンクを手に取り、一気に飲み干ほうとするが、途中でむせてしまう。
私にあるのは努力だけだ。
トップアイドルの資格。それは前に進み続けることだと思う。
2: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:04:44 ID:K7pWgpbE
プロデューサーが迎えにくると言ってたね。
過保護だなと口元が緩む。
スマホを見ると、予定の時間までもう時間がない。
シャワー浴びなきゃ。
汗かいちゃったし。
3: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:05:33 ID:K7pWgpbE
冷たい水が気持ちいい。
持参したシャンプー一式を取り出す。持ち歩くのは一回分。
据え置きのシャンプーは使わない。少しだけ、香りがキツいんだ。
体を洗っていると、自然と自分の胸に目がいく。
あまり大きくない。
全体的にまだ幼さが残る印象は拭えない。
プロデューサーは私なんかで欲情するのかな?
つまらないことを考えていたら時間が迫っていた。
4: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:06:19 ID:K7pWgpbE
マイ洗面器に水を張り、髪をゆっくりと浸けた。
ロングは痛み易い。
シャンプーを水に溶かし、湿らせるように髪に馴染ませる。
凛「……短く切っちゃおうかな」
プロデューサーがいないときは髪までは洗わない。
これが避けられない女心。
私の卑しい部分。
常にパーフェクトな自分を見せたいから。
5: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:08:32 ID:K7pWgpbE
プロデューサーを待たせてしまった。
凛「もう来てたんだ」
素っ気なく声をかける。
モバP「ああ。今日もお疲れ様」
凛「ちょっとシャワー浴びてたから。待たせてたらごめん」
モバP「いや、大丈夫だ」
凛「そっ」
彼の横に立ち、不機嫌そうな顔で並んで歩き出す。
二人きりは嬉しい。
そして苦手。
6: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:09:08 ID:K7pWgpbE
最近、何を話せばいいのかわからなくなる。
無言で助手席に座った。
知ってる?
前はよく、車内ではスマホをいじってたけど、今はあなたと二人の時は……
臭わないかな?
彼の横顔を注視する。
スマホは鞄の奥に。
7: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:09:52 ID:K7pWgpbE
モバP「凛は明日はバラエティの撮影だな」
凛「そうだね」
当たり障りのない会話。
モバP「凛なら今さら緊張もないか」
凛「そんなことないよ」
私たちの間に会話なんてそんなにない。
気を遣う彼と、頭が真っ白な自分。
指にぎゅっと力をこめる。
気難しいところがある私が、数少ない心を許した人。
そして卯月たちとは決定的に違う点。
8: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:10:33 ID:K7pWgpbE
凛「少しだけ……遠回りしない?」
ありったけの勇気をこめて。
モバP「うん?珍しいな?なにかあったのか?」
凛「ないけど……ダメかな?」
恋愛は難しい。
卯月や加蓮たちとはバカやって盛り上がれるのにね。
プロデューサーを前にするとダメだ。
モバP「いや、いいぞ」
凛「ありがと」
これまでは結構素直な気持ちをぶつけてきたと思う。
隣にいてほしいとか、告白ぎりぎりの際どいセリフも口にしたよね。
どうやら私は、本気で人を好きになると臆病になってしまうヘタレらしい。
振り返らず前を向いてなんて……今は……。
弱ったなぁ。
9: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:11:44 ID:K7pWgpbE
車を停めて、ジュースで乾杯。
時間も時間だし。アイドルという立場上、男女二人で出歩くわけにもいかない。
プロデューサー相手なら大丈夫だと思うけど。
凛「これなに?」
モバP「スタミナドリンク」
凛「……ああ。いつもプロデューサーが飲んでるやつね……」
モバP「元気でるぞ?」
複雑な味がした。
一気に口の中に流し込む。
疲労が吹き飛んだような不思議な感覚。
スタドリって凄い。
10: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:14:08 ID:K7pWgpbE
凛「どこかで何か食べていこうか」
モバP「そうだな」
ド〇キーでハンバーグを食べた。
カロリーが恐ろしくてメニュー表を睨む私を見て、プロデューサーが勘違い。
こういう店は嫌いか?とか。そういう問題じゃないよ。
でもまあ、たまにはいいかな。
11: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:14:41 ID:K7pWgpbE
奈緒たちとも最近は来てない。
スタイルを維持するのに、カロリー計算は必須になっちゃったし。
加蓮は気にせず何でも食べる。
長い病院生活の反動からかな。
……帰ったら走ろう。
ハナコはスタイル維持の救世主。
12: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:15:14 ID:K7pWgpbE
プロデューサーが支払いを済ませ、店を出た。
凛「ごちそうさま」
モバP「なんのこれしき。安いもんさ」
確かに。最近は稼いでるだろうからね。
事務所のアイドルが増え続けてる。
私にとっても死活問題。
車に戻って二人でデレステで盛り上がった。
……プロデューサーは課金しすぎだよ。
13: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:16:00 ID:K7pWgpbE
諭吉数枚犠牲にして、プロデューサーは満足な結果を得られたようだ。
子供みたいにはしゃぐプロデューサーの横顔を、私はずっと見つめていた。
プロデューサー可愛い。
私はモバマスで、卯月に使いすぎていたので今は自重。
卯月、迎えたよ?
