【デレマス銀河世紀】安部菜々「17歳の教科書」

1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:08:43.77 ID:OqEXWLzC0

次は宇宙だッ!

他のシリーズを読んでなくても大丈夫。

第1作 【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作 【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」_
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」 
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
第5作【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
第6作【モバマス時代劇】向井拓海「美城忍法帖」

読み切り 

【デレマス時代劇】速水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」
【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」 
【デレマス時代劇】塩見周子「おのろけ豆」
【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
【デレマス時代劇】二宮飛鳥「阿呆の一生」
【デレマス時代劇】緒方智絵里「三村様の通り道」
【デレマス時代劇】大原みちる「麦餅の母」
【デレマス時代劇】キャシー・グラハム「亜墨利加女」
【デレマス時代劇】メアリー・コクラン「トゥルーレリジョン」
【デレマス時代劇】島村卯月「忍耐剣 櫛風」
【デレマス銀河世紀】安部菜々「17歳の教科書」
 

THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 018 安部菜々

2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:10:48.38 ID:OqEXWLzC0

 人類が宇宙に進出し、地球が御伽噺の中の存在になった頃。

 銀河は3つに別れていた。

 最大の版図と人口を誇る帝政国家、『リューザキ』。

 重工業系企業が国家運営を行う、『櫻井クラスタ』。

 社会主義による宇宙統一を目指す、『Новый советский(新ソビエト連邦)』。

 この3者による睨み合いは、すでに数世紀にも及んでおり、

 現在は一応のデタント期に入っていた。


3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:11:47.24 ID:OqEXWLzC0

 ある時、櫻井クラスタ領の惑星に1人のアイドルが現れた。

 現れた、といってもモニター越しであったが。

 そのアイドルの名は、安部菜々。

 『ウサミン星』なる星からやってきた17歳という設定で、愛らしい見た目と

 甘い歌声、そして弾けるようなダンスで、住民達を魅了した。

 しばらくすると、菜々は他の惑星にも現れるようになった。

そこでも大変な人気を博した。

さらにリューザキ、連邦内にも活躍の場を広げ、

 銀河中が安部菜々に夢中になった。


4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:12:40.87 ID:OqEXWLzC0

 異変が起こったのは、彼女が現れて二年ほど経った頃。

 リューザキ領の惑星の住民が、

「ウサミン星に行きたい」と呟いて、行方不明になった。

 そのニュースは、初めはジョークとしてお茶の間に流れた。

 熱狂的なアイドルファンが失踪、あるいは焼身自殺(バーベキュー)、

 などという出来事は、宇宙でもままあることだった。



5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:13:35.95 ID:OqEXWLzC0

 しかしその後、行方不明者が3カ国総計で5万人に達した。

 皆いずれも「ウサミン星に行きたい」と周りに

 話してから、いなくなったという。

 行方不明者の行き先を第一に発見したのは、連邦だった。

 その捜査官達は、歪な楽園を目にした。

 労働や家事、社会インフラの維持、そして政治に至るまで、

 ウサギ型のロボットが行なっていた。

 納税も兵役もなく、人々は“好きなように”生きていた。

 安部菜々の歌を聞き、安部菜々のダンスを見る。

 安部菜々の絵を描き、安部菜々が主役のドラマを視聴する。

 安部菜々の自伝小説を本が擦り切れるまで熟読する。

 日曜日は教会に集まり、安部菜々の像に向かって皆がお祈りする。

 毎日起きてから眠るまで、安部菜々にどっぷり漬かった生活。

 住民達はそれを満喫していた。


6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:14:12.55 ID:OqEXWLzC0

 捜査官達は一抹の羨望を抱きながらも、楽園の存在を公表した。

 すぐに住民の奪還が試みられた。

 しかし、当の本人達がウサミン星から離れようとしない。

 無理やり連れて行こうとすると、ロボ達の妨害にあった。

 そこでリューザキは一個艦隊を派遣し、ウサミン星を制圧した上で、

 住民達を連れて帰った。

 これで事態は終結するかと思われた。


7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:14:47.35 ID:OqEXWLzC0

 だが、行方不明者は増え続けた。

 ウサミン星は1つではなかったのだ。

 3カ国が共同で艦隊を組織し、銀河中をくまなく探し回った。

 第二、第三のウサミン星が続々と見つかった。

 無論、住民達の回収が行われた。

 そしてまた、ロボ達の妨害にあった。

 いや、今度は妨害というよりは、蹂躙といって差し支えなかった。

 彼、あるいは彼女らは、最新技術を搭載した戦艦で、

 回収用の艦隊を全て撃沈したのである。


8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:15:33.18 ID:OqEXWLzC0

損害比2:7という圧倒的な差をつけて。 


9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:16:24.28 ID:OqEXWLzC0

ウサミン母星攻略作戦。

3カ国は宇宙世紀で初めて手を取り合い、

協同での軍事作戦を練った。


リューザキからは艦隊40万隻。

櫻井クラスタからは18万。

新ソビエト連邦からは15万、

計73万の戦艦がウサミン母星のある宙域へ向かった。


10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:17:03.29 ID:OqEXWLzC0

勝てない。

リューザキ旗下、指揮艦『サーベルタイガー』のブリッジで、

艦長の三船美優は思った。

現在、母星を取り囲むように展開している敵艦隊と交戦しているが、

“前線の位置が全く前に進まない”。

こちらが数で優っているのに、完全に勢いを殺されてしまっている。

宇宙空間における艦隊戦のノウハウは、3カ国側に利があるはず。

それなのになぜ、抑えられるのか?


