1 :>>1[sage]:2013/01/25(金) 00:52:09.31 ID:ZkyUS/+x0
超短いSSですが。
先週まで、しつこく降った雨は今となっては止み、皮肉な事に空に大きな満月を浮かべている。
こんな日に限って満月は無いだろうと、文句の一つでも言ってみたくもなるが、それも彼らしいと言えば彼らしいのかもしれない。
部屋に漏れる月明かりから目を逸らし、手元にその紙を引き寄せた。
手に残る紙の感触。多くの嗚咽とすすり泣きを耳に残しながら、その紙に書かれて居る言葉を口にする。
「有里湊。私の大好きだった、たった一人の家族へ」
原稿用紙1枚分だろうか。一日考えた言葉はたったそれだけ。彼へと語りかける言葉も、彼の人生を語るのもたったそれだけ。
「両親が死に、私にとってはたった一人の家族だったあなたは、遠くへ行ってしまいました。家族揃って私をのけものにするとは、中々に意地悪です」
「兄貴は、無愛想で、感情が乏しくて、何考えてるかわからないけど、私にとっては憧れの人でした」
「どうでもいい、が口癖なのに、人の話を聞くのが上手いというか、側にいると妙に安心するというか。とても不思議な人でした」
「不思議で、とても魅力的な人でした。妹の私でさえ、時々、ドキって来てしまうことだってあるのだから――きっと天国の天使たちに超モテモテな筈です」
「――……皆、学校の生徒会の人も、クラスの皆も、部活動も、先生も、寮の、仲間も。皆、貴方が好きでした。どうか、上で見守ってください。さようなら、大好きだった兄貴。――有里公子」
たった1枚の原稿用紙に書かれた言葉を読み上げて、永遠のお別れ。
もう、会話をすることも、会うこともないだろう。
本当のさよなら。
嗚咽が、大きく響いた。
2 :>>1[sage]:2013/01/25(金) 00:52:40.57 ID:ZkyUS/+x0
彼の葬儀は結構大きなモノだった。
彼の友好関係の広さが原因だろう。改めて、凄いなと思ってしまった。老若男女問わず数多くの人間が彼の為に涙を流し、死を惜しんだ。
享年18。あまりに早すぎる死に誰もが驚き、誰もが悲しんだ。
突然の急死。卒業式に学校の屋上でまるで眠るように息を引き取ったという。
公子「葬儀の件、ありがとうございました」
美鶴「……気にするな。私が彼にしてやれるのはこれだけなのだからな」
目を赤くさせて、彼女はそんな事を言う。
すべての葬儀も終わり、火葬も終えた。これらすべてを手配したのは桐条グループだ。
美鶴「――私は纏める書類が残っていてな、今日はこれで失礼する」
そんな言葉が建前だってくらい、簡単に理解できる。彼女の目はまだ乾いていない。
アイギス「……私も、ラボへ戻るであります」
アイギスはどうやら乾いてしまったようだ。泣き続けたためか、頬にその後がはっきりとみえる。
そっと、しておこう。彼女は機械であるが、人の心を持つ。初めて味わう間近の死に対し、心が落ち着くのはもっと掛かる筈だ。
3 :>>1[sage]:2013/01/25(金) 00:56:18.96 ID:ZkyUS/+x0
公子「わかりました。今日はどうもありがとうございました。アイギスも、ありがとうね」
再び頭を下げる。
今言えることはこれだけだ。
彼女たちは去っていく。重い、重い足取りで。
光彦「俺も今日はこれで帰る。あまり長く居て良い場所でもないからな。天田はどうする」
天田「……あ、はい。僕も今日はこれで帰ります……コロマルが腹空かせていると思うんで」
公子「はい、先輩、ありがとうございました。天田くんも」
天田「いえ……」
振り向かず、軽く手を振って歩く光彦先輩。涙は流さなかったが、彼なりに哀愁を漂わせていた。その後ろに続く天田。まるで兄弟みたいだと、少し思い笑った。
4 :>>1[sage]:2013/01/25(金) 00:57:03.40 ID:ZkyUS/+x0
順平「さて、俺っち達もそろそろ戻りますかね、ハム子はまだこっちに?」
公子「うん、ちょっとやることがあるからさ」
順平「そ、そうか」
トーレドマークの帽子を掛けていない順平は新鮮だ。授業中でも付けてるから尚更かも。
順平「あーなんつかよ。あいつ居なくなって、色々大変かもしれねぇけど、頑張れよ」
公子「ははは、なにそれ。ちょっと単純」
順平「し、仕方ねーだろ!他に言葉が見つからねぇんだから!」
公子「いや、順平らしいよ。――今日はありがとう」
彼は、彼らしく励ましてくれたのだろう。