シンデレラガール
卯月にそう報告したら、突然私に抱き着いて喜んでくれたっけ。
14: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:16:42 ID:K7pWgpbE
遅い時間になったので、名残惜しいけどここでお開き。
プロデューサーとお別れし、ハナコの散歩に出た。
着信音。
凛「なに?」
加蓮「今日さ、Pさんとデートしてたよね?」
情報網恐るべし。
どこで知ったの?
凛「ご飯食べただけだよ」
加蓮「なんだ、つまらない」
からかうような加蓮の楽しそうな声。
凛「知ってて電話したくせに」
加蓮「バレた?」
凛「バレバレ」
15: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:20:47 ID:K7pWgpbE
加蓮「私もド〇キーで奈緒とチーズカリーバーグディッシュ食べてたから。300のやつ!」
ドヤ顔の加蓮が頭をよぎる。
てか重い!
凛「太っても知らないから」
加蓮「私って太らない体質みたい」
女の敵みたいな発言に遺憾の意を唱えた。
加蓮は笑ってるだけ。
世の中理不尽だ。
巻き込まれた奈緒が可哀想。
奈緒なら平然と食べてそうだけど。
16: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:21:26 ID:K7pWgpbE
加蓮「凛はもっと食べないと。胸大きくならないよ」
凛「余計なお世話」
散歩しながら親友と話す時間も大切。
まだ人目の多い公園のベンチに座り、プロデューサーに帰り際に貰ったエナジードリンクを一気飲み。
凛「不味い……もう一杯……」
加蓮「え?」
凛「プロデューサーから貰ったエナジードリンクが不味い」
加蓮「……あぁ」
加蓮「前に病弱ならこれを飲めってたくさん飲まされたっけ……」
凛「色んな味が事故起こしてるみたい……」
加蓮「でも効くといえば効く。私もエナドリで元気になったから」
衝撃の事実だ。
むしろ知りたくなかった。
17: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:22:29 ID:K7pWgpbE
凛「私ずっと、プロデューサーの課金って反則だと思ってたんだ」
無意識につい打ち明けてしまう。
加蓮「凛ならそうかもね」
凛「あんなの実力じゃない。金の力でアイドルを売り出してるだけ。プロデューサーは私たちのこと信じてないのかな?って」
凛「でも違った。課金でアイドルを迎えるたびに事務所は明るくなってる。大切な仲間が増えていく」
加蓮「私はエナドリに救われたしね」
凛「課金は必要悪なんだ。選択肢の一つだよ。今ならそう思えるんだ」
加蓮「私たちの活動の幅が広がったのは事実だしね」
凛「努力と無課金だけではたどり着けない場所があるって痛感したよ」
加蓮「私たち何真面目に語り合ってんだろ。らしくないぞ、凛」
凛「ごめん。急に思い出したから」
18: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:23:54 ID:K7pWgpbE
加蓮「で?悩みは解決した?」
凛「まだ……かな」
公園のトイレに移動する。防犯対策のためか、結構明るい。
加蓮「全部話しちゃいなよ。加蓮お姉さんが聞いてあげるからさ」
凛「そうだね、加蓮お姉ちゃん」
加蓮「……なんか鳥肌たった」
個室に入って一息ついた。
ここは穴場だ。
夜訪れるのは酔っ払いくらい。
まず人はこない。
外の様子を伺いながら、私は口を開いた。
19: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:24:35 ID:K7pWgpbE
凛「ねえ、加蓮」
小声で呟く。
凛「私さ、プロデューサーが好き」
加蓮「っ……!」
電話越しに息を呑む加蓮。
加蓮「知ってたよ」
わかってる。
凛「加蓮も好きだよね?」
加蓮「……き、気づいてたか。当然だよねー……」
ずっとはぐらかされてきたから。
思えば恋愛事で、互いの気持ちを口にしたことなんてなかったよね。
20: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:27:24 ID:K7pWgpbE
凛「抜け駆けはしないよ」
加蓮「奈緒の気持ちも知ってるんでしょ?」
凛「わかりやすいからね」
はぁ……という加蓮のため息。
近くに人の気配はない。
加蓮「……私たちの友情って一生続くと思ってたんだ」
凛「私もだよ」
今でもそう思いたい。
21: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:27:58 ID:K7pWgpbE
加蓮「凛と奈緒と私。最高の三人組だった」
凛「いつからだろう」
加蓮「うん」
凛「加蓮がプロデューサーと二人っきりでいるのを見たとき、私は嫉妬でおかしくなった」
加蓮「凛がPさんと一緒にいると胸が苦しい」
凛「加蓮だけじゃない。私以外の女の子と仲良くしてると悲しくなる」
加蓮「私もそう」
凛「自分がこんなに独占欲が強かったなんて……」