11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:20:06.53 ID:OqEXWLzC0

さきほど、三ヶ国側は防衛陣を突破するために

紡錘陣形を取り、

前方に火力を集中させようとした。

すると、攻撃をする前に敵側は

艦隊の両翼に展開し、こちらを挟撃してきた。

教科書(セオリー)通りの反撃。

しかし、その反応速度が凄まじかった。

ウサミン星側の戦艦は、全艦が

電子制御され、互いにリンクしている。

いうなれば全てが目であり、手であり、頭脳でもある。

よって、指揮艦がちまちまと

連絡をするような時間的ロスはなく、

瞬発的な艦隊運用が可能となっている。

また、人間が乗っていないという利点から、

無茶苦茶かつ合理的な速度で移動する。

よって、3カ国側がどのような戦術を取ろうとも、

相手に決定的な打撃を与えることはできない。

即座に対応されてしまうからだ。


12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:21:24.95 ID:OqEXWLzC0

“通常の艦隊では”、敵の防衛陣を突破することはできない。

実は三ヵ国側は、戦局が開く前から、そう結論づけていた。

第一陣の戦艦を突破しても、次には、

デブリ回収用のウサギ型の作業ボットが、

空間を埋め尽くすように陣取っている。

数はおそらく数百億。

超長距離からのレーザーやミサイルは、

そのボットの壁によって防がれる。

接近すれば、おそらく特攻するように

艦隊にとりつき、航行を妨げるだろう。

であれば、敵戦艦および、そのボット達の

隙間をかいくぐるような存在が必要だ。

軍艦よりもずっと小さく、すばしっこく、

敵の懐に潜り込めるような。


13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:23:01.24 ID:OqEXWLzC0

両艦隊による攻防が繰り広げられる中、

その反対側から母星に迫る影があった。


真っ白に塗装された高速巡航艦7基。

3カ国側の戦力である。

大規模な艦隊戦は陽動であった。

敵を引きつけ、防衛網の網目を、

少しだけ大きくするための。

巡航艦は直線的に、宙を切り裂くように進む。

その前に、ウサミン星側の艦隊および戦闘機が立ちはだかった。

巡航艦は怯まずに突っ込んだ。

無人で、電子制御されていたのだ。

二基が、敵を巻き込んで大破。

残りも苛烈な攻撃を受け、爆散した。

その余波によって、ウサミン星側のレーダーに微かな乱れが生じた。

『敵艦撃破』『敵艦…』『……!』



14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:25:47.45 ID:OqEXWLzC0


爆炎の中から、小型の戦闘機が飛び出した。

宇宙に融けるような、漆黒の機体。

ウサミン星側は即座に分析を始めた。

フレームは前川製『シャルトリュー』。

重槍のような形状で、高速加速時に独特の音を立てる。

二世代ほど前の型落ち機だが、

頑強さと動作の滑らかさに定評があり、

いまだに根強い人気がある機体。

航行速度から、エンジンと推進装置は櫻井製の『CHA-MA07』。

ロールアウトされたばかりの最新式。

加速性能で数世紀分のブレイクスルーをしたと言われている。

通常の戦艦、戦闘機では到底追いつけない。


15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:26:16.39 ID:OqEXWLzC0

だが、ウサミン星側の戦闘機は並ではない。

殺人的な加速と機動を、

燃料が尽きるまで行うことができる。

2機が後方、3機が追い越して前方に出た。


16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:26:58.13 ID:OqEXWLzC0

「やっぱり反応が速いですね…」

漆黒の機体の中で、岡崎泰葉は低く呻いた。

限界まで加速を行なっているので、臓腑がぎりぎりと絞られている。

口笛混じりに操縦などできない。