順平「お、おう……」
公子「チドリちゃんもありがとうね」
チドリ「……別に」
5 :>>1[sage]:2013/01/25(金) 00:58:13.83 ID:ZkyUS/+x0
順平「さて、俺っち達もそろそろ戻りますかね、ハム子はまだこっちに?」
公子「うん、ちょっとやることがあるからさ」
順平「そ、そうか」
トーレドマークの帽子を掛けていない順平は新鮮だ。授業中でも付けてるから尚更かも。
順平「あーなんつかよ。あいつ居なくなって、色々大変かもしれねぇけど、頑張れよ」
公子「ははは、なにそれ。ちょっと単純」
順平「し、仕方ねーだろ!他に言葉が見つからねぇんだから!」
公子「いや、順平らしいよ。――今日はありがとう」
彼は、彼らしく励ましてくれたのだろう。
順平「お、おう……」
公子「チドリちゃんもありがとうね」
チドリ「……別に」
6 :>>1[sage]:2013/01/25(金) 00:58:44.86 ID:ZkyUS/+x0
軽く手を振って2人と別れる。順平とチドリ。色々とあって離れ、再び繋がった2人の絆は今ではとても固く、深く繋がっている。
公子「風花たちは、どうする?」
風花「……うん、私ももう帰るよ。さすがに遅いし。――ゆかりちゃんも、帰る?」
ゆかり「……そう、だね。もうすぐ0時だし。もう、十分お別れは済ませたから」
風花とゆかり。2人が彼を思う気持ちというのは仲間であったから、という友情のようなものではないことくらい、気がついていた。
一人の女として、一人の男を好きになる。
けど、もうその人には会えない。そんな気持ちは一体どのようなものなのか、想像もつかない。
いや、想像したくもない。
公子「私はまだやることがあるから……」
風花「うん、また、ね」
ゆかり「また、明日」
7 :>>1[sage]:2013/01/25(金) 00:59:19.79 ID:ZkyUS/+x0
そうして去っていく。その足取りは決して軽くない。
公子「……また、明日か」
人の死は唐突だ。何があるかわからないのが明日なのだから、人はいつ死んでも可笑しくない。だが、あまりに突然すぎる身近な死はどこか夢物語のように感じてしまう。
その死を現実とするのが葬儀だ。
冷たくなった人を見下ろし、答えもしない言葉を投げかけ、最後に焼きその形を無くす。
残ったのは灰と人々の悲しみの感情だけ。
公子「……本当に、死んだんですよね」
荒垣「……あぁ」
後ろに立つ男に投げかけた言葉はしっかりと返ってきた。
8 :>>1[sage]:2013/01/25(金) 01:00:00.11 ID:ZkyUS/+x0
公子「もう、話せないんですよね」
荒垣「あぁ……」
公子「もう、一緒に笑ったり、ご飯食べたり、喧嘩したり、できないんですよねっ」
荒垣「……公子」
荒垣の手がそっと肩に触れる。
荒垣「……我慢できねぇときは無理に我慢しなくていい。泣きたいなら泣け。嫌なもん貯めこんでると、いつか壊れちまう」
公子「我慢、なんか……」
荒垣「公子」
公子「……」
荒垣「オメーの事だ。どうせ最後の戦いの事、悔やんでるんだろ」
公子「……っ」
荒垣「それは、俺も――いや、俺達も同じだ。あん時、立っていたのはあいつだけだった」
ニュクス。人に死を降り注ぐ、月。
荒垣「あいつの死因――不明って事になっているが、恐らくは最後の戦いで力を使い果たしたんだろう。
……大方、あいつのことだ。最後の約束を果たすまで死にゆく身体に鞭打ってたんだろう」
少し、寂しそうに荒垣は笑った。
9 :>>1[sage]:2013/01/25(金) 01:00:29.70 ID:ZkyUS/+x0
荒垣「何があって、そうなったかは、わからねぇ。でも、あいつはきっと満足してる」
公子「……え?」
荒垣「あいつが救ったのは世界じゃねぇ。『仲間』だ」
公子「仲間……」
荒垣「いつか、天田がヒーローに憧れていた時ん事覚えてるか?」
確か、初めて満月のシャドウを倒した後だったっか。タルタロスのシャドウを倒すことによって影人間を――人々を救うと張り切っていた頃の話だ。
文吉爺さんがタルタロスに迷い込んでしまい、それを救うことで彼自身の考えを改めため、身近な誰かのため、自分の中の世界を救うためにシャドウを倒す事を決意した筈だ。
荒垣「守るのは、地球から見る世界じゃない。自分の中の世界だ。――あいつの言葉だ」
公子「……」
自分の中の世界……か。
公子「ははは、なんだか兄貴らしくないですね」