22: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:28:41 ID:K7pWgpbE
凛「嫌悪感を拭うために、毎日仕事とレッスンに打ち込んでさ。他の事、考えられないくらい自分追い込んで」
凛「プロデューサーに心配されて。でもそれだって構ってほしいから……最低だよ、私」
加蓮「……凛は凄いよ。凄いと思う」
凛「凄くないよ……。シンデレラガールになったときは本当に嬉しかった。純粋に夢に向かって走っていられた」
凛「今はもう……アイドルにすがって現実逃避してる惨めな女」
加蓮「でもそれって、それだけ本気だってことでしょ?自分を制御できないくらいPさんが好きだって」
凛「今だって一方的に打ち明けて親友を牽制してる。しかも公園のトイレで……」
加蓮「うぇっ!?」
凛「人に聞かれる心配はないから安心して」
加蓮が「重症だなー」とかもらしていた気もするがスルーした。
23: 根が真面目な凛→根が凛→ネガ凛…なんちゃって…ハイ、スイマセン 2016/07/18(月) 13:45:45 ID:K7pWgpbE
加蓮「凛はPさん以外に恋したことある?」
凛「ない、かな?」
加蓮「私たちって恋愛初心者なんだよ。上手く自分の感情を制御できないのもそう」
凛「…………」
凛「私、加蓮が好きだよ。奈緒も」
加蓮「親友として?」
凛「親友として」
加蓮「私も凛と奈緒が大好き」
凛「親友として?」
加蓮「親友として」
ありがとう加蓮。
24: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:46:40 ID:K7pWgpbE
凛「私怖かったんだ。もしプロデューサーに想いを伝えて、親友に嫌われたらって」
凛「……恋に怯えていたんじゃなくて、失うことを恐れてたんだね」
加蓮「誰だってさ、そういう一面があるんじゃないかな?人間だもの」
凛「みつを。……そうだね、なんかナーバスになってたのかも」
加蓮「Pさんって無駄に人気高いでしょ?」
凛「たしかに」
25: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:47:19 ID:K7pWgpbE
加蓮「競争率高すぎだもん。誰と付き合っても恨んだりしないって。……まあ、略奪はするかもだけど」
凛「なら、三人で同時に告白して三人とも恋人にしてもらうとか」
加蓮「それは嫌。プライド的に」
凛「妥協」
加蓮「でも、凛や奈緒となら……」
凛「常識で考えてプロデューサーがオッケーしないよね」
加蓮「……ですよね」
26: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:48:31 ID:K7pWgpbE
心が軽くなっていく。
些細なことでも、本音で話せる親友は大切。
凛「私決めた。プロデューサーを攻略する」
加蓮「頑張れ。凛が落としたら私が奪うから」
凛「オイコラ」
加蓮「冗談ではありませーん」
加蓮のにやけ面が目に浮かぶ。
加蓮「落とせるもんなら落としてみな♪」
なんかムカつく。
27: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:51:05 ID:K7pWgpbE
酔っ払いのお姉さんが入ってきた。
急いでドアを閉めたので、姿はよく見えなかったけど、どこか見覚えがあったような……
「トイレに行っトイレなんて……ふふっ」
おええっ
あーあ。
お隣に入った女性が吐いてるうちに、私は退散することにした。
「酒豪が集合すると宇宙規模の飲み会になりますね。これは予想外の展開です……」
何を言ってるんだか。
28: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:53:47 ID:K7pWgpbE
一方、奈緒さんは
奈緒「うわ……録画溜まってるよなぁ。最近忙しかったからな。夏アニメチェックしないと」
29: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:59:53 ID:K7pWgpbE
私は渋谷凛。
今、恋をしています。
年相応に悩んで、たくさん間違って、それでも前に進み続けようと思います。
いつか落としてみせるからね、プロデューサー?
加蓮や奈緒、他の皆には負けないよ。
自分を磨き続けていけば、いつか彼が振り向いてくれると信じてる。
私は振り返らない。
私の名は渋谷凛。
アナタの魔法で生まれた――アイドルだよ?
30: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 14:01:25 ID:K7pWgpbE
終わりです。
楓さんを出したいがためのトイレでした
31: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 07:54:25 ID:CAn/s/aM
おつん
つくり (2017-01-31)
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