17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:27:37.16 ID:OqEXWLzC0

おでこを出し、両側に垂らすようにカットした、紺の短髪。

あまり動かない瞳。小さい鼻。

閉じればどこにあるのかわからない、薄い唇。

生気のない、人形のような少女だった。


18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:28:31.15 ID:OqEXWLzC0

“岡崎泰葉”は、1人のための名ではなく、超絶的な腕前を持つ

戦闘機乗りに与えられる名前だった。

彼女はちょうど13番目の岡崎泰葉で、最年少である。

彼女はパイロットの養成施設で生まれ、はじめは番号で呼ばれていた。

名前を手に入れたのは、ごく最近のことだ。

「さて、“岡崎泰葉”に恥じない戦いをしないと」

拡散ミサイルを前方へ3発。1機に直撃。

泰葉はそれを喜ばなかった。


19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:30:38.63 ID:OqEXWLzC0

相手が、こちらの武装を知るために

わざと避けなかったことに気づいたためである。

後方からのレーザーを直感で躱すと、前方でまた一機墜ちた。

これには、泰葉も唇を舐めた。

とはいえ、実際はかなり苦しい状況だった。

捕捉から逃れるために速度を

上げると操縦が追いつかなくなる。

下げると、背後からの攻撃を避けられなくなる。

左右に動いても、相手はぴったりとついてくる。



20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:33:16.61 ID:OqEXWLzC0

どうやら撃墜ではなく、こちらの消耗を狙っているようだ。

相手はエースパイロットの技術を、徹底的に盗むつもりらしい。

こちらの武装はすでに分析済みとみてよいだろう。

つまり、ここから通常の攻撃は絶対に当たらない。

だがウサミン星側の行動を見るに、

戦闘機の運用データは

まだ蓄積されていないらしい。

そこに付け入る隙がある。




21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:34:06.26 ID:OqEXWLzC0

泰葉は電磁ジャミング装置を起動させた。

敵機の電子回路を破壊する武器である。


ウサミン側は、生身の人間達が

機器を狙ってくるのを予想していた。

対策は織り込み済みである。

ジャミングを感知、電磁遮断器を展開し、無効化した。

この間に要した時間はコンマ数秒。

その数秒が、戦闘機での格闘戦においては致命的な隙であった。

泰葉は推進装置を巧みに操作し、その場で急旋回した。

本当に“ほっぺたがこぼれる”のではないかと思うくらい、

身体が横方向に引きずられる。

そして、ぴったりとくっついていた敵機に接触。

表面の装甲がいくつか剥がれはしたが、代わりに

前後方の2機を食いちぎるように破壊した。

機体の頑丈さが功を奏した。

おいしい成果だ。


23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:35:18.36 ID:OqEXWLzC0

残りと一機とはすれちがいに、泰葉は反対方向へ出た。

相手は猛烈な加速で振り返り、漆黒の機体に迫る

今度は本気で沈めにきている。

泰葉は先ほど抜き去ったウサミン星の艦隊に、再び接近した。


そして、レーザーとミサイルを全弾発射。

泰葉を感知、および接近可能な戦艦を全て撃破。

そこで、発生したデブリの荒波に機体を滑り込ませた。

致命的になるものは全てかわしながら。

操縦室のガラスに大きな罅が入ったが、泰葉に動揺はなかった。

後方から加速していた敵機は、破片に機体を斬り裂かれ、大破した。

割に合わないような、

教科書から外れた戦闘技術。

それが彼女を、岡崎泰葉たらしめていた。


24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:36:16.94 ID:OqEXWLzC0

第一陣を突破した泰葉は、第二陣に接近した。