荒垣「ふっ、違いねぇ。随分とキザな奴だったからな。そんな時は耳を疑った」
公子「……先輩」
荒垣「なんだ」
公子「胸、貸してもらっていいですか」
荒垣「……そんぐれぇなら、いつでも貸してやる」
公子「うぐ……ぐす……うぅううううう」
男らしい、身体。自分より背が高く、しっかりしてる。
公子「うわあああああああああ!」
彼が死んで初めて涙を流した。
10 :>>1[sage]:2013/01/25(金) 01:00:55.74 ID:ZkyUS/+x0
拝啓。天国の兄貴へ、聞こえていますか。
最近では春も過ぎ、夏が近づいてきました。隣でじゅんぺーがイチャイチャしてて暑苦しいです。ゆかりがその度に暴れます。暑苦しいです。
まぁ、それはさておき、貴方が去ってもう3ヶ月近くです。突然に、今の現状との報告を兼ねて手紙でも書こうかな、思い、筆を取った次第であります。というか、天国への手紙ってなんか、映画であったよね?あれ?それって外国のやつだっけ?
まぁ良いです。はっ……!これが属にいう『どうでも――』
先輩に真面目に書けって怒られました。え?なんで先輩に言われてるかって?それはもちろん先輩の隣で――。
ゆかりの指は痛いです。こんな暑苦しいのにイチャイチャするな言われました。あれはダメです。まるで婚期を逃したアラサーの如く――
ぎゃあああああああああああ!
うぅ……あたまが……
かゆ……うま……。アタマガイタイ
蛇足が続いているので本題に戻します。
貴方が去ってから、少し経ってちょっとギクシャクしてました。まぁ、当然だよね。其れにともなって事件なんか起きてちょっと大変でした。
でも、皆、きちんと向き合えたみたいで、心配はいらないです。
書きたいことはいっぱいあるけど、いざ、筆を取ったら中々まとまらないね。ってことで一番言いたいことを書きます。
私は、元気です。シンジ先輩も元気です。光彦先輩も元気です。美鶴先輩も元気です。天田少年も元気です。コロマルも元気です。風花も元気です。ゆかりも元気です。じゅんぺーも元気です。アイギスも元気です。
皆、元気です。
貴方が守った世界はこんなにも元気です。
だから、
ありがとう。
有里 公子
11 :>>1[sage]:2013/01/25(金) 01:07:13.87 ID:ZkyUS/+x0
???「これが、葬儀、というものでございますね」
???「皆、あの方の死を悲しんでおられます」
???「涙……ヒトの感情の現象として分泌される液体」
???「不思議でございます。涙、なるものを見ていると、気持ちが複雑に入り乱れるようで……なんともいえない気持ちになります」
???「――まぁ、それはさておき、仕事をとっとと済ませましょう」
???「いずれまた、お会いできることを信じて」
To be continued....
12 :>>1[sage]:2013/01/25(金) 01:10:31.74 ID:ZkyUS/+x0
さて、超絶短い糞みたいなSSに付き合ってくれてありがとうございます。
わかってると思いますが、有里公子はハム子ですね。
今回は妹ってことになっていて、ワイルドはモチません。
ペルソナ3,4のSSを書こうかなと思っていたので、ちょいと練習がてら投稿しました。
チラシの裏サーセン。
ペルソナ3×4のやつを見ると、どうしても4サイドのやつが多いんで、そっち書くとしたら3を中心に書きたいと思っています。
適当にスレ立ってたら見てやってください。
ではまた。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/25(金) 01:15:03.24 ID:FPQEE39SO
乙。よかった。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2013/01/25(金) 01:17:20.05 ID:oLqtfZQso
フリーライターが居た、もしくは少年探偵団
15 :名無しNIPPER[sage]:2013/01/25(金) 01:26:51.70 ID:99gTJI7AO
乙 面白かった
アイギスが葬儀に来てるとは意外だった
ペルソナ3 ポータブル コミックアンソロジー (IDコミックス) (IDコミックス DNAメディアコミックス)
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