星のように、ぽつぽつと光る無数の作業ボット達。

泰葉は、大きな熱源となるエンジンと

武装を機体から切り離した。

システムもシャットダウンする。

機体はゆっくりと減速する。

ボットが数機、近づいてくる。

しかしその動きは緩慢。

どうやら、機体をデブリだと誤認したようだ。

泰葉は耐圧服を装着し、機外に出る。

そこで、機体を調べ始めたボットに取りついた。

その装甲を手際よく一枚剥がし、中の回路を破壊。

別の回路に入れ替えた。

これでボットは識別番号を持ったまま、

泰葉を母星に連れて行ってくれる。


25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:36:58.02 ID:OqEXWLzC0

母星に侵入した泰葉は、防衛用のロボット達を

蹴散らしながら進んだ。

ここまで人が入ってくることは予想していなかったのか、

抵抗は弱々しかった。

そして機関室、システムの冷却装置、

マザーコンピューターを順繰りに破壊した。

あっけない。

そう泰葉が肩をすくめた時、母星内でアラートが響き渡った。

二時間以内に自爆するという。

どこの悪の秘密基地、と泰葉が思ったとき、

白衣を着た少女が現れた。


26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:37:40.44 ID:OqEXWLzC0

しかし人間ではないのは明白だった。

宇宙用の防護服を、まったく着ていなかったのだから。

「君。ここにいると危ないぞ」

彼女は、泰葉を見て驚くでもなくそう言った。

「帰り道がわからないのか?」

「帰るつもり、ありませんでしたから」

敵陣のど真ん中に単独で潜入。自爆装置などがなくても、

泰葉は生きて帰るつもりはなかった。



27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:38:58.25 ID:OqEXWLzC0

「そうか…ところで、ナナさんを殺したのは君か」

少女の見た目をした何かが尋ねた。

まったく感情のない声だった。

「機械に生命が宿るなら、そういうことになりますね」

泰葉はまったく悪びれるでもなく答えた。

死ぬ覚悟が決まると、余計な感傷は削ぎ落とされていく。

「…せっかく来たんだ。

ちょいと、年寄りの昔話に付き合ってくれないか」

“何か”は、生気のない瞳で泰葉を見つめた。


28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:39:27.90 ID:OqEXWLzC0

彼女は、“池袋晶葉”と名乗った。

生まれは連邦領の辺鄙な惑星で、

もう忘れてしまうほど昔に生まれたそうだ。

今の身体は、脳を含めて完全な機械だという。

だというのに、晶葉の研究室には重力と空気があって、

椅子とベッドまで用意されていた。


29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:40:54.48 ID:OqEXWLzC0

「ナナさんは、姉のような存在だった」

 仇の泰葉に向けて、晶葉は微笑んだ。

 現在のサイボーグ工学では、ありえないはずの表情だった。

「周囲から孤立していた私に、何かと世話を焼いてくれた。

 はじめは鬱陶しく思ったが、

 そのうち側にいないと不安になるくらい、

 私はナナさんのことが大好きになった」

 本当に懐かしく、楽しそうに彼女は語る。

 泰葉は黙って話を聞いた。どうせ死ぬまでの退屈潰しだ。


30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:42:16.19 ID:OqEXWLzC0

「しかし、ナナさんの両親は私を遠ざけようとした。

 彼らは、超自然主義に傾倒していたんだ」

超自然主義。

かつての合衆国のヒッピーを源流とする、ある種の宗教。

宇宙世紀にあって機械文明を忌避し、

科学技術による医療行為さえも否定する。

「娘を悪しき道に引き摺り込む、

 マッドサイエンティストという扱いだったのさ。

 私はね。」

 晶葉は肩をすくめた。

 おかしくてしょうがないだろう、そんな風に。

 


31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:43:11.27 ID:OqEXWLzC0

「ある時、ナナさんの身体が癌に冒されていることがわかった。

 初期の状態で見つかったから、完治が可能だった。

 しかし…」

 菜々の両親は、娘を“人間らしく死なせるために”癌の進行を放置した。

 死にたくない。もっと生きていたい、

 そう叫ぶ娘を部屋に閉じ込めて。

「私がナナさんを連れ出した時には、全身に転移していた。

 まだ17…これからもっと綺麗になる、そんな年齢で、

 彼女の身体はもう死の瀬戸際にあった」

 晶葉は淡々と話した。

 もし肉の声帯があれば、その言葉は震えていただろうか。


32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:44:12.38 ID:OqEXWLzC0

「脳もすでにやられていてね…ナナさんは私に言った。

 このまま何も感じられなくなる前に、機械に身体を移したいと」

 意識の電子化。

 これは、科学技術が進んだ宇宙世紀でも禁忌だった。

 “魂の容れ物”、という倫理的な問題と、

 間接的な不死の実現による法経済の

 深刻な混乱が、目に見えていたためである。

「私達は躊躇なくやった。

 ナナさんは、なんとしても生きたかった。

 私はどんなことをしても、彼女に生きていて欲しかった」


33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:44:50.45 ID:OqEXWLzC0

 そして2人は、人目のつかない鉱山惑星に身を潜めていたという。

 そこは朝と夜で気温差が300度もある過酷な惑星だった。 

 しかし晶葉も機械の身体になり、

 そのような環境での生活も可能であった。

「それで、まあまあ楽しく300年ぐらい生きた頃だったか…。

 ナナさんが苦しみだしたんだ」

 機械の身体に痛みはない。蝕まれるのは精神、心である。


34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:47:25.84 ID:OqEXWLzC0

「“我思う。ゆえに我あり”

 高名な哲学者の言だが、ナナさんは自身の思考に

 全く自信を持てなくなってしまったんだ。

 今の自分は果たして、生身の人間だった頃の

 安部菜々と同一だと言えるのか。

 そんな風にな」

 回路を流れる電流は、ニューロンを走るそれと同等か。

 記録と思い出はどこで区別する?

 感情は、この苦しいという感情さえも、
 
 果たして本物だと言えるのか。

「私はナナさんの苦悩を取り除くことができなかった。

 人の心は、まったくの専門外だったからな。

 だから私達は、第三者による観測で

 “安部菜々”を定義しようとした」


35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:48:04.59 ID:OqEXWLzC0

「“我思う。ゆえに我あり”

 高名な哲学者の言だが、ナナさんは自身の思考に

 全く自信を持てなくなってしまったんだ。

 今の自分は果たして、生身の人間だった頃の

 安部菜々と同一だと言えるのか。

 そんな風にな」

 回路を流れる電流は、ニューロンを走るそれと同等か。

 記録と思い出はどこで区別する?

 感情は、この苦しいという感情さえも、
 
 果たして本物だと言えるのか。

「私はナナさんの苦悩を取り除くことができなかった。

 人の心は、まったくの専門外だったからな。

 だから私達は、第三者による観測で

 “安部菜々”を定義しようとした」


36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:49:14.82 ID:OqEXWLzC0

「それが、アイドル“安部菜々”の誕生」

泰葉は、人々が行方不明になった原因を知った。

「歌や映像に何か細工がしてあったんですか?」

「いや、そんな工夫はできなかった。

 そんなことをすれば、観測結果が歪められてしまうからな」

 つまるところ、人々がウサミン星に集まるのは、

 全く自発的な反応だったらしい。

 泰葉は苦笑した。


37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:50:00.34 ID:OqEXWLzC0

「君は、どうやって“岡崎泰葉”を定義する?」

 晶葉が尋ねた。

 子どもらしい個性を鏖殺してしまうような

 過酷な訓練の中成長した少女。

 彼女は、どうやって自身を定義するのか。

 泰葉は、まったく考えることなく返答した。

「最強の戦闘機乗りです」

「それだけか」

「それだけで十分ですよ。

 だって、最強は1人しかいないんですから、

 いちいち悩む必要がないでしょう?」


38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:50:44.64 ID:OqEXWLzC0

一見単純なようで、実は強烈かつ尊大な自負心。

 それは、“岡崎泰葉”に必要な資質なのかもしれなかった。

「…君に殺されるのが、運命だったのかもしれんな」

 晶葉は静かに呟いた。

「なんだか、ナナさんに申し訳ないんだが、

 肩の荷が下りた気分だよ。
 
 いや、あるいは彼女も……」

 数百年生きた者の情緒は、泰葉にはわからない。

 ただ、晶葉の表情はふっと力が抜けたようだった。


39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:51:12.32 ID:OqEXWLzC0

「君、今年でいくつだ?」

孫に尋ねるような声で、晶葉が再び尋ねた。

「もうすぐ17になります」

泰葉の返事を聞くと、晶葉はくっくと笑った。

子どもっぽい、いたずらな笑顔だった。


40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:52:22.61 ID:OqEXWLzC0

彼女は、泰葉を母星内のドックまで案内した。

そこには真新しい、どこの企業の

カタログにも載っていない戦闘機が鎮座していた。

三又の矛のような形状で、

装飾は目に痛いくらいのポップな桃色だった。

「これに乗って脱出しろ。

その後は味方艦と合流してもいいし、

13番目の岡崎泰葉は死んだことにして、身を隠してもいいだろう」

晶葉の説明によれば、機体には高度な

ステルス機能が搭載されていて、

存在をまったく感知されない航行が可能だという。

これを戦場に出されていたら厄介だった。


41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:53:06.36 ID:OqEXWLzC0


「ところで、なぜ自爆機能を?」

戦闘機に乗り込む前、泰葉は尋ねた。

こんな大味で非効率的な機能を、

目の前の天才科学者がつけたのが不思議だった。

晶葉は胸を張って答えた。

「悪の組織の浪漫だよ」

「浪漫って、科学者らしくないですね」

「何を言う。浪漫を忘れた科学者など、ただの電卓だ。

 人間だってそうだぞ。

 浪漫があるから、前に進む。

 もっとも、良い方向にとは限らないが!」

晶葉はまた、くっくと笑った。

目に、涙が浮かんでいた


42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:53:55.35 ID:OqEXWLzC0

「戦闘機乗りなどやめて、

 普通の女の子として生きてみたらどうだ?

 学校に通ったり…友達と放課後にアイスを食べたり、

 休日は恋人と遊びに行ったりするのもいいだろう。

 それで、時々はアイドルに憧れて…

 こっそり歌やダンスの練習をするのさ。

 そんな教科書のような青春を、

 いまから取り返すのもよかろう」

晶葉の言葉を聞いて、泰葉はふっと遠い目をした。

だがすぐに、首を振って答えた。

「“岡崎泰葉”は次の人間に引き継ぎますが…

 “私”はずっと戦闘機に乗り続けますよ。

 私の浪漫も青春も、この狭いコクピットの中にあるんですから」

そう言って笑う彼女の表情は、

ひどく人間臭く、魅力的だった。


43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:54:44.54 ID:OqEXWLzC0

母星から脱出した戦闘機は、3カ国の艦隊をまっすぐにすり抜けた。

光学迷彩と、レーダー電波を吸収するフレーム。

熱感知を避けるために、機体温度も低くされている。

識別コードは『N/A』。

彼女は、どこにもいない戦闘機乗りとして宙域を離脱した。 

機関や軍に縛られない、自由な生き方をするために。



44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:55:24.59 ID:OqEXWLzC0

艦隊が追ってこれないほど遠ざかった時、

機内に軽快なポップミュージックが流れた。

安部菜々の曲だった。

「私、結構好きかも…」

アイドルソングなど初めて聞いたが、彼女の耳によく馴染んだ。

岡崎泰葉をやめた何者かは、音楽に合わせて口笛を吹いた。


45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 12:55:56.38 ID:OqEXWLzC0

おしまい。


47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/12(月) 13:06:03.89 ID:OqEXWLzC0

おおう。

【モバマス時代劇】依田芳乃「クロスハート」

これ忘れとった。



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